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【inv21】『桜前線はいずこに?』
『桜前線はいずこ?』
(2012/05/08)

やたら小鳥の声がやかましかった。
「毒には敏感って聞いたから、買ってみたけど役に立つのかな、これ?」
 そもそも酔わせるという妙な効果が毒かどうかも微妙だなぁと思いなおし、
「色々間違ってない?」
 と気付いてため息一つ。まぁ、完全に役に立たないと言う事は無いだろうがと、一之瀬は気楽に鳴く小鳥を見やった。
 それ以外にも色々と対策アイテムを買い込んできたものの、お目当てを発見できない状態では無用の長物と言う言葉のままである。
「……探す方法も用意しないとな」
ポツリ呟いて、一之瀬は無駄に晴れ渡った空を見上げるのだった。

 ◆◇◆◇◆

「狂人、なぁ……?」
 同じく桜前線の捜索をしていたチームの男は禿げあがった頭を撫でて眉根を寄せた。
「先の大襲撃の時にもそんな話はあったが、そいつは本当に居るのか?」
「ん……?」
 逆に問い返されてエディは同じく眉根を寄せる。
 思えば「狂人」という言葉。居る、居ると囁かれ、実際に管理組合の副長からもそれらしき人物(?)が存在しているような話はあった。
 だが、その姿を見たと言う話はてんで聞かない。あるとすれば南で目撃された超巨大な怪物がその狂人の手により想像されたらしいということのみだ。
「居るわけない、とは言わないさ。
 だが、どういうものかもよくわからない存在の痕跡と言われてもな」
 確かにその通りだろうとエディは男に軽く謝罪をして分かれ、次なる目的地へと向かった。
「あら、おひさしぶりですねぇ。
 コーヒー飲みますか?」
 カグラザカ新聞社。クロスロード創立以来あり、広く知られている会社である。
 今では新聞社を名乗る会社はいくつか他にも存在するが、スポーツ新聞並みのフランクさがウリのカグラザカ新聞に発行部数は遠く及ばない。クロスロードで「新聞」と言えばカグラザカ新聞を指すのは最早常識となっていた。
 そこの編集長にして社長の女性はにこやかな笑みでエディを迎えた。
「随分と勇名を馳せているようですねぇ。今度取材させてください」
「そういう性分じゃないさ。そういうのはヨンにでもやってくれ」
「あの人はゴシップネタの方が面白いんですよ」
 にこにこと酷い事を言いながら、できあいのコーヒーを差し出す。
「今回は……桜前線の件ですか?」
「ああ、何か聞いていないか?」
「聞いていませんね。ただ、少し前にサンロードリバーで花弁が流れるのを見たと言う噂はありましたけど」
「噂?」
「あのサイズの河川ですし、花弁は指先程度ですからね。
 別の何かと見間違えてもおかしくは無いでしょう?」
 確かにそれは無いとは言えない。しかし手がかりの全くない状況では一つの指針となるだろう。
「うふふ。情報料はいずれ頂きますね?」
「安くしてくれると助かる」
 さて、南へと探索に行こうと思っていたが、どうしたものか。

