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【inv22】『衛星都市探索』
衛星都市探索
(2012/05/14)

「おかしな点は見当たらないか」
マオウは胡散臭そうにつぶやいた。
おかしな点が何一つ無い。それ以上のおかしなことがあるのだろうか?
一行が目撃した衛星都市は完ぺきに元のままの姿を保っていた。まるで怪物たちがわざわざ避けて通ってくれたかのような、そんな状態である。
「よぅ、何か見つかったかい?」
 後ろから気さくでもあり、投げやりにも感じ取れる声が投げかけられ、マオウは振り返る。
「何もない。おかしなことにな」
「何もない、ねぇ。良い事じゃないのか?」
 肩を竦める黒髪の男にマオウは鼻を鳴らした。
「お前、今回の調査内容を理解しているのか?」
「実のところ理解してねえ。飛び込みで潜り込んだ仕事だからな」
「完全に新参者か……。まぁ、こちらも変わらんが」
 マオウはわずかに笑みを混じらせてなんの目立ったところも無い外壁を軽く叩いてみる。
「つい最近、こちらの暦で言う1の月頃に20万とも30万ともいわれる怪物の群れがこの街を呑み込んだはずだったのだよ」
「……あー、大襲撃ってやつだろ?
 にわかに信じられねえが、本当にそんな数のバケモノが襲ってくるのか? この世界は」
「ああ。いっそ壮観であったな」
「そいつは……怖いもの見たさという範疇は超えそうだな。
 で、壊れたはずの町を確認に来たら、傷一つなかったと?」
「そう言う事だ。だが、本当に単なる無傷かどうかが問題だな」
「道理でどいつもこいつもなかなか中に踏み込もうとしねえわけだ。
 こいつは普通に胡散臭すぎる」
 最終出発組で衛星都市までやってきた男、南条雷次は自分が付いた時に、とっくに到着していた連中が遠巻きに町を確認している姿を見て眉根を顰めたのを思い出す。
「外周に近づいても音沙汰なし。
 何人か上から見ているようだが、町にも人影はないようだな」
「らしいな。いよいよ乗り込もうって雰囲気だぜ?」
「ふむ。誰かが犠牲になるのも待つか、手柄を横取りされるのを待つか、か」
「なーに、何とかなるさ」
「……そうだと良いがな」
 マオウは高い外壁を見上げ、呟く。

◆◇◆◇◆◇

「近づいたら迎撃されると言う事は無かったわけだが」
エディもまた胡散臭げに町にとりついた機関銃を見上げる。
「何一つ反応無しか。逆に困るな、こう言うのは」
呟きながら歩く先は衛星都市南門方面。
他の者と同じく踏み込む気になれない彼が目指したのは、南寄り北上してくる怪物が真っ先に辿りつくであろう箇所であった。
「中に入ればあの兵器群の確認もできるんだがな」
 言いながら跪き、地面を撫でる。
 無限に広がる荒野。しかし大迷宮都市からここまでの、否、ここから南への道にはあからさまな変化がある。
「雨風が浚っても超大型種の足跡は残るか」
 数多の怪物と、何よりも竜種や巨人種と言った大型の怪物が通った後は土が強く踏み固められるのは道理だ。そしてそれを観察し、分かる事は一つ。
「怪物連中、ちっともこの衛星都市を避けちゃいねえじゃねえか」
 まるでここに何も無いかのように怪物の足跡は直進をし、まるでこの壁に吸い込まれたかのように消えている。
 叩いても音沙汰なしの壁が今さら食いついてくるとは思えない。そもそも衛星都市北口にも、まるで壁から現れたかのように足跡があったのだから、
「幻影……にしちゃリアリティありすぎだろ。魔術師連中や機械系の連中がその点を不審がっている様子もない。
引っかけば削れるし、痕がすぐに消えるわけでもない、か」
「どうしたんですか? 蹲って。
 気分が悪いとか?」
 声を掛けて来た青年に視線をやると彼は不思議そうにこちらを見返してくる。
「いや、地面を調べていただけさ」
「ああ、足跡とかですか?」
 一之瀬の問いかけに軽くうなずき、南門へと視線を移す。
「怪しい事は分かった。だが外をうろついても埒が明かんな」
「結構踏み込もうとしてる人達多いですよ。
 そちらも一人なら、一緒に行動しませんか?」
「……一人と言うわけでもないんだがな。
 同行者が居て悪い場所でもないか」
「そちらはどうですか?」
 横合いからの声に一之瀬は視線を向け
「お、お邪魔でしたか?」
「変な勘繰りをするな。同行者だ」
「?
 西側も調べましたが、ほとんどの足跡が一直線に進んでいます。
 やはりこの街が建っているのは不自然ですね」
 一之瀬の言葉を不思議そうにしながらも、ユエリアは言うべき事をまず伝えた。
「中へ、踏み込みますか?」
「だったら北口へ戻ろう。
 少人数で踏み込むのは正直気味が悪い」
「そうですね。
 そちらの方は?」
「今しがた知り合ったばかりだ。
 ルーキーのようだし、面倒を見るのも悪くない」
「……ルーキーは認めますけどね。尻を吹かれるほどガキじゃないよ」
「なら期待するさ」
 エディはニヒルに笑って北口に戻るべく歩きだした。

