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【inv22】『衛星都市探索』
衛星都市探索
(2012/04/26)
 来訪者の得た第三の都市。
 誰が言い出したのか「衛星都市」という名前がそのままその町の名前になっていたその地は3度目の大襲撃に飲まれて消えた。

 そのはずだった。

◆◇◆◇◆◇

「よぅ、やっぱり居たか」
 フランクな声に周囲に空間を保っていた女性はゆっくりと振り返る。
 今回集まった中ではずば抜けた有名人の1人、ユエリアの姿がそこにある。かつて衛星都市の元となったオアシス、それの変化したフィールドモンスター「ミストドラゴン」を討伐したパーティの生き残りである女性。
「こんにちは。……貴方も行くのですか?」
「仕事をせにゃ飯は食えんからな」
 軽く肩を竦める男にユエリアは小さく笑みを零した。どうたら気負っている様子は無いらしい。
「あんたは一人で行くのかい?」
「いえ、今回の依頼は管理組合の依頼ですからね。ある程度の装備や輸送の支援はあると思います。
そういう手配は管理組合は丁寧ですからね」
 周囲を見渡せば確かに管理組合の制服を着た者が数人見つかった。その向こうに駆動機の姿もある。基本的には4輪型の自動車だ。
「なんだ、心配して損した。武装鉄道も大迷宮都市までしか行かないだろうからな」
 三度目の大襲撃、その最後の決戦の地となったのは大迷宮都市を背後にした場所だった。
 要塞化した大迷宮都市の砲撃網と探索者達の遠距離支援。そこを抜けても徒党を組んだ前衛組による集中攻撃という具合に怪物は次々と数を減らしていった。
 何よりもその絶大な火砲を数度吹いた「救世主」の1つ。ユグドシラルが半分以上をなぎ払ったからではあるが。
「まぁ、よろしくたのむわ」
「こちらこそ」
 果たしてかの地に何が待つのか。

◆◇◆◇◆◇

「おや、あれはエディさん。女性と一緒ですか……」
 きゅぴんと目を光らせたヨンは、不意に自分の体を覆い隠すような影に振り返った。
「お前が言う言葉か?」
「まだ何も言ってませんよ!?」
 身の丈2m以上の大男、ザザの言葉についつい大声を出したヨンは、ハッとして咳払い一つ。
「貴方も参加するのですか?」
「荒事くらいしかできんからな。それに大勢と動く事になれるのも良いかと思ってな」
「良い事じゃないですか。所詮私ら、矮小な身ですからね」
 謙遜を躊躇わずに口にするが、決して自虐ではない。ヨンと言う男は他人と共にある事を当たり前にしているだけだ。
「おや、獣の旦那じゃないか」
 と、後ろから声を掛けられて振り返ればニィとこちらこそが獣のような笑みを見せる女性がいた。
「クセニア、だったか」
「おう。ザザの旦那も行くのかい?
 それからそっちは?」
「ヨン、だ。正義の味方引き連れたり女性を引き連れたりしている」
「いろいろ語弊がありませんか!?」
 だが周囲でその会話を偶然聞いていた面々は「だいたい合ってる」と異口同音に呟いて頷いていた。
「なかなか愉快そうな人だねぇ。まぁ、よろしく。あたしはクセニアだ」
「ええ、ああ。よろしく。
 銃使いですか?」
「ああ、こいつが相棒さ。まぁそれなりにはやると思ってるよ。
 ヨンの兄さんは武器らしいものをもってないな」
「一応格闘が主ですからね」
「ふーん」
 ザザの巨躯と違ってヨンはそれほどごついタイプではない。やや疑わしげな視線に苦笑いを浮かべる。
「そろそろ出発します。
 足のない方は用意している車に分乗してください」
 管理組合の呼び掛けに一同はひとまずの会話をやめてそちらへと向かうのだった。

