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【inv19】『前触れ』
前触れ
(2011/11/23)

 大半の世界に措いて、戦力とは数の事を指す。
 言葉遊びだが、例え千人力の英傑が居たとするならば二千人をぶつければ良い。
 最終的に相手よりも大きな数を叩きつけさえすれば、普通は勝利となる。
 それを覆すために策略、計略は張り巡らされるが、よほどの奇跡的な状況でもない限り、100人が1万人の敵兵を打ち破れる道理は無い。
 主題に戻ろう。
 では何故クロスロードは2度の大襲撃に耐えきることができたのか。
 一度目の大襲撃についてはその時にいがみ合い、戦力を大量投入していた三世界の兵力が壁となり、剣となり戦況を維持したことが大きい。最後に『救世主』と呼ばれる四人の来訪者の存在があったとはいえ、積み重なった両方の遺体が壁となり、戦線を維持できなければその登場を待たずしてクロスロードは滅び去っていただろう。
 その経験を元にしてクロスロードでは高い城壁とその上に設えられた物々しい迎撃兵装群を我々は仰ぎ見ることができる。それは新しい都市である大迷宮都市や衛星都市でも同じだ。
 衛星都市建設途中を襲われた形となった『再来』では、何よりも優先されて作られた防壁が町を守り抜いた形と言えよう。
 怪物の最終目標がクロスロードのため、あまり執着されなかった事も大きな要因ではあるが、それでも数千人しか戦力を持たぬ衛星都市はその十倍以上の怪物を撃破、結局はクロスロードに進軍を許すことなく撤退せしめた。

 だが、忘れてはいけない。
 この二つの勝利は怪物がただ前へと押し進むだけの愚物であったことが齎したものであると。
 仮に───怪物たちがそれぞれの特性を生かして布陣、襲撃してきたのであるならば。
 この街は今もここにあり続けただろうか?

              ───とある史学者のメモ書き。

 ◆◇◆◇◆◇

「うっわ。すっご」
 Ke=iの挙げた歓喜の声が東地区の外に作られた巨大な工場の中に響く。
 ここはクロスロードの外壁の外。サンロードリバーを東に遡った先に作られた簡単な建物だ。工場というよりも巨大な体育館という趣で、クレーン以外に目につく設備もほとんどない。
 だが、そんなことは無視できるほどに中央に鎮座するシロモノがでかかった。
「全長50m。砲身を最大長に伸ばして75mじゃ」
 ちなみに戦艦大和の有効射程距離4万メートルという46cm45口径手法がその砲身20mなのだからその異様さは推して知るべしである。
「誰よ、こんな頭の悪い設計したの!」
 悪口にも聞こえる発言だが、彼女の言葉に籠るのは賛美だ。開発者にとってモンスターマシンというのは一つの憧れであり、意義である。
「基本設計図はユイ嬢ちゃんじゃな。まぁ、見ての通りの図体じゃから列車砲としてしか使えん」
「しかも側面発射できないじゃない」
 この大砲がひとたび火を噴けば飛んでも無い反発力が砲身全体に掛る。仮に地面に設置したとすれば固定する地盤もろともはぎ取って吹き飛んでいくだろう。
 そこで列車に搭載するという考えになる。反発力に抵抗するのではなく、レールに乗って消費させるという強引な方法で処理してしまうのだ。
 そこには今Ke=iが言った弱点がどうしても存在する。つまり背後にしか力を逃がせないのだから少しでも砲身を振ると列車があっさり脱線しかねない。
「ふん。どうせ怪物は南側からくると分かっておるんじゃ。ならば問題あるまい?」
「決めつけるのはどうかと思うけどね。弾は?」
「主に瑠弾じゃな。空中で破裂して降り注ぐタイプじゃ。
 無論貫通段とか貫通弾も用意しておる。あとは魔法弾もいくつか開発しておるが……砲弾が100口径50cm弾じゃからな。いくらでも魔術式を書きこめるという事で、なんか楽しんでおる」
「……いいけど、自爆だけは勘弁してよね」
「もちろんじゃ。どうじゃ、気にいったか?」
「これに関わらないなら科学者やめるべきね」
 もちろんそんな理屈はありません。
「良い良い、それじゃどこも人手不足じゃ。好きなところに回ってくれい」
「おっけ。楽しくなってきたわね」
 やたらハイテンションでKe=iはまずあたりを見て回ることにするのだった。