◆◇◆◇◆◇

「おい、飛ぶのはやめておけ」
「どうしてだい? 他の連中だってやってるじゃないか。
 図体のわりに、臆病に過ぎるよ」
「臆病結構。こういう場所の探索は臆病者が生き残るんだ」
 ザザの冷ややかな言葉にクセニアはやや詰まらなそうに肩を竦めた。
「あの壁の兵器が何時こっち向いてもおかしくありませんからね。
 実際飛ぶのは危険だと思いますよ?」
 二人に声を掛けた主、ヨンが苦笑しながら北門を見上げる。
「よし、開けるぞ?」
 言うやザザの姿が大きく膨れ上がり、毛むくじゃらの巨獣が姿を見せる。
 体の感触を確かめるように軽く手足を動かして、ザザは北門をゆっくりと引いた。
 思った以上に抵抗なく北門は開き、その先には外壁と同じく何ら変わりない町並みが広がっていた。
『拍子抜けだな』
 頭上からの声にヨンは一つ頷いて見せる。
「とりあえず区画ずつ調査をして、問題無ければのろしを上げるようにしましょう」
「狼煙ねぇ……それ、いずれどこから上がってるのか分からなくならないかい?」
 クセニアの突っ込みにヨンはう、と言葉を詰まらせ
「え、ええとですね。色ごとに分ければそうでもないと思うのですが……
 はは、そんな準備してきていませんね」
『めいめい調査してやがるからな。問題あれば大声の一つも上げた方が良いだろう。
 二重遭難の可能性もあるが』
「……上空から確認した人の話からすると、町の中にも人影はなさそうですし……
 そうですね。ただ、探索終了時間と探索エリアは協力してくれる人で分担しましょう。
 危険区域が分からなくなりそうですし」
 有名人のヨンの呼び掛けにはその合理性もあって応じる者は少なくなかった。
 そうして始まろうとした時

「ぎゃぁあああああああああああああああああああああ!?」

 わりかしすぐ近くであがった悲鳴。
「さっき、真っ先に入ったヤツじゃねえか?」
 誰かのそんな声に門の向こうを見るが、視界内に特に変わった様子は無い。
「助けに行くか?」
 人間に戻ったザザの問いかけに、ヨンは頷こうとして
「原因が分かりません……あわてるのは危険でしょう」
 と苦々しく言い放つ。
「とにかく調査を開始します。
 危険がある事は間違いありませんし、悲鳴の主が居たら助けましょう」
 ザザとクセニア、二人に言うようにして周囲の者へと声を響かせる。

 この街の中、一体何があると言うのか。
 一考の探索は本番を迎えた。

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 大変遅くなりました。
 次回は締め切り後に書き始めるようにがんばるよー
 ってなわけで衛星都市探索第二回目をお送りします。

 次回は内部調査がメインとなると思いますが……
 どういうことに気を付けて、どこを調べるかあたりを書いてもらえると色々分かるかもしれません。
 あるいはどういう場合に備えるか。とかね
 では、リアクション宜しゅうお願いします!
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