◆◇◆◇◆◇

「さてと」
 用意してきたアイテムを二台の上で確認しながら一之瀬はちらりと周囲を見た。
 多種多様な種族が思い思い座り込み、体を休めたり、同じく武具を確認したりしている。話しかけやすそうな来訪者が居ればと思っては居るのだが、残念ながらこの車には楽しくおしゃべりをするタイプは居ないらしい。
 流石に現地での調査に入って一人で徘徊するのも危険だろうから、着いたら適当なパーティ候補を探そうと心に誓いつつ、荷物を片づける。
 時間的にはそろそろ到着のはずだ。
 衛星都市。随分遠くにあるイメージだが実質クロスロードから100km程度しか離れていない。速度制限なんてないこの世界でやや跳ねながらも軽快に走る車ならば二時間も必要とせずに到着するということだった。
 と、不意に周囲の空気が変わった。
 不穏な、というわけではない。並走、または前後に走る数台の駆動機から身を乗り出して南を見る者が数人いる。
「何かあったのかなっと」
 どうせやる事もないと手すりに掴まりつつ立ち上がり、運転席側へ。そうして先を見れば
「……建物? いや、壁?」
 それなりの規模の建築物が確かに地平に見える。目を凝らしていると同じく周囲の空気を気付いたのだろう顔が鷹のデミヒューマンが隣に並んだ。
「……衛星都市、無傷で残っていたと言うのか?」
「え? 壊滅したんじゃないんですか?」
「そう言われてはいたがな。敵襲の前に基本的に全員退避したから最後まで見届けたやつは居ないはずだ。
 人の居ない町には興味無かったということなのだろうか?」
 疑問符を突きつけられても新参者の一之瀬に返す言葉は無い。
「探索する必要もなかったってことにはならないっすかね?」
「調査の必要はあるだろうし、まあ、それならそれで管理組合は金払いは良い。
 拘束された時間分の賃金は貰えるだろうから楽な依頼になるだけだ」
 一之瀬的にはオウムが喋るようなイメージを得るのだが、比較的渋い声音で語る鷹人に「なるほど」と頷きを返す。
「無事に残ってるならそれに越したことは無いってことかなぁ」
 彼のつぶやきは速度によって生まれ、吹き付ける風に消えていった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
というわけでプロローグ的に第一話でございます。
次回一見無事な衛星都市に到着したところから始まります。
管理組合の方針としては一応調査するかーって事で。
皆さまのリアクションをお待ちしておりまする。
衛星都市探索
(2012/05/14)

「おかしな点は見当たらないか」
マオウは胡散臭そうにつぶやいた。
おかしな点が何一つ無い。それ以上のおかしなことがあるのだろうか?
一行が目撃した衛星都市は完ぺきに元のままの姿を保っていた。まるで怪物たちがわざわざ避けて通ってくれたかのような、そんな状態である。
「よぅ、何か見つかったかい?」
 後ろから気さくでもあり、投げやりにも感じ取れる声が投げかけられ、マオウは振り返る。
「何もない。おかしなことにな」
「何もない、ねぇ。良い事じゃないのか?」
 肩を竦める黒髪の男にマオウは鼻を鳴らした。
「お前、今回の調査内容を理解しているのか?」
「実のところ理解してねえ。飛び込みで潜り込んだ仕事だからな」
「完全に新参者か……。まぁ、こちらも変わらんが」
 マオウはわずかに笑みを混じらせてなんの目立ったところも無い外壁を軽く叩いてみる。
「つい最近、こちらの暦で言う1の月頃に20万とも30万ともいわれる怪物の群れがこの街を呑み込んだはずだったのだよ」
「……あー、大襲撃ってやつだろ?
 にわかに信じられねえが、本当にそんな数のバケモノが襲ってくるのか? この世界は」
「ああ。いっそ壮観であったな」
「そいつは……怖いもの見たさという範疇は超えそうだな。
 で、壊れたはずの町を確認に来たら、傷一つなかったと?」
「そう言う事だ。だが、本当に単なる無傷かどうかが問題だな」
「道理でどいつもこいつもなかなか中に踏み込もうとしねえわけだ。
 こいつは普通に胡散臭すぎる」
 最終出発組で衛星都市までやってきた男、南条雷次は自分が付いた時に、とっくに到着していた連中が遠巻きに町を確認している姿を見て眉根を顰めたのを思い出す。
「外周に近づいても音沙汰なし。
 何人か上から見ているようだが、町にも人影はないようだな」
「らしいな。いよいよ乗り込もうって雰囲気だぜ?」
「ふむ。誰かが犠牲になるのも待つか、手柄を横取りされるのを待つか、か」
「なーに、何とかなるさ」
「……そうだと良いがな」
 マオウは高い外壁を見上げ、呟く。

