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【inv17】『物騒な夏の風物詩』
物騒な夏の風物詩
(2011/08/02)
「おい、誰だ!! この依頼出したのはっ!!」

 管理組合本部で男の怒声が響いた。
 何事かと言うと、つい先日管理組合から出された依頼に問い合わせが殺到していて、しかしすでに依頼を受けた者が居るため、削除しづらくスタッフがてんてこ舞いになっているのである。

「す、すみません!」
 一人の気の弱そうなハーフオークがでかい体を縮ませて頭を下げた。
「見たままだったんで、つい……」
 周囲のスタッフがなんとなく視線を合わせる。漏れ聞こえるのは「まぁ、ねえ」という呆れを含む同意。
 怒りをぶつけた上司もその空気に眉尻を落とす。

 遠くから響く断続的な爆発音。
 窓から見える大河の流れに交じる赤。

 確かにその通りなのだ。
 頭の痛い事に。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……花火?」
「花火ね」
 マナの日傘にべとべとっと果汁が降り注ぎ、どろりとぬかるんだ地面に落ちる。
 アインはやや後方、その傘の加護を受ける位置で川の上の光を眺めた。
 確かに西瓜と花火だった。
 南からスイカが、北から花火がサンロードリバーを縦断し、中央で────

 どーん

 花火が爆発し、西瓜がはじけ飛び、光と果汁をまき散らしている。

「絶景ですね」
 ろくに防御策を講じなかったために、すでに果肉やら果汁やらでかなりべっとべとになっているスティルが腕を組んで川を眺める。
「力試しに来たのですが、さてどうしたものか」
「どうしようも無いと思うわよ?」
 ピンポイントバリアを用意して来たものの、それだけではとても防ぎきれない果汁の雨にやや僻僻した感じのKe=iが川の中央あたりを眺め見る。
「水道の水は川から採っているのよね? 甘くなりそうね」
 レインコートを着たクネスが苦笑いでそう呟く。

 さて彼らの正面で起きている事を説明しよう。
 北から物凄い数のナニカが。
 南からほぼ同数の歩くスイカが。
 ざーっとサンロードリバーへ集結し、渡河を繰り返しては川の中央あたりで爆散しているのである。レミングスもドン引きする光景である。
「……でも、あのナニカ、爆発が違う」
「確かに色鮮やかですね」
 普段はただ爆発するだけだが、川の中央では『花火』の名に恥じぬ光をまき散らしている。それが絶え間なく繰り広げているのだから夜見ればさぞ綺麗だろう。
「でも、酔いそうだわ、この臭い……」
 とにかく甘ったるい。マナがげんなりとどろぐちゃの地面を見渡した。スタッフも責任を放棄せざるを得ない。
「川に影響は無いのかしらね?」
「周囲の家には影響してるわね。水は浄水施設通っているはずだから早々問題は無いだろうけど……西瓜の種とかで目詰まり起こしかねないわね」
 Ke=iの分析は実のところ管理組合の最大の懸念だった。そもそもサンロードリバーの水は微生物も存在しておらず、ほぼ何もしないまま供給されていたりする。なので浄水施設も規模に反して簡素なのだ。
 そこにこの惨状は危惧して当然と言えよう。
「これは東側だけで起こっているんでしょうかね?」
「そう聞いたわね。西側は静かなものらしいわ。河原は酷い物らしいけど」
 スティルの問いにクネスは肩を竦めた。
 ちなみに一行が居るのは防壁の外側。クロスロードの真東に位置するところだ。果汁は左手に見える大防壁をでろでろに染め上げていた。
「……西側はアクアタウンがある?」
「確かそうね。水底だからそこまで影響は無いと思うけど」
 Ke=iはPBに確認しつつ塔の方を眺め見る。北のケイオスタウン、南のロウタウンの他に水の中で生活する者の集まりであるアクアタウンが塔の西側、サンロードリバーの流れの下にある。水深数十mの所にあるため、流石に汚染は届いていないと思うが、このまま続けばどうなるか、もちろんわからない。
「それにしても、ナニカはともかく、あのスイカはどこからきてるのかしら?」
 マナがえっちらおっちら歩くスイカの集団を怪訝そうに見つめると、Ke=iはくるりと体を反転。遥か先にわさっとあるそれを眺め見た。
「植物なんだから、多分あそこでしょ?」
 違い無い。
 一行はさてどうしたものかとげんなりとした空気を漂わせた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「抵抗勢力の仕業」
 最近結構言葉がしっかりして来たコアは訪ねて来たヨンにそう告げた。
「抵抗勢力と言うと……コアの座を狙うコピーコアですか?」
「そう」
 緑の少女───『森』のメインコアはこっくりとうなずいた。
「私達への対抗策として、作り上げた兵士」
「でもそれが何でナニカとやり合ってるんですか?」
 眉根を寄せて問うとコアは「さぁ?」と無表情に切り捨てた。
「分からない。でも、生まれた兵士は白まんまるを敵視した。私達よりも」
「……もしかして、コピーコアも制御できていないんですかね?」
「たぶん」
 またニギヤマが何かしでかしたと思って着て見たヨンだが、思った以上にどうしようもない展開が起きてると悟り盛大にため息をついた。
「なんとかできませんかね?」
「……あの増え方は脅威。こっちを向かないのはありがたい」
 確かにそれは一理ある。怪物化していた時には地平を埋め尽くすほどにナニカを量産しやがった巨大ナニカ。それよりも生産性は落ちたとはいえそれに対抗しうる数の西瓜兵士を造り続ける能力は軽視できない。
「西瓜の本体とかあるんですかね?」
「わからない。コピーの勢力内はわからない」
「ちなみに、確かエリア内に入った植物は制御できるんでしたよね?」
「あの兵士はできない。そういう風に造ったから、言う事聞かない」
 彼女らの勢力争いのルールは、近くの植物を一定数所持し、それをけ仕掛け合うというものだ。そういうわけで相手の勢力範囲内に踏み込めば戦力を増やすことはできないためオリジナルコアが能力的に優勢であっても反勢力を駆逐できない現状が続いているのである。つまり西瓜兵士はそのルールに縛られず相手に突撃するユニットのはずだったが……
「予想をはるかに越えて面倒な状況ですね」
「そうだね」
 ニギヤマの周囲に居る幼女コアに比べて感情の起伏が薄いオリジナルコアは、とりあえずのようにその言葉に同意したのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

