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【inv20】死闘
死闘
(2012/04/09)
 第三次「大襲撃」
 これが後に何と呼ばれるのかは分からない。

 数十万もの怪物が襲い来る事を知った第一次『大襲撃』
 我々来訪者は種族と世界の垣根を越え、共闘しなければこの地で生きていけぬ事を知った。
 大襲撃が1度の災厄出ない事を知った第二次大襲撃。別名『再来』
 我々はフィールドモンスターと後に呼称される怪物の存在と、その正体を知った。
 この世界は無限に広がる荒野だけの世界ではない。元々存在した様々な物が怪物に浸食され、姿を変えているらしい事を知ったのだ。
 
 そして起こった第三次大襲撃。
 我々はまた新たな事実を突きつけられる。
 『開かれた日』よりも前にこの地へ到った者の話。
 怪物が決して無知性でない事。
 そしてもう一つの塔の存在。

 この地への移住者である我々はこれらの事実を以て、次にどこへ至るべきなのか。
 100mの壁の先はまだ誰にも見えない。

 『とある研究者の記述』より。

◆◇◆◇◆◇

 振り返って見れば大迷宮都市での決戦の前に、この第三次大襲撃は決着を見ていたのかもしれない。
 水攻めの失敗。融合する怪物は討伐され、探索者達はこれまでの経験と、新たな兵器を携えて莫大な数の怪物を削りに削った。
 数十万を超える怪物の群れも無限には程遠い、限られた数に過ぎない。
 そしてそれを削り殺す兵器がまた一つ、ここに現れたのだから。


「士気は随分高いわね。あんな大軍相手に野戦だって言うのに」
 一之瀬の提案の元、大迷宮都市周辺へと戻ってきたKe=iは他の皆と協調行動を以て前線の構築を支援していた。
「無理もない。あの光を見たんだ、負ける可能性なんて吹き飛んだであろう」
 Ke=iの軽口にマオウが微笑を以て応じる。
「だが、これほどの兵器があったとはな。素直に喜べない気もするが」
「って言うと?」
「慢心と恐怖だな」
 会話に割り込んできた男はエディだった。
「これがあれば今後大襲撃があっても大丈夫だと、そう思っても仕方ない。
 それが端的な事実であればそれに越したことは無いんだろうが、安心は要らない野心を生むからな。最悪今成立している種族間の協力関係が怪しくなってしまう」
 思いなおせば明らかな対立種族も轡を並べて防衛線を構築しているという現状は、他世界の者からすれば奇妙を通り越した異常に映る事だろう。
「そして、この一撃がどこかの勢力が手に入れる、あるいは乗っ取られた時にこちらに向くかもしれないという恐怖だな。
 なるほど、救世主として第一次の時にたった四人で怪物を吹き飛ばした副組合長殿が雲隠れしていた理由も分かるというものだ」
 王として君臨した経験を持つマオウはクツクツと笑う。
「今まで通りとはいかないって事?」
「わりかし各組織のトップはまともだし、実質的なトップの副組合長連中はどこかに肩入れして無茶やるようには見えないから劇的な変化は無いだろうな」
 だが、とエディは言葉を継ぐ。
「それ以外や、今まで動くに動けなかった自分の世界とのつながりを強く持つ者はどうだろうな」
 研究が主でそういう勢力図的な物には興味があまりないKe=iはとりあえず厄介だという感想を以て正面を見据える。
「それもこれもこれを乗り切ってかしらね」
「お、居た居た」
 大型拳銃を腰につるした男が駆け寄ってくる。
「怪物達の前線はざっと4km先で再結集してるらしいよ。
さっき臨時指揮官に伝えて来た」
「お疲れ様。貴方はどうするの?」
 問われた一之瀬は頬を一つ掻いて考えると
「後方に居ても退屈そうだし、前でかるくドンパチしてくるよ」と肩を竦める。
「退屈か。いくら目途がついたからと豪胆な言葉だな」
 マオウの言葉に一之瀬は首をかしげ
「どうしてだろうね。あんたの言う通り勝ちが見えたからかもしれない。
 あるいはその退屈をまぎらす友人が居ないからかも」
「奇特な友人を作るには事欠かぬ状況ではあろうに」
 目の前にいる3人ですら、人とサイボーグ、そして元魔王という取り合わせである。
「着て早々この騒ぎだったからね。
 落ち着いたらいろいろ街中でも散策してみようかな」
「それも良いだろう。だがケイオスタウンを歩くのには注意した方がいい」
 エディのややげんなりした言葉に一之瀬は首をかしげる。
「そう言えばエディ、貴方やけに御酒臭いけど?」
「コミュニケーションにも色々あって、あるいは問題になりかねない。
……まぁ、つまりそう言う事だ」
 礼を言うためにシュテンの所に寄ったエディは、ならばとしこたま酒に付き合わされてようやくここに舞い戻って着ていたりする。
「何かよくわからないけど、まぁ探索する時には気を付けるとするよ」
 その言葉を皮切りにするように、据え付けられた砲門が一斉に火を吹いた。
「さて、敵は無理やり穴を埋めて襲ってきてるわ。
 さんざんに痛めつけてあげましょう!」
 Ke=iの声に、周囲の機械化兵部隊も周囲に合わせるような轟砲を解き放った。

