<< BACK
【inv21】『桜前線はいずこに?』
『桜前線はいずこ?』
(2012/04/17)
『桜前線』
クロスロードにおける春を代表する言葉ではあるが、おおよそ風流とは縁遠いものだ。
というのもその正体は酩酊効果のある花弁を撒き散らし、しかもクロスロードに向けて一直線にやってくる桜型のドライアード群である。けん
花弁以外の攻撃といえば直進した結果の体当たりや踏みつけ。避ければ実害は無いように見えるが、仮にこれらがクロスロードに踏み入れば、その先には扉の園がある。どんな被害が出るかも恐ろしい。
従ってクロスロードとしてはこれを討伐し、少なくともクロスロードに到る分は排除しなければならないのである。
「これに加えて昨年は杉花粉ってのが混ざってたのか?」
「らしいな。くしゃみが止まらなくなる毒をばら撒くらしい」
「ひっどい話だねぇ。無差別にそう言うのをばら撒いて去っていくとは」
 一之瀬、マオウ、クセニアは集めた情報を前に呆れた言葉をこぼしていた。
「しかし物好きも居るもんだね。そんなので酒を作ろうだなんて」
「無機物系や種族的に酒に酔わないのも酔う酒ができあがるらしい。
 ざるや枠でも酔うとあっては需要もありそうだな」
 肩を竦めたクセニアにマオウが応じる。
「普通に酒に酔えるのは幸せって事かい?」
「どの世界にも酒はある。そう言う事だろう」
「で、二人はどうやって花弁集めるつもりなんだ?」
 大きめの袋を見せる一之瀬に二人は顔を見合わせる。
「こっちも容器は用意したがね。だがそんな袋じゃ戻ってくる前にこっちが酔っちまうんじゃないのかい?
 ガスマスクで防げるらしいんだが」
 クセニアは密封容器を取り出してマオウに視線を向ける。
「私も密封できるという「びにーるぶくろ」とやらを用意したがな。
 あとはバリア装置とやらと小鳥を一羽」
「小鳥? 何に使うんだ?」
 きょとんとする一之瀬に「鉱山じゃ普通にやることだぞ?」とマオウはしたり顔をする。
「小さい鳥は毒物に弱い、というより致死量が圧倒的に少ないから、こっちが手遅れになる前に気付けるという寸法だな」
 クセニアの説明に一之瀬は「へぇ」と鳥かごをつつく。
「なんにせよ、初見同士。量が多ければ多いほど良いって事だし、都合が合えば協力したい物だな」
 一之瀬の言葉に二人はさてどうした物かと思案する。
 果たして準備は充分だろうか。

 ◆◇◆◇◆◇

「ぬっふっふっふ。今年もこの天才美少女の出番っスね!」
 相変わらずわけのわからない自信を口から迸らせた少女が向かった先はサンロードリバーのほとりにある店。とらいあんぐるかーぺんたーずである。
『クネーッサン クネーッサン』
 いつもやかましい彼女ではあるが、今日はそれにも増してやかましい。
 というのも右手にぶら下げた大きめの鳥かごに、小鳥とはとても言い難いそれが居た。
 まぁ、ぶっちゃけオウムである。そして残念ながら毒を計る道具としてはいささか大きすぎるそれを手に彼女が店にたどり着くと

『しばらく休業します』

 という札がドアノブのところに掛かっていた。
「なん……だと……っス!」
 これまで行けば誰かが居るのが当たり前だった店にまさかの休業札。
 それをしばし見ていたトーマは天才的閃きを得て体をわなわなさせた。
「もしや……先に名案を思い付いて桜の花びらを……!」
『チゲーヨ、チゲーヨ』
 意外と的確な突っ込みを入れる鳥に「うっさい」と突っ込み一つ。
「そう言えばここの人たち全員副管理組合長だったんスよね」
 我にかえれば簡単な話だ。身バレした三人は当面のんびり店をやるというのは難しいだろう。礼儀知らずがどれだけ押し掛けてくるか分かった物ではない。
「むむ。管理組合のほうに行くべきっスかね?」
 かるーく門前払いを食らいそうである。
『クネーッサン クネーッサン』
 籠の中でわめきながらくるりくるりと器用に宙返りする鳥を横目に、途方に暮れる自称天才少女だった。

 ◆◇◆◇◆◇

「反応はどうかしらね」
 手にしているのは桜前線を探すために開発した装置。それを手にKe=iは適当に荒野をぶらついていた。
「おや、Ke=iさん。奇遇ですね」
 ぶらつくとはいえ、駆動機を持たないKe=iの移動範囲は他の徒歩のメンツとそう変わらない。その結果でくわしたのがヨンだった
「ヨンさんも桜前線探し?」
「痕跡でも無いかと思いましてね。
 とはいえ収穫なしなんですが。そちらもですか?」
「ええ。機械で探してみようかとおもってるんだけど、今のところ反応なしね」
「へぇ……でもそれ、100m以上先の物も探知できるんですか?」
 ……
 ……
「あ」
「あ、って。もしかして100mの壁の事忘れてました?」
 この世界では直接的な光と音以外は100mの壁と呼ばれる特殊なルールによって阻害される事は周知の事実である。彼女の持つセンサーもまた、その制約に引っかかり彼女から周囲100m程度しか実は探知していなかったりする。そしてそれならば先に視界に入ると言う物である。
「あ、あたしとした事が」
「ま、まぁ、どんまいですよ。
 ほら、残留物質を探査する機械だったら役に立ちそうですし」
「一応その機能は付けてるつもりなんだけど……花弁があれば目立つはずよね」
「はは、まぁ、私も何か策があってぶらついているわけではないのですが……
 しかし、そうですか。詰まる所この近くには桜前線そのものが着ていない可能性もありますね」
「毎年こっちに来てるんでしょ?
 前の大襲撃の影響でもあるのかしらね?」
 初めて怪物達がお世辞ではあるが戦術と呼べそうな物を発揮した戦いを指してKe=iは思案する。
「可能性で語ればあるにはあるんでしょうけど……
 地道に探すしかありませんかね」
「変な事になっていなきゃいいけど」

 Ke=iの言葉にヨンは小さく苦笑を零す。
 笑いごとでないのがこの世界なのだ。
 それを知っている吸血鬼は肩を竦めて周囲を良く見回すのだった。

*-*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*-
 というわけで第一回は状況説明がメインということで。
 クロスロード周辺にはどうやら桜前線が無い様子です。
 ではどこに?
 というわけで次回リアクションをお願いします。
『桜前線はいずこ?』
(2012/05/08)

やたら小鳥の声がやかましかった。
「毒には敏感って聞いたから、買ってみたけど役に立つのかな、これ?」
 そもそも酔わせるという妙な効果が毒かどうかも微妙だなぁと思いなおし、
「色々間違ってない?」
 と気付いてため息一つ。まぁ、完全に役に立たないと言う事は無いだろうがと、一之瀬は気楽に鳴く小鳥を見やった。
 それ以外にも色々と対策アイテムを買い込んできたものの、お目当てを発見できない状態では無用の長物と言う言葉のままである。
「……探す方法も用意しないとな」
ポツリ呟いて、一之瀬は無駄に晴れ渡った空を見上げるのだった。

 ◆◇◆◇◆

「狂人、なぁ……?」
 同じく桜前線の捜索をしていたチームの男は禿げあがった頭を撫でて眉根を寄せた。
「先の大襲撃の時にもそんな話はあったが、そいつは本当に居るのか?」
「ん……?」
 逆に問い返されてエディは同じく眉根を寄せる。
 思えば「狂人」という言葉。居る、居ると囁かれ、実際に管理組合の副長からもそれらしき人物(?)が存在しているような話はあった。
 だが、その姿を見たと言う話はてんで聞かない。あるとすれば南で目撃された超巨大な怪物がその狂人の手により想像されたらしいということのみだ。
「居るわけない、とは言わないさ。
 だが、どういうものかもよくわからない存在の痕跡と言われてもな」
 確かにその通りだろうとエディは男に軽く謝罪をして分かれ、次なる目的地へと向かった。
「あら、おひさしぶりですねぇ。
 コーヒー飲みますか?」
 カグラザカ新聞社。クロスロード創立以来あり、広く知られている会社である。
 今では新聞社を名乗る会社はいくつか他にも存在するが、スポーツ新聞並みのフランクさがウリのカグラザカ新聞に発行部数は遠く及ばない。クロスロードで「新聞」と言えばカグラザカ新聞を指すのは最早常識となっていた。
 そこの編集長にして社長の女性はにこやかな笑みでエディを迎えた。
「随分と勇名を馳せているようですねぇ。今度取材させてください」
「そういう性分じゃないさ。そういうのはヨンにでもやってくれ」
「あの人はゴシップネタの方が面白いんですよ」
 にこにこと酷い事を言いながら、できあいのコーヒーを差し出す。
「今回は……桜前線の件ですか?」
「ああ、何か聞いていないか?」
「聞いていませんね。ただ、少し前にサンロードリバーで花弁が流れるのを見たと言う噂はありましたけど」
「噂?」
「あのサイズの河川ですし、花弁は指先程度ですからね。
 別の何かと見間違えてもおかしくは無いでしょう?」
 確かにそれは無いとは言えない。しかし手がかりの全くない状況では一つの指針となるだろう。
「うふふ。情報料はいずれ頂きますね?」
「安くしてくれると助かる」
 さて、南へと探索に行こうと思っていたが、どうしたものか。

