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【inv17】『物騒な夏の風物詩』
物騒な夏の風物詩
(2011/09/24)
「これは魔法系の組成式っスね。中身はまったくもって普通のスイカっス」
 川でスイカ兵残骸を拾ってきたトーマはせっせとその解析にいそしんでいた。
 ドライアードやトレントのような植物系生物はその体がまるまる植物と同様であるにもかかわらず枝葉を自由に動かし行動することができる。これは科学系の基本理論からは大きく逸脱した現象だろう。だが魔法系では特段おかしなことではなかったりする。このあたりの割り切りができないとクロスロードで学者はやってられない。
「魔法系特有の『そういう物』っていう定義化されたスイカって考えるべきっスかね?
 そうすると……生命力や皮はある程度強化されてるっスけど、除草剤あたりは有効っぽいっスね」
「……通用する除草剤、作れる?」
「わひゃぁあ!?」
 突然真後ろから声をかけられてトーマが小さく飛び上がる。
「……どうしたの?」
「アインさんっスか!? び、びっくりしたっス」
「……? それで? 除草剤、作れそう?」
「ま、マイペースっスねぇ……」
 驚愕を浮かべつつも気を取り直してトーマはデータを表示する。
「恐らくっスけど、適当な除草剤でも有効っス。あの森の他の植物よりかは薬物耐性も低そうっスね」
「……すぐ作れる?」
「吸収移行型の非選択式除草剤なら適当に作れるっスけどね。
 ……まぁ、土壌汚染については『森』の基本的な植物が除去してくれそうっスからそれでも良いっスかね」
 もともと森の植物は大襲撃の戦闘により派手に土壌汚染されたクロスロード周辺の土地を改善するための試みだった。科学的な薬品の一つや二つはあっさり除去してくれそうである。
「お願い」
「わかったっス。問題はどれだけ生成すれば良いかって事と、森の除去はさておき適当にばらまいていいかって事っスね。一応有害物質だし」
「……大がかりなら管理組合に連絡を入れなきゃだめ?」
「んー。だったら農業組合か施術院組合に協力を依頼すべきっスかね。
 あそこなら大規模な調合施設もあると思うっス」
「時間、かかる?」
「まぁ、それなりには。その二つの協力があれば一両日には十分な量ができると思うっスけどね」
「……そう。じゃあ、それまで数を減らす。
 この前の粘着シート、ある?」
「あるっスよ。在庫処分なんて持っていっていいっス」
「うん」
 アインはこっくりうなずくとふらり外へと向かったのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆

「こういう依頼の方がここらしいと思えるな」
 農業組合の門をくぐったエディは騒がしい施設内を見渡す。スイカ兵対策はやはりここも無縁ではないようだ。
「はい、どのような用件で?」
 受付が忙しそうに手を動かしながら問いかけてくる。
「スイカ兵の一件でちょっと相談したいことがあってな」
「どのような内容でしょうか?」
「雨による受粉の阻害、害虫による育成阻止、あとは囲い込みはできないか?」
 矢継ぎ早の問いかけに受付は数秒思案するそぶりを見せると
「害虫については制作までに時間がかかるのが難点ですね。また囲い込みについてはもはや手遅れと言っていい状況です。クロスロード西側で新たな群生地が発見されており、その抑え込みに人手を割いている状況です」
 ですが、と受付は続ける。
「雨、という案はアリだと思います。確かに受粉の阻害さえできればスイカ兵は生まれない……。かなりの速度で生育しているため実際のスイカほどの効果は見込めないでしょうが、数が大幅に減るならばやる価値は大いにありますね」
 受付は近くの組合員を呼びとめると二言三言告げてからエディに向き直る。
「まずはサンロードリバー西方で実験をしてみましょう。幸いあそこなら天候操作という大がかりなことをしなくても、川の水をまきあげて降らせることができます。水の操作に長けた種族も多いですからね」
「決断が早いな」
「もたもたしている場合ではありませんので」
「違いない」
「降雨方法については別途検討します。なにぶん天候制御は精霊術では高難易度過ぎる。
 天気にまつわる神族を数名集めればなんとかなりそうですが、十分に力を有している神族は早々動こうとしませんからね」
 誰か心当たりはありませんか? と尋ねる受付にエディは苦笑で返す。
「思い当るところがあれば掛け合ってみるさ。
 あまり期待はしてもらいたくないがね」
「よろしくお願いします」
 エディは肩をすくめ、組合を後にした。とりあえず大増殖を止める一案にはなりそうだ。

 ◆◇◆◇◆◇◆

「……うーん」
 自作の地図を睨むヨンからうめきともため息ともつかない声が漏れた。
「どうしたの?」
 骨格を持たないせいか、どこかにゅるりとした動きでオリジナルコアが地図を後ろから覗き込む。
「いえ、スイカ兵のマップを作ってみたんですがね。翌日にはもう分布が変わっていまして」
「あいつら増えるから。いっぱい」
「そうなんですよね。位置が変わるというよりも位置が増える感じですし」
 古い場所では周囲の植物がぐったりしている。養分をごっそり持って行かれただろうそこに再び群生するとは思えない。
「おや、ヨンさん」
 第三の声がかけられる。がさりと草をかき分け出てきたのはポリゴンロボだ。
「ん? スティルさんですか。調査中?」
「ええ。……おっと、お邪魔でしたか?」
「何がです?」
「蜜月のようななにかです」
「気のせいです」
「きのせいなの?」
 どうしてコアが突っ込んだのかは考えないことにしてヨンは地図を地面に置く。
「何か新しいことはわかりましたか?」
「あまり芳しくないですね」
 ポリゴンロボはあまり困った風になく腕組をして応じる。
「自滅の調査をしていたのですが、……ああ、要するに新たな農耕地で割り合う行為ですね。どうも味を占めたらしくどんどん行為の数が増えてまして」
 それが地図がどんどん更新されていく原因かとヨンは舌打ち。
「うん。あれ困る。割っても増える」
「物理的に押しとどめる方法がまずないんですよね。この間アインさんとビニールシートを引いてスイカ割りをするという方法を試しましたが、まさか森全体にビニールシートを敷くなんてことはできませんし、森から川の間にも敷かないといけなくなりますし」
「地面を堅くするのも広範囲過ぎますしね」
「というわけで、害虫あたりないかなと思いまして」
「いない」
 コアの即答にスティルは「どうして」と首をかしげる風をする。
「たしかこの世界には生物がかくにんされていないからじゅふんは昆虫とか不要ってせっけいされてる」
「外から持ち込むということはできるわけですね」
「できるけど……あまりいい結果になりそうにないね」
 何かの物語で読んだが、大抵そのあと、その生物がとんでもない事件を引き起こすのである。
「しかし、このまま増えるに任せているとこちら側もあっという間に浸食されますよ」
「ネズミ算式ってやつか。悠長に地図を作ってる状況でもなくなってきたね」
 役に立たないことも無いだろうが、さすがに一人の手で更新するには手に余る。
「ねえ、この隙にコピーコアを全滅させないかい?」
 そろそろアクションに移るかと考えつつ、不意にそんなことを聞いてみると
「すいかがこっちの領内にまんえんするからヤ」
「ごもっともだね」
 ヨンは苦笑を洩らして澄み切った晴れ空を見上げる。
 さて、どうしたものか。

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にゃふ。神衣舞です。
 次回は放水、降雨計画発動予定です。解決策と考えてた2案のうち1つ発動ですな。
 たぶんまとめになるだろうなぁ……と思いつつ。
 ところで。まだナニカはやる気なんだぜい?(ぉ
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