◆◇◆◇◆◇

「近づいたら迎撃されると言う事は無かったわけだが」
エディもまた胡散臭げに町にとりついた機関銃を見上げる。
「何一つ反応無しか。逆に困るな、こう言うのは」
呟きながら歩く先は衛星都市南門方面。
他の者と同じく踏み込む気になれない彼が目指したのは、南寄り北上してくる怪物が真っ先に辿りつくであろう箇所であった。
「中に入ればあの兵器群の確認もできるんだがな」
 言いながら跪き、地面を撫でる。
 無限に広がる荒野。しかし大迷宮都市からここまでの、否、ここから南への道にはあからさまな変化がある。
「雨風が浚っても超大型種の足跡は残るか」
 数多の怪物と、何よりも竜種や巨人種と言った大型の怪物が通った後は土が強く踏み固められるのは道理だ。そしてそれを観察し、分かる事は一つ。
「怪物連中、ちっともこの衛星都市を避けちゃいねえじゃねえか」
 まるでここに何も無いかのように怪物の足跡は直進をし、まるでこの壁に吸い込まれたかのように消えている。
 叩いても音沙汰なしの壁が今さら食いついてくるとは思えない。そもそも衛星都市北口にも、まるで壁から現れたかのように足跡があったのだから、
「幻影……にしちゃリアリティありすぎだろ。魔術師連中や機械系の連中がその点を不審がっている様子もない。
引っかけば削れるし、痕がすぐに消えるわけでもない、か」
「どうしたんですか? 蹲って。
 気分が悪いとか?」
 声を掛けて来た青年に視線をやると彼は不思議そうにこちらを見返してくる。
「いや、地面を調べていただけさ」
「ああ、足跡とかですか?」
 一之瀬の問いかけに軽くうなずき、南門へと視線を移す。
「怪しい事は分かった。だが外をうろついても埒が明かんな」
「結構踏み込もうとしてる人達多いですよ。
 そちらも一人なら、一緒に行動しませんか?」
「……一人と言うわけでもないんだがな。
 同行者が居て悪い場所でもないか」
「そちらはどうですか?」
 横合いからの声に一之瀬は視線を向け
「お、お邪魔でしたか?」
「変な勘繰りをするな。同行者だ」
「?
 西側も調べましたが、ほとんどの足跡が一直線に進んでいます。
 やはりこの街が建っているのは不自然ですね」
 一之瀬の言葉を不思議そうにしながらも、ユエリアは言うべき事をまず伝えた。
「中へ、踏み込みますか?」
「だったら北口へ戻ろう。
 少人数で踏み込むのは正直気味が悪い」
「そうですね。
 そちらの方は?」
「今しがた知り合ったばかりだ。
 ルーキーのようだし、面倒を見るのも悪くない」
「……ルーキーは認めますけどね。尻を吹かれるほどガキじゃないよ」
「なら期待するさ」
 エディはニヒルに笑って北口に戻るべく歩きだした。

◆◇◆◇◆◇

「おい、飛ぶのはやめておけ」
「どうしてだい? 他の連中だってやってるじゃないか。
 図体のわりに、臆病に過ぎるよ」
「臆病結構。こういう場所の探索は臆病者が生き残るんだ」
 ザザの冷ややかな言葉にクセニアはやや詰まらなそうに肩を竦めた。
「あの壁の兵器が何時こっち向いてもおかしくありませんからね。
 実際飛ぶのは危険だと思いますよ?」
 二人に声を掛けた主、ヨンが苦笑しながら北門を見上げる。
「よし、開けるぞ?」
 言うやザザの姿が大きく膨れ上がり、毛むくじゃらの巨獣が姿を見せる。
 体の感触を確かめるように軽く手足を動かして、ザザは北門をゆっくりと引いた。
 思った以上に抵抗なく北門は開き、その先には外壁と同じく何ら変わりない町並みが広がっていた。
『拍子抜けだな』
 頭上からの声にヨンは一つ頷いて見せる。
「とりあえず区画ずつ調査をして、問題無ければのろしを上げるようにしましょう」
「狼煙ねぇ……それ、いずれどこから上がってるのか分からなくならないかい?」
 クセニアの突っ込みにヨンはう、と言葉を詰まらせ
「え、ええとですね。色ごとに分ければそうでもないと思うのですが……
 はは、そんな準備してきていませんね」
『めいめい調査してやがるからな。問題あれば大声の一つも上げた方が良いだろう。
 二重遭難の可能性もあるが』
「……上空から確認した人の話からすると、町の中にも人影はなさそうですし……
 そうですね。ただ、探索終了時間と探索エリアは協力してくれる人で分担しましょう。
 危険区域が分からなくなりそうですし」
 有名人のヨンの呼び掛けにはその合理性もあって応じる者は少なくなかった。
 そうして始まろうとした時

