<< BACK
【inv21】『桜前線はいずこに?』
『桜前線はいずこに?』
(2012/08/15)
大質量vs大質量の格闘戦というのは意外と珍しい物だ。
 大体の物理法則化においては巨大生物は成立しづらいのが要因の一つではあるのだが、それ以外となると戦艦などの大型機械がそれを担い、大体においては砲撃戦が主軸となる。
 それ以上に巨大な質量がぶつかり合うとその余波は凄まじい物だ。
 それを、生身の彼らは実体験していた。

「うわぁあああああああ?!」

 揺れというものはなにも地面だけを伝わるわけではない。
 空中にあった彼らを強烈に襲ったのは衝撃波になった音と空気の激震。
 三半規管を不意打ちで強打された数名がまるで狙撃されたかのように落ちて行くのを、耐えた数名が慌てて保護して後方に下げる。
「これは、桜前線どころじゃないですかね……!」
 それなりに距離を保つ事で一定の戦果は上げているが、なんというか、最早蚊帳の外という感じだ。
「どうっスか?」
 ふらふらと飛行に慣れていない事丸出しの態でやってきたトーマがヨンに声を掛ける。
「どうもこうも、まるで自然災害を相手にしているようだよ」
「言い得て妙っスね。あれはもう天災の一部っスよ」
「クロスロードじゃ神災って言うんじゃなかったかい?」
 追随してきたクセニアが口を挟む。
 ABC2W───クロスロードで定義される災害の中でも甚大な被害を与えかねないとされている5つの事象。
 即ちアトミック、バイオ、ケミカルの3つに、『神の怒り』を指すラースとWをひっ繰り返してMとしてマジック。
「水魔に水神。どっちも神って存在に近いらしいね」
「片方は恐れが、片方は信仰が力を与えているんでしたね」
 このターミナル特有のルールに「扉による能力の相対的平均化」と「共通認識による能力の拡大現象」という物がある。
 前者はAと言う世界での最強の存在が仮に星を砕けるとしよう。一方Bという世界の最強の存在が石を砕くのが精いっぱいだとしても、ターミナルに訪れた瞬間、Aの最強もBの最強もほぼ同程度の能力を有して現れる。この場合大抵はAの方が力を大きく抑制されて現れることになる。
 だがその後、仮にBが大きく活躍したり、尊敬と言う名の信仰を多く得た場合、後者のルールに則り、本人の努力、素質以上の力を手にする事があるのである。
 実のところこれはターミナル特有の現象でなく、神族に見られる「信仰=力」の理論そのものではないかともされているが、それはさておいて激突する二つの存在は水の神としての信仰と、水の魔という恐れをクロスロード成立からずっと受け続けて来た存在である。
 即ち、そのシステムに基づいた最強の2柱であると考えられる。
「確かに災害だね。あれは……。しかし、水神に勝って貰わないと困るな。
 あれを止めるなんて真似、大襲撃よりも酷かもしれない」
 なにせ水魔には莫大なサンロードリバーの水量が付きまとうのだ。見れば水魔も水神も己の周囲の水を操り、触手のようにたがいに牽制を討ち放ち続けている。遠目に見れば大したことない様にも見えるが、その巨大な体からすればクロスロードの外周壁くらい穿ちそうな水の槍である。
「っていうか、あれが居たら大襲撃楽勝じゃないんスかね?」
「確かにそうかもしれないけど……大体ああいう手合いって動く条件があるんだよなあ」
 ヨンの応答にトーマがむむむと呻く。
「ありそうなのは『水』に絡む事じゃないと動けないとかかね。
 あるいは『水』から出られないとか」
「もしくはその両方か、更に条件があるのか。
 解明するのは難しそうですね。下手に試そうとして怒らせると町の中心で大惨事ですし」
「ともあれ、俺は土使いの連中のフォローに戻るよ。
 効果が薄くても当て続ければちったぁ痛がるだろうし」
「ええ。こちらも桜前線の殲滅に注視しましょう。
 あの戦いについてはもう祈るばかりです」

 そうして再び散会する探索者達だった。

 ◆◇◆◇◆◇

「さて」
 ちょいちょいと手を出してはいたものの、基本的には高みの見物を決め込んでいたマオウは戦いが終焉に近づいたと見計らって活動を始めていた。
 元より目的は桜の花びら。
 余りの大惨事に皆、その事を失念しているようだなと思いながら、岸辺に転がる木に近づいた。
 幸いと言うべきか、元よりそう言う性質か。
 水に盛大に流されているにもかかわらずしっかりと花弁はついており、充分な量の確保が見込めそうである。
「こいつを接ぎ木して培養とかできるのかね」
 そんな事を呟きつつべきりと1本折る。
重ねて数本折り、それらを密封袋に収納して離れると上空から周囲を見渡した。
 もう夕暮れも近い。北の方を見れば相当数の桜前線がまるで逃げるかのように走り去るのが見えた。
 こうして見ると彼らもまた被害者のように見えるのが不思議である。

 ずずぅん

 ひときわ大きな音が響き、東を見れば、二つの超質量存在が同時にサンロードリバーに沈んでいく姿が見えた。
 ダブルノックアウトか? と目を凝らすが凄まじい水流の先を見通す事は出来ない。
 ダブルノックアウトとしても水魔の方には脇からもかなりの攻撃が加えられていたはずだ。それが単純に水魔が水神よりも強かったのか、それともフィールドによる補正による物なのかは分からない。
「どうなったんだ?」
 無論応じは無い。が、それから5分経ち、10分経っても音沙汰は無かった。
「やったか? とか言うとまた出てきそうだけどな」
 とりあえず終わりならそれで良い。
 マオウは戦利品を手に、町に戻るのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 結果を言うとどうやら水魔と水神は引きわけと言う形に終わったらしい。詰まる所水魔は討伐できておらず、引き続きクロスロードより離れたサンロードリバー周辺は危険区域と指定された。
 水魔の持つフィールドについても良く分かっていない。引きずり込む力という説が有力ではあるが、好き好んで試そうという者はいないだろう。死ぬし。
 桜前線については水質検査から、そのほぼ全数がサンロードリバーより消え去ったとみられている。水辺に残った多くの残骸の駆除を管理組合が依頼として出していた。
 坂徳莞爾の依頼についてはマオウが持ちこんだ材料で充分足りたようである。その後の残骸は泥まみれで上手く使えない物が多かったため、この依頼と言う点では完全に一人勝ち状態であろう。
 ただ、彼がもくろんだもう一つの案、桜の接ぎ木については上手くいかなかった。
 原因は不明だが恐らくは「怪物とは分かり合えない」というターミナルの現象によるものではないかと言うのが付き合った植物学者の推測である。

 ともあれ、大襲撃に起因した歪んだ桜前線については一つの終わりを迎えたのだった。
 
 大きく数を減じたであろう桜前線が来年もクロスロードに訪れるのか。
 それは来年にならないと分からない話である。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 というわけでこれにて「桜前線はいずこ?」は完了となります。
 最後は超獣バトルでしたので皆さんの行動が難しくなってしまいましたが、そういう存在は希少なのでと言い訳しておきます(ぉい
 さて、報酬については
1 坂徳さんの依頼 参加者全員1万C
1’ マオウには+4万C
2 対水魔戦協力 参加者に+3万C

 となります。
 経験値については+4点参加者全員に差し上げます。これは登場回に付与されるポイントとは別ですので。
 では次のシナリオでもよろしくお願いします。
niconico.php
ADMIN