 ◆◇◆◇◆

(=ω=)
 ↑これが目の前にずんと鎮座している様は、何時見ても言葉に表し辛い感傷を覚える。
『Hi』
「なぁ、桜か杉を見なかったか?」
『ワタシ、ウゴケナイ』
「小さいやつらは?」
 マオウの問いかけに巨大ナニカは相変わらず体の表面でチビナニカを動かし、人文字ならぬナニカ文字を形成して器用に応じる。
『シラナイ ワカラナイ コムギコカナニカダ』
「分かりにくいネタはやめろ。
 で、そんだけチビをばら撒いてるのに、誰も見ていないのか?」
『チガウ 100m ハナレルト セイギョフノウ』
 100mの壁。それは巨大ナニカの子機とも言うべきナニカの制御をも狂わせる。
 彼の100m以内に戻れば再び制御は可能らしいが、そうでない限りはそこらを徘徊する怪物と何一つ変わらない。かつて大量に放出したチビナニカは、今も荒野を彷徨い、たまに遭遇した怪物や探索者に駆け寄っては自爆をするという非常に迷惑極まりない状態となっていた。
『タダ キタカラ モドッテキタ チビ ハ ミテナイ ト イッテイル』
「北か。確か本来のルートは南から北へと抜けるのだったな」
 マオウの言葉に巨大ナニカの=ω=が上下に揺れた。頷いたらしい。
「となれば、南の方なのかね、やっぱり」
 新暦も4年となるが、これまで毎年来ていたらしいのだから、今年になって北から来るということもなかなかに考えにくい。
 が、ないとも言えないのがこの未開の地の厄介なところだ。
「あ、こんなところに居た」
 不意に声を掛けられて振り返れば、ワイルドと言う言葉のに会う女が腰に手を当てて立っていた。
「確か……クセニアとか言ったか?」
「ああ、そうだよ。
 変なのと知り合いなんだねぇ」
『ヘンナノ トカ シツレイナ。
 アリガトゴザイマス』
「……? どういたしまして」
 どうして感謝されたのか分からないクセニアはきょとんとして応じる。
「俺に何か用か?」
「ああ、これだよこれ。面白い物を見つけてね」
 と、嬉々と取り出したのは透明な袋だった。
「なんだそれは?」
「ビニール袋だよ。すごいだろ? これでかなり丈夫なんだよ?」
「ふむ……」
 差し出されたそれを受け取ったマオウはそれを左右に引っ張って見るが、確かに見た目に反して丈夫だ。多少伸びて一部白くなったが性能に影響は無いようである。
「こいつの凄いところは網目がないから毒が漏れないことさ。
 一緒に売ってたこのジッパーで口を閉じてしまえば完璧らしいよ?」
「便利な代物もあるものだな。科学系世界の産物は時に高度なマジックアイテムよりも興味深い」
「確かにね。なんでもこんぴゅーたげーむとかいうのにはまった連中が家から出てこなくなったとか言う話しもあるらしいよ」
「呪われたのか?」
「そうかもしれないねぇ。怖い怖い」
『ソレ チガウ キガスル』
 と、突っ込みを入れている巨大ナニカだが、残念ながら音にならないために二人には気づかれない。
「で、何か情報は掴んだのかい?」
「北には目撃情報は無いということくらいか。
 どうしたものかな」
「アタシも調べては見たが、南の方を探しまわってる連中も見てないようだねぇ」
「となれば消去法では東西ということになるが……
 そもそも我々の探査圏内にまだないというオチはないだろうな?」
「それをアタシに言われても知らないよ。
 ともあれ、ある程度道具も揃えたし、探しに行かないとね」
「そうだな。
 ナニカよ、また会おう」
『ウム』
 ふたたび目と口が頷くように動いたのを見て、マオウはひとまず街へ戻るべく歩き始めた。

 ◆◇◆◇◆

『ハラヘッタゾフサエ』
「うるさい鳥っスね。今日の夕飯はチキンソテーにするっスよ?」
 トーマの脅しもなんのその。適当な言葉をくっちゃべり続ける鳥を横目に、トーマは出来上がった機械を眺め見た。
 見た目は、というか、出来上がったのはぶっちゃけ空気清浄機である。
 網目の細かいフィルタで花粉を捕まえてみようというのが試みである。
「よし、花粉を発見したら吸わせるから覚悟するっスよ」
『オマエモナー』
 とりあえず装置をかついだトーマが北へ南へと走って10時間。
「お、おかしいっス」
『ハラヘッタゾ フサエ』
 本当におなかがすいたらしくギャアギャアと暴れる鳥を恨めしげに睨み、それから自作の空気清浄機を睨む。
 結果は収穫ゼロ。つまりクロスロード周辺の空気にお目当ての花粉が無かったということになる。
「おかしいっスね。ホントにこのあたりに来ていないって事っスか?」
 なんともなしに再びとらいあんぐる・かーぺんたーず前に戻ってきたトーマは未だ掛かる「しばらくお休みします」の看板にため息一つ、店先に座り込んだ。
『ハ・ラ・ヘ・ッ・タ』
「ああ、分かったっスよ!
 あたしもいい加減疲れたからそろそろ……」

 ックシュン!

 不意に割り込んできたくしゃみ。鳥とトーマはお互いを見るが、どうやら違うらしい。

 ックシュン!

 再び聞こえたくしゃみは店の裏手から。
 ここトライアングル・カーペンターズの背後にはサンロードリバーがあり、夏は涼しげな風が吹くスポットなのだが、今の時期は夕暮れとも相まって随分と冷えを感じる。
 と、河童がやたらくしゃみをしているのを見た。
「どうしたっスか? 風邪ひいたっスか?」
 トーマの呼び掛けに河童は首をひねり、そのまままたクシャミひとつ。
「……気を付けるっスよ? 季節の変わり目っスからね」
 河童というのは見た目からして水生生物だが、風邪をひくのだなぁと感心しつつ、何か重大なことを見落としている気がしたトーマだが
『ハラ ハラ ヘッタ!!  ヘッタ!!』
 がしゃがしゃと檻を揺らす鳥に「ああ、煩いっスねえ! わかったっスよ!」と思考を中断させられたのだった。

 ◆◇◆◇◆

「ヨンや。最近躊躇がなくなっておらぬかや?」
 古風な姿を司書服で包んだ美しい女性がやや半眼でそう問うてくるので、ヨンはとりあえず小首をかしげる。
「どういう意味ですか。妖姫さん」
「嫉妬の神の一件から、女性に声を掛ける事に躊躇がなくなっておらぬかやと思うてのぅ」
「そんな事ありませんよ。私はいつも通りです」
「さすらば、やたら濃い緑の香りは何ぞ?」
「植物の事は植物に聞くのが一番と思いまして、森へ行ってきただけですよ」
 さらりと応じるヨンに、妖姫は小さく肩を竦めて先導に専念することとしたらしい。
「な、何かおかしなことを言ったでしょうか?」
「いや、何も。そこはまだらしいと言えばらしい」
 遠まわしに批難された気がしてヨンは慌てふためくが、結論を得られぬままに地下施設へと辿りついた。
「ここで待っておるよ」
「あ、はい。なるべく急ぎます」
「良い良い、ここらの本と久方ぶりに雑談でもしておく故」
 文車妖姫───書物の妖怪である彼女はアルカイックな笑みを浮かべ、無限にも見えるほどに並ぶ魔書の棚へと向き直った。
 それをしばらく見て、ヨンは研究施設と変貌した閲覧室へと足を踏み入れる。
 右も左も、あるいは上も下も分からなくなりそうな通路から一転し、研究所ちっくなリノリウムの床を行き辿りついたのはニギヤマと言う名の研究者が根城にしている部屋だ。
「居ますか?」
『『わーい♪』』
 声に応じたのは壮年の男の声でなく、ハモった幼女の声。
 ばんと扉が開いて飛びかかってきたのは、森に居た緑の少女を小さくしたような2人の幼女だ。
「やぁ、色男君。今日はどうしたんだい?
 娘をくださいとでも言いに来たのかい?」
「どういう冗談かは知らないですけど、違いますよ。
 桜前線に付いてです」
「ああ、今年はまだ現れていないそうだね」
「ええ。あれの花びらを欲しがっている人がいるんですが、どうにか再現できませんかね?」
 ニギヤマは無精ひげをなで、しばし黙考。
「あの子はできないと言ったかい?」
「はい」
「まぁ、そうだろうな。あれは怪物の体の一部だ。あれを再現できるとすればあの子が怪物化していると言う事になりかねない」
 怪物。この地に現れる異質な存在。
「あれを再現しようとするならばあれを解析しなければならない。
 しかし我々には言語と理解の壁がある。怪物の事は何一つわからない。我々が見て聞いて、我々の言語で近似値を指し示すほかないのだ。
 或いは理解せぬままに、ただ利用する事くらいしかね」
「……ええと、つまりできないと?」
「身も蓋もないね。まぁ、その通りだ」
 幼女に服やら腕やらを引っ張られつつヨンは開き直ったニギヤマを呆れたように見やった。
「ただ、まぁ毎年同じくらいの時期に同じように来る、数千ものドライアドが今年は来ないというのはどうにも解せない。数が減ったなら分かるんだがね」
「では、ルートを外れたと言う可能性は?」
「それもないと思っている。というのも彼らは恐らく『塔』に対する嗅覚をもっている。そして塔、つまりクロスロードを目指してやってくるんだよ」
「でも桜前線は通り過ぎますよ?」
「通り過ぎてもまた来る。南へは進めないという制約があるのかもしれないね。
 或いは動き続けなければ枯れてしまうとかね」
 故にまっすぐクロスロードを目指し、通り過ぎれば一周してくると言うのだろうか?
「まとめると、桜前線は来るはずだ。
 来ないとなると別の要因が働いている?」
「かもしれないね。流石にそこまでは私にもわからないよ」

 怪物の行動を操るとでも言うのだろうか?
 はて、最近そんな事があったような?