ちょっといっぱいいっぱいの神衣舞です、でもがんばる。
はい、というわけでシリアスな状況が続きましたので楽しく夏の風物詩で楽しんでいただきたいと思います。
うひひひ。
このまま続くとクロスロードの水が大ピンチだったり、防壁に疲労が蓄積したりと夢が広がります。
では、気楽にリアクションをお願いしますね☆
 
物騒な夏の風物詩
(2011/08/14)

「この先ですね」
 音を立てないように気をつけてはいるが、すでにここは反乱コアのエリア内。その全ての植物は彼女?らの感覚器と言える。
 しかし目に見えた攻撃が全くないのはやはり彼女らもそれどころではないのだろうか。
 そんな事を思いつつヨンは静かに視界を遮る枝葉をそっと持ちあげた。
「……西瓜」
 ひょいと身をかがめたアインがその先を眺め見る。
 確かに西瓜だ。木々が排除されたやや広めの空間にびっしりと西瓜が生っている。
 地球世界基準で言う西瓜との差異はもちろん手足があること。それからジャック・ランタンのように顔にも見える模様がある事だ。
 そして何よりバスケットボールサイズに育った西瓜が急にじたばたと暴れ出し、幹から離脱。ざっざと歩き始める事にある。
「このような場所がいくつもあると言う事でしょうか?」
 西瓜の生産推測点を尋ねたヨンが得た回答。それはコピーコアのエリアに数か所存在するようだという回答だった。
 コピーコアにはオリジナルコアのような中心存在が居ない。それぞれがオリジナルの座を得るために抵抗活動を続けているというのが実情である。そのおかげで森を二つに割っての全面戦争という事態は今のところ心配しなくて良いとのこと。
「誰かが始めた西瓜兵を他のコピーコアが真似し始め、それが広がった上で命令を聞かなくなったと言う事ですね。それにしても……」
 西瓜兵畑の周辺の光景にヨンは眉根をひそめる。
「枯れてる」
 アインが心情を言語化した。物凄勢いで量産される西瓜が容赦なく養分を吸い取っているのだろう。周囲の食人植物達が総じて干からび気味なのである。
「道理で抵抗が少ないわけですね。
 さて、殴りこみますか」
「いや、あの数の西瓜を相手にするのはちょっと……」
 あの西瓜兵。耐久度はそんなにないのは確認済みだ。剣で叩けばさくりと割れる。
 が、この森の植物故に火への耐性はそこそこあるので焼き討ちは効果的でないし、手には成長とともに生成される槍のような物を持っているため、下手に手を出して囲まれると非常にまずい。
「それに、仮に全滅させたとして、今度は大人しくなっている周りが攻撃してきそうですしね」
「なるほど。つまりそこまでが敵なんですね」
 キランと目を光らせたポリゴンロボを二人の残念そうな視線が貫いた。
「……で、どうする?」
「とりあえずいくつか回ってみましょう。
 観察だけなら問題なさそうですし」
「……状況分析、了解」
「ふむ。決戦は後日ですね」
 頷き合い(一人方向性が違うが)一行はそっとその場を離れたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

