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【inv18】『クロスロードお遣い歩き』
クロスロードお遣い歩き
(2011/09/29)
「ああ、もうしわけありません。依頼文に不備がありましたね」
 一同の前に姿を現したのは壮年の人族だった。
「報酬の1万Cというのは捜索に対する報酬です。
 代金は別途お支払いしますよ」
「ああ、なるほど」
 ヨンがうなずき、それから手の中のミスリルを転がした。
「ちなみにそれぞれどの世界のどの様な品物なのですか?
 あと、これは何を作るための材料なのでしょうか?」
 スティルの問いかけに男はやや考えるふうにして
「ミスリル銀は鉱物。結構な世界に存在が確認されていますが希少物質ですね。
 それからフレアシードとトルマリンは宝石です。これも特定世界の物ではないと聞いています。
 ユスノカズラは植物だと聞いています。つる植物で紫の花をつけるそうです。
 妖精樹は神霊に至ったドライアードで、世界によっては世界樹などと称されることもあるそうです。これの樹液は琥珀色に輝き、強い精霊力と禍つ祓いの力をもつそうです。
 最後にヌーデビルの角ですが、これは魔獣の角で、その姿は牛寄りに姿を近づけたミノタウロスという感じだそうです」
「ふむ。それを集めて何を作ろうと?」
「薬と聞いていますが、詳細は。
 私はあくまで使いですので」
「……貴方は、その真贋がわかるの?」
 アインの問いかけにやはり男はやや間を置き
「ええ、実物を見ればわかります。
 なので品物を見つけたら購入していただくか、呼びに来ていただければと。
 他の方にもお願いしている手前、連れまわされるのは勘弁していただきたいですが」
「で? どれだけの量が必要なのだ?」
 髪を高く結った男───マオウがどこか不遜に問いかける。
「多ければ多いほど。
 相当量が集まれば終了のお知らせをさせていただきます」
「随分と曖昧だな。安い品物ばかりでもないだろうに」
「あって困るものでもありませんので」
 トリマンに話を聞きに来た一同はやや不審げに視線を交わし合う。
 ミスリルなど世界によってはひと固まりで屋敷が買える。無論さまざまな世界が交わるこのターミナルではその価値もぐんと落ちるだろうが。
「ふむ。しかしこの中ではユスノカズラとヌーデビルの角がやや曖昧ですね。
 妖精樹とやらも類似品がありそうです」
「しかし私が聞くところによると、この世界に持ち込まれた2つの類似品はほぼ同様の物になると伺っています。
 類似品であるならばある程度期待できる性質を有しているのでしょう。
 それがこの世界で材料集めをする理由でもあります」
 確かにそういう事例は観測されている。
 再びミスリルの話になるが、ある世界ではミスリルはとても軽い物質と定義され、またある世界では青く澄みきったガラスのような鉱石とされる。
 そのすべてはこのターミナルにおいて『ミスリル銀』という名称定義に固定され、共通する項目の能力を混ぜ合わせたような物質となる。
 即ち『魔力親和性の高い魔法金属』という特性のみが残るのである。
 しかしこれはそれぞれの世界に持ちかえるとその世界の性質に変貌することも分かっている。マジックアイテムなどに加工されている場合にはまた例外的な反応をしめすという報告もあるが、少なくともターミナルで相似品を入手できれば自分の世界に措いて目的の品物を手に入れたと見做せるわけである。
「……なるほど。じゃあ、見つけ次第連絡する、がベター?」
「そうかもしれませんね。ああ、それからもうひとつ。ミスリルは原石ではなく高純度の精錬品でお願いします。できれば不純物が一切ない方がありがたい」
「ああ、それですが。
 これではいかがでしょうか?」
 ヨンがもてあそんでいたミスリルを差し出すと、男はほんの少し視線を彷徨わせ
「これは素晴らしい。もうこんな高純度の物を見つけてくださったのですね。
 市価にして70万C程度と思いますが引き取りはそれでよろしいか?」
「え、あ……」
 ただでもらったこれは一体いくらで渡せばよいか。
 貰ったと言っていいものか。悩んでいると
「ああ、ご自身の所持品ということであれば……そうですね。先ほど言った通り70万Cで買い付けます。いかがでしょうか?」
 その提案に、ますます答えに窮したヨンは「ちょっと確認させてください」と一旦その場を後にすることに決めたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「随分とアバウトな依頼だな」
 依頼人の話を静かに聞いていたエディはその足で施術院組合へと至っていた。
「この材料で作れる薬を知りたいんだが、判別してもらえるか?」
「材料だけで、ですか?
 ……非常に難しいと思いますね」
 組合員だろう白衣を着たリザードマンがモノクルをいじりながら応じる。
「薬なんてものはちょっとした調合の順番、加工方法でその効能を大きく変えますし、魔法薬に至っては途中の術式で効果が真逆になることすらありますから」
「なるほどな。候補を絞ることも難しいか?」
「なんとも言えません。そもそもどの種族に対して使う薬なのですか?」
「……依頼人は人間種らしかったが……」
 なるほど、確かに種族によってまた効果も用法も大きく異なるだろう。
「安易な推測は不可能か。
 ちなみにこのリストの品物はここで扱っちゃいないか?」