「ぎゃぁあああああああああああああああああああああ!?」

 わりかしすぐ近くであがった悲鳴。
「さっき、真っ先に入ったヤツじゃねえか?」
 誰かのそんな声に門の向こうを見るが、視界内に特に変わった様子は無い。
「助けに行くか?」
 人間に戻ったザザの問いかけに、ヨンは頷こうとして
「原因が分かりません……あわてるのは危険でしょう」
 と苦々しく言い放つ。
「とにかく調査を開始します。
 危険がある事は間違いありませんし、悲鳴の主が居たら助けましょう」
 ザザとクセニア、二人に言うようにして周囲の者へと声を響かせる。

 この街の中、一体何があると言うのか。
 一考の探索は本番を迎えた。

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 大変遅くなりました。
 次回は締め切り後に書き始めるようにがんばるよー
 ってなわけで衛星都市探索第二回目をお送りします。

 次回は内部調査がメインとなると思いますが……
 どういうことに気を付けて、どこを調べるかあたりを書いてもらえると色々分かるかもしれません。
 あるいはどういう場合に備えるか。とかね
 では、リアクション宜しゅうお願いします!
衛星都市探索
(2012/05/31)


「正面切ってというのは性にあわんな」
そう嘯きながらマオウはふわりと宙を舞う。
飛距離は大したものでない。ただ防壁の上に着地し、警戒する。
十と数秒経過しても変化なし。杞憂だったと思うことなく周囲を見渡す。
あの悲鳴から、反応はまちまちだ。
警戒する者、飛び込む物。空から確認しようとする者。
それを高いところから俯瞰し、最後に町の中へと視線を送る。
走る者。恐らくは悲鳴の主を助けようと動いているのだろう。その先頭には見覚えのある男の姿があった。
「どうなるか」
 高みの見物、というつもりはないが、全員で突っ込んで、全滅など笑えない。
 そもこの地は無事だったと言い難い事を彼は認識していた。しかしそれに反してこのあまりにも無事に過ぎる姿をどう捉えるか。
「だが、悲鳴、か」
 何かが起きている、それは間違いないだろう。が、何が起きているが問題だ。
「どうするかね」
 眼下の光景の変化を、マオウはしかと見定めるために視線を凝らした。

◆◇◆◇◆◇

「うぉぉおおおお!!」
 ザザがどごんと殴りつけた家壁があっさりと崩壊し、大穴をあける。
「……普通に壊れるな」
 あるいはとも思ったが、どうやら見た目通りの強度を持っているらしい。近くにあったプランタを軽く蹴とばせば、土が零れ、プラスチックだったらしいガワにひびが走った。
「いっそ、2、3件ブチ壊してみるか?」
 巨獣化すればそんな荒業もそれほど困難ではない。
 周囲のスペースを確認して彼は毛むくじゃらの巨大な怪物へと姿を転化させた。
『その前に、やっておかんとな』
 がしりと今しがた壊した家の柱を握ると、強引に引っこ抜く。
 そうしたそれを開け放たれた北門の前に突き刺し固定。これで不用意に扉が閉まる事は無いだろう。
「さて」
 柱をぶっこ抜いたことで半壊している建物に2,3発拳をくれてやると、やはり見た目通りの素材の耐久性を見せて崩壊していく。ものの10分もしないうちに建物1つが崩壊した。
 しかし目立った反応は起きない。
「……」
 反応が無いのも困る。先行したヨンの方に向かうべきかと視線を向けた時。
 騒ぎは始りを見せていた。