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
大変申し訳ありませんでした。
 GWに休みだった感覚がさっぱりなく、今も休みたいと嘆いているダメな神衣舞です。
 通常運行に戻りますので勘弁したってください。

 さて、では行くべき方向はだいたい予想が付いた事でしょうので次回リアクションをお願いします。
 今回一之瀬さんのシーンがやったら短かったですが、ある程度「どうしたい」を書かないと膨らませるのは難しかったりします。
 NPCリストなんかを見て聞けそうな人を探すとかいのはアリだと思いますよ〜
『桜前線はいずこ?』
(2012/05/23)

「ああ、ありますね」
 エディの訪問した先、施術院の受付のドライアドが思い出すように顎に指を当てる。
「暖かくなってきたせいか、酔っぱらって寝てる人がちらほら。
 でも確かに川沿いでそう言うのが多いらしいですよ。しかも本人は飲んでないとか言ってるとか。
 まぁ、普通に考えると酔っ払いの戯言でしょうけど」
「飲んでないのに酔っぱらったと、そう言っているやつが居たんだな?」
「はい、なにかありましたか?」
「ああ、どうやらあまり楽しくない事態のようだな」
 きょとんとするドライアドを見て、エディはしばし黙考。
 病院の元締めのようなこの施設には知っておいて貰っても損はまず無いだろう。
「浄水施設に入る方法を知っているか?」
「あれは管理組合の管理施設ですから、管理組合に掛け合うしかないと思います。
 それにしたって重要施設ですから、早々入れてもらえるとは思えませんけど」
「のっぴきならない状況らしいんでな。
 桜前線の桜が水に混入している可能性がある」
 エディの言葉を理解するまでに数秒。それから今しがた交わした会話を反芻したドライアドは「上と掛けあってみます」と席を立った。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「お前さん、ニュービーだろ?」
 機械製品を売っている店に顔を出し、訪ねた一之瀬への返答はそんな苦笑を含む言葉だった。
「いやまぁ、そうですけど……なんでそんな事言われなきゃいけないんだ?」
「レーダーなんてもんを探す奴なんてこの世界に来たばっかりのヤツしかありえないからさ」
 サイボーグの男は煙草をふかして肩を竦める。
「『100mの壁』。こいつを受け入れるのには科学世界の人間じゃちと時間が掛かる。
 俺だってそうだ。レーダーは元より無線も有線通信も100mという見えないラインから先、通じやしないんだからな。
 もっとも、魔法使い連中も同じく苦労はしているようだがな」
「……ああ、そんな単語ありましたねぇ」
 100mのラインを越えた先は五感的なな観測以外を完全に拒絶する。道具や魔術を介せば肉眼でも見える範囲を超えただけでその知覚は届かなくなるのである。
「もう少しマオウに色々聞いておけばよかったな」
 マテバを無意識にもてあそびながらため息一つ。
「他に探す方法か……やっぱり他の誰かに合流させてもらうべきかな」
 改めて自分のこの世界に対する不慣れを実感して周囲に視線を這わす。
「おや、あれは?」
 視線の先、おおよそ女性らしくなくずがずがと歩く姿は見覚えのあるものだった。
「クセニアさんだっけか。彼女も今回の件、参加してるんだっけか」
 ならば聞かぬは一生の恥。合流させてもらうのも手かなと一之瀬は店を離れてその背を追うのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「これはまた、壮観だな」
 それはある意味自然への冒涜、と言う感じの景色だった。
 大地は不自然なまでに隆起し、爆発の痕が散見される。それ以外にも抉られたような跡がいくつも地面に穴をあけていた。前衛芸術と言うにも難しい、きっとその芸術家が作品完成前にヒステリーを起こして滅茶苦茶にしたらこんなふうになるのだろうという光景がそこにあった。
「力が制限されるはずのこの地でここまでの魔術を扱えるか。
 なるほど、興味深い」
「これって魔法の仕業なのかい?
 凄いねぇ」
 後ろで眺めていたクセニアが呆れ半分で呟いた。
「こんな物の前に機械なんて何の役にも立ちそうにないじゃないか」
「それを言えば大迷宮都市にある機械は魔術では到底出せぬ射程と威力の砲を有しているではないか。
 誰かが言っていたな。魔術は限られた者の技術で、科学は汎用的な物であると」
「銃を握れば子供だって殺しができる、か。
 違いない」
 彼女は鼻で笑って視線を川へと移した。
「で、何があるっていうんだい?」
「川の水に異物が、桜とやらが発生させる効能と同じ現象を起こす何かが影響しているように思えるのだ。
 怪物による堰がこの先にあったのだろう?」
「……木材なら確かに堰には丁度好さそうだねぇ。
 しかし、そうなると俺たちの飲み水もやばいんじゃないかい?」
「浄水施設とやらでろ過しているのだそうだ。
 よほど優秀なのだな、その機構は」
 と、不意に視界がぐらり揺れたような気がしてクセニアは頭を振る。
「ん?」
「お前もか。マスクを付けた方がよさそうだな」
 急いでマスクを装着する2人。ここまで運んでくれた車の持ち主と話をしていた一之瀬もその様子を見て倣った。
「こりゃ、当たりかね」
「近づいてみるか?」
「水には近づかない方が良いとは言われたけどねぇ」
 クロスロード東西南北のうち未探索地域が多いのは東西である。
 それは当初、水の確保が安易と多くの者がそちら方面へと調査にでかけたものの、帰ってこなかった者が多数あった事に起因する。
 サンロードリバーには『水魔』が巣食っている。
 その噂と教訓を元に、東西の探索は避けられる傾向にあった。実際東西の砦も水辺ではなく、川から500mほど距離を置いて建設されている。
「遠巻きに視認できる距離ならば問題あるまい」
 行って先へと歩を進める。土壁群の間を行き、そうして開けた先には莫大な量の水が大地を浸して浚ったような跡が広がっていた。
「怪物なんか影も残っちゃいないね」
「普通は流されるだろうからな」
 サンロードリバーはその大きさ故に緩やかな流れに見えるが、その実秒間数万トン以上の水量を誇っている。
「でもアクアタウンとかいうのがクロスロード内の水底にあるんだろ?」
「……水底……」
 一番深いところで3百メートル以上あるという大河は微生物1つ存在しないとしても見通すに難しい。そして他の技術を用いても100mの壁がそれを拒んでしまう。
「潜るにはリスクが大きすぎる……か?」
「だろうねぇ。流石に帰れなくはなりたくない」
 水魔の噂を聞いて潜ろうとは流石に思えない。そんな装備も用意していない。
「どうしたものかねぇ」
 クセニアの言葉にマオウは瞼を落として思考を走らせるのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「あのドライアドって毎年同じのが着てるんでしょうかね?」
「渡り鳥研究みたいにタグでも付けてみればわかるだろうが、流石に毎年あの騒ぎだ。
 例えつけられてもその個体を再発見できなかったのか、倒されたのか判別付かないな」
 紫煙をくゆらせてニギヤマは苦笑する。
「だが、その可能性は非常にあると思うよ。
 この世界は惑星型であると予想されている。またあいつらはサンロードリバーを走って駆け抜けるからね。なんだかんだ相当の耐久性があると思っている」
「じゃあ北極とか南極があっても平気、と?」
「この星に海があるかどうか、また地球型世界のように両方の極が寒冷地であるかは不明だよ。だいたい東西南北も実のところ扉の塔の正面大扉が向いている方向を南と定めただけで、方位磁石が地磁気を正確にとらえているのかも不明だ。
 100mの壁があるからね。それは地磁気であっても同様に鑑みるべきだ」
「……そ、それは考えもしませんでした。
 しかし、それでは未探索地域をめぐっている人たちはどうやって方向を把握しているんですか?」
「PBだよ。100mの壁は個々の認識を狂わせるわけではない。
 つまりジャイロ機能が正常であれば自身が何万回回転しようとも、方向を判断する事は可能だ。
 実際このPBの多機能性には舌を巻くばかりだ。車で走ってもその移動距離を把握して現在位置をある程度の精度で教えてくれる」
 言われてヨンはPBをひと撫でした。確かに超優秀で凄いアイテムとは思っていたがそこまでの代物とは。
「しかし途中で力尽きたりしないんですかね?」
「それは愚問だよ。怪物が食料を必要としない事はすでに分かっていることだろう?
 でなければ大襲撃なんてクロスロードに到着する前に壊滅してるさ」
 そうだったと苦笑い。
「無論、毎度どこかで枯死し、新しく「もう一つの塔」から出現している可能性は否めない。が、それこそ一年がかりで追跡しなければ分からない事だね」
 視線を横に向ければスガワラ老は何も言わずにあごひげを撫でていた。同意見ということだろうか。
「怪物は不死ではないが、食糧も排泄も必要としないことから不老の属性を得ている可能性は前々から考えている。
 そうとすればあれは毎年繰り返しやってくる同じ個体なのかもしれないね。
 ただ、それだと数は減っていなければならないだろう」
「つまり、毎年同じ物が来つつ、さらに増えるか追加されている、と」
「予想でしかないが、それが一番理屈として合いそうだね。
 まぁ、観測できていない事象なんて箱の中の猫と変わりはしないが」
 ニギヤマの言葉になるほどとうなずき、ヨンは考える。
 さて、今の会話の中に何かヒントはあっただろうか?

