『今!クロスロードに許容せざる巨悪が東から迫っている!
立てよヒーロー!呼べよ嵐!
水の神の加護を得て、クロスロード市民を護るのだ!!!!』
黒の戦闘服に頭の先まで包んだ男が声を張り上げる。
その前に集まる者達も色とりどり、装飾色々だが、ある共通点を持っている。
Vことヨンが統括するヒーロー集団HOCの面々である。なんだかんだで設立当初より数は増えているようだ。
「我々の目的は迫りくる桜前線の撃退となる!」
「リーダー! 水魔ではないのですか!?」
一人のヒーローが異議ありと声を荒げる。
「そうだ、俺達は巨大な悪に立ち向かうためにここに居る!
水魔に当たるべきだ!」
「貴様らは何だ!?」
対するはVの一喝。
「ヒーローとは何か?!
悪を倒す者? 確かにそれは正しい!
だが、何のために悪を倒す!」
「正義のためだ」
「その正義とは何だ?
悪に苦しむ力なき者達を護る事ではないのか!?
ならば巨悪を討つのも必要だろう。しかし、そのために小さな悪を全て見過ごすと言うのか!?」
反論したヒーロー達はぐと喉を鳴らす。
「全ての桜前線を退けた後、無論我々は水魔に対し全力を尽くしこれを討たねばならない!
しかしその前に為すべき事を為さねば、我々は単なる自己満足の集団に成り下がってしまう!
それが正義か? ヒーローの行いか?!」
どーんと指差し言われたヒーローがおもむろにがくりと膝を付き
「そ、その通りだリーダー……俺が間違っていた……!
民を護らずして何がヒーローだ!? 俺はこの血の一滴までもが尽きようとも、正義を貫くぜ!」
『うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!』
「あいつら、幸せそうだな」
とまぁ、そんな光景を遠目に見ていたマオウが呆れ気味につぶやく。
元々は世界を恐怖に陥れた魔王の身であるが故に、ああいう手合いは見飽きたと思っていたのだが、また別の視点で見ると色々と趣深くもある。まぁ、すぐに呆れてしまったが。
「しかし正義とは悪よりも狂信的な言葉だな。勝てもしない相手に次から次に挑みかかってきた理由がわかろうと言う物だ」
しかし、そんな自身も今は異世界の地にある。それが意味する事は狂信が力を上回ったと言う事だろうか。
「さて」
用意した双眼鏡を手に川を眺める。
彼のプランとしてはあの連中に紛れこみながらも桜の生木を得るタイミングをうかがうつもりだ。元々の依頼は花弁の回収なのだから当然だろう。
「その前にやる事をやらんとな」
ポケットから取り出したの種の詰まった袋だ。これは前回の怪物によるダムに対し考案された植物である。
「こいつをばら撒いて万が一に備える……か。
どっちかというと壁を作っておこうかって感じだけどな」
適当にそこらに種を放り投げていく。水を得ると急速に成長し、その実に莫大な水を貯める性質を持つのだと言う。とはいえ、サンロードリバーを起点とする洪水にどこまでの効果があるかは謎だが、無いよりましと思うべきだろう。
「さて、でかいイベントだ。見ておかねばな」
繰り広げられるのはこの滅茶苦茶な世界でもさらに滅茶苦茶な戦いだろう。
マオウはにぃと口の端を上げてクロスロードからゆっくりと迫りくる巨大ななにかを見やるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「良いにゃよ」
知り合いかどうかは問わずにとりあえず片っ端からエンチャンターに声を掛ける!
他力本願全開で決意したトーマが最初に突っ走ったのはこれまで何度か訪れた事のあるとらいあんぐる・かーぺんたーずであった。というのも科学機械系技術専門の彼女にとって真っ先に思いつくのがここだけだったと言うだけだが。
居ないかもなぁとも思いながらやってきた店は普通に開店しており、奥では猫娘が一人、彫金をしている最中だった。
「え? マジっスか?」
「嘘って言ってほしいの?」
「そんな事はないっスけど、上手く行きすぎと言うか……」
「水魔とやり合う話は聞いているにゃよ。あれと本気でやり合うつもりだったらエンチャントなんて正直洪水の前に立てた和紙みたいなものにゃけどね」
さらりと言われて「あれ? それ、無意味じゃないっスか?」と目を丸くする。
「気休めにはなるにゃよ?」
「いやいや、実用的なのをお願いしたいっス!」
「って言われてもねぇ。確かに土属性や火属性を付加すれば水属性の威力を減衰させる事は可能にゃよ?
