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【inv20】死闘
死闘
(2012/03/04)
「危機。あっちもこっちも危機!危機危機危機!
にもかかわらず、あたしの超天才的正義の味方サポートしちゃうぜ参謀的ブレインは、萎縮どころか活発に活動を繰り広げて、ウルトラ代謝であたしの体脂肪を食い散らかしてるっス!あぁ腹減った!ウルトラ腹減ったっス!おおっ、もう矢でも鉄砲でも怪物でもイケメンでも何でもきやがれ。この叡智がっ、この天才的美少女頭脳がっ……!」

 いきなり騒ぎ出した少女をヨルムはぎょっとした目で見て、わりかし慣れた連中は静かに首を横に振るのだった。

 ◆◇◆◇◆◇

「ここのはずだ」
 ここは大迷宮地下二階。一行の前には壁と、申し訳程度のスロットが存在していた。
 正直ここまでの道のりは楽だったと言ってそん色はないだろう。なにしろ大迷宮都市の地下一階は街へと変貌し、地下二階はそこから先を目指す者たちの通過点でしかなくなっている。しかしこの大襲撃の最中だからか下層から迷い込んでくる怪物もいつもより多く感じる。
 一行は連携を取りながらも進み、ようやくその場所へと到着していた。
「ここか」
 マオウが腕組して睨みつける。普通に歩いていれば見逃しそうな、本当にささいなスロットがそこにある。
「ヨンから預かったカードキー……。多分ここに使えると思うんだがな」
 懐から取り出したそれを眺め見て、皆に警戒を促す。
 主戦力のアインとマオウは応じて頷き、トゥタールも支援のために視線を這わせた。
 ちなみにトーマは騒ぎ過ぎたのか酷くおとなしい。
「行くぞ」
 すっとカードキーが通されると「ピッ」と一つ電子音。
 石造りに見える壁が即座に横にスライドし、やや古い空気が零れるように通路を満たし、鼻孔を突いた。
「怪物が居るようではないな」
「……罠は?」
「調べます」
 トゥタールが前に出て丁寧に調査をするが、それらしきものは見当たらない。
「進むか」
 アインが背後警戒のために立ち止まり、ヨルムの後にマオウが続いた。
 通路はまっすぐに。おおよそ100mほど続いて唐突に終わる。
「女性……?」
 トゥタールの言葉がわずかに木霊する。
 彼の言葉の通り、行き止まりには一人の女性が座っていた。『石でできた粗雑な玉座』というべきそれに腰掛け、命の温かみを持たぬままに座った女性。
「んん? ロボット?」
 自分の分野と知ってか途端に元気になったトーマがずいと近づく。確かにそう言われるとそうだ。その女性は生命には不似合いな精巧さ、美しさを持っている。
「なんでこんなところに?
 ……この大迷宮と関係あるものでしょうか?」
 トゥタールも興味深げに見つめる。
「人形ということだな? 動くのか?」
 科学系には親しみの薄いマオウが怪訝そうに問う。
「調べてみないとわかんないっス。けど、まぁ、調べるっスよ!」
 と、手をのばした瞬間───

 がしりとその手を掴まれた。

「ひぁあああああ!?」
 情けない声を挙げて後ずさろうとするトーマだが、がっちりと掴まれて動けない。
「動いたぞ……?」
「いや、そんな事よりも助けて欲しいっス!」
 情けない声を挙げて背後に助けを求めるトーマ。その後ろで女性はゆっくりと顔を挙げた。
「状況確認……時計合わせ失敗。
 ……生命反応多数。会話は可能ですか?」
「可能っスよ! とりあえず離しわひゃぁ!?」
 離されたので勢い余ってごろんと転んだトーマをアインがキャッチ。
「お前、何者だ?」
 マオウの不遜な問いに女性は人間のように瞬きを数回し、そして応じる。
「型式名ESD−ONE。個体名称エスディオーネ」
 女性は淡々と応じ、それからややあって問いの言葉を作る。
「……貴方がたの中にユイ・レータムの所在を知る方はいらっしゃいますか?」
 つい最近話題になったばかりの人物。その単語に一同顔を見合わせた。