◆◇◆◇◆◇

「ハハ、にしてもまいったなー。もうちょい人数が欲しいとこだぜ…」
 そんな事を呟きながら南条は周囲に電気を張り巡らせて感覚器の代わりにしつつ進む。
 といっても彼が進むのは他の探索者の後ろだ。百名程度の人員がこの地を訪れているが、一万人程度ならゆうに抱えられるこの衛星都市を調査するには決して多いとは言い難いだろう。
 同じ方向に行く探索者について歩いてはいるが、さしも町の中とあっては彼の電気による触覚はあらゆるものに触れまくっていまいち使い勝手が悪い。動く物を捕えることはできるが、スナイパーのように動かず狙い定められては対応が間に合うか非常に怪しかった。
「ここ、入って見るか?」
 先行する爬虫人の男が横を歩くドワーフに尋ねる。
「外を歩いても何も起きやせん。もう少し大胆になるべきかの」
 とんでもないとは思いつつも口にはしない。表向き調査に来た身で、それを拒否するわけにもいかないだろう。
 少なくとも漏れ流れ込んだ電気に特別な何かの感はない。
 そうしている間に爬虫人がドアを開ける。
 その奥には簡素な家の姿。話によればこの街が怪物に飲まれてから数カ月経過しているはずだが、まるで毎日掃除をしているように綺麗だ。モデルルームの綺麗さと言うべきだろうか。
「……不気味だのぅっ!?」
 家を覗き込むドワーフが、まるで倒れこむかのように、あるいは腕を引っ張られるように家の中に転がり込む。
「お、おい、何事だ!?」
 爬虫人があわててその後を追おうとして
「うぉぉおおお!?」
 悲鳴を挙げ、沈黙。
「お、おいおい。やめてくれよ」
 と言っても返事は無い。流石にたったいま二人を呑み込んだばかりの扉を覗き込むのは無謀が過ぎると少し回りこみ、窓からその中の光景をのぞき見て、
南条はそこに広がる光景に困惑を浮かべた。

◆◇◆◇◆◇

「こりゃ、どういう事だ?」
 呟いてから「いや……」と己の言葉を否定するかのように続けて、眉根を寄せた。
 防衛兵器のシステムログを参照した結果、出て来たのは解読不能の、文字か記号か落書きかも理解できないなにかの羅列。
「管理組合の暗号かなにかか?」
『そのような物はありません』
 PBからの返答に眉根のしわを濃くして薬きょうを確認。
 新品の弾奏が綺麗に装填されており、すぐにでも砲撃は可能そうに見える。
「このログのバグは一体何だ?
 読めやしない……壊れているのか?」
 残念ながら手動式ではないため試し打ちはできない。それに下手に発砲すると何が起きるか分かった物でも無い。
「……ん? 読めない?」
 己の言葉に引っかかりを覚えたのは、自身が立てた推論によるものだ。

 即ち、

「この街全てがイミテーター……怪物だとすれば、俺たちは怪物と意志疎通ができない。
 つまり……読めないログ、か?」
 推測を補強されてエディは軽く舌打ち、すでに相当数の探索者が町の内部調査に乗りこんでいる。特に悲鳴を挙げた誰かの元へ走る一団には随分と主力級が集まっているようだ。
「一網打尽と言う事になってくれるなよ?」
 今から追いかけるのは流石に危険と踏んでキャンプ地になっている場所へと一度引き返す。
 この街そのものか怪物───いわばシティイミテーターであるという推論。
 その補強をすべく、待機している者達の意見が早急に必要だった。

◆◇◆◇◆◇

「ここですか?!」
 ばんと蹴破られた扉。彼に追従した探索者達は一旦止まり、コトの次第を見守っている。
「どうだい?」
 クセニアの問いかけ。
 しかしヨンは何も応じない。不審に思ってその顔をのぞけば、ぽかんとした顔で目の前の光景を見ていた。
 訝しげにそちらを向けば

 身長2mはある巨漢のがピンクのフリル付きエプロンを装着し、花も恥じらうような笑顔のまま、まるでホームドラマのワンシーンのような光景を展開していた。
 応じるのは獣人系の男。新聞らしきものを広げて、巨漢に応じているらしいが、言葉がさっぱり分からない。
「なんだい? こりゃ?」
「私が聞きたいですよ……! 大丈夫ですか?」
 ただ二人に分かるのはこの二人が間違いなく、ともにこの衛星都市の調査に着た者であるということのみ。
 一歩踏み込むが特に変化は無い。彼らのように妙な演技を始める事もない。
それを確かめてからずかずかと2人に近づいてその腕を引っ張るが、予想以上の、まるで空間に固定されたかのような力でびくともしない。二人は何一つ気にすることなく、ホームドラマモドキを続けていた。
「ここでも同じ事が起きてるのか?」
 後ろからあわててやってきた南条の言葉に皆が視線を集める。
「俺の目の前で家に入ったヤツが同じように変な演劇を始めてるんだよ。
 読んでも返事しやしない」
「……なんなんですかね、これ?」
「だから俺が聞きたいって」
 クセニアが面倒そうに肩を竦める。