『やぁ(=ω=)ノ』
 巨大饅頭は体表面にナニカをそう配置して挨拶した。
「こんにちは。ちょっと聞きたい事があるんだけど」
『なんだ?』
「西瓜とどうしてやり合ってるわけ?」
 率直に訪ねたクネスに巨大ナニカは(=ω=)という顔をして……いやまぁ、いつも通りなのだが、そんな感じで哲学的ななにかを表現したつもりになりつつゆっくりとナニカの配置を変更。
『丸いから、だ』
「……は?」
『ヤツらにそーぐーし』
『戻ってきた』
『100匹にききました』
「……結構戻ってきてるのね」
『どうしてあいつらが』
『きらいですか?』
 よくわからないが、ドラムロール。
『第一位』
『丸いから』
『100票』 
「全部じゃないっ!?」
『うむ』
 ほんの少しだけ=ω=が上下。頷いたらしい。
「じゃあ、あなたが攻撃を指示してるわけ?」
『してないあるよ』
 帰って来た返事は否定。
『100m以上は』
『命令とどかない』
『でもまるいから』
『しかたないね』
 きゅっと眉根を寄せる。何が何だかさっぱりわからない。
「じゃあ、センタ君とも喧嘩するわけ?」
『せんたくん?』
 どうやら知らないらしい。それもそのはず、彼らをクロスロード内に入れるわけにはいかない為、遭遇するとすれば事故のようなものだろう。
「良いわ。忘れて。
 で、彼らを止められないわけ?」
『無理』
『だって』
『まるいもん☆』
 無駄に星マーク造らなくても良いわよとため息。
「……って言うか、しばらくナニカの量産をやめたら?」
『これでも』
『生産量』
『落としてる』
『かんりくみあいな人に』
『おねがいされたから』
「止める事はできないわけ?」
『できない』
『防衛兵器がとまったら』
『困る』
「……で、日にどれだけ造ってるのかしら?」
『日産1000匹』
『その大半が何故か』
『川へれっつらごー』
 そしてあの大惨事ということらしい。
「……面倒ね」
『たいへんだねー』
 人ごとのように記す巨大ナニカをクネスは軽く小突いた。

◆◇◆◇◆◇◆

「報告します」
 管理組合員が書類を片手にぴしりと敬礼。
「西瓜兵が砕けて溶けた水については特に目立った毒性は無し。
 そのまま飲んでも体調に影響は出ないと推測されます。
 ただし種は森の他の種と同様に金属系成分を含んでおり、クロスロード沿岸で発芽が確認されています」
「その芽は?」
「アクアタウンの住民を中心に駆除を行っています。
 幸い西瓜兵はそれほど強くはありませんので目立った問題にはなっていません」
「浄水設備の方はどうかね?」
「フィルターの交換タイミングを増やしていますが種や皮の目詰まりが酷く、供給量に影響が出始めています。
 元々三十万規模の住民に対応できる施設ですので即座に影響がでる事はありません」
 その報告に居並ぶ者ははぁとため息を吐く。
 それは安堵でもあるが、同時に事の厄介さを思ってだ。
 対策までに時間的猶予があるとはいえ、すでにサンロードリバー周辺住民からは甘ったるい臭いに苦情が出ている。西瓜兵はともかく巨大ナニカは管理組合の管轄というところがまた頭が痛いところである。
柵でも張り巡らせたいが、ナニカは饅頭のように伸び縮みする。壁でも立てないとにゅるりとすり抜けてしまうのである。
「ともかく、情報の収集を継続し、川に向かう二つをできるだけ排除。
 その方向で動こう」
「はい」

 騒動はまだ始まったばかりであった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
にゃふぅうう。神衣舞です。
ちょいお盆休みボケしてます。更新停止してる感じに思えて
ちょい焦ってます(=ω=;
ちゃんと頑張るからねー。みなさんも楽しんでくださいませ☆
ってなわけで、酷い状況が続きます(笑
リアクションよろしゅーーー!

