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【inv18】『クロスロードお遣い歩き』
クロスロードお遣い歩き
(2011/10/28)
「あら? 森に行ってきたの?」
 昼間はもっぱらカフェテリアメニューの並ぶ純白の酒場。
 そこにやってきた大男と吸血鬼のペアを見て店主のフィルは小さく首をかしげた。
「おや、良くおわかりで」
「そりゃぁ、葉っぱついてるし」
 指差す先を見れば確かにそっちこっちに葉っぱが残っていた。
「ふん。酒、良いか?」
「ええ。奥の席の方へどうぞ」
 確かにこの時間は入り口付近やその前に置かれたオープンテラス席はケーキの香りが漂い、酒を飲むにはやや不似合いだ。
 案内に倣って奥へと歩くザザと、それに続こうとするヨンをフィルは見て
「あら? 背中にも付いてるわよ?」
 と、ヨンの背中を触った瞬間

「っ!?」

 フィルがまるで静電気でも発生したかのようにびくりと手を引っ込める。
「ん? どうしたんですか、フィルさん?」
「……ヨンさん。何をしでかしたわけ?」
 怪訝そうに言われても全く身に覚えのないヨンはきょとんとして
「何といわれましても……。どういう意味かさっぱりなんですけど」
「……そうね。あたしも触らないと気付かなかったくらいだし。
 うん。悪いことは言わないから高位司祭……ヨンさんの場合はダーク系の神殿の方がいいのかしらね。そういうところに行きなさいな」
「こいつがどうかしたのか?」
 ザザも話の展開についていけないとばかりに太い柳眉を寄せる。
「どうもこうも、シャレにならないほど高位の呪詛が掛ってるわよ。
 もう一歩で神災級のヤツ」
「……えぇええ?」
 神災級と言えばクロスロードでも「手に負えない」という意味にもとられる代物だ。
「な、何でそんなものが私に!?」
「知らないわよ。でも複雑で厄介な呪詛だわ。あたしも抗魔常駐術式に引っかかったから気づけたけど……。普段から生活にも影響が出るようなレベルの物だわ」
「そ、それだったらもっと早く気付けてますよ!」
「おい、ヨン。覚えはないのか?」
「あれば何とかしてます!」
 確かにそれもそのとおりそうだとザザはやや面倒そうに頭を掻いた。
「どんな呪いかはわからないのか?」
「……ちょっと見てみるわね」
 仕方ないとばかりにため息ついたフィルは、即座に左手に魔法陣を展開。
「……んー。多分感情操作ね。ある程度の抗魔力を持っていればそれほど害にはならないけど、耐性が低い人には普通に影響するかもしれないわ」
「感情操作? ……どんな、です?」
「……負の感情、というのは分かるんだけどね。
 って、あ」
 不意に────フィルの手にあった円形の魔法陣がぐにゃりと歪み、
「っ! 《神壁》っ!!」

 それは即座に半透明のフィールドに包まれ、その中で音も無くはじけた。
「何が起こったんだ?」
「解析のために干渉していた魔術に呪いが干渉してきたのよ。
 シャレにならないわね、これ」
「……ええええ、っていうか、私、何されてるんですか?」
「わからないわ。あたしには影響してないし。
ただ……生半可な術師じゃ解呪どころか感染しそうね」
「感情ねぇ……《魅了》とかか?」
「そ、それはまぁ、行き過ぎると呪いみたいなものですけど……」
「ここで話しててもラチあかないし……
 今まで気づかない程度の効果しかなかったんなら今日明日で何か起きるというものでもないでしょうからね。
 まぁ、早めに対処することをお勧めするわ」
「ええ……」
 がっくりと肩を落としてため息一つ。
 おかしい。情報収集ついでに寄ったはずなのになぜこんな話に?
「……本当に、誰にやられたんだかな」
 あきれたような、そんなザザの言葉がやけに耳に残った。