◆◇◆◇◆◇

「おいおい、あれに飛び込むって本気かぃ?」
『本気だとも。無理に付き合う必要は無い』
「……馬鹿言うな。ここで部外者扱いは勘弁だ」
 暑苦しいほどの蒸気の中、眼下で起こる魔術戦はほぼ互角に見える。
「その意思に敬意を表するよ。私達は水の管理に行く。心苦しいが任せたよ」
 言いながらも、そして言葉無い2人も同時に二人へといくつかの補助魔法を仕掛け、去って行った。
 実力的には代わるべきではあろうが、攻撃にしか脳の無い二人に轟音と共に流れる水をどうこうする手段は無い。
『何発もやれることじゃない。牽制、頼むぞ』
「おうとも」
 大量の熱と蒸気で上空の気流はすさまじい事になっている。 
 その中でザザは目を細め、大きく旋回。
『行くぞ!』
 アルルムの背後を取る形で進路を変更。一気に突撃を仕掛ける。
 クセニアはぐっと身を沈め、むせかえるほどの熱気の中で敵の姿を睨み据えた。
 アルカが動く。
 魔術主体のアルルムとは違い、自らが造ったであろう魔術具を使っての攻撃は意外性ことあるが、威力には限りが見える。その全てをアルルムは立体魔法陣で防ぎきっている。
 加速。
 その瞬間、振り向かないままにアルルムが立体魔法陣を二人の方へと向けるのを見た。
「こなくそっ!!」
 命中率無視の発砲がアルルムの足元を穿ち、立体魔法陣に吸い込まれるのを見ながら弾奏が空になるまで撃ち放つ。
 その時間は5秒にも満たないだろう。
『ぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
 その姿の通り。獣の咆哮を挙げ、ザザは速度を緩めずに突進する。
 その小柄な姿が充分に確認できる位置まで迫って、クセニアは覚悟を決める。
 その背から手を離してのクイックリロード。風圧が胸を叩き、体が中空に踊るのを感じながらただ目標だけを睨み据える。
 発砲。
 隙間を穿つ連弾の一つが少女の右太ももを抉り、よろめかせるのを確かに見た。
 そこに滑り込むのはザザの巨体とアルカの姿。
「っしゃあぁ!」
 ずん、とまるで地の底まで揺れ響いたような音を聞きながら、クセニアは眼下に広がる激流を見た。

◆◇◆◇◆◇

「恐らくこれが私が代行として下す最後の命令です。
 空への警戒を」
 速報として飛び込んできた話しからすると、大襲撃の勢いは大迷宮都市を前にしてほぼ止まりつつあった。
 一度は引っ込んだ大迷宮都市の火砲群も加えた大攻勢はフェンリルハウルで消滅させられた穴を埋める時間を得られなかった怪物の足を完全にくじいているらしい。
 また東には警戒すべき一人。猫が現れた事もわかっている。
 そうすると残る問題は狂人ただ一人。未だ姿を見せぬ彼が最後に何かしでかすのではないかと言う疑念。
 そしてそのために適した場所こそ空であるとヨンは踏んでいた。
「クロスロードの対空火砲群を前進させる許可が出ました。
 ただしMOB討伐部隊は引き続き各砦にて警戒。東砦スタッフは避難中とのことです」
 堰が破壊された事も知っている。だが、その水は水害対策の工事場所へと流れ込み、その勢いを問題ないレベルにまで減衰させているようだ。アクアタウン住人を基本とした部隊が水に紛れる怪物の駆除を行っていることだろうが、元より水生生物のみで造られた堰ではないのだから、その大半がおぼれ死んでいる事だろう。
「そう考えると怪物も哀れですね」
 知性的な行動を始めて見せた怪物達だが、結局のところ指揮者が居てこその動きで、彼ら自身に確たる知性があったわけではないように見える。
 つまりはていのいい道具。それでも嘆かず彼らは死ぬための前身を繰り広げている。
 あるいは欠片のような知性はあるのかもしれない。
 現に前二回の大襲撃では彼らは大勢が決した後に撤退をしている。つまりは逃げているのだ。
「何なのでしょうね、怪物とは」
 彼の古なじみ、と言うほど親しくはないが、『猫』は来訪者でありながら『怪物』としての特性を持ち得てしまっている。
 彼女に再び会ったら何を言おうかと考え、しかしクロスロードの天敵となってしまった彼女に話しかけられるほど平和な出あい方がもう一度できるのだろうかとため息を吐いた。
「悪い事を考えても仕方ありませんね。
 アルカさんが何とかしてくれると信じましょう」
 そうして彼の思う通り、その命令が彼の代行としての締めとなるのだった。
 