 予想を大きく外れた奇妙な展開に、誰しも次の一手に戸惑う事になったのだった。


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お待たせしました。衛星都市の探索その3でございます。
うひひ、さて一体何が起きているのか?
そして解決策はあるのか?
次回「転」のパートになればなぁと思います。
どうするか、皆さまのリアクションをおまちしております。
衛星都市探索
(2012/06/13)

「うぉぉぉりぁああああ!!」
 気合いの掛け声とともに振り抜かれた雷の刃が壁を引き裂く。
「こっちもっ」
 続く射撃音が柱をブチ抜いて家全体を軋ませた。
 建物がゆっくり傾いていくが、中で妙なやり取りを続ける者は意に介さない。
「このまま建物の倒壊に巻き込んでいいのかね?」
「良くは無いが、どうなるか見たいとは思うねぇ」
 南条の問いかけにクセニアが肩を竦めた。とは言え、安易に踏み込んで良いものか。
 慌てて出てくるものかとも思っていたが、こうも完全に無視されるとは。
「いやいや、まずいでしょ」
 様子を見ていた一之瀬が慌てて突っ込みを入れるが、
「でも全然ひっぱれもしないんだよ?」
「確かに……」
 とりあえず家の中に入っていない者に今のところ妙な兆候は見られない。あくまで家に踏み込んだ者がこのよくわからないホームドラマを強いられているように思えた。
 だが、その後、二人を引きずり出そうと入った者には今のところ影響は無い。
「中から出せないなら外側を破壊するのみだ。
 やるしかないだろ」
 南条はやれやれと肩を竦め
「……あれ?」
 振り返ったそこにはきれいさっぱり修繕された家があった。
「修繕されてやがるな」
 コツコツとクセニアは壁を小突き、再び銃撃。なんの問題も無く穴が開くのを確かめる。
「一撃で吹き飛ばすくらいしないとダメかもな。
 そういやぁ、中のヤツは傷付くのか?」
「……実験するしかあるまい」
 ナイフを取り出し、腕を一閃。
 薄皮一枚切り裂いたそれは確かにドワーフを傷つけはした。
「……」
 しかし痛がるそぶりも見せず空虚な劇は続けられていく。
「動かないのに傷つけられるのか。
 変なルールだな」
「しばらくしたらこれも修繕されるんじゃないの?」
「だとすると無理やり引っ張り出せても元に戻ったりしませんか?」
 一之瀬の言葉に二人は考え込み、恐らくそうなるだろうとため息をつく。
「壁も壊れるんだから、床をひっぺがしたらこいつらは外に出せる気がするな。
 だが、意味ない可能性が濃厚だ」
 面倒そうにクセニアは言い放ち、周囲の家に視線を這わす。
「取り込まれるルールが不明なのが気にいらないね。
 定員があると考えるべきなのかね」
「試したいとは思いませんね。
 こんな自分はちょっと辛いですよ」
 流石にピンクのエプロン着けて微笑むごつい姿を見せられては言葉も詰まる。
「他の連中がオアシスに向かっているようだし、そちらに合流するかい?」
「まぁ、それで手詰まりなら。ってところかな」
 南条も苦々しく頷き、一之瀬はただ首肯した。