「どれ……。
 妖精樹の樹液であればいくばくかストックがありますね。しかし、これ一つでもやりようによってはエリキシルなどの超高位な魔法薬が制作可能なのですが……」
「つまりは穏やかなお薬の材料には到底見えないって事か」
「でしょうね。私がわかる物だけでも世界によっては町一つ買える金額になるんじゃないですか?
 まぁ、だからこそこのクロスロードで買い求めようとしているのかのしれませんが」
「だろうな。とりあえずその樹液については依頼に検分してもらうとするか。
 さて、農業組合にでも行こうかね。邪魔したな」
「いえいえ」
 リザードマンは目を細め、きわめて軽い口調で応じたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「ユスノカズラとはまた珍しい名前を聞いたね」
 大図書館の地下3階層。知る人には魔窟だとか呼ばれている場所で初老の男は部屋の密度を一人で上げている大男を見上げた。
「知っているのか?」
「ああ。朝顔に似た花を咲かすやつでな。私も偶然手に入れて森の植物の改良に使ったんだよ。オリジナルも念のために森で育成させていたはずだが……。はて、今はどこに埋まっているやら」
「……確か森は移動していなかったか?」
「ああ。そういう一般植物は地面を草で編み、その上に土を盛っているんだ。
 そして土ごと移動させているというわけだ。キノコなんかもそうやって移動させているわけだが」
「だが?」
「色々なごたごたで正確なMAPが存在していなくてね。
 オリジナルコアの協力のもとで捜索すればすぐだとは思うが、なにぶん私も忙しい身でね」
「オリジナルコアか」
「知っているなら話は早い。あの子に頼むといいよ」
「……まぁ、方法がないわけでもないか。わかった」
 ザザは立ち上がると
「お前ら、降りろ」
 肩に乗ったり、腕にぶら下がったりしている幼児verのコピーコア'sが不満げな顔をする。
「はっはっは、可愛いだろう。なかなか人らしい反応をするようになったんだ」
「……」
 親馬鹿オーラを出し始めたニギヤマを半眼で見下ろし、それからコピーコアをひょいと床に下ろしたザザはそのままのしのしと地上へと戻る事を選んだのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「トルマリンなら結構どこでも扱ってるねぇ。
 宝石としての含銅のやつはやや値は張るが」
「ここには置いているの?」
「いや、宝石商のところを訪ねるべきだろうね。
 フレアシードってやつも宝石ならそこに行くのがベターだろうよ」
「そう、ありがと」
 軽い調子で礼を言ったKe=iは紹介された宝石商へとその足を向ける。
 市場はいつも通りの活気。そんな光景を横目にたどり着いたのはやや豪奢な店構えの宝石店だった。
「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」
「ちょっと依頼でね。宝石のトルマリンとフレアシードってのを探してるんだけど」
「……トルマリンと、フレアシード、ですか?」
 喪服じゃあるまいしと思うような黒で統一されたドレスをまとった女性店員がやや戸惑ったような声を漏らす。
「無いの?」
「ええ。申し訳ありませんが、昨日すべて買い上げて行かれたお客様がおりまして。
 聞けば当店だけでなく他の店からもその2点を買い取って行ったお客様が居たとか」
「……同じ依頼を受けた人かしら?」
「それは判断しかねますが、そういうわけでその2点については入荷未定となっております」
「……そう。ちなみに全力で取り寄せてもらいたいって言ったらどれくらいかかるかしら?」
「トルマリンはともかく、フレアシードについては魔法系世界の火山地帯でとれるようなものですので、なんとも……」
 申し訳なさそうに語る女性に「わかったわ」とKe=iは肩をすくめて店を出ようとし、
「……あ、ちなみにその人、どんな風だった?」
 ふと思い立って問いかける。
「とても気品のある女性でしたわ。人間種のお姿をされていましたが……もっと別の種のような気がいたしました。瞳が特徴的でしたし」
「……特徴的?」
「ええ……その、リザードマン系の種族のような黄色っぽい輝きが印象的でした」
「蛇目ってこと?」
 一応は服飾系の店員らしい、揶揄とも取られない発言は控えるような行動にKe=iは「ありがと」と軽い礼を送り、改めて店の外へ出た。
「……厄介なことにならなきゃいいけどね」
 なんとなく、そんなことをつぶやきながら。

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というわけで神衣舞です。
説明不足申し訳ない。品物の購入代金は別となっておりますのでご安心を。
あくまで捜索の報酬が1件1万Cとなっております。
また、品物については今回説明のあったとおり、世界によって性質が異なるということはターミナル上では考えなくてよいものとしてください。なので悪徳商人に偽物をつかまされない限りは、見つけたものは正しい品物ということになります。

さてはて、早速怪しい動きがはじまりました。
いろいろ気を回しつつ楽しんでお使いをしていただけると幸い。

では次回リアクションもよろしくお願いします。
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