 それにしてももう一つのシナリオ、なにしやう……
物騒な夏の風物詩
(2011/08/24)
「やぁっ!」
 気合い一閃。パンチがスイカ兵を粉砕する。
 続いてもう一発。ばしゅっと水気を含む破砕音とともに果汁や種がそこらかしこに飛散した。
 森に単身乗り込み、暴れ回っているのはヨンである。本当は他のメンツを誘って着たかったのだがどうにも見つからず、まあいいやとやってきた彼は西瓜兵を相手に奮戦を続けている。
 さてこのスイカ兵。殴ってみると分かるが非常にもろい。
 普通の西瓜と比較すればそれなりに硬いが、2m程度の高さから落とすとあっさり割れるくらいの硬度しか持ち合わせていない。その上ずんぐりの丸いボディにちまっとしか手足が生えていないため、動作は鈍く、それなりの数が相手でもいなすのは難しくなかった。
「この調子で行きましょう。って、おや?」
 彼が見つけたスイカプラント。その最初のころの光景を思い出し……
「広がってます……ね?」
 眺めるそばからにゅるりとツタが伸び、すぐに花が咲き、ぷっくりとした実をつけて行くまでざっと2分程度。
 新たに発生したスイカ兵はざっざとヨンを取り囲んでくる。
「……割って散らされた種からですかね?」
 いざとなったら氷系の技で根ごとと考えていたのだが、これではキリがない。
「というか、この生え方だと……街の方もかなりまずいのでは?」
 その前に、足元が緑と黒の縞模様に埋め尽くされてしまった状態を見て舌打ち。
「そろそろ撤退しますかね」
 幸いと言うべきか。コピーコアも食人植物も元気がなく襲ってはこない。
 足元のスイカ兵を蹴飛ばしながらヨンは脱出を試み始めた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「ふむふむ」
 一方の森の片隅ではポリゴンロボがスイカ兵の動きをつぶさに観察していた。
 彼らは独立して歩き始めると20匹くらい集まるのを待って一路北へと進軍を開始していた。しばらくすると全ての実が兵士となって何処かへと去り、後には枯れたプラントが残るばかりだった。
「……これでは森が枯死するのでは?」
 事実彼もわりかしスマートにこの場所までやってくる事が出来た。普通であれば単身で森に飛びこむなど自殺行為である。
 場所を移動し、他の集団を発見。するとそこでスイカ兵は突如お互いを砕き始めた。もちろん中身がこぼれ、そして地面に落ちた種からしばらくするとにゅるり芽が出てくる。
「……他の植物は止めないんですかね?」
 とはいえ、止めるにしても割ってしまえば結果は同じだ。実質手出しができないのだろう。
「数が多いのは大変喜ばしいですが、事態は深刻ですね」
 スティルは一人呟いて、さてどうしたものかと小首を傾げるのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「報告します!」
 管理組合員が慌てた表情で対策本部へと飛び込んできた。
「クロスロード西部川沿いにて大量のスイカ兵発生!
 対応が追い付きません!」
「っ! 追加で募集をかけろ! 少なくとも川辺から進ませるな!!」
 指揮官の言葉に周囲は一斉に動き始める。
 脅威は爆発的に増え始めていた。

 *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 夏休みボケで更新が遅れまくってる神衣舞です。
 本日より通常運行に戻しますのでよろしくお願いします☆
 というわけで余り進捗しておりませんが、事態はどんどんまずくなっております。
 さて、何とかする方法はあるのかないのか。
 ではリアクションをお願いします。

物騒な夏の風物詩
(2011/09/02)
「……Ke=iさんの世界って海洋世界とか水中世界とかですか?」
 『大型乾燥機』の起動後。地面に描かれた黒の線を見つめてヨンは眉根を寄せた。
「え? そんな事無いわよ? どうして?」
「……いや、どうしてって」
 どうみても熱線砲です。本当にありがとうございました。
 そんなシロモノを乾燥機と言い張るのだからそう言われても仕方ない。
「ケシズミにするのは『乾燥』と言わないと思います」
「それは否定しないわ」
 正直KE=i本人にしてこんなもので乾燥させるつもりはさっぱり無いのだから世話がない。
「それにしてもまぁ、焼き尽くせば流石に増えないようね」
 熱線の餌食になったのは数匹のスイカ兵だ。もはやどこにあったのかさえ定かではない。
「凄い威力とは思いますけど……」
 だが数匹である。それで用意した随分と大掛かりなバッテリーは冷却モードに突入してしまっていた。この世界では威力が高まれば当然のように電力や魔力を多く消費してしまう故の結果だった。
「全てのスイカ兵を焼きつくすのはこれだけじゃ無理よね」
「ええ。それにどうも『森』の植物は元より耐火性能が高いですからね。
 生半可な火炎攻撃ではこういう結果にならないかもしれませんし」
「森の中には『水袋』抱えた植物も居るしね。まぁ、ひとつの指針になったと思いましょう?」
「そうですね。しかし……」
 実験のため、二人が居るのは森の外だ。そして少し先に見える森は夏という時期に反してどこか精彩を欠くように思えた。
「コピーを撲滅するチャンスでもあると思うんですよね。
 どうにかうまく利用できないものでしょうか」
「ああ、オリジナルコアの女の子にも粉かけてるんだっけ?」
 熱戦砲のチェックをしながらKe=iが思い出したかのように呟くと、ヨンは「え?」と言う顔をし、それから渋面を作る。
「いや、そういうわけではなくてですね?」
「うん。でも事実だけ抽出するとそう言う事だし?」
 さらっと笑顔で返されて沈黙。果たして違うと言う言葉がどこまで意味があるか。
 いや、意味は無くてはならない。だが、どうしてだろう。ちっとも説得できる気がしない。
「ヨンさんの武勇伝はちょっとした噂の種だもの。種族を問わない愛の伝道師だとか」
「事実無根です。そもそも私が良いと思っている人はですね……」
「人は?」
 ヨン。口を噤む。
 ちなみにたまに口にしているその人は器物系の妖怪種だったりするので、種族を問わない愛の伝道師という称号は的外れではないと思われる。
「さ、さて。実験も終わったようですし、私は地図の配布や境界線の防衛に行きますよ。
 オリジナルコアのエリアまでスイカ兵に浸食されるのも問題ですしね」
「はいはい。彼女のために頑張ってきてね」
 ひらひらーと手を振るKe=iにヨンはしばし返す言葉を思案し、やがて諦めてその場を後にするのだった。