 ◆◇◆◇◆◇

「質問づくめでわるいわね」
「いえ。皆が知りたい事でしょうから」
 有翼の少女は小さな笑みで応じる。
「貴方達代行者は100mの壁を突破する方法は持っているの?」
「持っていません。この世界の性質なのか、それとも他の理由なのか未だ判然としていない現象という認識です。
 ただ、ナニカさんからの調査で旧文明の崩壊前後から始まったようであるとは聞いています。」
「そう……」
「もしその技術があるなら公開しない理由はありませんから。
 あくまで私達が『救世主』と言われた存在であることを隠していた理由は、それを失っている今、期待されては士気にも関わると考えたからです」
「……じゃあ怪物側の代行者の事、聞いて良いかしら」
 クネスの問いに、ルティアはやや険しげに表情を歪めた。
「私達も詳しい情報は持っていません。出会って戦っただけの相手ですから。
 今問題となっている『狂人』と呼ばれる個体は生命だろうと現象だろうと歪めて作り替える力を持っていました。どこまでできるかはわかりませんが。
 また、五つの武具を振い、攻防共に絶対の力を見せつけた老人。
 氷を自在に操り、あらゆる物を氷の棺に封じ込める青年。
 あらゆる魔法、加護属性攻撃を無効化し、常にその一撃を致命のものとする白き目の男。
 その4人が相手側の代行者です」
「……無茶苦茶ね。そんなのに勝ったわけ?」
「この世界に招いた神がそう設定したのかどうかわかりませんが……
 我々に与えられたバランスブレイカーと自身の能力を駆使すればなんとか隙をつく事はできたんです。
 ただ、決定打にはどうしても至らず、アルカさんが提案した裏ワザで無理やり決着をつけたと言うのが実情ですから……。
 そう言う意味でも『狂人』は相手とするのであれば怪物側代行者四人の中では一番与しやすい相手ともいえます。本人には大した力は無いのですから」
「そう……。それで、この情報は各主要な人には伝えるの?」
「今頃ユイちゃんが手配して、PBで確認ができるようになっているはずです」
「……そう」
 となれば、自分はここですることはもうないだろう。
「これからどうするの?」
「……大襲撃が終われば今まで通りのつもりですよ。
 この街は誰の物でもない。来訪者が望む限り、開かれ続けるんです。
 管理組合はもはやそれを支えるだけの組織で良い。
 この街が大好きな人たちが、それを支えていこうと思えるだけの組織で良いんですから」
 小さな笑みにクネスは「そう」とだけ応じ、笑顔を返した。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「南砦を放棄しましょう」
 再開された会議、そこでヨンが発した言葉に室内は静まり返る。
「いや、待ってください!
 まだ怪物は大迷宮都市にも到達して居ないんですよ!?
 ここを放棄だなんて遊撃をしている探索者に苦労を強いるだけだ!」
「ええ。分かっています。
 でも、ここに多くのひとが詰めているのは危険です」
「意味が分からない!」
 アルルムの事を伝えるべきか。それを知らずにして彼らは当然納得できないだろう。しかしアルカと見分けのつかぬ容姿の彼女を警戒するなど不可能に近い。
 親しい者であればあるいは可能かもしれないが、そんなの何人も居る物でないし、大抵はこの砦にとどまっているほど暇な人物ではない者ばかりである。
「……わかりました。所詮私は代行です。
 判断の決定はイルフィナさんに付けていただきましょう。
 この書状を彼の元に。その結果に私も従います」
 険悪とも言える空気の中、差し出された手紙を一人のホビットが受け取る。
 一つうなずいて走り出した彼を見送ってヨンは身を投げるように椅子へと腰掛ける。
「私は貴方がたが優秀だと思っています。
 だから今言った言葉は自信を持っていてください」
「……どういう意味ですか?」
「怪物はまだ大迷宮都市にすら到っていない。
 まだあわてるような時間ではない、ということをです」
 言い放ち、彼は続ける。
「今はまだここよりも大迷宮都市を基軸にした防衛に努めるべきでしょう。
 そこでの防衛が不可能となったときに、この砦は防衛の軸とはなりえないと思いますがね」
 ヨンは視線を這わせる。
 アルルムの策を妨害できる者はこの中に居ないのだろうか、と。
 あるいは、すでにその悪意に感染してはいないか、と。
 しかし突飛とも言える提案に歪められた視線から、それを読み取ることは到底できそうになかった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「ひゃっはー! 撃てば当たる大サービスタイムだぁああ!!」
