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【inv21】『桜前線はいずこに?』
『桜前線はいずこ?』
(2012/04/17)
『桜前線』
クロスロードにおける春を代表する言葉ではあるが、おおよそ風流とは縁遠いものだ。
というのもその正体は酩酊効果のある花弁を撒き散らし、しかもクロスロードに向けて一直線にやってくる桜型のドライアード群である。けん
花弁以外の攻撃といえば直進した結果の体当たりや踏みつけ。避ければ実害は無いように見えるが、仮にこれらがクロスロードに踏み入れば、その先には扉の園がある。どんな被害が出るかも恐ろしい。
従ってクロスロードとしてはこれを討伐し、少なくともクロスロードに到る分は排除しなければならないのである。
「これに加えて昨年は杉花粉ってのが混ざってたのか?」
「らしいな。くしゃみが止まらなくなる毒をばら撒くらしい」
「ひっどい話だねぇ。無差別にそう言うのをばら撒いて去っていくとは」
 一之瀬、マオウ、クセニアは集めた情報を前に呆れた言葉をこぼしていた。
「しかし物好きも居るもんだね。そんなので酒を作ろうだなんて」
「無機物系や種族的に酒に酔わないのも酔う酒ができあがるらしい。
 ざるや枠でも酔うとあっては需要もありそうだな」
 肩を竦めたクセニアにマオウが応じる。
「普通に酒に酔えるのは幸せって事かい?」
「どの世界にも酒はある。そう言う事だろう」
「で、二人はどうやって花弁集めるつもりなんだ?」
 大きめの袋を見せる一之瀬に二人は顔を見合わせる。
「こっちも容器は用意したがね。だがそんな袋じゃ戻ってくる前にこっちが酔っちまうんじゃないのかい?
 ガスマスクで防げるらしいんだが」
 クセニアは密封容器を取り出してマオウに視線を向ける。
「私も密封できるという「びにーるぶくろ」とやらを用意したがな。
 あとはバリア装置とやらと小鳥を一羽」
「小鳥? 何に使うんだ?」
 きょとんとする一之瀬に「鉱山じゃ普通にやることだぞ?」とマオウはしたり顔をする。
「小さい鳥は毒物に弱い、というより致死量が圧倒的に少ないから、こっちが手遅れになる前に気付けるという寸法だな」
 クセニアの説明に一之瀬は「へぇ」と鳥かごをつつく。
「なんにせよ、初見同士。量が多ければ多いほど良いって事だし、都合が合えば協力したい物だな」
 一之瀬の言葉に二人はさてどうした物かと思案する。
 果たして準備は充分だろうか。

 ◆◇◆◇◆◇

「ぬっふっふっふ。今年もこの天才美少女の出番っスね!」
 相変わらずわけのわからない自信を口から迸らせた少女が向かった先はサンロードリバーのほとりにある店。とらいあんぐるかーぺんたーずである。
『クネーッサン クネーッサン』
 いつもやかましい彼女ではあるが、今日はそれにも増してやかましい。
 というのも右手にぶら下げた大きめの鳥かごに、小鳥とはとても言い難いそれが居た。
 まぁ、ぶっちゃけオウムである。そして残念ながら毒を計る道具としてはいささか大きすぎるそれを手に彼女が店にたどり着くと

『しばらく休業します』

 という札がドアノブのところに掛かっていた。
「なん……だと……っス!」
 これまで行けば誰かが居るのが当たり前だった店にまさかの休業札。
 それをしばし見ていたトーマは天才的閃きを得て体をわなわなさせた。
「もしや……先に名案を思い付いて桜の花びらを……!」
『チゲーヨ、チゲーヨ』
 意外と的確な突っ込みを入れる鳥に「うっさい」と突っ込み一つ。
「そう言えばここの人たち全員副管理組合長だったんスよね」
 我にかえれば簡単な話だ。身バレした三人は当面のんびり店をやるというのは難しいだろう。礼儀知らずがどれだけ押し掛けてくるか分かった物ではない。
「むむ。管理組合のほうに行くべきっスかね?」
 かるーく門前払いを食らいそうである。
『クネーッサン クネーッサン』
 籠の中でわめきながらくるりくるりと器用に宙返りする鳥を横目に、途方に暮れる自称天才少女だった。

 ◆◇◆◇◆◇

「反応はどうかしらね」
 手にしているのは桜前線を探すために開発した装置。それを手にKe=iは適当に荒野をぶらついていた。
「おや、Ke=iさん。奇遇ですね」
 ぶらつくとはいえ、駆動機を持たないKe=iの移動範囲は他の徒歩のメンツとそう変わらない。その結果でくわしたのがヨンだった
「ヨンさんも桜前線探し?」
「痕跡でも無いかと思いましてね。
 とはいえ収穫なしなんですが。そちらもですか?」
「ええ。機械で探してみようかとおもってるんだけど、今のところ反応なしね」
「へぇ……でもそれ、100m以上先の物も探知できるんですか?」
 ……
 ……
「あ」
「あ、って。もしかして100mの壁の事忘れてました?」
 この世界では直接的な光と音以外は100mの壁と呼ばれる特殊なルールによって阻害される事は周知の事実である。彼女の持つセンサーもまた、その制約に引っかかり彼女から周囲100m程度しか実は探知していなかったりする。そしてそれならば先に視界に入ると言う物である。
「あ、あたしとした事が」
「ま、まぁ、どんまいですよ。
 ほら、残留物質を探査する機械だったら役に立ちそうですし」
「一応その機能は付けてるつもりなんだけど……花弁があれば目立つはずよね」
「はは、まぁ、私も何か策があってぶらついているわけではないのですが……
 しかし、そうですか。詰まる所この近くには桜前線そのものが着ていない可能性もありますね」
「毎年こっちに来てるんでしょ?
 前の大襲撃の影響でもあるのかしらね?」
 初めて怪物達がお世辞ではあるが戦術と呼べそうな物を発揮した戦いを指してKe=iは思案する。
「可能性で語ればあるにはあるんでしょうけど……
 地道に探すしかありませんかね」
「変な事になっていなきゃいいけど」

 Ke=iの言葉にヨンは小さく苦笑を零す。
 笑いごとでないのがこの世界なのだ。
 それを知っている吸血鬼は肩を竦めて周囲を良く見回すのだった。

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 というわけで第一回は状況説明がメインということで。
 クロスロード周辺にはどうやら桜前線が無い様子です。
 ではどこに?
 というわけで次回リアクションをお願いします。
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