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【inv22】『衛星都市探索』
衛星都市探索
(2012/05/31)


「正面切ってというのは性にあわんな」
そう嘯きながらマオウはふわりと宙を舞う。
飛距離は大したものでない。ただ防壁の上に着地し、警戒する。
十と数秒経過しても変化なし。杞憂だったと思うことなく周囲を見渡す。
あの悲鳴から、反応はまちまちだ。
警戒する者、飛び込む物。空から確認しようとする者。
それを高いところから俯瞰し、最後に町の中へと視線を送る。
走る者。恐らくは悲鳴の主を助けようと動いているのだろう。その先頭には見覚えのある男の姿があった。
「どうなるか」
 高みの見物、というつもりはないが、全員で突っ込んで、全滅など笑えない。
 そもこの地は無事だったと言い難い事を彼は認識していた。しかしそれに反してこのあまりにも無事に過ぎる姿をどう捉えるか。
「だが、悲鳴、か」
 何かが起きている、それは間違いないだろう。が、何が起きているが問題だ。
「どうするかね」
 眼下の光景の変化を、マオウはしかと見定めるために視線を凝らした。

◆◇◆◇◆◇

「うぉぉおおおお!!」
 ザザがどごんと殴りつけた家壁があっさりと崩壊し、大穴をあける。
「……普通に壊れるな」
 あるいはとも思ったが、どうやら見た目通りの強度を持っているらしい。近くにあったプランタを軽く蹴とばせば、土が零れ、プラスチックだったらしいガワにひびが走った。
「いっそ、2、3件ブチ壊してみるか?」
 巨獣化すればそんな荒業もそれほど困難ではない。
 周囲のスペースを確認して彼は毛むくじゃらの巨大な怪物へと姿を転化させた。
『その前に、やっておかんとな』
 がしりと今しがた壊した家の柱を握ると、強引に引っこ抜く。
 そうしたそれを開け放たれた北門の前に突き刺し固定。これで不用意に扉が閉まる事は無いだろう。
「さて」
 柱をぶっこ抜いたことで半壊している建物に2,3発拳をくれてやると、やはり見た目通りの素材の耐久性を見せて崩壊していく。ものの10分もしないうちに建物1つが崩壊した。
 しかし目立った反応は起きない。
「……」
 反応が無いのも困る。先行したヨンの方に向かうべきかと視線を向けた時。
 騒ぎは始りを見せていた。

◆◇◆◇◆◇

「ハハ、にしてもまいったなー。もうちょい人数が欲しいとこだぜ…」
 そんな事を呟きながら南条は周囲に電気を張り巡らせて感覚器の代わりにしつつ進む。
 といっても彼が進むのは他の探索者の後ろだ。百名程度の人員がこの地を訪れているが、一万人程度ならゆうに抱えられるこの衛星都市を調査するには決して多いとは言い難いだろう。
 同じ方向に行く探索者について歩いてはいるが、さしも町の中とあっては彼の電気による触覚はあらゆるものに触れまくっていまいち使い勝手が悪い。動く物を捕えることはできるが、スナイパーのように動かず狙い定められては対応が間に合うか非常に怪しかった。
「ここ、入って見るか?」
 先行する爬虫人の男が横を歩くドワーフに尋ねる。
「外を歩いても何も起きやせん。もう少し大胆になるべきかの」
 とんでもないとは思いつつも口にはしない。表向き調査に来た身で、それを拒否するわけにもいかないだろう。
 少なくとも漏れ流れ込んだ電気に特別な何かの感はない。
 そうしている間に爬虫人がドアを開ける。
 その奥には簡素な家の姿。話によればこの街が怪物に飲まれてから数カ月経過しているはずだが、まるで毎日掃除をしているように綺麗だ。モデルルームの綺麗さと言うべきだろうか。
「……不気味だのぅっ!?」
 家を覗き込むドワーフが、まるで倒れこむかのように、あるいは腕を引っ張られるように家の中に転がり込む。
「お、おい、何事だ!?」
 爬虫人があわててその後を追おうとして
「うぉぉおおお!?」
 悲鳴を挙げ、沈黙。
「お、おいおい。やめてくれよ」
 と言っても返事は無い。流石にたったいま二人を呑み込んだばかりの扉を覗き込むのは無謀が過ぎると少し回りこみ、窓からその中の光景をのぞき見て、
南条はそこに広がる光景に困惑を浮かべた。