 ◆◇◆◇◆◇

「行きました」
 スティルの言葉に応じるように、黒の影が大気と共にスイカ兵を真二つにする。
 ぱっかり割れたスイカ兵はしばらく手足をじたばたさせていたが、やがてその反応も停止。沈黙する。
 普通ならばここで零れた種が地面から急速発芽するのだが───
「ビニールシートの上だと流石に根を伸ばせないみたいですね。
 綺麗に切ったので種も零れていないようですし」
 鮮やかな赤い果肉にきれいに並んだ種が透かし見える。
「……種の採取する」
「ええ。調べてもらえば除草剤の一つも造ってもらえるかもしれませんしね」
 こっくりうなずくアイン。とにかくこの種、地面に落ちた瞬間発芽し、あっという間にスイカ兵に化けるので確保が難しかった。
「……行幸」
「まったくです。それにしても切ると良いんじゃないですかね、これ」
「……単体なら。一杯いると、多分蹴飛ばす」
 カマイタチなどの魔術で斬り飛ばしても数が居ればぶつかったりしてどうしても種は散らばってしまうだろう。
「やはり効率的な駆除方法が必要ですね。
 では街に戻りますか」
「……ええ」
 ビニールシートで割れたスイカを包み袋に収めると、足早に森を後にしようとする。
 と────不意に二人は微かな物音に足をとめ、周囲に視線を走らせる。
 スイカ兵が発生する前の、忍び寄るような息を殺した接近の音では無い。もっと投げやりな、そんな音だ。
「他の探索者でしょうか……?」
「……わからない。そこらへんから聞こえた」
 無視する事も可能だが、とりあえず片方。ポリゴンロボはおおよそ自重と言う単語に親しみを抱かないタイプである。
 あっさり意を決して茂みをかき分けると
「おや? 行き倒れでしょうか」
 首を傾げてアインが近づき、見た物。
 それは基本的に緑の少女が目を回して倒れているところだった。

 ◆◇◆◇◆◇

「というわけで、話を聞きに来たっスよ!」
 どーんと小さな胸を張るトーマに「(=ω=)?」の顔文字を表面に浮かべる巨大ナニカ。
『スイカのこと?』
「そうっス! さぁ、洗いざらい話すっスよ!」
『飽きた』
 にべもない回答にトーマはげしりと表面を蹴る。
「折角聞きに来たっスよ! もう少し待遇を改善すべきっス!」
『もう32回目』
 うんざり感満載なのか、どことなくナニカで造った文字もぐんにょりしている。
「隠してる事とか無いんスか?」
『ない』
 むぅと頬を膨らませるトーマを『=ω=』な目が見つめる。
『まるい』
『だからしかたない』
「あんたも同じ考えっスか?」
『別に』
 そっけない回答。
『敵は怪物』
『それが第一』
『でもコントロール範囲から出たの』
『まるいの許せない』
「チビナニカの基本プログラムにエラーでもあるんじゃないっスか?」
『そんな事は無い』
 そうは言い張る物の、実際この巨大ナニカ、先ほど『丸いから仕方ない』と論じたばかりである。
「どうしようもない、とアンタは思ってるんスね?」
『うむ』
 ぐりと巨体が首肯を表すように動いた。
「うーん」
 果たして全て信じて良い物か。それとも何か対策を打つべきか。
 トーマが腕を組んで考え込むのを巨大ナニカの濁った瞳がぼんやりと見つめていた。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
はい、進展が遅いのは仕方ないと思っています神衣舞です。
なにしろヒントが少ないシナリオですからね。大胆に動くのもまた一つの手段ですよ?

ちなみにKe=iさんが大規模な熱線砲を用意していますが、今回は個人運用ということなので威力を掲示板記載よりも減じさせてもらっています。つまり経験値で習得し、発動できるであろう最大威力と言う事です。
シーン攻撃レベルはかなり大量の経験値とMPを消費するため、防衛任務に範囲攻撃専門部隊なんぞ用意されているのです。
とまぁ、そんな感じで次のリアクションよろしゅう。