◆◇◆◇◆◇

「まさか溺れ死ぬのを覚悟する事になるとは思わなかったよ」
 ジョッキを片手にクセニアが苦笑する。
「そちらも随分と大騒ぎだったのだな。砲撃戦もなかなか壮観であったが、興味はある」
 話を聞いていたマオウがふむと視線を周囲に這わす。
 ここは純白の酒場。酒飲みどもがそこらかしこで祝杯を挙げている。
 ここだけではないのだろう。大迷宮都市でも、クロスロードでも、あらゆるところで祝い酒がくみ交わされている。
「結局治水工事は上手く言ってたわけ?」
「ええ。水の被害はほとんどなかったわよ。
 そこに紛れてた怪物退治でちょっと大騒ぎしただけ」
 祝賀の配膳も一通り済ませたクネスがKe=iの問いに応じる。
「もっと身の丈にあった騒ぎが良いよ」
「早々こんなのがあってたまりますか」
 ボヤく一之瀬にヨンが突っ込みを入れる。
「だが、もう数カ月すれば桜前線の季節だぞ?」
「桜前線? 御花見が騒ぎとなんの関係があるのさ?」
 きょとんとする一之瀬にエディは「見ればわかるさ」と意味ありげな微苦笑を向ける。
「ああ、あれは確かに酷いですからね。
 今のうちにマスクとか用意しないと」
 うんうんと頷きを返すヨン。彼らの所に次の酒が持ち込まれ、それぞれに手を伸ばす。
「そう言えばフィルさんは?」
 Ke=iが思い出したかのように周囲を見た。この店の主人の姿がこのにぎわいの中に無い。
「本部らしいわ。だから私がお手伝いのウェイトレスさん」
 クネスの言葉に「ああ、そっか」とうなずく。身分を明かした以上、後始末に顔を出さないわけにはいかないのだろう。
「で、結局被害はどんなもんだったんだ?」
 ザザの問いかけは皆の興味のある事だった。故に代表してヨンが聞いた事を思い出す。
「衛星都市の状況は不明です。
 撤退していった怪物が何時気をかえるかもしれませんので大迷宮都市、クロスロードから範囲20km以上離れないように管理組合から依頼が出ています。
 大迷宮都市の被害はほぼゼロ。人的被害も極小とのことです。
 まぁ、派手に弾をばらまきましたから、費用的な被害は計りかねますが」
「そういえばそのあたりの費用って補てんしてくれるわけ?」
 クセニアが手をひらひらと挙げて問う。
「ええ、一定額支給されるそうです。
 大迷宮都市からも謝礼が出てるはずですので、PB経由で受け取れると思います。
 あとは今精力的に動いているはずの死体回収屋に混ざって怪物の遺骸をあされば何か出るかもしれませんが」
 怪物の中にはその体に価値があるものも少なくない。
 竜など体そのものが財宝の山と呼ばれるほどだ。それ以外にも魔法的な価値があるものも少なくないし、機械系の怪物からは未知の兵器がとれるかもしれない。
 そう言ったモノを狙って戦場を回収屋が駆けまわっている頃だろう。
「来週くらいには市場にいろいろ並ぶんじゃないですかね」
「なんともシュールだな」
 とはいえ慈善活動ではないのだ。マオウの言葉に同意しつつも否定の言葉など無い。
「ともあれ今日は無礼講で飲みましょう。
 また明日からの探索のためにね」
 クネスの言葉に皆杯を合わせる。
 こうして第三次大襲撃の終わりを告げる祭りは続くのだった。

◆◇◆◇◆◇

くひ……
くふふ……
くふ………



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 いうわけでこれをもちましてinv20は終幕となります。
 突然の幕切れのように思えるかもしれませんが、一番最初にある通り、ユグドシラルが起動し、水害対策要員を邪魔できなかった時点で怪物側の勝利条件は達成できなくなっています。あとは消化試合と言う事になるでしょう。
 狂人については最後まで姿を現しませんでした。
 彼が今後何をしでかすかはもちろんわかりません。だってあいつ狂ってるもん。

 もあれ第三次大襲撃の最大の被害は衛星都市を失った事です。
 しかしすぐさま来訪者達はそれの奪還を目論むことでしょう。
 さてはてどうなることやら。

 では、お疲れさまでした。
 次のイベントもよろしくお願いします。
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