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

『フサエ…ごはん…』
 鳥が力なくつぶやく。
 そんな言葉もどうやら耳に入っていない様子でトーマは浄化施設の扉につけられた「関係者以外立ち入り禁止」の札を見上げていた。
「水質検査をさせてもらいたいっスが……関係者誰っスか!?」
 がーっと騒ぐが、浄水施設のあるクロスロード東端は「端」ということもあり人の姿はまず見受けられない。
「っていうか、困った時のPBっスよ!
 ここに入る方法を教えるっス!」
『この施設は管理組合の管理施設です。関係者以外の立ち入りは禁止されており、また各種セキュリティが設置されているため、無断での侵入は命にかかわります』
「……おーけーおーけー」
 まぁまぁというジェスチャーをしながら少し離れてかいてもない汗を拭う。
「管理組合っスか。施術院の方にも協力してもらいたいし、頼みに行くっスかね」
「なんだ、お前も来ていたのか」
 と、背後に現れた気配と声に振り返ればエディと見知らぬ女性が2人、つれだって近づいてきた。
「エディさん……こんなところでデートっスか?
 しかも二人と!?」
「下らん冗談だ。ここにいると言う事はお前も同じ考えだろうに」
「はっ!? この天才と同じ結論に至ったというっスか!?」
「わかったから、とりあえず落ち着け。
 あとその鳥に餌をやってくれ。かなり不憫だぞ」
「おお、忘れていたっス!?
 このままだと動物愛護団体から吊るし上げられるところだったっスよ!?」
 いそいそとぽけっとからナッツを餌入れに放り込むと物凄い勢いで鳥はそれを齧り始めた。
「で、その二人は一体?」
「管理組合の職員と、施術院の職員だ。
 相変わらず行き当たりばったりだな」
「ふふ、天才は閃きでできてるっスよ」
「まぁ、去年はそれで色々助かったんだが。水質調査をするだろ?」
「そうっス!」
 エディがちらり背後を見やれば、管理組合の制服を着た女性が頷いてカギをあけ、中へと入る。それに二人が続くのを見てトーマはあわてて追いかけた。
「最初の濾過槽へ行きましょう。
 ……多分もう大丈夫でしょうし」
「嫌な言い方っスね!?
 何かあったっスか?」
「大襲撃の直後はスプラッタな光景が広がっていましたから」
 怪物でできた堰。それが崩壊して流された後にどこに達するかは言わずと知れる。
「……そ、そんな水を飲まされていたっスか?」
「浄水機能は正常に働いています。いつもと変わらぬ水質を保っている事は保証いたしますし、その際には特別に神聖術による浄化も施しました。
 おかげでケイオスタウンの方から若干クレームがありましたけど」
 そんな事を応じつつシステマチックな建物内を通りぬけた先、ある扉の前に付いた瞬間
『フサエっくしゅん!?』
 鳥が妙なくしゃみをした。
「……こいつは、当たりか」
「バリア無いなら貸すっスよ?」
 そんなやり取りの後、扉を開いた先にはピンクと黄色の混ざった光景が広がっていたのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
というわけで第三話です。
だいたいの状況はつかめたかと思います。
じゃあ、どうするか?
うひひ、さてついにあれをどうにかする日が来るのか。
Wktkしておりますのでくれぐれも安易な方法に走らぬようによろしくお願いします。
うひひひ
『桜前線はいずこに?』
(2012/06/07)

 皆がだいたい同じ結論に達した時。
 それは例年通りクロスロードへ向けて移動を再開していた。
 例外的な事に囚われても、そこから解き放たれれば、最早留まる理由は無い。
 それは、動き続けていた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「ドライアド種は複数目撃されていますよ。
 ただ、『桜』があったかと言うとどうとも言えませんね」
 ヨンがウロウロして聞きまわった結果はだいたいこんな感じだった。
「大襲撃は冬でしたからね……。まだ桜じゃなかったのかもしれませんね。
 しかし、桜前線がなくなる道理がないとするならば、何もせずに居てもクロスロードに来るのだろうか?
「……うーん、要は待っていればいいってことなのでしょうか。
いや、何も準備せずに待ってたら不味いか」
 呟きながら戻ってきたクロスロード。目的は保身のためにも昨年実用的だったバリアシステムがもらえればと思ってトーマを探している所だった。
 噂によると、浄水施設を目指していたとの事だったので、そちらに向かっているのだが。
「ち、仕切り直しだな」
 丁度浄水施設前に辿りついた時、中からガスマスクを装着した一団が出て来た。
 マスクのせいでくぐもってはいるが、聞き覚えのある声にヨンが視線を向けると
『フサエーーーっくしゅん!』
 やたら甲高い声とくしゃみにぎょっとしつつ、それの発生源が探していた少女であると見止めた。ついでに最初に出て来たマスクの男はエディらしい。
「どうしたんですか、こんなところで?」
「ん? ああ、ヨンか。お前もここを怪しんだのか?」
「え? いや、トーマさんにバリアを貰おうと思いまして。
 しかし、やたら変な声出していましたが。風邪か何かですか?」
「え? 違うっスよ。こいつっス」
 胸ぽけっとから首根っこを掴んで引っ張り出された鳥がうっとうしそうにばさばさと羽ばたき、がじがじと手を噛むので「何するっスか!」とブン投げると、鳥は器用に体勢を立て直し、くるくると旋回してトーマの頭に着地。
『フサエー』
「妙な鳴き声ですね」
「もう気にしちゃだめっスよ。それで、この天才が作ったバリアを御所望っスか?」
「ええ。ですが、何かあったのですか?」
「なにもかにも、浄水施設の濾過槽がえらい事になってるっスよ。
 体勢を立て直して再調査するつもりっスけど」
「花粉やら花弁が大量に引っかかってたんだよ。
 こりゃぁ、やっこさんら、水没でもしてるのかね」
 肩を竦めるエディは鳥と喧嘩するトーマへ向き直ると
「トーマ、撮影機材とかあるか?
 ここまで来ると専門家に出張ってもらわないとだめだろ」
「用意できるっスよ。って、コラ、噛むなっス! 餌やるからっ!」
「もう一回中に入るんですか?」
「ああ、二度手間になるしな。
 花粉で対策が作れれば万々歳なんだが」
「どうでしょうか。採取だけなら去年も出来ていたと思うのですが」
 ヨンの疑問に見知らぬ女性───施療院のスタッフがひとつ頷いた。
「対策その物は簡単です。
 マスクで防げるのですから、浄化系の魔術で状態異常を解除したり、バリアや風の結界術、祓えや禊などで排除する事は可能なのです。
 同時に対象を限定した耐性薬を飲んでいれば抵抗は可能なようですし」
「でもあれ、お酒に酔わない機械系も酩酊していませんでしたっけ?」
「そこが勘違いの元でしたね。
 機械系の方はお酒には確かに酔いませんが、酩酊状態に類似する状況にはなりえるのです。あれは「そう言う状態にする」能力で、お酒による酩酊と考えてはいけなかったのです」
「……じゃあ、バリアはもう役立たずっスか?」
「いえ、新型にはやはり対応できませんから、物理的に防ぐ方法は継続して有効と思います」
「さっすがはあたしっスね!」
 薄い胸を張るトーマはさておき。
「ヨン、お前はどうするんだ?」
「もう少し独自に調べてみますよ。
 といっても、だいたい見えてきましたけどね」
「見えたにしても、どう相手にしたもんかね」
 二人はサンロードリバーを眺めながら思案する。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「水のひとつも持って帰らないのかい?」
「近づけばロクなことにならんらしい」
 マオウがそっけなく応じ、クセニアは鼻を鳴らした。
「まぁ、今PBから話を聞いたけど、積極的に近付きたいとは確かに思わないね」
 原因不明の消失なんてまっぴらごめんである。
「しかし、どうするんだい? そんな物騒な所を調査何てできないだろ?」
「だが、やらんわけにはいかんだろうよ」
 二人は一旦さらに上流まで行ってクロスロードに戻ってきていた。
 堰があったという場所よりもさらに東。そこではかりながら川に近づき、確かめた結果、酩酊やくしゃみといった症状はどうやらなさそうであった。
「堰のあたりが怪しいって事は分かったんだ。
 そうなればあとは管理組合あたりに任せるしかあるまい」
「まぁ、そうなるかねぇ」
「おーい! クセニアさーん!」
 不意に、呼びかける声。
 振り返ればどこかで見た覚えのある青年がこちらへと近づいてきていた。
「一之瀬とか言ったか」
「ええ、そうです。
 お二人も桜前線の事調べてるんですよね?」
「ああ? そうだけど?」
 だからなんだとばかりの答え方に一之瀬は若干頬をひきつらせつつも
「不案内で困ってるんですよ。色々と役に立つので混ぜてもらえませんか?」と尋ねた。
「俺は構わないと思うぞ。今からとにかく人手が必要だろうしな」
「管理組合から募集が入りそうな勢いだろうけどね。
 正体不明の水魔と戦えっていうのは気乗りしないけど」
 クセニアの言葉の意味を理解できない一之瀬は首をかしげ、PBから伝えられる「水魔」の意味を知ってきょとんとする。
「桜前線探してるんですよね?」
「ああ、そいつが水の中にいるようでね。確証は無いからまずは調査になるが……、
 流石に何十人も行方不明になってるところに三人で突っ込む気にはならないだろ?」
 マオウに言われてそれはうなずくしかない。
「ともかく管理組合と、依頼人のところに出向くか。
 簡単な話じゃなくなりつつあるな」
 マオウの言葉は的確だった。

