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【inv22】『衛星都市探索』
衛星都市探索
(2012/04/26)
 来訪者の得た第三の都市。
 誰が言い出したのか「衛星都市」という名前がそのままその町の名前になっていたその地は3度目の大襲撃に飲まれて消えた。

 そのはずだった。

◆◇◆◇◆◇

「よぅ、やっぱり居たか」
 フランクな声に周囲に空間を保っていた女性はゆっくりと振り返る。
 今回集まった中ではずば抜けた有名人の1人、ユエリアの姿がそこにある。かつて衛星都市の元となったオアシス、それの変化したフィールドモンスター「ミストドラゴン」を討伐したパーティの生き残りである女性。
「こんにちは。……貴方も行くのですか?」
「仕事をせにゃ飯は食えんからな」
 軽く肩を竦める男にユエリアは小さく笑みを零した。どうたら気負っている様子は無いらしい。
「あんたは一人で行くのかい?」
「いえ、今回の依頼は管理組合の依頼ですからね。ある程度の装備や輸送の支援はあると思います。
そういう手配は管理組合は丁寧ですからね」
 周囲を見渡せば確かに管理組合の制服を着た者が数人見つかった。その向こうに駆動機の姿もある。基本的には4輪型の自動車だ。
「なんだ、心配して損した。武装鉄道も大迷宮都市までしか行かないだろうからな」
 三度目の大襲撃、その最後の決戦の地となったのは大迷宮都市を背後にした場所だった。
 要塞化した大迷宮都市の砲撃網と探索者達の遠距離支援。そこを抜けても徒党を組んだ前衛組による集中攻撃という具合に怪物は次々と数を減らしていった。
 何よりもその絶大な火砲を数度吹いた「救世主」の1つ。ユグドシラルが半分以上をなぎ払ったからではあるが。
「まぁ、よろしくたのむわ」
「こちらこそ」
 果たしてかの地に何が待つのか。

◆◇◆◇◆◇

「おや、あれはエディさん。女性と一緒ですか……」
 きゅぴんと目を光らせたヨンは、不意に自分の体を覆い隠すような影に振り返った。
「お前が言う言葉か?」
「まだ何も言ってませんよ!?」
 身の丈2m以上の大男、ザザの言葉についつい大声を出したヨンは、ハッとして咳払い一つ。
「貴方も参加するのですか?」
「荒事くらいしかできんからな。それに大勢と動く事になれるのも良いかと思ってな」
「良い事じゃないですか。所詮私ら、矮小な身ですからね」
 謙遜を躊躇わずに口にするが、決して自虐ではない。ヨンと言う男は他人と共にある事を当たり前にしているだけだ。
「おや、獣の旦那じゃないか」
 と、後ろから声を掛けられて振り返ればニィとこちらこそが獣のような笑みを見せる女性がいた。
「クセニア、だったか」
「おう。ザザの旦那も行くのかい?
 それからそっちは?」
「ヨン、だ。正義の味方引き連れたり女性を引き連れたりしている」
「いろいろ語弊がありませんか!?」
 だが周囲でその会話を偶然聞いていた面々は「だいたい合ってる」と異口同音に呟いて頷いていた。
「なかなか愉快そうな人だねぇ。まぁ、よろしく。あたしはクセニアだ」
「ええ、ああ。よろしく。
 銃使いですか?」
「ああ、こいつが相棒さ。まぁそれなりにはやると思ってるよ。
 ヨンの兄さんは武器らしいものをもってないな」
「一応格闘が主ですからね」
「ふーん」
 ザザの巨躯と違ってヨンはそれほどごついタイプではない。やや疑わしげな視線に苦笑いを浮かべる。
「そろそろ出発します。
 足のない方は用意している車に分乗してください」
 管理組合の呼び掛けに一同はひとまずの会話をやめてそちらへと向かうのだった。

◆◇◆◇◆◇

「さてと」
 用意してきたアイテムを二台の上で確認しながら一之瀬はちらりと周囲を見た。
 多種多様な種族が思い思い座り込み、体を休めたり、同じく武具を確認したりしている。話しかけやすそうな来訪者が居ればと思っては居るのだが、残念ながらこの車には楽しくおしゃべりをするタイプは居ないらしい。
 流石に現地での調査に入って一人で徘徊するのも危険だろうから、着いたら適当なパーティ候補を探そうと心に誓いつつ、荷物を片づける。
 時間的にはそろそろ到着のはずだ。
 衛星都市。随分遠くにあるイメージだが実質クロスロードから100km程度しか離れていない。速度制限なんてないこの世界でやや跳ねながらも軽快に走る車ならば二時間も必要とせずに到着するということだった。
 と、不意に周囲の空気が変わった。
 不穏な、というわけではない。並走、または前後に走る数台の駆動機から身を乗り出して南を見る者が数人いる。
「何かあったのかなっと」
 どうせやる事もないと手すりに掴まりつつ立ち上がり、運転席側へ。そうして先を見れば
「……建物? いや、壁?」
 それなりの規模の建築物が確かに地平に見える。目を凝らしていると同じく周囲の空気を気付いたのだろう顔が鷹のデミヒューマンが隣に並んだ。
「……衛星都市、無傷で残っていたと言うのか?」
「え? 壊滅したんじゃないんですか?」
「そう言われてはいたがな。敵襲の前に基本的に全員退避したから最後まで見届けたやつは居ないはずだ。
 人の居ない町には興味無かったということなのだろうか?」
 疑問符を突きつけられても新参者の一之瀬に返す言葉は無い。
「探索する必要もなかったってことにはならないっすかね?」
「調査の必要はあるだろうし、まあ、それならそれで管理組合は金払いは良い。
 拘束された時間分の賃金は貰えるだろうから楽な依頼になるだけだ」
 一之瀬的にはオウムが喋るようなイメージを得るのだが、比較的渋い声音で語る鷹人に「なるほど」と頷きを返す。
「無事に残ってるならそれに越したことは無いってことかなぁ」
 彼のつぶやきは速度によって生まれ、吹き付ける風に消えていった。

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というわけでプロローグ的に第一話でございます。
次回一見無事な衛星都市に到着したところから始まります。
管理組合の方針としては一応調査するかーって事で。
皆さまのリアクションをお待ちしておりまする。
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