 ◆◇◆◇◆

(=ω=)
 ↑これが目の前にずんと鎮座している様は、何時見ても言葉に表し辛い感傷を覚える。
『Hi』
「なぁ、桜か杉を見なかったか?」
『ワタシ、ウゴケナイ』
「小さいやつらは?」
 マオウの問いかけに巨大ナニカは相変わらず体の表面でチビナニカを動かし、人文字ならぬナニカ文字を形成して器用に応じる。
『シラナイ ワカラナイ コムギコカナニカダ』
「分かりにくいネタはやめろ。
 で、そんだけチビをばら撒いてるのに、誰も見ていないのか?」
『チガウ 100m ハナレルト セイギョフノウ』
 100mの壁。それは巨大ナニカの子機とも言うべきナニカの制御をも狂わせる。
 彼の100m以内に戻れば再び制御は可能らしいが、そうでない限りはそこらを徘徊する怪物と何一つ変わらない。かつて大量に放出したチビナニカは、今も荒野を彷徨い、たまに遭遇した怪物や探索者に駆け寄っては自爆をするという非常に迷惑極まりない状態となっていた。
『タダ キタカラ モドッテキタ チビ ハ ミテナイ ト イッテイル』
「北か。確か本来のルートは南から北へと抜けるのだったな」
 マオウの言葉に巨大ナニカの=ω=が上下に揺れた。頷いたらしい。
「となれば、南の方なのかね、やっぱり」
 新暦も4年となるが、これまで毎年来ていたらしいのだから、今年になって北から来るということもなかなかに考えにくい。
 が、ないとも言えないのがこの未開の地の厄介なところだ。
「あ、こんなところに居た」
 不意に声を掛けられて振り返れば、ワイルドと言う言葉のに会う女が腰に手を当てて立っていた。
「確か……クセニアとか言ったか?」
「ああ、そうだよ。
 変なのと知り合いなんだねぇ」
『ヘンナノ トカ シツレイナ。
 アリガトゴザイマス』
「……? どういたしまして」
 どうして感謝されたのか分からないクセニアはきょとんとして応じる。
「俺に何か用か?」
「ああ、これだよこれ。面白い物を見つけてね」
 と、嬉々と取り出したのは透明な袋だった。
「なんだそれは?」
「ビニール袋だよ。すごいだろ? これでかなり丈夫なんだよ?」
「ふむ……」
 差し出されたそれを受け取ったマオウはそれを左右に引っ張って見るが、確かに見た目に反して丈夫だ。多少伸びて一部白くなったが性能に影響は無いようである。
「こいつの凄いところは網目がないから毒が漏れないことさ。
 一緒に売ってたこのジッパーで口を閉じてしまえば完璧らしいよ?」
「便利な代物もあるものだな。科学系世界の産物は時に高度なマジックアイテムよりも興味深い」
「確かにね。なんでもこんぴゅーたげーむとかいうのにはまった連中が家から出てこなくなったとか言う話しもあるらしいよ」
「呪われたのか?」
「そうかもしれないねぇ。怖い怖い」
『ソレ チガウ キガスル』
 と、突っ込みを入れている巨大ナニカだが、残念ながら音にならないために二人には気づかれない。
「で、何か情報は掴んだのかい?」
「北には目撃情報は無いということくらいか。
 どうしたものかな」
「アタシも調べては見たが、南の方を探しまわってる連中も見てないようだねぇ」
「となれば消去法では東西ということになるが……
 そもそも我々の探査圏内にまだないというオチはないだろうな?」
「それをアタシに言われても知らないよ。
 ともあれ、ある程度道具も揃えたし、探しに行かないとね」
「そうだな。
 ナニカよ、また会おう」
『ウム』
 ふたたび目と口が頷くように動いたのを見て、マオウはひとまず街へ戻るべく歩き始めた。

 ◆◇◆◇◆

『ハラヘッタゾフサエ』
「うるさい鳥っスね。今日の夕飯はチキンソテーにするっスよ?」
 トーマの脅しもなんのその。適当な言葉をくっちゃべり続ける鳥を横目に、トーマは出来上がった機械を眺め見た。
 見た目は、というか、出来上がったのはぶっちゃけ空気清浄機である。
 網目の細かいフィルタで花粉を捕まえてみようというのが試みである。
「よし、花粉を発見したら吸わせるから覚悟するっスよ」
『オマエモナー』
 とりあえず装置をかついだトーマが北へ南へと走って10時間。
「お、おかしいっス」
『ハラヘッタゾ フサエ』
 本当におなかがすいたらしくギャアギャアと暴れる鳥を恨めしげに睨み、それから自作の空気清浄機を睨む。
 結果は収穫ゼロ。つまりクロスロード周辺の空気にお目当ての花粉が無かったということになる。
「おかしいっスね。ホントにこのあたりに来ていないって事っスか?」
 なんともなしに再びとらいあんぐる・かーぺんたーず前に戻ってきたトーマは未だ掛かる「しばらくお休みします」の看板にため息一つ、店先に座り込んだ。
『ハ・ラ・ヘ・ッ・タ』
「ああ、分かったっスよ!
 あたしもいい加減疲れたからそろそろ……」

 ックシュン!

 不意に割り込んできたくしゃみ。鳥とトーマはお互いを見るが、どうやら違うらしい。

 ックシュン!

 再び聞こえたくしゃみは店の裏手から。
 ここトライアングル・カーペンターズの背後にはサンロードリバーがあり、夏は涼しげな風が吹くスポットなのだが、今の時期は夕暮れとも相まって随分と冷えを感じる。
 と、河童がやたらくしゃみをしているのを見た。
「どうしたっスか? 風邪ひいたっスか?」
 トーマの呼び掛けに河童は首をひねり、そのまままたクシャミひとつ。
「……気を付けるっスよ? 季節の変わり目っスからね」
 河童というのは見た目からして水生生物だが、風邪をひくのだなぁと感心しつつ、何か重大なことを見落としている気がしたトーマだが
『ハラ ハラ ヘッタ!!  ヘッタ!!』
 がしゃがしゃと檻を揺らす鳥に「ああ、煩いっスねえ! わかったっスよ!」と思考を中断させられたのだった。