◆◇◆◇◆◇

「これも狂人が関与してるのかね」
 マオウの問いかけにオアシスに向かう一行は誰もが考えるそぶりをするも、返事を返さなかった。
 否、返せなかった。
「わからんのか?」
「そもそも『狂人』という存在がよくわかっていませんからね。
 それがやったように思える事がいくつかと、アルカさんたちの証言のみです」
「判断するには材料が少なすぎるというわけか」
 ヨンの答えにマオウは呆れた風に肩を竦めた。
「何かが怪物化するってのは狂人が出てくる前から確認されていた事ではあります。
 狂人の関与があるかどうかは定かではありませんが、狂人が関与していなくても起こりえる事ではあると思いますね」
「なるほどな。やはりこの街そのものが怪物と思うか?」
「……考えたくないですけど、私達は怪物の腹の中を歩いているのかもしれませんね」
「いざとなれば腹を食い破るしかねえな。
 そろそろオアシスだ」
 同行するザザの言葉に一同が先へと視線を向けた。
「ここまで歩いてきて影響は無し。やはり家に入る事がトリガーのようですね」
「偶然踏まなかったかもしれんがな。
 オアシスにもぱっと見て異変はねえな」
 ザザの言葉の通り、オアシスはきれいな水を静かに湛えているだけだ。特に不審な点は見受けられない。
「しかし怪物化するなら、まずここがありきではないでしょうか?」
「同意見です」
 ヨンの言葉に応じたのはユエリアだ。
「大迷宮都市の時にも大迷宮が怪物化した巨大アリ地獄と、救世主が怪物したロックゴーレムが同じ場所に発生していましたし」
「……衛星都市が怪物化したのとは別にってことか。
 こいつも擬態かなにかか?」
 マオウもしげしげと眺めるが、やはり妙なところは無い。鼻を鳴らして近づこうとして
「待ってください。近づかないで」
「ん? どういう意味だ?」
「精霊力を感じません」
 言われて目を向ける。
「正常な水ではないと言う事か」
「水ですらないかもしれません。とにかく、ここが異常なのは間違いないでしょう」
 水を操る事を得意とする彼女の言葉には強い確信があった。故にマオウは振り返る。
「だ、そうだ。どうする?」
 現在この場には会話を交わす4人のみ。万が一を考えて多くの者には一旦町の外に避難してもらっている。
 残っているのは家の調査をしている連中か、独自路線を貫いてふらついている連中くらいなものだろう。
「攻撃を加えるのは1つの手段です。
 しかし、フィールドモンスターである可能性が高い以上、ここにも特殊なルールが設定されている可能性があります」
「なんだそれは?」
「そう言えばそういうの、ありましたね」
 訝しげなマオウに対し、ヨンが失念していたとばかりに空を仰ぐ。
「フィールドモンスターの『フィールド』には2つの意味があるのです。
 1つは場が変化した怪物の意味。
 もう1つはその怪物の周囲に特別なルールが設定される事を指します。
 大迷宮都市の場合無尽蔵にマッドゴーレムが発生し続けるという場でしたし、かつてのオアシスの変化、ミストドラゴンの時には霧による晴れる事のない視界の封鎖がありました」
「……となると、あのおかしな家の現象もまたそのフィールドルールってやつじゃないのか?」
「サンプル数が少ないので断言はできませんが恐らくは」
「……どうする? 『確認』は取れた。この街は異常で、オアシスも普通じゃない。
 これを成果として持ち帰れば調査としては完了じゃないか?」
 ザザの提案は至極まっとうなものだった。
 というのもあくまで調査目的の彼らが今から正体も未だに良く分からないフィールドモンスター2匹を討伐できるかと言えば、誰ひとり確証を持ってうなずけない。
「取り込まれたやつは見捨てる事になりかねんが、ここで全滅するわけにもいくまい」
 マオウとて強力と知れる正体不明の相手と無策でやり合う愚は好まないが、さりとて放っておいて良いのかという判断は付きづらい。
「さて、どうしましょうかね」
 ヨンは呟いて皆の顔を見るのだった。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
今回は2カ所に分かれていたのでまとめて短めです。
次回は次のアクションどーする? と言う事になります。
場合によっては次回で一回終わり。別のシナリオに派生するかなってところですな。
ではリアクションをお願いします。
『衛星都市探索』
(2012/06/27)