そろそろ時間経過によるヒャッハーな事態起こしちゃうゾ☆(ぉい
物騒な夏の風物詩
(2011/09/24)
「これは魔法系の組成式っスね。中身はまったくもって普通のスイカっス」
 川でスイカ兵残骸を拾ってきたトーマはせっせとその解析にいそしんでいた。
 ドライアードやトレントのような植物系生物はその体がまるまる植物と同様であるにもかかわらず枝葉を自由に動かし行動することができる。これは科学系の基本理論からは大きく逸脱した現象だろう。だが魔法系では特段おかしなことではなかったりする。このあたりの割り切りができないとクロスロードで学者はやってられない。
「魔法系特有の『そういう物』っていう定義化されたスイカって考えるべきっスかね?
 そうすると……生命力や皮はある程度強化されてるっスけど、除草剤あたりは有効っぽいっスね」
「……通用する除草剤、作れる?」
「わひゃぁあ!?」
 突然真後ろから声をかけられてトーマが小さく飛び上がる。
「……どうしたの?」
「アインさんっスか!? び、びっくりしたっス」
「……? それで? 除草剤、作れそう?」
「ま、マイペースっスねぇ……」
 驚愕を浮かべつつも気を取り直してトーマはデータを表示する。
「恐らくっスけど、適当な除草剤でも有効っス。あの森の他の植物よりかは薬物耐性も低そうっスね」
「……すぐ作れる?」
「吸収移行型の非選択式除草剤なら適当に作れるっスけどね。
 ……まぁ、土壌汚染については『森』の基本的な植物が除去してくれそうっスからそれでも良いっスかね」
 もともと森の植物は大襲撃の戦闘により派手に土壌汚染されたクロスロード周辺の土地を改善するための試みだった。科学的な薬品の一つや二つはあっさり除去してくれそうである。
「お願い」
「わかったっス。問題はどれだけ生成すれば良いかって事と、森の除去はさておき適当にばらまいていいかって事っスね。一応有害物質だし」
「……大がかりなら管理組合に連絡を入れなきゃだめ?」
「んー。だったら農業組合か施術院組合に協力を依頼すべきっスかね。
 あそこなら大規模な調合施設もあると思うっス」
「時間、かかる?」
「まぁ、それなりには。その二つの協力があれば一両日には十分な量ができると思うっスけどね」
「……そう。じゃあ、それまで数を減らす。
 この前の粘着シート、ある?」
「あるっスよ。在庫処分なんて持っていっていいっス」
「うん」
 アインはこっくりうなずくとふらり外へと向かったのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆

「こういう依頼の方がここらしいと思えるな」
 農業組合の門をくぐったエディは騒がしい施設内を見渡す。スイカ兵対策はやはりここも無縁ではないようだ。
「はい、どのような用件で?」
 受付が忙しそうに手を動かしながら問いかけてくる。
「スイカ兵の一件でちょっと相談したいことがあってな」
「どのような内容でしょうか?」
「雨による受粉の阻害、害虫による育成阻止、あとは囲い込みはできないか?」
 矢継ぎ早の問いかけに受付は数秒思案するそぶりを見せると
「害虫については制作までに時間がかかるのが難点ですね。また囲い込みについてはもはや手遅れと言っていい状況です。クロスロード西側で新たな群生地が発見されており、その抑え込みに人手を割いている状況です」
 ですが、と受付は続ける。
「雨、という案はアリだと思います。確かに受粉の阻害さえできればスイカ兵は生まれない……。かなりの速度で生育しているため実際のスイカほどの効果は見込めないでしょうが、数が大幅に減るならばやる価値は大いにありますね」
 受付は近くの組合員を呼びとめると二言三言告げてからエディに向き直る。
「まずはサンロードリバー西方で実験をしてみましょう。幸いあそこなら天候操作という大がかりなことをしなくても、川の水をまきあげて降らせることができます。水の操作に長けた種族も多いですからね」
「決断が早いな」
「もたもたしている場合ではありませんので」
「違いない」
「降雨方法については別途検討します。なにぶん天候制御は精霊術では高難易度過ぎる。
 天気にまつわる神族を数名集めればなんとかなりそうですが、十分に力を有している神族は早々動こうとしませんからね」
 誰か心当たりはありませんか? と尋ねる受付にエディは苦笑で返す。
「思い当るところがあれば掛け合ってみるさ。
 あまり期待はしてもらいたくないがね」
「よろしくお願いします」
 エディは肩をすくめ、組合を後にした。とりあえず大増殖を止める一案にはなりそうだ。