 絶え間ない轟音の中、マッチョ軍団の声は腹の底を響かせるように荒野にまき散らされている。
 数分に一発放たれる列車砲の一撃は遥か彼方でさく裂し怪物を確実に削っていた。
「次はあのMOBに打ち込むぞ」
 ヒャッハーズの一人、自動車の運転に自信があるという男を借りてエディはトラックの荷台から突きだした砲塔の角度を調整する。
「2時の方向、なんか飛来します!」
「任せてください」
 速度に髪を躍らせる女性が杖を手に詠唱。エディは荷台から転げ落ちぬようにその細い腰を支えた。
 放たれる水の矢は次々と襲撃してきた怪鳥に突き刺さり撃墜。すぐさま屈んで耐性を保持したユエリアを確認してエディは数百メートル先に見えるMOB集団に砲撃をお見舞いした。
 弾頭は混乱を付与した魔法弾。列車砲用に作り上げた術式を仕込んでもらったそれはMOBの集団を襲い、同士討ちを誘発させた。
「良い調子っすね! 俺も撃ちてえぇえぇえええええ!!!」
 ひゃっはーず運転手が軽快な声を挙げてドリフト。
「次、いきまっせ!」
「おう」
 エディは苦笑半分に応じ、それから同じく苦笑いを浮かべる女性を見た。
「そういやぁ、これを見てほしいんだが」
 ふと、思い出してエディはぽけっとからそれを取り出す。
 一見拳大の石コロだが、その表面は絶え間なく模様を変えており、しかも黄土色であることから不快感を強く与える。
「こいつを拾ったんだが、何か思い当ることは無いか?」
「……何か、と言われましても……」
 やや困惑したように石を見つめ、しかしすぐに小さく目を見開いた。
「これは……恐らく狂わされた水の精霊です」
「……水の精霊? 石だぞ、これ?」
「ありかたその物が狂いきってしまっているのです。
 ……酷い。狂った聖霊は何度か見た事はありますが、こんなの初めて見ました。もうこれは狂うとかそう言うレベルじゃない……」
「……そいつは、もしかしてヨンのやつが言ってたバケモノに関係するのか?」
「……まっとうな推理は通用しないようなシロモノだと思います。
 正直持っている事すら危険です。
 早めに封印するなり、消滅させたりする方が無難だと思います」
 ユエリア程の術者が顔を青ざめさせているのを見て、エディは頬をひきつらせる。
 さて、どうしたものか。
 次の獲物を見つけたとはしゃぐ運転手の声を聞き流しながら、彼は途方に暮れる気分だった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 大迷宮都市を抜けた一行はそのすぐ傍らに鎮座する巨大ロボットの前へと着ていた。
「おい、そっから先は立ち入り禁止だぞ」
「……どうしてユイはユグドシラルをこんなところに置きっぱなしなのかしら?」
 管理組合員は女性の口から洩れた「ユグドシラル」と、「ユイ」という単語に困惑の表情を浮かべる。
「ユイはここに居ないの?」
「ユイ……ユイ・レータム副組合長の事か?」
「……? 副組合長というのは分かりませんが、ユイ・レータムです。
 彼女は今どこに?」
「多分クロスロードと思うっスよ?」
 トーマの背後からの声に、エスディオーネは人形らしからぬ怪訝そうな表情を作った。
「……もしかして、クロスロードを知らない?」
 アインの言葉に機械の女性は頷き「ええ。その単語は知りません」と応じる。
「……扉の塔もですか?」
「扉の塔ならば知っています。そこがクロスロード?」
 トゥタールは頷いて、北の方へと視線を送る。
「そこに町があります。
 それを知らないとすると……貴方は4年以上前からここに眠っていたということですか?」
「四年……それだけの時が流れているのですか」
 老いぬ女性は自分の手を眺め見て、それから北の方向へと視線を向ける。
「早急にユイに会いたいです。私を連れて行ってもらえませんか?」
 彼女の言葉に一同は視線を通わせるのだった。

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というわけで次回は大迷宮都市に前線部隊が到達する予定です。
 現状衛星都市は沈黙。遊撃隊の活躍により、万に届く数の怪物が撃退されている模様ですが、全体がまだ把握できていない事を考えると10%に届いているか微妙というか、まず届いていないでしょうというありさまです。
 また未だに東はこう着状態。さてはて流れはどうなってしまうのか。
 皆さまのリアクション次第となります。
 どうぞよろしゅう。

 また。皆さんの行動、提案で新たなミッションがはっせいしますのでどしどしお寄せくださいませ。
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