でも、水が持つ莫大な質量と運動エネルギーが消えるわけじゃないにゃ。水そのものが消えるわけじゃないんだから」
「あー……」
つまり仮に水の攻撃を無効にする装備を整えたとしても、洪水に飲まれる事は避けられないと言う事だ」
「水を一瞬で蒸発させるとかできないのかい?」
カウベルの音と共に入ってきたクセニアにアルカは「いらっしゃい」と声を掛けた後
「水蒸気爆発で吹き飛びたければ作るけど?」
「……か、科学系の返しを先に魔法使いにされると悔しいっスね」
トーマが勝手に謎の敗北感を得る。
莫大な水を一瞬で蒸発させれば水蒸気への状態変化により水は体積を増大させる。その勢いは軽く人を肉屑に変えかねない。
「う、うぐぐ。ヨンさんに任せろと言った手前、手ぶらで帰るわけには……!」
「っていうか、洪水に対処したいんだよねぇ?」
「そうっス!」
「じゃあ飛べば?」
・・・・・・
「へ?」
「別に受けなくていいじゃん。飛べば」
「い、いやいやいや。そんな、えっと、ほ、ほら飛ぶと消えるとか聞いたっスよ!?」
「それは誰も目撃者が居ない状況、単独飛行時にしか起きていないにゃよ。
むしろ目撃者がいる状態で消失現象が起きるなら、被害者には悪いけど万々歳にゃよ。対処方法を見つけるチャンスなんだし」
「……」
アルカの提案は超ごもっともで、川の水がどんなに押し寄せたところで10mも飛べばおおよそ回避できないとは思えない。
「ええ、と。それじゃ……」
「テンシノツバサ、管理組合で用意するけど?」
「……じゃあ、人数分貰うっス」
「それでも相手が水を使うのは分かってる事なんだろう?
火や土のエンチャントとか、術者は揃えた方が良いんじゃないのかい?」
「んー、まぁ、それはそうなんだけどね。
一時的なマジックエンチャントだったら専門の術師が居ればどうとでもなるけど、本格的なエンチャントになると一日二日じゃどう仕様もならないにゃよ?」
「となると、術者か……。
アースって人と話ができりゃ、早いんだがね」
「アースちんは水魔対策には出る予定にゃよ。
というか、普通はかなりの人数募集しての作戦にしなきゃなんだけどねぇ。
なんか話がぽんぽん進んで当たる事になっちゃってるから」
「え? それって待った方が良いって事っスか?」
「もう手遅れかなぁ。桜前線の件もあるから悠長な事は言えないのも事実にゃし」
「手遅れ?」
クセニアが訝しげに問うと、アルカは振り返るように店の奥、いや、その向こうに流れるを川透かし見た。
「ああ、水神とか言うやつの事かい?
詳しい事は何もわからないんだけど」
「んー。ぶっちゃけ神は神でも邪神よりの存在にゃしねぇ」
「は? そんなもの呼び出すんスか?」
「あちしが呼び出したわけじゃないし。
ただまぁ、水魔とやり合えそうなのは? って言われると適任ではあるにゃね」
人ごとみたいな言い様に二人は顔を見合わせる。
その瞬間巨大な水音とともにずん。ずんと凄まじい音と振動がクロスロード中に響き渡った。
「何の音っスか?!」
「本格的に水神が動きだしたにゃね」
何事か呪文を唱えた直後、叩きつけるような音と共に、窓の外が一気に水にぬれた。
その実はアルカの防御魔法によってほとんどの水をはじいた結果でこれである。対処も出来なかった隣の家があっさりと水に押し流されるのを見て二人は呆然と口を開けた。
「ちょっと防災に出てくるにゃよ、
テンシノツバサはその箱にあるから持っていくといいにゃ。んじゃね」
すちゃりと立ち上がったアルカが裏口から出ていくのを見送って二人は顔を見合わせる。
どうやらのんびりしている暇は無くなったようだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そうしてその2時間後。
それは全貌を現す。
クロスロードの東側水門を破壊したのは数多の職種。
見る者に不快感を与えるその異貌に怖気が走るのを感じながら対策に乗り出した者たちはそれがもう一つの異貌の巨大生物に当たるのを見た。
その瞬間、巨大質量2つがぶつかった衝撃で莫大な水があふれ、津波と化して大地を走る。そこに紛れて桜色が踊るのを見た。
「水に流されぬように気を付けて! 桜前線を駆逐します!」
大地ではマオウが巻いた種が芽を出し、水を吸い上げ、また茨が絡み合い防壁を作り上げてはところどころで討ち破られている光景が広がる。
怪獣大決戦が今始まったのだった。
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というわけで始まりました大決戦。
地球防衛軍的な感じでみなさんには遊撃してもらうことになります。
さて、気にする事はありますか?
手出しする事はありますか?
一応次回ラストの予定です。
ではよろしゅう。