 ◆◇◆◇◆◇◆

「……うーん」
 自作の地図を睨むヨンからうめきともため息ともつかない声が漏れた。
「どうしたの?」
 骨格を持たないせいか、どこかにゅるりとした動きでオリジナルコアが地図を後ろから覗き込む。
「いえ、スイカ兵のマップを作ってみたんですがね。翌日にはもう分布が変わっていまして」
「あいつら増えるから。いっぱい」
「そうなんですよね。位置が変わるというよりも位置が増える感じですし」
 古い場所では周囲の植物がぐったりしている。養分をごっそり持って行かれただろうそこに再び群生するとは思えない。
「おや、ヨンさん」
 第三の声がかけられる。がさりと草をかき分け出てきたのはポリゴンロボだ。
「ん? スティルさんですか。調査中?」
「ええ。……おっと、お邪魔でしたか?」
「何がです?」
「蜜月のようななにかです」
「気のせいです」
「きのせいなの?」
 どうしてコアが突っ込んだのかは考えないことにしてヨンは地図を地面に置く。
「何か新しいことはわかりましたか?」
「あまり芳しくないですね」
 ポリゴンロボはあまり困った風になく腕組をして応じる。
「自滅の調査をしていたのですが、……ああ、要するに新たな農耕地で割り合う行為ですね。どうも味を占めたらしくどんどん行為の数が増えてまして」
 それが地図がどんどん更新されていく原因かとヨンは舌打ち。
「うん。あれ困る。割っても増える」
「物理的に押しとどめる方法がまずないんですよね。この間アインさんとビニールシートを引いてスイカ割りをするという方法を試しましたが、まさか森全体にビニールシートを敷くなんてことはできませんし、森から川の間にも敷かないといけなくなりますし」
「地面を堅くするのも広範囲過ぎますしね」
「というわけで、害虫あたりないかなと思いまして」
「いない」
 コアの即答にスティルは「どうして」と首をかしげる風をする。
「たしかこの世界には生物がかくにんされていないからじゅふんは昆虫とか不要ってせっけいされてる」
「外から持ち込むということはできるわけですね」
「できるけど……あまりいい結果になりそうにないね」
 何かの物語で読んだが、大抵そのあと、その生物がとんでもない事件を引き起こすのである。
「しかし、このまま増えるに任せているとこちら側もあっという間に浸食されますよ」
「ネズミ算式ってやつか。悠長に地図を作ってる状況でもなくなってきたね」
 役に立たないことも無いだろうが、さすがに一人の手で更新するには手に余る。
「ねえ、この隙にコピーコアを全滅させないかい?」
 そろそろアクションに移るかと考えつつ、不意にそんなことを聞いてみると
「すいかがこっちの領内にまんえんするからヤ」
「ごもっともだね」
 ヨンは苦笑を洩らして澄み切った晴れ空を見上げる。
 さて、どうしたものか。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
にゃふ。神衣舞です。
 次回は放水、降雨計画発動予定です。解決策と考えてた2案のうち1つ発動ですな。
 たぶんまとめになるだろうなぁ……と思いつつ。
 ところで。まだナニカはやる気なんだぜい?(ぉ
物騒な夏の風物詩
(2011/10/09)

『正午より降雨作戦、並びに薬品散布を行います。
 PBに表示される通達に従い、該当地域で活動される方は注意をお願いします。
 また今回の薬品は植物系全般に対して効果があるものです。
 毒耐性の無いドライアード種系統は作戦地域からの早急の対比をよろしくお願いします』

 不意にクロスロードで放送されたその言葉。
 それはクロスロード周辺を騒々しく彩る騒ぎの終焉。その最後の一手が始まった知らせだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆

「ふふ、戦慄の知智将と呼ばれたあたしの面目躍如っスね!」
 作戦用の仮設テントに陣取ったトーマはドヤ顔で周囲の作業風景を眺めていた
 彼女の制作した薬が今まさに使われようとしているのである。
 すでにサンロードリバー西方に流れ着いたスイカ発生源で薬の試用は行われており、十分な効果があることは分かっていた。
「スイカに森の植物特有の耐毒性が無くて良かったですよ」
 施術院組合の女性が手元のモバイルPCを操りながら微苦笑を漏らす。
「降雨による受粉の阻害も有効だとわかりましたが、なにぶん森の中では雨粒が当たらない個所が多いですからね」
「ふふ、これで一掃してやるっスよ!」
 とまぁ、良い気になっているトーマは、不意に周囲が騒がしくなったことに気づく。
「何かあったっスか?」
「何かというか……地響きみたいなの、聞こえませんか?」
 きょろきょろと周囲を見渡していた農業組合のスタッフの言葉にトーマはきょとんとし、それから耳を澄ませ───

 どどどどど

「た、確かに聞こえるっスけど……」
「ひ、東の方角だ! 何か来るぞ!!」

 その視線の先は、緑と黒のしましまだった。

「なっ!? スイカ兵っスか!?」
「こっちに来るぞ!」
「あいつら、こっちに感づいたのか!?」
「いや、スイカ兵にそこまでの知能は無いって話だろう!?」
 とはいえ、迫ってきているのは事実だ。
「く、薬だ! 薬で迎撃しろっ!」
「バカ! 実のスイカ兵に蒔いても効果は薄いだろうが!」
「いや、先に蒔いておけばさらなる増殖は避けられる。
 とにかく攻撃手段を持つやつは迎撃開始しろ!」
 突如始まった迎撃戦にトーマはしばしポカーンとしていたが
「確かさっき「紅の雌豹」とか呼ばれてたとか言いましたよね!?
 トーマさんも迎撃の応援お願いします!」
「え?ええ? いや、あれはっスね!」
 もちろんいつもの勢いでの言葉なのでそんな事実は無いが、初顔合わせの彼がそんなトーマの性癖を知っているはずもない。
 皆一様に戦闘能力は持っているとはいえ、悲しいかなここに集っているのは研究の方にその能力をシフトしている者達だ。
物量が戦線の均衡すら許さないと見た時、空から何かが降ってきた。