 一日を置いて、管理組合はサンロードリバー上流の水底調査の実施を決定。
 その対応者を募集し始めるのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
今回はあんまり進展はしなかった感じですか。
 各位推論を固めた感じの展開となっています。
 さて次回は管理組合寄り水底調査の依頼が発令されます。
 うひひ。どう対応するかはもちろん自由です。
『桜前線はいずこに?』
(2012/06/20)

「それは……困りましたね」
 ヨンの説明を聞いた後、アースはしばらく黙りこくった後、そう呟いた。
「ええ。水中から来るとなると対処が難しく……」
「いえ、そこはあまり心配して居ません。
 最悪クロスロード直前まで誘いこめばアクアタウンの戦力を中心に撃退作戦を立てる事が出来ますから」
「……そんなものなんですか?」
「桜前線は水生生物ではありません。動きが制限された相手ならどうとでもなります。
 状態異常についても対策は明確になっていますしね」
「そうすると……困ったとは?」
「それ以外の要因です。
 『水魔』はご存知ですね?」
「ええ、話だけならば」
「あれは実在します」
 アースの言葉は深刻な表情を伴っていた。
「未だ目撃情報の無い怪物と聞いていましたが」
「ええ。恐らく私が唯一の目撃者で生存者でしょう。
 そして生き残れたが故に私は東側を任されています。
 本来ならば東西は水の精霊でもあるスーと、氷を扱うイルフィナが担当すべきなのです」
 確かに言われて見ればそうだ。そして一瞬でゴーレムを大量生成し、壁を構築するアースは南側の方がふさわしい様に思える。
「土剋水。あれと遭遇した私は一も二も無く逃げを選択しました。
 方法は単純。地面に潜ったのです」
「それで、生き残ったと?」
「単純な話ではありません。全魔力を注いで硬化させた土がほぼすべて浚われたのですから。
 紙一重だったと思います」
 彼女は窓の外へと視線を向けた。莫大な水量を静かに流していく大河の姿がそこにある。
「その後に私は五行術を修め、かつてほどの醜態を晒さない自信こそありますが、歯向かえるとは未だに思えません」
「……それほどですか?」
「フィールドモンスターには特別効果の高い世界制御が伴います。
 これまでの消失例からして水魔の持つフィールド効果は『浚う』或は『引きずり込む』類だと推測しています。
 私が無事だったのは土により水の力が多少なりに弱まった事もありますが、地中と言う場所が元よりそのフィールドの外に位置したからでしょう」
「つまりそれは……防げない、ということですか?」
「端的に言えば。
 あるいは最初から水中に居るならば、この効果からは逃れられるかもしれません」
 だが、その先がある。
「ミラージュドラゴン、ロックゴーレム、ジャイアントアントイータ……
 そのどれもが独力、或いは少数で立ち向かうには非常に難しい相手です。
 その上そこは相手の独壇場と言うべき場所なのです」
多くの来訪者は水中で生活できるようにはできていない。
仮に水中で活動できたとしても視界は通らず、音は届かず、100mの距離があけば通信機器にも頼れない水中での戦いは集団戦闘を成立させてはくれない。
「桜前線だけがクロスロードに接近するのであれば、管理組合は有志を募り、これを撃滅するでしょう。
 しかし、罷り間違って『水魔』をクロスロードに誘因してしまうと……」
「クロスロードがえぐり取られる、ですか?」
「否定はできません」
 新たな救世主、英雄と謳われる女性の真剣な言葉にヨンは改めて戦慄する。
「って、確か水底調査しようとしている連中が居た気が……!」
「なんですって!? すぐに止めます!」
 職員を呼び出したアースは手早く調査をしようとしている探索者が居れば中止するようにと伝え、走らせる。
「……でも、このまま放っておいてもし……来てしまったら?」
「……対策が全くないわけではないのです」
 アースは視線を戻す。
「非常に困難ではありますが」
「教えてもらっても良いですか?」
 逡巡。確かにその時間を置いて彼女は応える。
「クロスロードの水神。
 インスマ‘s達が奉じるその存在が助力をしてくれるのであれば、勝機は充分にあるでしょう」
 その言葉に、ヨンは訝しげに眉根を寄せたのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「それじゃ調査開始っス!」
 潜水服に身を包んだ貧相な……慎ましやかなボディの少女は日の光に『ニンギョノトイキ』を掲げる。
「センスイカンとか言う乗り物はないのか?」
「流石に用意できないっスよ。
 ある程度の出力が無いと流されるっス」
 はたから見れば穏やかな流れも実際そこに身を浸して見れば物凄い速度で流されることになる。
「潜水服ならあるっスよ」
「いや、そいつでも流されるだろうに」
 マオウが呆れたようにツッコむ。
「ただ沈んで帰ってくるだけならロープつないでおけば大丈夫っスよ。
 やったら丈夫な紐も簡単に買えるっス」
 宇宙開拓時代世界ともなれば冗談のように丈夫で切れない繊維は少なからずある。
 それをしっかり潜水服につないだトーマがバリアを起動させた。
「何かあったら空から知らせるさ。
 そんときは引きずり挙げてやれば良いんじゃないかね」
 クセニアが気楽そうに言うと、エディが紐を引っ張って見せて
「釣りみたく、気付けば取られたなんてことがなけりゃ良いがな」
「ちょ、今から潜るっていうのに不吉な事言わないで欲しいっスよ!
 フラグ・ダメ・ゼッタイ!」
 腕をバタバタさせて怒るトーマにエディは悪い悪いと肩を竦めて見せた。
「しかし水深は数百メートル。
 そう言う事があってもおかしくは無いし、俺たちは気付けない。
 本気で行くのか?」
「調べない事には始まらないっスよ」
「それはそうだがな」
 胸騒ぎというべきか、そんな説明のしづらい物を強硬に主張すべきか。
 そう迷ったところで何者かが声をかけてきた。
「おーい。そこから離れてくださいー!」
「ん? ありゃ、管理組合の制服だね」
 飛行状態のクセニアが目を凝らして確認した。
「知らないんですか? 水辺は危険なんですよ!?」
「そう言っても調べないとどうなってるかもわからないっスよ?」
「分かったところで帰ってこなきゃ同じです。
 対策を検討中ですから、少なくとも東砦より東側でサンロードリバーに近付くのは避けてください。
 本気で心配している口ぶりに一同は顔を見合わせ、事前の情報とも照らし合わせて頷きを返さざるを得なかった。
 そうして水辺から離れはじめて────
「何事も無くて良かったですよ。それじゃ……」

