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【inv18】『クロスロードお遣い歩き』
クロスロードお遣い歩き
(2011/09/10)
「例によって面白そうなので首を突っ込む事にしました」
 ドヤ顔で語るポリゴンロボを黒衣の少女は半眼で見上た。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「お静かにお願いしますね?」
 偶然近くを歩いていた黒髪の落ち着いた女性───司書院の一人に窘められ、スティルは素直に頭を下げてアインの前の席に座った。
「……調べ物に来たの?」
 いつも張るような声ではないが、それよりも増して抑え目のボイスでの問いかけにスティルは大仰に頷いて見せる。
「まぁ、そういうわけで調べに来たわけです。
 何か分かりましたか?」
「……一応いくつかは」
 メモを差し出す。
「……ミスリル銀とトルマリンはそこらで買えるから問題無い。
 『ユスノカズラ』はいくつかの世界で採れるらしい」
「ほうほう」
「……『フレアシード』と『妖精樹の樹液』は同じような名前のものが多いから断定できない。『ヌーデビル』はまだわからない」
「ふむ。この世界で採れないのか?」
 テーブルに影が落ちる。二人が顔を挙げると、そこには図書館に似合わぬ巨躯があった。
「おや、ザザさんもこの依頼を?」
「ああ。採取しなきゃならねえような事には役に立てるだろうからな。
 とはいえ、事前知識がなきゃなにもできねえからな」
「なるほど、道理です」
 ……
 ふと見ると……アインが冷たい視線で見上げていた。
「……さて、調べましょうかね」
「そうだな」
 二人の男はツツーっと視線を逸らし、調査へと体を向けた。

それから小一時間ほど経過。

「なぁ、妖精樹って森に居る奴とはちがうのか?」
「ドライアードの一種ではありそうですが……何とも言えませんね」
「……似たようなのが多い。
 ……というか、ミスリルに至っても組成式や純度の問題がある気がする」
 アインがパタンと分厚い本を閉じて小さくため息。
「数万の世界と繋がっていますからね。同名の違う物が一つ二つあってもおかしくないですねぇ」
「だが、別の世界で採れた物で全く同じものって無いか?
 リンゴなんて大体味が変わらんぞ」
 ザザの言う事ももっともである。
 実際八百屋等に行くと『似て異なる形状』だが『同じ名前』で『だいたい同じ味』の野菜は珍しくない。
ちなみにそのせいで料理人は苦労する反面、いろいろと創作意欲を燃やしているらしい。
「……確か《ターミナル》特有の変な法則があった気がする」
 アインが小さく小首を傾げてそんな事を言う。
「……それから、これ集めてなにするかを聞いていない。それ次第?」
「条件が曖昧すぎると言う事か?
 持って行って違うと言われるのも癪ではあるが……」
「或いは、無作為に集めてから良い物を選ぶつもりかも知れませんね」
「ふむ。とりあえず植物系は森にありそうって事はわかった。
 ……あとは市場巡るくらいしか方法はないのかね?」
「……わからない。『怪物』もいろんな世界の種族が居る。
 落とすのが居るかもしれない」
 そして沈黙。
 さて、どうアクションしたものかと悩みつつ、大図書館特有の空気に包まれるのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「どうも、アルカさん居ますか?」
「んにゃ? いらっしゃい」
 カウンターで何やら作業していた猫耳娘がひらひらと手を振る。
「ちょっとご相談がありまして。
 ミスリル銀を購入できる所を知りませんか?」
 ヨンの問いかけにアルカは不思議そうな顔をし、
「そんなの市場でいくらでも売ってるじゃん。
 そりゃ、多少値は張るけど」
「そんなものですか?」
「ん。プルトニウムとか、殺生石とか、置いているだけで周囲を汚染するような物でなければ大抵手に入るにゃよ。
 まぁ、オリハルコンとかヒヒロイカネとかレベルになるとよっぽどの所じゃなきゃ仕入れてないけど」
「……オリハルコンでも買えるんですか」
「条件揃えれば練成できる世界もあるしね。
 ま、あんなもんわざわざ使う必要性がどれだけあるかって話にもなるけど」
 確かに魔王退治の最強の武器でも求めない限り、普通の剣でどうとでもなるし、拘りを捨てれば重火器の方がよっぽど効率的である。
 噂ではどこかの世界の魔王がこの世界で仕入れられた大量のロケット砲で城ごと吹き飛ばされたとかなんとか。
「あちしみたいな魔法技師の場合、術式許容量の問題からそういう金属を求める事もあるけど……。まぁ出来上がるのは大抵最終兵器レベルだから使い道限られるしねぇ」
「くれぐれも平穏にお願いします」
 心の底からヨンは頭を下げる。
「んで、ミスリル銀だっけ?
 だったら余りをあげてもいいにゃよ」
 ととんと首輪をつつくとそこから光が零れて収束。青の輝きを淡く保つインゴットが少女の手の中に生まれる。
「良いのですか?」
「練成の余りだから良いにゃよ。
 しばらく使う予定もないし」
「じゃあ……まぁ、頂きます」
「にふ。ういうい」
 世界によっては豪邸くらい買えそうなシロモノをぽいと投げ渡されたヨンは困惑を浮かべつつも頭を下げるのだった。

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 というわけで珍しく平穏な第一話です。
 いや、ほんとはこういう話ばかりやろうとしてたんですよ。
 ほんとほんと。うん、ほんと。
 ……
 ……
 想像できねえ(=ω=)
 というわけでまぁ、次回もリアクションよろろ。神衣舞でした☆
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