<< BACK
【inv17】『物騒な夏の風物詩』
物騒な夏の風物詩
(2011/10/09)

『正午より降雨作戦、並びに薬品散布を行います。
 PBに表示される通達に従い、該当地域で活動される方は注意をお願いします。
 また今回の薬品は植物系全般に対して効果があるものです。
 毒耐性の無いドライアード種系統は作戦地域からの早急の対比をよろしくお願いします』

 不意にクロスロードで放送されたその言葉。
 それはクロスロード周辺を騒々しく彩る騒ぎの終焉。その最後の一手が始まった知らせだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆

「ふふ、戦慄の知智将と呼ばれたあたしの面目躍如っスね!」
 作戦用の仮設テントに陣取ったトーマはドヤ顔で周囲の作業風景を眺めていた
 彼女の制作した薬が今まさに使われようとしているのである。
 すでにサンロードリバー西方に流れ着いたスイカ発生源で薬の試用は行われており、十分な効果があることは分かっていた。
「スイカに森の植物特有の耐毒性が無くて良かったですよ」
 施術院組合の女性が手元のモバイルPCを操りながら微苦笑を漏らす。
「降雨による受粉の阻害も有効だとわかりましたが、なにぶん森の中では雨粒が当たらない個所が多いですからね」
「ふふ、これで一掃してやるっスよ!」
 とまぁ、良い気になっているトーマは、不意に周囲が騒がしくなったことに気づく。
「何かあったっスか?」
「何かというか……地響きみたいなの、聞こえませんか?」
 きょろきょろと周囲を見渡していた農業組合のスタッフの言葉にトーマはきょとんとし、それから耳を澄ませ───

 どどどどど

「た、確かに聞こえるっスけど……」
「ひ、東の方角だ! 何か来るぞ!!」

 その視線の先は、緑と黒のしましまだった。

「なっ!? スイカ兵っスか!?」
「こっちに来るぞ!」
「あいつら、こっちに感づいたのか!?」
「いや、スイカ兵にそこまでの知能は無いって話だろう!?」
 とはいえ、迫ってきているのは事実だ。
「く、薬だ! 薬で迎撃しろっ!」
「バカ! 実のスイカ兵に蒔いても効果は薄いだろうが!」
「いや、先に蒔いておけばさらなる増殖は避けられる。
 とにかく攻撃手段を持つやつは迎撃開始しろ!」
 突如始まった迎撃戦にトーマはしばしポカーンとしていたが
「確かさっき「紅の雌豹」とか呼ばれてたとか言いましたよね!?
 トーマさんも迎撃の応援お願いします!」
「え?ええ? いや、あれはっスね!」
 もちろんいつもの勢いでの言葉なのでそんな事実は無いが、初顔合わせの彼がそんなトーマの性癖を知っているはずもない。
 皆一様に戦闘能力は持っているとはいえ、悲しいかなここに集っているのは研究の方にその能力をシフトしている者達だ。
物量が戦線の均衡すら許さないと見た時、空から何かが降ってきた。

 ◆◇◆◇◆◇◆

(=ω=)がゴムボールに絡んでいた。
 見ててほほえましいことこの上ないが光景。ナニカは全てを忘れたかのように執拗にゴムボールをぐにぐにし続けている。
「……スイカの方も同じ感じだった」
 すちゃりと傍らに降り立った黒の少女にヨンは視線を向ける。
「どうも丸いものに過剰に反応しているみたい。
 ……同族嫌悪?」
「そういう感じですね、確かに」
 じゃれて遊んでいるという感じではない。ナニカでは分かりづらいが、確かにこれは攻撃意思のようなものを感じられた。
 スイカの各個撃破に従事していたはずのアインがヨンと何をしているかと言うと、問題の彼らがボールに反応するかどうかの実験だ。
「これで誘導はできそうですね。ついでに北門を抜けるときは丸いもの厳禁ですかね」
 さて、と腰を挙げたヨンは台車に積んだ各種丸いものが詰まった袋を眺め見る。
 と───そのはるか向こうで土煙が上がっているのを見た。
「あれは?」
「……? MOB?」
 弱い怪物は複数体でまとまって行動することがある。こういう存在をMOBと称する。中には数百からなる数でMOBを形成することもあり、その時にはこういう土煙を見ることができる。
 つまりは同じ規模の何かがうごめいているというわけで────
「この状況ではスイカかナニカかの二択ですかね」
「……そう言えばトーマが浮かれて一網打尽がどうと言っていた。町の外で」
「その実験場が襲われている?」
 スイカ兵がMOBのようにまとまって動く性質は見て取れた。
 それが北で無くやや西方向に走る理由を無理に想像するならば迎撃のためか。
「応援に行った方が良いですかね?
 早速この特性がうまく使えそうですが」
「……うん」
 うなずくが早い、アインはすぐさま身を翻して駆けてしまう。
「え、あ。あの、できれば台車を引くのを……」
 あっという間に声の届く距離を抜けた黒の少女の背を見送り、ヨンは誤魔化しの含む苦笑いと共に台車を引き始めたのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆

 その結果としてのボールの落下である。
 てんてんと3つのボールが弾むとスイカ兵は一斉にギョロリそちらへと体を向けた。
 動きが止まった。
「今だ!!」
 射撃系の攻撃とともに薬が散布される。脆いスイカ兵は見る間に割れ、種をまき散らすが芽が生えてくる様子は無い。
「よし! 念のため防護服着た連中は地面の種や根を回収、焼却処分してくれ」
「やったっスか!?」
「フラグはやめていただきたい。
 とはいえ、上手くいったようですね。しかしどうして急に止まったんでしょうか?」
「……ボールのおかげ」
 薬の範囲から逃れてきたアインの告げた言葉にトーマは首をひねり
「ボールで催眠術でもかけたっスか?」
「同族嫌悪。ナニカもスイカも自分たち以外の丸い物が嫌い」
「そそそそそ、そんなこととっくにわかってたっスよ! 孤高の智星と呼ばれたあたしの分析眼を舐めてもらったら困るっスってああ、嘘ですごめんなさい」
 言ってて恥ずかしくなったのか、勝手に謝るトーマはさておき
「この特性を利用すれば安全に迎撃はできそうですね」
 施療院のスタッフが安堵を見せつつつぶやく。
「しかし、やがてこれを覚える個体がでるかもしれませんよ?」
 台車を傍らに置いたヨンがややばて気味にそう言うと
「別に問題ありません。丸い物を敵視しなくなれば自然と衝突は無くなるのですから」
「……納得」
「では、薬の散布の準備を再開しましょう。
 助けていただいたついでで申し訳ありませんが引き続き護衛の協力をいただきたい」
「……構わない」
「10分休ませてもらえれば」
 こっくりうなずくアインを横目にヨンはふぅとその場に座り込んだのだった。

  ◆◇◆◇◆◇◆

 かくしてぐんと数を減らしたスイカ兵はその残りも森の住民(木?)に討伐され、スイカ兵騒ぎは一応の終結を見たのだった。
 しかし、いくつかの種が川を下ってしまったことは事実であり、稀にスイカ兵の姿を確認するようになったという……

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 超ハードモード入ってます。実生活が。神衣舞です。
 ちょい年末までは死にそうなくらい忙しくなりそうなので更新ペースが遅れますが楽しくやっていきたいと思いますのでリアクションどうぞよろしく。

 というわけで今回で物騒な夏の風物詩は終了となります。
 が、いろいろと伏線は残しておりますなぁ。
 ナニカ側は別に解決したわけじゃないしぃ(くすくす……
 まぁ、なにはともあれお疲れさまでした☆
niconico.php
ADMIN