 ◆◇◆◇◆◇

「蛇目の女性……ですか?」
 マオウの説明に依頼人はふむと眉根を寄せる。
「いえ、心当たりはありませんな」
「邪魔をされる理由もか?」
 続く問いに男が数瞬黙りこむのをマオウは目を細めて見据える。
「あるのなら話してもらおうか?」
「いや、まぁ。あると言うほどの物ではないというか……まさかというかですな。
 ……いや、そもそも邪魔する理由は無いはずなのですが」
「意味がわからん。分かるように喋れ」
 マオウのぞんざいな言い方に男はしばし口を噤むと
「いえ。今は気にしないでください。
 もし明確な妨害があれば対処を考えましょう」
「悠長だな」
「そうでしょうか?」
 その表情に最早焦りはない。それを見とってマオウは不機嫌を露わにする。
「怒っても仕方ないわよ?」
 それまで黙っていた女性───クネスが苦笑と共に口をはさむ。
「お前は気にならないのか?」
「気にはなるけど依頼人を問い詰める話でもなさそうだもの。
 もちろん、今後の展開次第では話してもらう事にはなるんでしょうけどね?」
 言いながら視線を向ければ依頼人は数秒の間を持ってゆっくりとうなずいた。
マオウはやれやれと肩をすくめる。確かにここで急いても的外れな展開にもなりかねない。無論ガセを前提としても入手できる情報は入手しておきたいところでもあるが。
「じゃあ、私の話題。
 もう入手したアイテムはあるのかしら? それをトレースできたらって思うんだけど」
「いえ、不足している物については手持ちすらありません。
 量が足りないという程度であれば、最悪はある程度の出費を覚悟してでも錬金での複製も考えていたくらいですし」
「なるほどね。無駄足だったかしら」
 どこかひょうひょうとした雰囲気が残念そうに見せないクネスから視線を引っ剥がし
「ならば手持ちの情報にあるヌーデビルとやらの角でも狩りに行くか。
 さて、人は呼べば集まるか」
 そう言いながら去ろうとするマオウに「あら? 人集めをするの?」と声をかける。
「ああ。サンロードリバーを渡河しているのを目撃されているらしい」
「……あー……」
 クネスに浮かんだのは苦笑。
「なんだ?」
「多分、人、集まらないわよ」
「……どういう意味だ?」
「聞きかじりだけどね。クロスロードから離れたサンロードリバー周辺は危険地域に指定されているはずよ。何人も消息不明になってるから」
「……む?」
 PBに確認すれば確かにそんな情報を返してくれる。
「『水魔』と呼ばれるフィールドエネミーが居るって噂になってるんじゃないかしら。
 それも東西両方に」
「……それで集まらないと?」
「フィールドモンスターって言われてる物はちょっとやそっとの戦力でなんとかなる相手じゃないし、相手のフィールドが水場だとすればさらに分が悪くなるもの。
 それこそヌーデビルの方はついでとして本気で討伐部隊を編成しないとダメなんじゃないかしら?」
「……ふむ」
 とはいえ、それしかないなら取りに行くしかないではないか。
「足を確保してこっそり一頭を狙うとか、そういうやり方じゃないとダメかもね」
「考慮しよう。厄介だな」
 マオウはあらためて肩をすくめると、どうしたものかと呟きながら外へと足を向けるのだった。

 ◆◇◆◇◆◇

「……」
 手に入れた情報をばらりとテーブルに並べ、アインは思案する。
 依頼人。それに邪魔をしているらしい女性のことを彼女なりに調べた結果である。
 結論から言おう。分からない。
 クロスロードに措いて個人情報は比較的安く扱われる。これは詐欺に泣き寝入りするような人が少ない事、また名を売ることがステータスの一つであることが理由だろう。
 様々な面で際立った人々は酒場の席で名を挙げられ、広まっていくのである。
 依頼人についてはどうやら『行者』のようである。これは武を基本として戦いにて日銭を稼ぐ『探索者』や、町に住み商いのための店を持つ『住人』のようにクロスロードに生活基盤を置く者達とは違い、クロスロードを一時的な経過点として訪れる者を指す。
 つまり、今回の依頼のためにクロスロードを訪れた者ということだ。
「……蛇目の女」
 蛇で女と言えばスキュラやラミアなど、人体変化も得意とする種族は数多居る。
 それに蛇にまつわる魔族や神族も比較的多い。竜種だってその目は蛇の物に酷似している場合が多い。
 入手できた情報で絞り込んでいく。
 すると、一つ、外れはしないが極端に情報の少ない人物が気に掛った。
「……名称不明。目撃情報だけ、ある」
 写真。どうやら空に浮かんだ女性を撮ったものらしい。斜め下からのアングルのためその顔はしかと写ってはいないが、顔半分だけ振り返った彼女の髪の間から黄色に輝く蛇目が怪しく見えた。
 その背景は闇夜の空と、……鱗の壁だろうか?
 鱗の壁の前には黒ずくめの男性が一人、女よりもさらに奥に立っているためその姿は明確ではないが、確かに居る。
「……これ、ヨンさん?」
 目を凝らしてみれば共通するようなか所が見受けられるが
「……そう。女性のことはヨンさん」
 こっくりと確信めいたうなずきをしたアインはざっざと資料を纏めて立ち上がる。
 蛇が出るか邪が出るか。
 あるいはその両方ではないかと、予感めいたものを感じながらアインは町へと繰り出したのだった。

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出勤前にどががっと書いてる神衣舞です。うひぃぃいい。
というわけで次くらいには女性の正体は分かると思います。
はっはっは。もう分かる人には分かると思いますがね。Invシナリオのどっかに出てきてますからね、彼女。
というわけで次回もリアクション、よろしゅーございますじょ。
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