 と。

 不意に響き渡ったのは大気を奮わせる凄まじい轟音。
 まるでその音に内臓を殴られるようにも感じ、一同は体勢を崩した。
「ま、まさか!?
 は、走ってください! 早く!!」
 二も無く走り出した管理組合員に全員泡を食って追走。それと同時に空に雲がさしたかのように世界が暗くなる。
「って水っ?!」
 飛行状態にあったクセニアが振り返って息を飲む。
 そこにあったのは巨大な水の壁。それはサンロードリバーの流れを完全に無視し、あからさまに彼らの方へその面を向けてそそり立っていた。
 そして、それは見る間に崩れる。
「つ、津波が来るよ!?」
「ちょ、待つっス?! こんなの聞いてないっスよ!?」
「聞いてたら近寄っちゃいねえよ!
 とにかく走れ!!」
 エディが叱咤し、マオウが苦笑いを浮かべてただ走る。
 あまりにも長く、短い数秒。
 エディは舌打ち一つ、トーマの首根っこをつかんで抱き上げ、更に速度を挙げる。
「す、すまねえっス」
「黙ってろ!!」
 そうして彼らの背を襲ったのは莫大な衝撃。
 水の壁が崩れ、叩きつけられた衝撃が大気を打って間接的に襲いかかってきたのである。
 上も下も分からない状態で吹き飛ばされ、気付けば全員地面に転がっていた。
「無事か?」
 身を起こしたマオウの問いかけにクセニアが億劫そうにひらひらと右腕だけ挙げて応じたる。
「こ、幸運ですよ。
 多分2例目じゃないですかね……」
 泥まみれになって転がっていた管理組合員がぼそりと呟いた。
「何がだ?」
「『水魔』から逃れた人です。アース様が唯一の逃亡例だったはずですよ。
 しかも何が起きたかはっきり確認したのは初めてかも」
 身を起こしたトーマがサンロードリバーへと視線を向ければ地面が盛大にぬかるんでいる以外、大きな変化が見られない。これも一日もすれば乾いて元通りになってしまうのだろう。
「とんでもないものが居るってのはわかったっスよ。
 でも、これ、どうやって調査するっスか?
 100人集めても一瞬っスよ?」
「それを今から考えるのか。頭が痛くなりそうだね」
 クセニアの言葉が空に溶け、皆沈黙のうちに思考を巡らせる。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 あれほど近づいちゃ危ないって言ったのに☆
 というわえであと2回くらいで週末に持っていければと思います。
 果たして桜前線はいまいずこに?
 そして水魔をどうするか
 ではリアクションをお願いします。
『桜前線はいずこに?』
(2012/07/05)
「あー、あれね」
 ここは純白の酒場。最近では珍しく店に居たフィルが食器を磨きながら天井を見やった。
「確かに『水魔』に単体で対抗できる存在の1つとは思うんだけど……
 あれに頼むのは至難の業と思うわよ」
「随分とはぐらかすな。それほどに気難しい存在なのか?」
「気難しいと言うか、あたしたちと根本的にあり方が異なる存在なのよ。
 あたしたちは基本的に『異世界人』同士だけど、なんというか……あたしたちの世界は平原に転がる石コロのようなものとするわね。
同じ平原上にあるから、石から石へ渡る方法さえ得てしまえば行き来は基本的に可能なの」
普通は無理だろうがなと心の中で突っ込みを入れる。
「で、『平原にある石』は空を飛ばないし、石という固有の、そして似通った物質よね。
 だからだいたいは相互の世界を理解できるの」
 すらすらと語られる微妙な例えに眉根を顰めながらも続きに耳を傾ける。
「でもあれはそことはどこか一線を画した世界からの来訪者だと思うわ。
 言葉では表現できない異質なズレた世界の存在。基本的にそう言う存在って扉が繋がっていないって理論があるんだけど、あの一派だけは例外のようね」
「全ての世界につながっているのではなかったのか?」
「大気に鉱物が満ちていて、地面に冷たい炎が敷き詰められてるような世界の存在はどうやったって『平原の石ころ』の世界では生きていけないわ。生きるという概念そのものが異なっているかもしれないけど」
「あー。魚は陸じゃ窒息死するって事で良いか?」
 エディの言葉にフィルは一瞬きょとんとし、「ああ、うん。それでいいわ」とうなずく。
「でも肺魚みたいなのが極稀に存在しうるのよ。あれはその例外中の例外の1つね。
 統一言語の加護を正しく受けているかも不明。インスマ‘s達とは意思疎通ができるらしいから、無効とは思っていないんだけど」
「見た事はあるのか?」
「正直ないわ。多分まともに面会した人って居ないんじゃないかしら?
 アクアタウンの人達も「触らずの神」なんて言い方してるし」
「まるで今問題になっている「水魔」だな」
「うん。同じ存在じゃないかしらね」
 さらりと返されてエディは飲み物を喉に詰まらせる。
「げほっ?! なっ!?」
「アースさんから聞いた話と各種文献を精査した結果、水神と水魔の在り方が非常に酷似しているというのが管理組合の暫定回答よ。
 だからこそ「水神」にはなるべく穏便にクロスロードに居てもらいたいのだけど」
「そこまで言うのなら、明確な回答があるんじゃないのか?」
「ええ、あるわ。あるにはあるんだけど……ハッキリ言ってほとんどの文献において『それ』は神々すら越える超越者扱いされているわ、対処法がなかったりでどうしたものかと思ってるのよね」
「……聞かなきゃ良かったと思っているわけだが?」
「でもこの世界にある以上、一応は『ルール』の適用内にあるとも考えられるの」
「……ああ、力が制限されたりするっていうアレか?」
「ええ。あと水魔の方があくまでフィールドモンスターとするならば、それはその怪物を模した存在であるだけで、対処不能な不死性なんかは持っていないと思うの」
「……で、その水神とやらとは結局交渉可能なのか?」
「交渉はどうでしょうね。
 でも希う事は可能だと思うわ。なにしろクロスロードでも珍しい「神」の属性を再び持ちえた存在だもの」
『異世界における神族級の来訪者はそのほとんどの力を封印する事がこの世界に至る条件とされています。その後に何らかの方法で多くの信仰を集めた場合、再び神としての十全の力を取り戻す事例が確認されています』
 言葉の意味が分からずになお一層眉根を顰めたエディにPBが注釈を入れる。
『また、力を封ぜぬままにただこの世界の観測者として来訪した神も存在しては居ます。
 彼らの場合には座した場所から動く事ができないそうです』
「確か町の端っこにはやばいのがごろごろしていると言うアレか」
 クロスロードの外延部には踏み込むと警告が発せられる区域がある。これは立ち入り禁止ではなく、立ち入ると死に至る可能性があるからだ。
 例えば中立の存在である人間が強力な神気や瘴気に晒されれば魂ごと吹き飛ばされるのがオチだ。酸の水もアルカリの水も一定のラインを越えれば人体には耐えられないというところか。
「そう言う意味でも水神の祭司たるインスマ‘sと交渉するのが一番早いかもね」
「確かヨンのやつが向かっていたな。
 俺も顔を出してみるか」
 PBで支払いを済ませたエディはそう呟いて店を出るのだった。

 ◆◇◆◇◆◇

「あれ、どの程度近づいたら巻き込まれるかとか、分からないのかい?」
「正確なデータはありませんね。だから暫定的に東西砦よりもクロスロードから見て反対側に出た場合、サンロードリバーから500mの距離まで近づくと警告がPBから発せられるようになっています」
 管理組合員の言葉にクセニアはついでにと採取してきた水を詰めた瓶を揺らす。
「そいやぁ、水中に居ればあれの効果を防げる可能性があるとか。そんな事は無いのかい?」
「仮に引きずり込みの範囲外としても、水中の根城にするフィールドモンスターの懐ですよ? 死に行くようなものです」
 そう言われてしまえば口ごもるしかない。
 水中で飛行術を使い、ある程度の移動ができるとは考えているが、相手の速度も分からないのだから何の安心にもならない。何よりも五感のほとんどを封じられる水中でどれだけ立ち回れると言うのか。
「やっぱり無謀かね」
「無謀ですね。水魔を対峙する事があるとすれば、なんとか場所を特定しての遠距離砲撃戦だと管理組合では想定しています」
「それだって水に当たれば威力が減衰すると思うんだが」
「手数でカバーというところですかね。水の中に入るよりも万倍マシです」
「じゃあ、アンカーを打って近づくとか?
 ほら、ゴーレムなんかだと地面にくっついたまま移動とかできないのかね?」
「叩きつけただけで体の中ぐちゃぐちゃにされそうな衝撃をまき散らす水量が相手ですよ?
 それこそ丘1つをゴーレムにするくらいの質量が無ければ一発で浚われますし、そうとしても人型ならばひとたまりもないでしょう。
 戦車型などの低重心であればまだ抵抗はできるかもしれませんが、相手はあれを何度でも繰り返せるかもしれない。
 時間の問題と言うやつですよ」
「……やってみてから考えてみねえのか?」
「やってみようにもそれほどのゴーレムを作れる人と言えばアース様くらいでしょうね。
 あの人に頼んでみます?」
「できるのかい?」
「出来はしますが、受けてもらえるかは謎です。
 無意味とも思いますし。耐えただけでは何の意味もないですから」
 そこまで言われると閉口せざるを得ない。
「管理組合では来訪者の皆さまの意見にフィルタはかけてはいません。よっぽど多く、収拾がつかない場合は仕方ありませんが」
「しかし、水魔は桜前線の影響を受けないものなのか?」
 今の今まで話しを聞くだけに留めていたマオウの言葉に管理組合員は少しだけ口ごもり
「強大な怪物の中にはバッドステータスとまとめ称される効果を一切受けない者も居ます。
 フィールドモンスターとなると、そういう能力を持っていてもおかしくありません」
「なるほど、あるいは混乱しての所業かとも思ったが……」
「可能性がないとは言い難いですけどね。
 確かめる術もありません」
 元々の状態を知らないのだ。それが通常か異常かなど判断のしようがなかった。
「隙の一つでも見つけなければ近づくことすらできそうにないのだがな」
「水中に適した者の助力でも求めるかい?」
 クセニアの言葉にマオウは思考を巡らせる。
「何にせよ、あんな規格外をなんとかするのは数の暴力に訴えるべきだろうがな」
 それを揃えると言うならば管理組合の領分だろうか。
 マオウは視線の先にある川の流れを見やり、次の行動を模索する。