◆◇◆◇◆◇

「こりゃ、どういう事だ?」
 呟いてから「いや……」と己の言葉を否定するかのように続けて、眉根を寄せた。
 防衛兵器のシステムログを参照した結果、出て来たのは解読不能の、文字か記号か落書きかも理解できないなにかの羅列。
「管理組合の暗号かなにかか?」
『そのような物はありません』
 PBからの返答に眉根のしわを濃くして薬きょうを確認。
 新品の弾奏が綺麗に装填されており、すぐにでも砲撃は可能そうに見える。
「このログのバグは一体何だ?
 読めやしない……壊れているのか?」
 残念ながら手動式ではないため試し打ちはできない。それに下手に発砲すると何が起きるか分かった物でも無い。
「……ん? 読めない?」
 己の言葉に引っかかりを覚えたのは、自身が立てた推論によるものだ。

 即ち、

「この街全てがイミテーター……怪物だとすれば、俺たちは怪物と意志疎通ができない。
 つまり……読めないログ、か?」
 推測を補強されてエディは軽く舌打ち、すでに相当数の探索者が町の内部調査に乗りこんでいる。特に悲鳴を挙げた誰かの元へ走る一団には随分と主力級が集まっているようだ。
「一網打尽と言う事になってくれるなよ?」
 今から追いかけるのは流石に危険と踏んでキャンプ地になっている場所へと一度引き返す。
 この街そのものか怪物───いわばシティイミテーターであるという推論。
 その補強をすべく、待機している者達の意見が早急に必要だった。

◆◇◆◇◆◇

「ここですか?!」
 ばんと蹴破られた扉。彼に追従した探索者達は一旦止まり、コトの次第を見守っている。
「どうだい?」
 クセニアの問いかけ。
 しかしヨンは何も応じない。不審に思ってその顔をのぞけば、ぽかんとした顔で目の前の光景を見ていた。
 訝しげにそちらを向けば

 身長2mはある巨漢のがピンクのフリル付きエプロンを装着し、花も恥じらうような笑顔のまま、まるでホームドラマのワンシーンのような光景を展開していた。
 応じるのは獣人系の男。新聞らしきものを広げて、巨漢に応じているらしいが、言葉がさっぱり分からない。
「なんだい? こりゃ?」
「私が聞きたいですよ……! 大丈夫ですか?」
 ただ二人に分かるのはこの二人が間違いなく、ともにこの衛星都市の調査に着た者であるということのみ。
 一歩踏み込むが特に変化は無い。彼らのように妙な演技を始める事もない。
それを確かめてからずかずかと2人に近づいてその腕を引っ張るが、予想以上の、まるで空間に固定されたかのような力でびくともしない。二人は何一つ気にすることなく、ホームドラマモドキを続けていた。
「ここでも同じ事が起きてるのか?」
 後ろからあわててやってきた南条の言葉に皆が視線を集める。
「俺の目の前で家に入ったヤツが同じように変な演劇を始めてるんだよ。
 読んでも返事しやしない」
「……なんなんですかね、これ?」
「だから俺が聞きたいって」
 クセニアが面倒そうに肩を竦める。

 予想を大きく外れた奇妙な展開に、誰しも次の一手に戸惑う事になったのだった。


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お待たせしました。衛星都市の探索その3でございます。
うひひ、さて一体何が起きているのか?
そして解決策はあるのか?
次回「転」のパートになればなぁと思います。
どうするか、皆さまのリアクションをおまちしております。
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