 ◆◇◆◇◆◇

「どの程度量産可能か、ナニカの爆発規模、機動力、ナニカが個人の指揮を聞けるのか、あるいは誘導する手があるのか、そのあたりを聞きたい」
 マオウの放つ口早の言葉に視界を白で塞ぐ(=ω=)は無反応の態をしばし晒し……
 やおらその表面をナニカ達が疾走。その表面に人文字ならぬナニカ文字を形成し始めた。
『そんなことよりおうどんたべたい』
「真面目に答えろっ!」
 げしりと蹴たぐるが、大福を蹴ったような感触はおおよそ痛痒を与えたようには思えない。
「そも、貴様はうどんなど食べるのか?」
『KIAIで!』
 相変わらずその適当な顔は=ω=のままだが、どこかドヤ顔に見えてもう一度蹴っ飛ばす。
 噂の巨大ナニカがどれほどのものか。巡回の帰りにそれを見に来たマオウは近くに居る研究員達にそれを訪ねると、「本人暇そうだし、直接聞けば?」と言われ今に至る。
 それにしても聞きしに勝るウザさである。
『十文字で』
「貴様の戦力評価を言え」
『MOB』
『数万規模まで』
『なら』
『なんとでもなるお』
 万と来たか、とマオウは表情を改める。
『集団に』
『凸するの』
『お仕事だす』
 確かに巨大ナニカは敵の集団に延々手りゅう弾を投げ込み続けるような存在だ。
 あらかじめ相当量のナニカを用意しておくだけでとんでも無い足止めにはなるだろう。
 それに、彼の表面を走って文字を形成するナニカを見る限り、扱いも充分そうである。
「しかし、これほどの兵器がつくれたのにどうして前文明らしきものは消え去ったのだ?」
『知らん』
 文字だけ見れば淡白に。しかし一人遠く離れた地で戦い、そして怪物化していた自動兵器はそうとしか答えられない。
「……そうか」
『そんなことよりおうどんたべたい』
「それはもう良い」
 性能はともかく、これを作った文明の頭は大丈夫だったのだろうか。

 ◆◇◆◇◆◇

「どっちかというと怪談の類ですよね、それ」
 カグラザカ新聞社の長は楽しげに眼を細めて言う。
 昼下がりのクロスロード。丸テーブルを中心として神楽坂文と三角形を形成するように座るのはヨンとエディだった。
 二人が興味を持つ『狂人』についての情報交換。そのための場にふらり現れた少女は緩い笑みを浮かべる。
「聞いた気がする、聞いた覚えがある。そんな話ばかりですねー。
 誰も見ていない、声を聞いた気がする、そんな噂ばかりです」
「実害は無いと?」
 エディのややどうでもいいような言い草に「今のところはー」と抜けた返事を返す。
「妖怪種さんとか霊種さんが居るこの世界で怪談というのもアレですけどね。
 どうしてこんなの調べてるんですか?」
 コーヒーの湯けむりをくゆらせながら文が問いかける。
「何でと言われますと……ちょっと気になったとしか」
「そのちょっとに対して結構調べたんだがな」
 テーブルに置いたのはクロスロードが豆程のサイズしかない白地図だ。
 そこには色々と記載があり、そのいずれもが幻聴だかどうだかわからないが狂人に関わるものらしい。
「エディさんてば……」
 ヨンは少し目を見開いて
「クールっぽいけど意外と良い人ですよね!」
「帰っていいか?」
「まぁ、まぁ。それにしても随分調べましたね。
 私が知ってる情報と大差ないくらいですよぅ?」
 ざっと見渡してみれば町での情報はほぼ皆無であることが見て取れる。ほとんどが町の外での出来事のようだ。
「街の中なら神官あたりにしらべてもらう事も考えたんだがな。
 遭遇例を聞くのがせいぜいだった」
「それにしても……やっぱり町から随分離れてるのと、南側に集中してますねぇ」
 文の言葉に視線を這わせれば、確かに彼女の言うとおり、町から離れ、さらには南側に集中している事は見て取れる。
「この先に何かある、と思わせる情報ではありますね」
「決めつけるのは早計だが無い話じゃないな」
 うんうんと満足そうにうなずく文は「じゃあ私からも一つ情報を」と笑みを作る。
「この声を聞いたというポイントの多くで怪物の変異種や、改造種がよく見られるそうです。
 まー、怪物の種族がごっちゃまぜのこの世界では分かりにくい話なんですけどね、どうも話を統合すると何かしら手を加えられたらしい痕のある怪物が出没しているようでして」
「……あまり、この話に信ぴょう性は欲しくなかったんだがな」
「ちょっと、不気味を通り越しましたね」
 苦い顔をする二人に対し、お花畑な笑顔を浮かべる文は「面白そうじゃないですかー」と気楽なことを言う。
「ともあれ、気を付けるに越したことはなさそうですねー」
 まったくだ。
 異口同音に同じことをつぶやいた二人だった。