 ◆◇◆◇◆

「ヨンや。最近躊躇がなくなっておらぬかや?」
 古風な姿を司書服で包んだ美しい女性がやや半眼でそう問うてくるので、ヨンはとりあえず小首をかしげる。
「どういう意味ですか。妖姫さん」
「嫉妬の神の一件から、女性に声を掛ける事に躊躇がなくなっておらぬかやと思うてのぅ」
「そんな事ありませんよ。私はいつも通りです」
「さすらば、やたら濃い緑の香りは何ぞ?」
「植物の事は植物に聞くのが一番と思いまして、森へ行ってきただけですよ」
 さらりと応じるヨンに、妖姫は小さく肩を竦めて先導に専念することとしたらしい。
「な、何かおかしなことを言ったでしょうか?」
「いや、何も。そこはまだらしいと言えばらしい」
 遠まわしに批難された気がしてヨンは慌てふためくが、結論を得られぬままに地下施設へと辿りついた。
「ここで待っておるよ」
「あ、はい。なるべく急ぎます」
「良い良い、ここらの本と久方ぶりに雑談でもしておく故」
 文車妖姫───書物の妖怪である彼女はアルカイックな笑みを浮かべ、無限にも見えるほどに並ぶ魔書の棚へと向き直った。
 それをしばらく見て、ヨンは研究施設と変貌した閲覧室へと足を踏み入れる。
 右も左も、あるいは上も下も分からなくなりそうな通路から一転し、研究所ちっくなリノリウムの床を行き辿りついたのはニギヤマと言う名の研究者が根城にしている部屋だ。
「居ますか?」
『『わーい♪』』
 声に応じたのは壮年の男の声でなく、ハモった幼女の声。
 ばんと扉が開いて飛びかかってきたのは、森に居た緑の少女を小さくしたような2人の幼女だ。
「やぁ、色男君。今日はどうしたんだい?
 娘をくださいとでも言いに来たのかい?」
「どういう冗談かは知らないですけど、違いますよ。
 桜前線に付いてです」
「ああ、今年はまだ現れていないそうだね」
「ええ。あれの花びらを欲しがっている人がいるんですが、どうにか再現できませんかね?」
 ニギヤマは無精ひげをなで、しばし黙考。
「あの子はできないと言ったかい?」
「はい」
「まぁ、そうだろうな。あれは怪物の体の一部だ。あれを再現できるとすればあの子が怪物化していると言う事になりかねない」
 怪物。この地に現れる異質な存在。
「あれを再現しようとするならばあれを解析しなければならない。
 しかし我々には言語と理解の壁がある。怪物の事は何一つわからない。我々が見て聞いて、我々の言語で近似値を指し示すほかないのだ。
 或いは理解せぬままに、ただ利用する事くらいしかね」
「……ええと、つまりできないと?」
「身も蓋もないね。まぁ、その通りだ」
 幼女に服やら腕やらを引っ張られつつヨンは開き直ったニギヤマを呆れたように見やった。
「ただ、まぁ毎年同じくらいの時期に同じように来る、数千ものドライアドが今年は来ないというのはどうにも解せない。数が減ったなら分かるんだがね」
「では、ルートを外れたと言う可能性は?」
「それもないと思っている。というのも彼らは恐らく『塔』に対する嗅覚をもっている。そして塔、つまりクロスロードを目指してやってくるんだよ」
「でも桜前線は通り過ぎますよ?」
「通り過ぎてもまた来る。南へは進めないという制約があるのかもしれないね。
 或いは動き続けなければ枯れてしまうとかね」
 故にまっすぐクロスロードを目指し、通り過ぎれば一周してくると言うのだろうか?
「まとめると、桜前線は来るはずだ。
 来ないとなると別の要因が働いている?」
「かもしれないね。流石にそこまでは私にもわからないよ」

 怪物の行動を操るとでも言うのだろうか?
 はて、最近そんな事があったような?

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大変申し訳ありませんでした。
 GWに休みだった感覚がさっぱりなく、今も休みたいと嘆いているダメな神衣舞です。
 通常運行に戻りますので勘弁したってください。

 さて、では行くべき方向はだいたい予想が付いた事でしょうので次回リアクションをお願いします。
 今回一之瀬さんのシーンがやったら短かったですが、ある程度「どうしたい」を書かないと膨らませるのは難しかったりします。
 NPCリストなんかを見て聞けそうな人を探すとかいのはアリだと思いますよ〜
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