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『ウォークラリー』
ぶらり歩いて...
(2009/12/1)
 ウォークラリー。
 その単語に聞き覚えがあるのは主に地球世界の者だろうか。
 名所や要所を巡り、スタンプなどを押してもらうそれは『旅』を娯楽とできる世界にしか存在しない概念だ。
 もっとも、それがレースと言い直せるならば意味は伝わるだろう。
 要するにチェックポイントを巡る競技とも言えるのだから。

 さて、クロスロードの人たちの反応はどうだろうか。
 率直に言うと半分以上を占める探索者は当初首をかしげて静観する動きであった。
 なにしろ荒事の専門家ばかりなのだ。のんびり町を歩くなんて流儀に合わない。
 お祭りやらイベントやらが大好きな連中が多少食いついてきたくらいか。
 しかし、そこにちょっとした噂が流れた。
 なんでも賞品が凄まじいだかなんだか。
 確かにこのクロスロードの事実上の支配者が主催なのだ。王国主催の祭りくらいには見返りが合ってもおかしくは無い。
 ちらほらと広まる噂が背を押して探索者たちはオフの暇つぶしにこれに参加し始めたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ここでこのウォークラリーのルールを少し説明しておこう。
 参加者は『街角案内』を元にクロスロード内外を歩き、ここだと思うポイントで「チェック」を宣言する。
 チェックが宣言できるのは5箇所。主催の管理組合は数箇所にチェックポイントを設けている。
 うまくチェックポイントで「チェック」を宣言できれば、そこに設定されたポイントをゲットできるというシステムだ。
 ポイントはイベント終了時まで非公開。チェックポイントも明確な印があるわけではない。
 管理組合から出されたヒントを元にどこがチェックポイントかを推理するのも1つのゲームとなっている。

 以下がヒントだ。
  1:街角案内(サイト内世界設定)に乗っている場所だぞ
  2:計算上は1/5……よりちょっと少ない。現実的にはもっと少ない。
  3:2番目
  4:広い場所ではその上のどこでも「チェック」が宣言可能
  5:市外に出る時はウォークラリー参加者であればエンジェルウィングスが送ってくれるぞ
  6:複数ある施設は対象外だ。『駅』とか『管理組合派出所』とかね。
  7:チェックポイントによってポイントが違う。今までのヒントから類推しにくい場所ほど点数は高いぞ。