 ◆◇◆◇◆◇

「どうなってるかしらね」
 ジープの上には数人の探索者。
 東コースを改めて選んだ数人は2台の車に分乗してある一点を目指していた。
「……あまり期待はしない」
「悪い方の期待もしたくはないがな。
 だが放置しておくのは気持ち悪い」
 それは探究心というよりも、不安感。だが怯えではなく生きていくためにある直感の部類だとザザはなんとなしに考える。
「水源の枯渇なんて自体になったら町は終りだものね」
「……でも、水源の枯渇と、怪物がそちらに向かうのは、結びつかない」
 アインの言葉にクネスは「そうねぇ」と腕を組む。
「百聞は一見に如かずとはいえ、ある程度の予想は立てておきたいところだけど」
「予想もそうだが、ちょっとシャレにならんかもしれんぞ」
 ザザの視線は地面へ。つられて見れば荒野にあからさまな足跡が、しかも予想をはるかに超えて存在している。
「百やそこらじゃ利かんかもしれん……逃げる準備はしておくべきだな」
「ホントに、『どうしてこうなった』よね。
 見に来て正解かも」
 無数の怪物の脅威も心配ではあるが、ここにはそれ以前の脅威が存在する。
「水魔、か」
 正体不明の水辺の怪異。この世界の探索に措いて一番の課題は水の確保だ。それ故に大河が続く東西方向への探索は真っ先に進んで当然のはずだった。が、現実は南北方向ばかりにその手は伸びている。その理由が水辺での謎の失踪事件である。東西の砦から見えなくなる場所から先で、未探索地域探索者が行方不明になる事件が相次いだ。ターミナルの空が危険なことは早々に分かっていたが、クロスロード成立後の失踪者は東西の水場周辺の方が今でも多いかもしれない。
「サンロードリバーには近づかんのが妥当だろうな。
 まぁ、双眼鏡で見える範囲からならなんとでもなるだろう」
「それもそうね」
 頷いて、それから車の減速を感じる。
「ん? どうかしたか?」
「イヤ、アレ……」
 ブリキロボット風のドライバーがマジックハンド風の手で指し示す先に丘があった。
「丘……? 珍しいな」
 荒野ばかりが続くターミナルで例え丘一つでもそれは大発見と言えるシロモノだ。
「……待って。探査記録にあんな物載って無い」
「なに?」
 ここは探索済み地域だ。故にPBに地図は搭載されている。そこの記述には確かに丘の存在は無く、しかも───
「位置的に……川がある位置じゃないかしら?」
「オソラク」
 運転手の首肯を受けてザザは眉根を寄せる。
「ちと上から見てくる」
「……気を付けて」
 空は危険とはいえ、人の目の届く範囲に居る限りは突然の消失は発生したという事例は無い。ザザは車から飛び降りるとその身を巨大な獣の姿として、その無骨な翼で己が身を空へと持ち上げる。
『……っ!? なんだ、あれは……』
 言いながらも理解はできていた。だが、常識がその理解を拒絶する。
「何があったのー?」
 下からの声に何と返そうかと逡巡し、しかし見たままを告げるしかあるまいと奥歯を一度強くかみしめる。
『あれは怪物だ』
 降下しながらの言葉を同行する探索者は聞く。
『集まった怪物が重なり合ってできた、山……。
 そいつが川を埋め立ててやがる……!』
 サンロードリバーの川幅は約四キロ。町に流れる───あるいは海にも思えるそれを知る皆がザザが何を言っているのかを正しく理解できなかった。
『ふざけてやがるぞあれは。湖ができつつある。
 怪物の堤防でだ』
「……なにが、したいの?」
 無論それをザザに問うても意味は無い。だが当然の疑問をアインは口にし、
「……まさか」
 と、あまりにもぶっ飛んだ理由にかぶりを振る。
『バカバカしいが、俺も一つ思いついた理由がある』
 巨躯を翻し、ここからでは丘の影のようにしか見えないそれを睨み据えてザザはアインの想像を口にする。
『たまりたまった水を一気に流されたら、クロスロードは全部押し流されるぞ……!』
 それは川に面した土地を攻略する上で、あらゆる世界で使われたであろう単純明快な策略。
「水計……?」
 知能のあまり見られない、突撃するだけだと思われていた怪物が取り始めた奇怪な行動。そこに彼らが見出した意味が正しいかどうか。
 答え合わせをする者は誰ひとり居ない。
 今は誰ひとりも。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
あはっ☆
今回は平和に楽しくやりましょうね。大鑑巨砲主義わっほい。
ちなみにあの砲台、武装車両2台連結した上に設置されます。多分発砲時に近くに居ると焼死しますね。排熱で(笑
もちろん魔法ありきの世界ですので砲身を魔法金属で軽量かつ強化したり、エネルギー効率を良くしたりとかしたりしています。
ぶっちゃけ浪漫しかありません。だがそれが良い!
 というわけで次回のリアクションよろしくね☆

ん? 重要なことが抜けてる?
 サテナンノコトヤラ
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