 ◆◇◆◇◆◇◆

(=ω=)がゴムボールに絡んでいた。
 見ててほほえましいことこの上ないが光景。ナニカは全てを忘れたかのように執拗にゴムボールをぐにぐにし続けている。
「……スイカの方も同じ感じだった」
 すちゃりと傍らに降り立った黒の少女にヨンは視線を向ける。
「どうも丸いものに過剰に反応しているみたい。
 ……同族嫌悪?」
「そういう感じですね、確かに」
 じゃれて遊んでいるという感じではない。ナニカでは分かりづらいが、確かにこれは攻撃意思のようなものを感じられた。
 スイカの各個撃破に従事していたはずのアインがヨンと何をしているかと言うと、問題の彼らがボールに反応するかどうかの実験だ。
「これで誘導はできそうですね。ついでに北門を抜けるときは丸いもの厳禁ですかね」
 さて、と腰を挙げたヨンは台車に積んだ各種丸いものが詰まった袋を眺め見る。
 と───そのはるか向こうで土煙が上がっているのを見た。
「あれは?」
「……? MOB?」
 弱い怪物は複数体でまとまって行動することがある。こういう存在をMOBと称する。中には数百からなる数でMOBを形成することもあり、その時にはこういう土煙を見ることができる。
 つまりは同じ規模の何かがうごめいているというわけで────
「この状況ではスイカかナニカかの二択ですかね」
「……そう言えばトーマが浮かれて一網打尽がどうと言っていた。町の外で」
「その実験場が襲われている?」
 スイカ兵がMOBのようにまとまって動く性質は見て取れた。
 それが北で無くやや西方向に走る理由を無理に想像するならば迎撃のためか。
「応援に行った方が良いですかね?
 早速この特性がうまく使えそうですが」
「……うん」
 うなずくが早い、アインはすぐさま身を翻して駆けてしまう。
「え、あ。あの、できれば台車を引くのを……」
 あっという間に声の届く距離を抜けた黒の少女の背を見送り、ヨンは誤魔化しの含む苦笑いと共に台車を引き始めたのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆

 その結果としてのボールの落下である。
 てんてんと3つのボールが弾むとスイカ兵は一斉にギョロリそちらへと体を向けた。
 動きが止まった。
「今だ!!」
 射撃系の攻撃とともに薬が散布される。脆いスイカ兵は見る間に割れ、種をまき散らすが芽が生えてくる様子は無い。
「よし! 念のため防護服着た連中は地面の種や根を回収、焼却処分してくれ」
「やったっスか!?」
「フラグはやめていただきたい。
 とはいえ、上手くいったようですね。しかしどうして急に止まったんでしょうか?」
「……ボールのおかげ」
 薬の範囲から逃れてきたアインの告げた言葉にトーマは首をひねり
「ボールで催眠術でもかけたっスか?」
「同族嫌悪。ナニカもスイカも自分たち以外の丸い物が嫌い」
「そそそそそ、そんなこととっくにわかってたっスよ! 孤高の智星と呼ばれたあたしの分析眼を舐めてもらったら困るっスってああ、嘘ですごめんなさい」
 言ってて恥ずかしくなったのか、勝手に謝るトーマはさておき
「この特性を利用すれば安全に迎撃はできそうですね」
 施療院のスタッフが安堵を見せつつつぶやく。
「しかし、やがてこれを覚える個体がでるかもしれませんよ?」
 台車を傍らに置いたヨンがややばて気味にそう言うと
「別に問題ありません。丸い物を敵視しなくなれば自然と衝突は無くなるのですから」
「……納得」
「では、薬の散布の準備を再開しましょう。
 助けていただいたついでで申し訳ありませんが引き続き護衛の協力をいただきたい」
「……構わない」
「10分休ませてもらえれば」
 こっくりうなずくアインを横目にヨンはふぅとその場に座り込んだのだった。

  ◆◇◆◇◆◇◆

 かくしてぐんと数を減らしたスイカ兵はその残りも森の住民(木?)に討伐され、スイカ兵騒ぎは一応の終結を見たのだった。
 しかし、いくつかの種が川を下ってしまったことは事実であり、稀にスイカ兵の姿を確認するようになったという……

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 超ハードモード入ってます。実生活が。神衣舞です。
 ちょい年末までは死にそうなくらい忙しくなりそうなので更新ペースが遅れますが楽しくやっていきたいと思いますのでリアクションどうぞよろしく。

 というわけで今回で物騒な夏の風物詩は終了となります。
 が、いろいろと伏線は残しておりますなぁ。
 ナニカ側は別に解決したわけじゃないしぃ(くすくす……
 まぁ、なにはともあれお疲れさまでした☆
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