 さて、参加者はどのような場所を巡ったのだろうか。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「チェック!」
『チェックを認証しました』
 PBからの返事にうんと機嫌よく頷くノアノ。
 ここはクロスロードでも十指に入る巨大建築物。大図書館の前だ。
 クロスロードが設立されてからまだ2年くらいのはずだが、この大図書館は百年くらい前からあったのではないかと思わせる荘厳さを誇っている。
 その身にまとわり付かせた蔦や、直射日光で本を傷めぬよう取り付けられたステンドガラスが彩る外見は芸術品として鑑賞に値する。
 実際見回せばこれを題材に絵を描いたり写真を撮ったりしている者も見つけることができた。
「すっごいねー」
 ノアノもまたしばしその姿を見上げ、それから思い出したかのように背を向けた。
 これからヘブンズゲートに行くのだ。ヘルズゲートにも行くつもりだから今日は一日がかり。
「次ー♪」
 清々しい天気にも背中を押され、上機嫌で歩き出す。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ほぅ、これはこれで」
 キドニは空に居た。
 彼が乗るのは小型の竜だ。もちろん小型と言っても人の倍はあり、鎧を着込んだ騎士を背に乗せても舞い上がるだけの力がある。
「南砦まではすぐだぜ」
 騎手はエンジェルウィングスのスタッフだ。普段四方砦との物流を担当している者で、今回のウォークラリーに際し人の行き来も担っていた。
「随分と早いんじゃな」
「そりゃぁそうさ」
「ならば未探索地域もさっと見渡せるのではないか?」
 キドニの何気ない言葉に騎手は苦笑を浮かべて首を横に振る。
「そりゃあ無理、というか恐ろしくてできやしない」
「ふぅむ? なぜじゃ?」
「空にも『怪物』は居るのさ。しかも、今までその姿を見て帰った者は居ない。
 地を行く探索者が地に落とされた無残な屍をいくつ見つけたことか。
 まぁ、四方砦からちょい先くらいまでなら平気だけどな」
 なるほどと頷く。道理で空を飛ぶ乗り物が極端に少ないわけだ。
「ほら。爺さん見えてきたぜ。あれが南砦だ」
 すこしばかり身を乗り出すと、拡張を重ねたような無骨な建築物が目に入る。
 周囲をぐるりと石や木の壁で囲み、そのスペースでは荷物が行きかっている。
「随分と賑やかじゃな」
「なんでも南に水源が発見されたとかでそこへの遠征が予定されてるらしい。
 南砦はその中継点になるからな。拡張工事やら急ピッチで進められてるんだ」
「ほー」
 ばさりと竜が大気を討つ。直進から旋回に移ったそれはゆっくりと下降をはじめたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「凄い建物だな」
 大図書館と並んで巨大建築物であるのがエドが見上げる管理組合本部だ。
 図書館やコロシアムのような文化的な建築物とは一転し、どんと巨大な箱がそびえ建っている。
 ミラー張りというわけでなく鉄筋コンクリートらしき材質に等間隔で窓が設えられており、なんとも実務的な雰囲気をかもし出している。
 人の出入りはまばらだ。管理組合への用事のほとんどは街角にあるATMもどきで処理できるためわざわざここまで出向く物好きは少ない。
「とりあえずチェックっと」
『チェックを認証しました』
 PBからの応答を軽く聞き流し何気なく周囲を見回す。
「さて」
 5箇所ということだが、どうしたものか。
 エドはとりあえずぶらりと歩き始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 かくして、約一ヶ月に渡るウォークラリーイベントは閉幕となった。
 各参加者の獲得ポイントが発表され、参加者には賞金が送られた。
 当初上位だけが賞品や賞金が得られると思っていた参加者はちょっとした臨時収入に顔を綻ばせたとか。
 しかし少し頭の巡る人はこの一見ばら撒きとも思える行動に頭を傾げた事だろう。
「予想以上に効果はありましたね」
 黒髪の女性が手元の資料を捲りながら苦笑を浮かべる。
「賞金首の検挙数が約3倍。事件の発生数は2割減。もくろみ以上ですか」
「もくろみなんて言わないで欲しいかな。人聞きの悪い」
 青髪の男が同じ資料を机に放り投げながら悪びれる。
「探索者の目はどうしても外に向いてしまう。でも彼らは同時にクロスロードの自警団でも居てもらいたい。
 そのための賞金システムだからね」
「もっとも、この辺りは私たちが付加した内容で、主催者は楽しければそれでいいって事なんでしょうけど」
「あの人らしいよ。自分が住む町くらい好きになって欲しいじゃん、ってさ」
 青髪の男は傾いてきた日の光に目を細める。
「さて、後片付けとかしないとね。経理処理とかもあるし」
「ですね」
 管理組合本部の一室で二人は己の仕事へ動き出すのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 さて、最後にこれを説明しておく必要があるだろう。
 つまりは回答である。
 ヒントは以下の通り。
  1:街角案内(サイト内世界設定)に乗っている場所だぞ
  2:計算上は1/5……よりちょっと少ない。現実的にはもっと少ない。
  3:2番目
  4:広い場所ではその上のどこでも「チェック」が宣言可能
  5:市外に出る時はウォークラリー参加者であればエンジェルウィングスが送ってくれるぞ
  6:複数ある施設は対象外だ。『駅』とか『管理組合派出所』とかね。
  7:チェックポイントによってポイントが違う。今までのヒントから類推しにくい場所ほど点数は高いぞ。

 事実上2と3がヒント。5はその補足。その他は逆に限定するための条項である。
 先に回答を言おう。『いきしちにひみりゐ』つまり「い段」の言葉で始まる施設である。
 つまるところ1/5とは「あいうえお」の1段。建物の名前として「ん」「を」などで始まる言葉が少なく「やいゆえよ」と、被る部分があるため
 「計算上は1/5……よりちょっと少ない。現実的にはもっと少ない。」
 というヒントになっていた。
 その2番目ということで「い段」である。
 回答例としては
  慰霊碑
  純白の酒場
  西砦
  北砦
  秘密結社 ダイアクトー事務所
  ニュートラルロード
 というとことになる。
 ちなみにこの中でポイントが高かったのは「慰霊碑」。次いで「北砦」「西砦」である。
 以上解説おしまい〜

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 というわけで1stイベントウォークラリーのSSです。
 まだ皆さんのキャラクターを良く把握できていませんのでちょい役で登場してもらっています。
 今後活躍するためにも純白の酒場に訪れて多いにロールプレイしてくれたらなと思います。
 今回のイベントは推理ゲームというよりも、街角案内を眺めてもらって「こんな施設があるんだ」という事を知ってもらいたかったというのが一番重要なポイントです。
 まーまさか回答の中に慰霊碑が出てくるとは思わなかったですけどね……w
 褒賞については探索者掲示板の方でお知らせいたします。

 今後も総合GM主催の掲示板依頼については(モノにもよりますが)SSで経過、結末を公開していきたいと思いますのでよろしくお願いします。
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