<< BACK
【inv17】『物騒な夏の風物詩』
物騒な夏の風物詩
(2011/09/02)
「……Ke=iさんの世界って海洋世界とか水中世界とかですか?」
 『大型乾燥機』の起動後。地面に描かれた黒の線を見つめてヨンは眉根を寄せた。
「え? そんな事無いわよ? どうして?」
「……いや、どうしてって」
 どうみても熱線砲です。本当にありがとうございました。
 そんなシロモノを乾燥機と言い張るのだからそう言われても仕方ない。
「ケシズミにするのは『乾燥』と言わないと思います」
「それは否定しないわ」
 正直KE=i本人にしてこんなもので乾燥させるつもりはさっぱり無いのだから世話がない。
「それにしてもまぁ、焼き尽くせば流石に増えないようね」
 熱線の餌食になったのは数匹のスイカ兵だ。もはやどこにあったのかさえ定かではない。
「凄い威力とは思いますけど……」
 だが数匹である。それで用意した随分と大掛かりなバッテリーは冷却モードに突入してしまっていた。この世界では威力が高まれば当然のように電力や魔力を多く消費してしまう故の結果だった。
「全てのスイカ兵を焼きつくすのはこれだけじゃ無理よね」
「ええ。それにどうも『森』の植物は元より耐火性能が高いですからね。
 生半可な火炎攻撃ではこういう結果にならないかもしれませんし」
「森の中には『水袋』抱えた植物も居るしね。まぁ、ひとつの指針になったと思いましょう?」
「そうですね。しかし……」
 実験のため、二人が居るのは森の外だ。そして少し先に見える森は夏という時期に反してどこか精彩を欠くように思えた。
「コピーを撲滅するチャンスでもあると思うんですよね。
 どうにかうまく利用できないものでしょうか」
「ああ、オリジナルコアの女の子にも粉かけてるんだっけ?」
 熱戦砲のチェックをしながらKe=iが思い出したかのように呟くと、ヨンは「え?」と言う顔をし、それから渋面を作る。
「いや、そういうわけではなくてですね?」
「うん。でも事実だけ抽出するとそう言う事だし?」
 さらっと笑顔で返されて沈黙。果たして違うと言う言葉がどこまで意味があるか。
 いや、意味は無くてはならない。だが、どうしてだろう。ちっとも説得できる気がしない。
「ヨンさんの武勇伝はちょっとした噂の種だもの。種族を問わない愛の伝道師だとか」
「事実無根です。そもそも私が良いと思っている人はですね……」
「人は?」
 ヨン。口を噤む。
 ちなみにたまに口にしているその人は器物系の妖怪種だったりするので、種族を問わない愛の伝道師という称号は的外れではないと思われる。
「さ、さて。実験も終わったようですし、私は地図の配布や境界線の防衛に行きますよ。
 オリジナルコアのエリアまでスイカ兵に浸食されるのも問題ですしね」
「はいはい。彼女のために頑張ってきてね」
 ひらひらーと手を振るKe=iにヨンはしばし返す言葉を思案し、やがて諦めてその場を後にするのだった。

 ◆◇◆◇◆◇

「行きました」
 スティルの言葉に応じるように、黒の影が大気と共にスイカ兵を真二つにする。
 ぱっかり割れたスイカ兵はしばらく手足をじたばたさせていたが、やがてその反応も停止。沈黙する。
 普通ならばここで零れた種が地面から急速発芽するのだが───
「ビニールシートの上だと流石に根を伸ばせないみたいですね。
 綺麗に切ったので種も零れていないようですし」
 鮮やかな赤い果肉にきれいに並んだ種が透かし見える。
「……種の採取する」
「ええ。調べてもらえば除草剤の一つも造ってもらえるかもしれませんしね」
 こっくりうなずくアイン。とにかくこの種、地面に落ちた瞬間発芽し、あっという間にスイカ兵に化けるので確保が難しかった。
「……行幸」
「まったくです。それにしても切ると良いんじゃないですかね、これ」
「……単体なら。一杯いると、多分蹴飛ばす」
 カマイタチなどの魔術で斬り飛ばしても数が居ればぶつかったりしてどうしても種は散らばってしまうだろう。
「やはり効率的な駆除方法が必要ですね。
 では街に戻りますか」
「……ええ」
 ビニールシートで割れたスイカを包み袋に収めると、足早に森を後にしようとする。
 と────不意に二人は微かな物音に足をとめ、周囲に視線を走らせる。
 スイカ兵が発生する前の、忍び寄るような息を殺した接近の音では無い。もっと投げやりな、そんな音だ。
「他の探索者でしょうか……?」
「……わからない。そこらへんから聞こえた」
 無視する事も可能だが、とりあえず片方。ポリゴンロボはおおよそ自重と言う単語に親しみを抱かないタイプである。
 あっさり意を決して茂みをかき分けると
「おや? 行き倒れでしょうか」
 首を傾げてアインが近づき、見た物。
 それは基本的に緑の少女が目を回して倒れているところだった。

 ◆◇◆◇◆◇

「というわけで、話を聞きに来たっスよ!」
 どーんと小さな胸を張るトーマに「(=ω=)?」の顔文字を表面に浮かべる巨大ナニカ。
『スイカのこと?』
「そうっス! さぁ、洗いざらい話すっスよ!」
『飽きた』
 にべもない回答にトーマはげしりと表面を蹴る。
「折角聞きに来たっスよ! もう少し待遇を改善すべきっス!」
『もう32回目』
 うんざり感満載なのか、どことなくナニカで造った文字もぐんにょりしている。
「隠してる事とか無いんスか?」
『ない』
 むぅと頬を膨らませるトーマを『=ω=』な目が見つめる。
『まるい』
『だからしかたない』
「あんたも同じ考えっスか?」
『別に』
 そっけない回答。
『敵は怪物』
『それが第一』
『でもコントロール範囲から出たの』
『まるいの許せない』
「チビナニカの基本プログラムにエラーでもあるんじゃないっスか?」
『そんな事は無い』
 そうは言い張る物の、実際この巨大ナニカ、先ほど『丸いから仕方ない』と論じたばかりである。
「どうしようもない、とアンタは思ってるんスね?」
『うむ』
 ぐりと巨体が首肯を表すように動いた。
「うーん」
 果たして全て信じて良い物か。それとも何か対策を打つべきか。
 トーマが腕を組んで考え込むのを巨大ナニカの濁った瞳がぼんやりと見つめていた。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
はい、進展が遅いのは仕方ないと思っています神衣舞です。
なにしろヒントが少ないシナリオですからね。大胆に動くのもまた一つの手段ですよ?

ちなみにKe=iさんが大規模な熱線砲を用意していますが、今回は個人運用ということなので威力を掲示板記載よりも減じさせてもらっています。つまり経験値で習得し、発動できるであろう最大威力と言う事です。
シーン攻撃レベルはかなり大量の経験値とMPを消費するため、防衛任務に範囲攻撃専門部隊なんぞ用意されているのです。
とまぁ、そんな感じで次のリアクションよろしゅう。

そろそろ時間経過によるヒャッハーな事態起こしちゃうゾ☆(ぉい
niconico.php
ADMIN