 ◆◇◆◇◆◇

「いんすますだぁ?
 ああ、よう知っとるよぉ。いっぱいいるしなぁ」
 きゅうりをぽりぽり齧りながら河童は大きくうなずく。
「いっぱい、ですか?」
「んだ。アクアタウンの半分くらいの多さだ。
 あいつらアクアタウンには住んでねえけっど」
「そうなんですか?」
「んだぁ。自分たちの集落を別に持ってるだ。
 そしてアクアタウンの者でもまず近寄らない場所だぁ」
「どうしてですか?」
「おっかねぇからだぁ。怖い神様だよ」
「その神様にお願いしたい事があるんですけどね……」
「んー。インスマ‘sたちがどう扱ってくれるか次第じゃねえかなぁ」
 と、くりんと河童が視線を動かした先、川面からいくつかの視線がこちらを見ていた。哺乳類系からはどこか離れた、のっぺりとした顔。ぎょろりとした目がこちらを見ていた。
「私の目的、知られてる……?」
「かもしれねえだ。水辺の音はみんなみんな知ってるだよ」
「ならば話は早いかもしれませんね」
 ここで臆しても仕方ないとヨンは向けられる視線に真っ向から受けて立つ。
「すみません。水魔対峙を水神に協力願いたいのです。
 仲介頂けませんか?」
 その言葉に水面に出ている顔達はぐりんぐりんと目玉を動かしてから、まるで1つの生物のように一斉に頷きのようなものを見せた」
『ワレラガカミ、カノモノウツ、タスケトナラン』
 そして水そのものが音を発するようなどこか非現実な声音が響いたかと思うと、その顔はあっという間に水面に消えてしまった。
「……案外あっけないですね」
「その気だったんじゃねえかなぁ」
 元々の予定通りとすれば水神にとっては便乗すべき作戦ということだろうか。
「しかし、作戦もあったものじゃないですね。
 我々は水神とやらの行動に何時でも呼応できるようにしておかねば、と言ったところでしょうか」
「同士ヨンさんを発見っスよ!」
 と、不意の言葉に振り返ればトーマがこちらへと駆け寄ってきていた。
「ヨンさん、ヒーローの出番っス!」
「いきなりですね。どうしたのですか?」
「かくかくしかじかっス!」
「いや、分からないから説明してください」
 なんでわからないのこいつ? みたいな顔するトーマにヨンはあきれ顔を見せながらも説明を要求する。
 ならばと始まるやたら長く無駄にスペクタルな話から要点だけ抜粋し
「つまり、水魔をヒーローで倒そうと?」
「むしろヒーローだからこそ立ち向かわねばならないっス!」
 そこを否定するつもりは無い。クロスロード主軸で本格的に人集めをするのであればそこに参加するのはやぶさかではなかった。
「ただ、うちだけで突貫するのは流石に危険ですね。
「危険には飛び込んで食い破るべきっス!
 ヒーローであるが故にっ!」
 どちらかと言うと科学者サイドの少女の発言にヨンはさらに困ったと視線を彷徨わせる。
「ともかく主張はわかりました。善処しましょう。
 まずは呼集すべきですかね」
「応っス!」
 その言葉に合わせるように水面がどんと跳ねた。
 それは奇妙な光景。まるで水面を太鼓のように叩いたかのような余りにも規模がでかい不思議な光景に皆が一様に口ごもり、その先を見た。
『ワレラガカミ ウゴケリ』
「行動早いですね!?
 まだこっちの準備が出来ていませんよ!?」
 にゅと近くに顔を出したインスマ‘sの言葉にヨンは慌てて立ちあがるとこの事を伝えるべく、管理組合へと走るのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、クロスロードが誇る隠しボス3体のうちの1つが動きます。
次回怪獣大決戦。
それまでにやるべき事はありますか?
ま、何もしないと……うひひ。
ではリアクションよろしゅう。
『桜前線はいずこに?』
(2012/08/01)
『今!クロスロードに許容せざる巨悪が東から迫っている!
 立てよヒーロー!呼べよ嵐!
 水の神の加護を得て、クロスロード市民を護るのだ!!!!』

 黒の戦闘服に頭の先まで包んだ男が声を張り上げる。
 その前に集まる者達も色とりどり、装飾色々だが、ある共通点を持っている。

 Vことヨンが統括するヒーロー集団HOCの面々である。なんだかんだで設立当初より数は増えているようだ。

「我々の目的は迫りくる桜前線の撃退となる!」
「リーダー! 水魔ではないのですか!?」
 一人のヒーローが異議ありと声を荒げる。
「そうだ、俺達は巨大な悪に立ち向かうためにここに居る!
 水魔に当たるべきだ!」

「貴様らは何だ!?」

 対するはVの一喝。
「ヒーローとは何か?!
 悪を倒す者? 確かにそれは正しい!
 だが、何のために悪を倒す!」
「正義のためだ」
「その正義とは何だ?
 悪に苦しむ力なき者達を護る事ではないのか!?
 ならば巨悪を討つのも必要だろう。しかし、そのために小さな悪を全て見過ごすと言うのか!?」
 反論したヒーロー達はぐと喉を鳴らす。
「全ての桜前線を退けた後、無論我々は水魔に対し全力を尽くしこれを討たねばならない!
 しかしその前に為すべき事を為さねば、我々は単なる自己満足の集団に成り下がってしまう!
 それが正義か? ヒーローの行いか?!」
 どーんと指差し言われたヒーローがおもむろにがくりと膝を付き
「そ、その通りだリーダー……俺が間違っていた……!
 民を護らずして何がヒーローだ!? 俺はこの血の一滴までもが尽きようとも、正義を貫くぜ!」
『うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!』

「あいつら、幸せそうだな」
 とまぁ、そんな光景を遠目に見ていたマオウが呆れ気味につぶやく。
 元々は世界を恐怖に陥れた魔王の身であるが故に、ああいう手合いは見飽きたと思っていたのだが、また別の視点で見ると色々と趣深くもある。まぁ、すぐに呆れてしまったが。
「しかし正義とは悪よりも狂信的な言葉だな。勝てもしない相手に次から次に挑みかかってきた理由がわかろうと言う物だ」
 しかし、そんな自身も今は異世界の地にある。それが意味する事は狂信が力を上回ったと言う事だろうか。
「さて」
 用意した双眼鏡を手に川を眺める。
 彼のプランとしてはあの連中に紛れこみながらも桜の生木を得るタイミングをうかがうつもりだ。元々の依頼は花弁の回収なのだから当然だろう。
「その前にやる事をやらんとな」
 ポケットから取り出したの種の詰まった袋だ。これは前回の怪物によるダムに対し考案された植物である。
「こいつをばら撒いて万が一に備える……か。
 どっちかというと壁を作っておこうかって感じだけどな」
 適当にそこらに種を放り投げていく。水を得ると急速に成長し、その実に莫大な水を貯める性質を持つのだと言う。とはいえ、サンロードリバーを起点とする洪水にどこまでの効果があるかは謎だが、無いよりましと思うべきだろう。
「さて、でかいイベントだ。見ておかねばな」
 繰り広げられるのはこの滅茶苦茶な世界でもさらに滅茶苦茶な戦いだろう。
 マオウはにぃと口の端を上げてクロスロードからゆっくりと迫りくる巨大ななにかを見やるのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「良いにゃよ」
 知り合いかどうかは問わずにとりあえず片っ端からエンチャンターに声を掛ける!
 他力本願全開で決意したトーマが最初に突っ走ったのはこれまで何度か訪れた事のあるとらいあんぐる・かーぺんたーずであった。というのも科学機械系技術専門の彼女にとって真っ先に思いつくのがここだけだったと言うだけだが。
 居ないかもなぁとも思いながらやってきた店は普通に開店しており、奥では猫娘が一人、彫金をしている最中だった。
「え? マジっスか?」
「嘘って言ってほしいの?」
「そんな事はないっスけど、上手く行きすぎと言うか……」
「水魔とやり合う話は聞いているにゃよ。あれと本気でやり合うつもりだったらエンチャントなんて正直洪水の前に立てた和紙みたいなものにゃけどね」
 さらりと言われて「あれ? それ、無意味じゃないっスか?」と目を丸くする。
「気休めにはなるにゃよ?」
「いやいや、実用的なのをお願いしたいっス!」
「って言われてもねぇ。確かに土属性や火属性を付加すれば水属性の威力を減衰させる事は可能にゃよ?
 でも、水が持つ莫大な質量と運動エネルギーが消えるわけじゃないにゃ。水そのものが消えるわけじゃないんだから」
「あー……」
 つまり仮に水の攻撃を無効にする装備を整えたとしても、洪水に飲まれる事は避けられないと言う事だ」
「水を一瞬で蒸発させるとかできないのかい?」
 カウベルの音と共に入ってきたクセニアにアルカは「いらっしゃい」と声を掛けた後
「水蒸気爆発で吹き飛びたければ作るけど?」
「……か、科学系の返しを先に魔法使いにされると悔しいっスね」
 トーマが勝手に謎の敗北感を得る。
 莫大な水を一瞬で蒸発させれば水蒸気への状態変化により水は体積を増大させる。その勢いは軽く人を肉屑に変えかねない。
「う、うぐぐ。ヨンさんに任せろと言った手前、手ぶらで帰るわけには……!」
「っていうか、洪水に対処したいんだよねぇ?」
「そうっス!」
「じゃあ飛べば?」
 ・・・・・・
「へ?」
「別に受けなくていいじゃん。飛べば」
「い、いやいやいや。そんな、えっと、ほ、ほら飛ぶと消えるとか聞いたっスよ!?」
「それは誰も目撃者が居ない状況、単独飛行時にしか起きていないにゃよ。
 むしろ目撃者がいる状態で消失現象が起きるなら、被害者には悪いけど万々歳にゃよ。対処方法を見つけるチャンスなんだし」
「……」
 アルカの提案は超ごもっともで、川の水がどんなに押し寄せたところで10mも飛べばおおよそ回避できないとは思えない。
「ええ、と。それじゃ……」
「テンシノツバサ、管理組合で用意するけど?」
「……じゃあ、人数分貰うっス」
「それでも相手が水を使うのは分かってる事なんだろう?
 火や土のエンチャントとか、術者は揃えた方が良いんじゃないのかい?」
「んー、まぁ、それはそうなんだけどね。
 一時的なマジックエンチャントだったら専門の術師が居ればどうとでもなるけど、本格的なエンチャントになると一日二日じゃどう仕様もならないにゃよ?」
「となると、術者か……。
 アースって人と話ができりゃ、早いんだがね」
「アースちんは水魔対策には出る予定にゃよ。
 というか、普通はかなりの人数募集しての作戦にしなきゃなんだけどねぇ。
 なんか話がぽんぽん進んで当たる事になっちゃってるから」
「え? それって待った方が良いって事っスか?」
「もう手遅れかなぁ。桜前線の件もあるから悠長な事は言えないのも事実にゃし」
「手遅れ?」
 クセニアが訝しげに問うと、アルカは振り返るように店の奥、いや、その向こうに流れるを川透かし見た。
「ああ、水神とか言うやつの事かい?
 詳しい事は何もわからないんだけど」
「んー。ぶっちゃけ神は神でも邪神よりの存在にゃしねぇ」
「は? そんなもの呼び出すんスか?」
「あちしが呼び出したわけじゃないし。
 ただまぁ、水魔とやり合えそうなのは? って言われると適任ではあるにゃね」
 人ごとみたいな言い様に二人は顔を見合わせる。
 その瞬間巨大な水音とともにずん。ずんと凄まじい音と振動がクロスロード中に響き渡った。
「何の音っスか?!」
「本格的に水神が動きだしたにゃね」
 何事か呪文を唱えた直後、叩きつけるような音と共に、窓の外が一気に水にぬれた。
 その実はアルカの防御魔法によってほとんどの水をはじいた結果でこれである。対処も出来なかった隣の家があっさりと水に押し流されるのを見て二人は呆然と口を開けた。
「ちょっと防災に出てくるにゃよ、
 テンシノツバサはその箱にあるから持っていくといいにゃ。んじゃね」
 すちゃりと立ち上がったアルカが裏口から出ていくのを見送って二人は顔を見合わせる。
 どうやらのんびりしている暇は無くなったようだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇

