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【inv21】『桜前線はいずこに?』
『桜前線はいずこに?』
(2012/06/07)

 皆がだいたい同じ結論に達した時。
 それは例年通りクロスロードへ向けて移動を再開していた。
 例外的な事に囚われても、そこから解き放たれれば、最早留まる理由は無い。
 それは、動き続けていた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「ドライアド種は複数目撃されていますよ。
 ただ、『桜』があったかと言うとどうとも言えませんね」
 ヨンがウロウロして聞きまわった結果はだいたいこんな感じだった。
「大襲撃は冬でしたからね……。まだ桜じゃなかったのかもしれませんね。
 しかし、桜前線がなくなる道理がないとするならば、何もせずに居てもクロスロードに来るのだろうか?
「……うーん、要は待っていればいいってことなのでしょうか。
いや、何も準備せずに待ってたら不味いか」
 呟きながら戻ってきたクロスロード。目的は保身のためにも昨年実用的だったバリアシステムがもらえればと思ってトーマを探している所だった。
 噂によると、浄水施設を目指していたとの事だったので、そちらに向かっているのだが。
「ち、仕切り直しだな」
 丁度浄水施設前に辿りついた時、中からガスマスクを装着した一団が出て来た。
 マスクのせいでくぐもってはいるが、聞き覚えのある声にヨンが視線を向けると
『フサエーーーっくしゅん!』
 やたら甲高い声とくしゃみにぎょっとしつつ、それの発生源が探していた少女であると見止めた。ついでに最初に出て来たマスクの男はエディらしい。
「どうしたんですか、こんなところで?」
「ん? ああ、ヨンか。お前もここを怪しんだのか?」
「え? いや、トーマさんにバリアを貰おうと思いまして。
 しかし、やたら変な声出していましたが。風邪か何かですか?」
「え? 違うっスよ。こいつっス」
 胸ぽけっとから首根っこを掴んで引っ張り出された鳥がうっとうしそうにばさばさと羽ばたき、がじがじと手を噛むので「何するっスか!」とブン投げると、鳥は器用に体勢を立て直し、くるくると旋回してトーマの頭に着地。
『フサエー』
「妙な鳴き声ですね」
「もう気にしちゃだめっスよ。それで、この天才が作ったバリアを御所望っスか?」
「ええ。ですが、何かあったのですか?」
「なにもかにも、浄水施設の濾過槽がえらい事になってるっスよ。
 体勢を立て直して再調査するつもりっスけど」
「花粉やら花弁が大量に引っかかってたんだよ。
 こりゃぁ、やっこさんら、水没でもしてるのかね」
 肩を竦めるエディは鳥と喧嘩するトーマへ向き直ると
「トーマ、撮影機材とかあるか?
 ここまで来ると専門家に出張ってもらわないとだめだろ」
「用意できるっスよ。って、コラ、噛むなっス! 餌やるからっ!」
「もう一回中に入るんですか?」
「ああ、二度手間になるしな。
 花粉で対策が作れれば万々歳なんだが」
「どうでしょうか。採取だけなら去年も出来ていたと思うのですが」
 ヨンの疑問に見知らぬ女性───施療院のスタッフがひとつ頷いた。
「対策その物は簡単です。
 マスクで防げるのですから、浄化系の魔術で状態異常を解除したり、バリアや風の結界術、祓えや禊などで排除する事は可能なのです。
 同時に対象を限定した耐性薬を飲んでいれば抵抗は可能なようですし」
「でもあれ、お酒に酔わない機械系も酩酊していませんでしたっけ?」
「そこが勘違いの元でしたね。
 機械系の方はお酒には確かに酔いませんが、酩酊状態に類似する状況にはなりえるのです。あれは「そう言う状態にする」能力で、お酒による酩酊と考えてはいけなかったのです」
「……じゃあ、バリアはもう役立たずっスか?」
「いえ、新型にはやはり対応できませんから、物理的に防ぐ方法は継続して有効と思います」
「さっすがはあたしっスね!」
 薄い胸を張るトーマはさておき。
「ヨン、お前はどうするんだ?」
「もう少し独自に調べてみますよ。
 といっても、だいたい見えてきましたけどね」
「見えたにしても、どう相手にしたもんかね」
 二人はサンロードリバーを眺めながら思案する。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「水のひとつも持って帰らないのかい?」
「近づけばロクなことにならんらしい」
 マオウがそっけなく応じ、クセニアは鼻を鳴らした。
「まぁ、今PBから話を聞いたけど、積極的に近付きたいとは確かに思わないね」
 原因不明の消失なんてまっぴらごめんである。
「しかし、どうするんだい? そんな物騒な所を調査何てできないだろ?」
「だが、やらんわけにはいかんだろうよ」
 二人は一旦さらに上流まで行ってクロスロードに戻ってきていた。
 堰があったという場所よりもさらに東。そこではかりながら川に近づき、確かめた結果、酩酊やくしゃみといった症状はどうやらなさそうであった。
「堰のあたりが怪しいって事は分かったんだ。
 そうなればあとは管理組合あたりに任せるしかあるまい」
「まぁ、そうなるかねぇ」
「おーい! クセニアさーん!」
 不意に、呼びかける声。
 振り返ればどこかで見た覚えのある青年がこちらへと近づいてきていた。
「一之瀬とか言ったか」
「ええ、そうです。
 お二人も桜前線の事調べてるんですよね?」
「ああ? そうだけど?」
 だからなんだとばかりの答え方に一之瀬は若干頬をひきつらせつつも
「不案内で困ってるんですよ。色々と役に立つので混ぜてもらえませんか?」と尋ねた。
「俺は構わないと思うぞ。今からとにかく人手が必要だろうしな」
「管理組合から募集が入りそうな勢いだろうけどね。
 正体不明の水魔と戦えっていうのは気乗りしないけど」
 クセニアの言葉の意味を理解できない一之瀬は首をかしげ、PBから伝えられる「水魔」の意味を知ってきょとんとする。
「桜前線探してるんですよね?」
「ああ、そいつが水の中にいるようでね。確証は無いからまずは調査になるが……、
 流石に何十人も行方不明になってるところに三人で突っ込む気にはならないだろ?」
 マオウに言われてそれはうなずくしかない。
「ともかく管理組合と、依頼人のところに出向くか。
 簡単な話じゃなくなりつつあるな」
 マオウの言葉は的確だった。

 一日を置いて、管理組合はサンロードリバー上流の水底調査の実施を決定。
 その対応者を募集し始めるのだった。

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今回はあんまり進展はしなかった感じですか。
 各位推論を固めた感じの展開となっています。
 さて次回は管理組合寄り水底調査の依頼が発令されます。
 うひひ。どう対応するかはもちろん自由です。
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