「うぉぉぉりぁああああ!!」
気合いの掛け声とともに振り抜かれた雷の刃が壁を引き裂く。
「こっちもっ」
続く射撃音が柱をブチ抜いて家全体を軋ませた。
建物がゆっくり傾いていくが、中で妙なやり取りを続ける者は意に介さない。
「このまま建物の倒壊に巻き込んでいいのかね?」
「良くは無いが、どうなるか見たいとは思うねぇ」
南条の問いかけにクセニアが肩を竦めた。とは言え、安易に踏み込んで良いものか。
慌てて出てくるものかとも思っていたが、こうも完全に無視されるとは。
「いやいや、まずいでしょ」
様子を見ていた一之瀬が慌てて突っ込みを入れるが、
「でも全然ひっぱれもしないんだよ?」
「確かに……」
とりあえず家の中に入っていない者に今のところ妙な兆候は見られない。あくまで家に踏み込んだ者がこのよくわからないホームドラマを強いられているように思えた。
だが、その後、二人を引きずり出そうと入った者には今のところ影響は無い。
「中から出せないなら外側を破壊するのみだ。
やるしかないだろ」
南条はやれやれと肩を竦め
「……あれ?」
振り返ったそこにはきれいさっぱり修繕された家があった。
「修繕されてやがるな」
コツコツとクセニアは壁を小突き、再び銃撃。なんの問題も無く穴が開くのを確かめる。
「一撃で吹き飛ばすくらいしないとダメかもな。
そういやぁ、中のヤツは傷付くのか?」
「……実験するしかあるまい」
ナイフを取り出し、腕を一閃。
薄皮一枚切り裂いたそれは確かにドワーフを傷つけはした。
「……」
しかし痛がるそぶりも見せず空虚な劇は続けられていく。
「動かないのに傷つけられるのか。
変なルールだな」
「しばらくしたらこれも修繕されるんじゃないの?」
「だとすると無理やり引っ張り出せても元に戻ったりしませんか?」
一之瀬の言葉に二人は考え込み、恐らくそうなるだろうとため息をつく。
「壁も壊れるんだから、床をひっぺがしたらこいつらは外に出せる気がするな。
だが、意味ない可能性が濃厚だ」
面倒そうにクセニアは言い放ち、周囲の家に視線を這わす。
「取り込まれるルールが不明なのが気にいらないね。
定員があると考えるべきなのかね」
「試したいとは思いませんね。
こんな自分はちょっと辛いですよ」
流石にピンクのエプロン着けて微笑むごつい姿を見せられては言葉も詰まる。
「他の連中がオアシスに向かっているようだし、そちらに合流するかい?」
「まぁ、それで手詰まりなら。ってところかな」
南条も苦々しく頷き、一之瀬はただ首肯した。
◆◇◆◇◆◇
「これも狂人が関与してるのかね」
マオウの問いかけにオアシスに向かう一行は誰もが考えるそぶりをするも、返事を返さなかった。
否、返せなかった。
「わからんのか?」
「そもそも『狂人』という存在がよくわかっていませんからね。
それがやったように思える事がいくつかと、アルカさんたちの証言のみです」
「判断するには材料が少なすぎるというわけか」
ヨンの答えにマオウは呆れた風に肩を竦めた。
「何かが怪物化するってのは狂人が出てくる前から確認されていた事ではあります。
狂人の関与があるかどうかは定かではありませんが、狂人が関与していなくても起こりえる事ではあると思いますね」
「なるほどな。やはりこの街そのものが怪物と思うか?」
「……考えたくないですけど、私達は怪物の腹の中を歩いているのかもしれませんね」
「いざとなれば腹を食い破るしかねえな。
そろそろオアシスだ」
同行するザザの言葉に一同が先へと視線を向けた。
「ここまで歩いてきて影響は無し。やはり家に入る事がトリガーのようですね」
「偶然踏まなかったかもしれんがな。
オアシスにもぱっと見て異変はねえな」
ザザの言葉の通り、オアシスはきれいな水を静かに湛えているだけだ。特に不審な点は見受けられない。
「しかし怪物化するなら、まずここがありきではないでしょうか?」
「同意見です」
ヨンの言葉に応じたのはユエリアだ。
「大迷宮都市の時にも大迷宮が怪物化した巨大アリ地獄と、救世主が怪物したロックゴーレムが同じ場所に発生していましたし」
「……衛星都市が怪物化したのとは別にってことか。
こいつも擬態かなにかか?」
マオウもしげしげと眺めるが、やはり妙なところは無い。鼻を鳴らして近づこうとして
「待ってください。近づかないで」
「ん? どういう意味だ?」
「精霊力を感じません」
言われて目を向ける。
「正常な水ではないと言う事か」
「水ですらないかもしれません。とにかく、ここが異常なのは間違いないでしょう」
水を操る事を得意とする彼女の言葉には強い確信があった。故にマオウは振り返る。
「だ、そうだ。どうする?」
現在この場には会話を交わす4人のみ。万が一を考えて多くの者には一旦町の外に避難してもらっている。
残っているのは家の調査をしている連中か、独自路線を貫いてふらついている連中くらいなものだろう。
「攻撃を加えるのは1つの手段です。
しかし、フィールドモンスターである可能性が高い以上、ここにも特殊なルールが設定されている可能性があります」
「なんだそれは?」
「そう言えばそういうの、ありましたね」
訝しげなマオウに対し、ヨンが失念していたとばかりに空を仰ぐ。
「フィールドモンスターの『フィールド』には2つの意味があるのです。
1つは場が変化した怪物の意味。
もう1つはその怪物の周囲に特別なルールが設定される事を指します。
大迷宮都市の場合無尽蔵にマッドゴーレムが発生し続けるという場でしたし、かつてのオアシスの変化、ミストドラゴンの時には霧による晴れる事のない視界の封鎖がありました」
「……となると、あのおかしな家の現象もまたそのフィールドルールってやつじゃないのか?」
「サンプル数が少ないので断言はできませんが恐らくは」
「……どうする? 『確認』は取れた。この街は異常で、オアシスも普通じゃない。
これを成果として持ち帰れば調査としては完了じゃないか?」
ザザの提案は至極まっとうなものだった。
というのもあくまで調査目的の彼らが今から正体も未だに良く分からないフィールドモンスター2匹を討伐できるかと言えば、誰ひとり確証を持ってうなずけない。
「取り込まれたやつは見捨てる事になりかねんが、ここで全滅するわけにもいくまい」
マオウとて強力と知れる正体不明の相手と無策でやり合う愚は好まないが、さりとて放っておいて良いのかという判断は付きづらい。
「さて、どうしましょうかね」
ヨンは呟いて皆の顔を見るのだった。
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今回は2カ所に分かれていたのでまとめて短めです。
次回は次のアクションどーする? と言う事になります。
場合によっては次回で一回終わり。別のシナリオに派生するかなってところですな。
ではリアクションをお願いします。