 そうしてその2時間後。
 それは全貌を現す。
 クロスロードの東側水門を破壊したのは数多の職種。
 見る者に不快感を与えるその異貌に怖気が走るのを感じながら対策に乗り出した者たちはそれがもう一つの異貌の巨大生物に当たるのを見た。
その瞬間、巨大質量2つがぶつかった衝撃で莫大な水があふれ、津波と化して大地を走る。そこに紛れて桜色が踊るのを見た。
「水に流されぬように気を付けて! 桜前線を駆逐します!」
 大地ではマオウが巻いた種が芽を出し、水を吸い上げ、また茨が絡み合い防壁を作り上げてはところどころで討ち破られている光景が広がる。
 怪獣大決戦が今始まったのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
というわけで始まりました大決戦。
地球防衛軍的な感じでみなさんには遊撃してもらうことになります。
さて、気にする事はありますか?
手出しする事はありますか?
一応次回ラストの予定です。
ではよろしゅう。
『桜前線はいずこに?』
(2012/08/15)
大質量vs大質量の格闘戦というのは意外と珍しい物だ。
 大体の物理法則化においては巨大生物は成立しづらいのが要因の一つではあるのだが、それ以外となると戦艦などの大型機械がそれを担い、大体においては砲撃戦が主軸となる。
 それ以上に巨大な質量がぶつかり合うとその余波は凄まじい物だ。
 それを、生身の彼らは実体験していた。

「うわぁあああああああ?!」

 揺れというものはなにも地面だけを伝わるわけではない。
 空中にあった彼らを強烈に襲ったのは衝撃波になった音と空気の激震。
 三半規管を不意打ちで強打された数名がまるで狙撃されたかのように落ちて行くのを、耐えた数名が慌てて保護して後方に下げる。
「これは、桜前線どころじゃないですかね……!」
 それなりに距離を保つ事で一定の戦果は上げているが、なんというか、最早蚊帳の外という感じだ。
「どうっスか?」
 ふらふらと飛行に慣れていない事丸出しの態でやってきたトーマがヨンに声を掛ける。
「どうもこうも、まるで自然災害を相手にしているようだよ」
「言い得て妙っスね。あれはもう天災の一部っスよ」
「クロスロードじゃ神災って言うんじゃなかったかい?」
 追随してきたクセニアが口を挟む。
 ABC2W───クロスロードで定義される災害の中でも甚大な被害を与えかねないとされている5つの事象。
 即ちアトミック、バイオ、ケミカルの3つに、『神の怒り』を指すラースとWをひっ繰り返してMとしてマジック。
「水魔に水神。どっちも神って存在に近いらしいね」
「片方は恐れが、片方は信仰が力を与えているんでしたね」
 このターミナル特有のルールに「扉による能力の相対的平均化」と「共通認識による能力の拡大現象」という物がある。
 前者はAと言う世界での最強の存在が仮に星を砕けるとしよう。一方Bという世界の最強の存在が石を砕くのが精いっぱいだとしても、ターミナルに訪れた瞬間、Aの最強もBの最強もほぼ同程度の能力を有して現れる。この場合大抵はAの方が力を大きく抑制されて現れることになる。
 だがその後、仮にBが大きく活躍したり、尊敬と言う名の信仰を多く得た場合、後者のルールに則り、本人の努力、素質以上の力を手にする事があるのである。
 実のところこれはターミナル特有の現象でなく、神族に見られる「信仰=力」の理論そのものではないかともされているが、それはさておいて激突する二つの存在は水の神としての信仰と、水の魔という恐れをクロスロード成立からずっと受け続けて来た存在である。
 即ち、そのシステムに基づいた最強の2柱であると考えられる。
「確かに災害だね。あれは……。しかし、水神に勝って貰わないと困るな。
 あれを止めるなんて真似、大襲撃よりも酷かもしれない」
 なにせ水魔には莫大なサンロードリバーの水量が付きまとうのだ。見れば水魔も水神も己の周囲の水を操り、触手のようにたがいに牽制を討ち放ち続けている。遠目に見れば大したことない様にも見えるが、その巨大な体からすればクロスロードの外周壁くらい穿ちそうな水の槍である。
「っていうか、あれが居たら大襲撃楽勝じゃないんスかね?」
「確かにそうかもしれないけど……大体ああいう手合いって動く条件があるんだよなあ」
 ヨンの応答にトーマがむむむと呻く。
「ありそうなのは『水』に絡む事じゃないと動けないとかかね。
 あるいは『水』から出られないとか」
「もしくはその両方か、更に条件があるのか。
 解明するのは難しそうですね。下手に試そうとして怒らせると町の中心で大惨事ですし」
「ともあれ、俺は土使いの連中のフォローに戻るよ。
 効果が薄くても当て続ければちったぁ痛がるだろうし」
「ええ。こちらも桜前線の殲滅に注視しましょう。
 あの戦いについてはもう祈るばかりです」

 そうして再び散会する探索者達だった。

 ◆◇◆◇◆◇

「さて」
 ちょいちょいと手を出してはいたものの、基本的には高みの見物を決め込んでいたマオウは戦いが終焉に近づいたと見計らって活動を始めていた。
 元より目的は桜の花びら。
 余りの大惨事に皆、その事を失念しているようだなと思いながら、岸辺に転がる木に近づいた。
 幸いと言うべきか、元よりそう言う性質か。
 水に盛大に流されているにもかかわらずしっかりと花弁はついており、充分な量の確保が見込めそうである。
「こいつを接ぎ木して培養とかできるのかね」
 そんな事を呟きつつべきりと1本折る。
重ねて数本折り、それらを密封袋に収納して離れると上空から周囲を見渡した。
 もう夕暮れも近い。北の方を見れば相当数の桜前線がまるで逃げるかのように走り去るのが見えた。
 こうして見ると彼らもまた被害者のように見えるのが不思議である。

 ずずぅん

 ひときわ大きな音が響き、東を見れば、二つの超質量存在が同時にサンロードリバーに沈んでいく姿が見えた。
 ダブルノックアウトか? と目を凝らすが凄まじい水流の先を見通す事は出来ない。
 ダブルノックアウトとしても水魔の方には脇からもかなりの攻撃が加えられていたはずだ。それが単純に水魔が水神よりも強かったのか、それともフィールドによる補正による物なのかは分からない。
「どうなったんだ?」
 無論応じは無い。が、それから5分経ち、10分経っても音沙汰は無かった。
「やったか? とか言うとまた出てきそうだけどな」
 とりあえず終わりならそれで良い。
 マオウは戦利品を手に、町に戻るのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 結果を言うとどうやら水魔と水神は引きわけと言う形に終わったらしい。詰まる所水魔は討伐できておらず、引き続きクロスロードより離れたサンロードリバー周辺は危険区域と指定された。
 水魔の持つフィールドについても良く分かっていない。引きずり込む力という説が有力ではあるが、好き好んで試そうという者はいないだろう。死ぬし。
 桜前線については水質検査から、そのほぼ全数がサンロードリバーより消え去ったとみられている。水辺に残った多くの残骸の駆除を管理組合が依頼として出していた。
 坂徳莞爾の依頼についてはマオウが持ちこんだ材料で充分足りたようである。その後の残骸は泥まみれで上手く使えない物が多かったため、この依頼と言う点では完全に一人勝ち状態であろう。
 ただ、彼がもくろんだもう一つの案、桜の接ぎ木については上手くいかなかった。
 原因は不明だが恐らくは「怪物とは分かり合えない」というターミナルの現象によるものではないかと言うのが付き合った植物学者の推測である。

 ともあれ、大襲撃に起因した歪んだ桜前線については一つの終わりを迎えたのだった。
 
 大きく数を減じたであろう桜前線が来年もクロスロードに訪れるのか。
 それは来年にならないと分からない話である。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 というわけでこれにて「桜前線はいずこ?」は完了となります。
 最後は超獣バトルでしたので皆さんの行動が難しくなってしまいましたが、そういう存在は希少なのでと言い訳しておきます(ぉい
 さて、報酬については
1 坂徳さんの依頼 参加者全員1万C
1’ マオウには+4万C
2 対水魔戦協力 参加者に+3万C

 となります。
 経験値については+4点参加者全員に差し上げます。これは登場回に付与されるポイントとは別ですので。
 では次のシナリオでもよろしくお願いします。
niconico.php
ADMIN