 エディは素早く状況を確認する。
 傷つけた男の腕は建物と同じくいつの間にか再生している。つまりこれは男がこの現象に取り込まれたと判断するに充分な材料だ。あるいは同化してしまった可能性すらある。
 次いで家にカレンダーはあるか?
 しかしそのような物は見当たらない。それを確認して気付く事と言うと、自分だってだいたいPBに確認すれば時間まで正確にわかるのだから、カレンダーを用意する意味が全くないということだ。この考察はボツ。
 ついでクローゼットを開く。
 この家は何人住んでいたのか。それを確認すべくサイズ、男物女物かを見ていくと、恐らくだが二人暮らしではないかと推測できた。
 それから衣服をもう少し念入りに調べる。例えばクロスロードで売られている衣服のほとんどは科学系世界から持ち込まれた大量生産の化成製品である。武具でも銃器などの複雑な品物は大量生産品が良く見られる。そしてそれには決まってメーカーロゴやその衣服の性質を知らせるタグが付いているものだ。
 これもその一つだったらしいが、共通言語の加護を受けているはずのエディにその文字は読めなかった。位置から何が書かれているかは推測できるが、どうしてもそれを理解できない。
「……」
 エディの目的はこの街が何月何日で、時間の進行が存在するかを確かめることにあった。
 が、特定の日を指し示す物が存在しない以上、それはどうやら難しそうだ。
 そう判断しかけたエディがふと脇を見ると、ユエリアが奥に締まっていたらしかった箱を引き出していた。
「それは?」
「衣装ケースですね。春物とか夏物です」
「……!」
 改めて調べていた衣服を見れば厚手の長そで。コートまである。つまり秋から冬に着る物と見て良いだろう。
「おおざっぱな推測だが……やはり、大襲撃の日の町の姿を模しているのか?」
「可能性は大きいと思います。
 フィールドモンスターは何かしらの既存物が怪物に変質したものです。つまり衛星都市としての時間はそこで途切れているはずですから」
「……この街は時間の進みがあるのだろうか?」
「それは判断しかねます。住人が居ない町が時を刻む事はありませんから。
 ……でも、ここに取り込まれた彼らが居る限り、進むのかもしれません」
「……検証している暇は無いな」
 都合良く日記の一つもあれば良かったのだろうが、流石に取り込まれる危険性を分かっていて他の家に探しに行く気にはならなかった。
 少なくとも、この家は、物は怪物だ。共通言語の加護の通じぬ異質な物だ。
「地面を抉って範囲を確認するか……戻らない場所が境界になるはずだ」
「だったら」
 外に先に行ったユエリアを追う。そうして外に出たエディは彼女が水を従えているのを見た。
 そうして、放つ。
 ウォーターカッター。まさにその言葉の通りに水が石畳を長く割り、門の外まで走って霧散した。
「……凄いな」
「これでも、四人でフィールドモンスターを討伐したんですよ?」
 そう言う女性の顔には揺るがぬ決意がにじみ出ている。
「……気負うな」
「そのつもりです。でも、この場所じゃ無理ですよ。
 ……同時に、失ってしまったモノが二度と帰ってこない事も分かっています。
 無理はします。でも命を無駄にはしません」
 強いなとエディは苦笑し、いつの間にか修復した石畳を見る。
 門の外。そこから先に残る傷跡を睨み、それから振り返ってオアシスの木々を見る。
 撤退を進言しよう。この街は予想以上に壮大で厄介だ。
 調べるべき事はまだ山ほどあるが、撤退準備は始めておくべきだと判断し、彼は門の外、仮設キャンプへと向かった。

◆◇◆◇◆◇

「犠牲的精神か、あるいはただの酔狂か……」
 マオウの言葉は虚空に消え、それの届かぬ先でオアシスを見つめる者たちの背へと視線を向けた。
「水があるだけでモンスターなんて見当たらないな。
 とりあえず弾でもブチ込んでみるか?」
 銃を手にしたクセニアの言葉に適当な石を探していたヨンが振り返る。
「威力って変えられますか?」
「多少は。流石にオアシスの水全部は吹き飛ばせねえぞ?」
「そこまでは期待しませんが……反応を見ると言うならばいろんなアクションが必要でしょう?」
「そんなものかね。じゃあ。この水、撃って見るかい?」
「蛮勇の前に可能な限りの保険を掛けておいて損は無かろう?」
 二人の背後に近付いたマオウが肩を叩く。
「え?」
「なんだい?」
 振り返った二人がマオウを見て、それからほんのわずかに眩暈を覚えて訝しげな顔をする。
「気休めだ。
 お前のような色男が死んでは泣く者も居るだろう。無駄死にはするなよ?」
 言われてヨンはやや苦い笑みを浮かべ
「喜ぶ人の方が多そうで困りますね」
「益々死ねんな」
 ニヤリと笑って距離を取る。いざとなれば再び近づいて飛行魔術で一気に距離を取る事も考えてはいるが、固まっていて一瞬で全滅では笑えない。
「じゃあ、やるよ?」
 両手に銃を構えたクセニアの宣言に、緊張を浮かべる。

 そして発砲音。

 そして、静寂。

「え?」
 着弾の音も水しぶきもない。
 余りに、どうしようもないほどに静寂。あるべき結果の訪れない空白。
 呆然とするクセニアを余所にマオウは舌打ちして前へと駆けていた。
「退くぞっ!」
 真横に居たクセニアには分からなかった。
 
 ヨンの胸に握りこぶしが優に通る大穴が穿たれているという事実に。

「な」
 マオウの動きを察知し、振り返った耳に何かの圧。刹那のそれを訝しみ、触れればぬるりとした血の熱さ。
「なっ!?」
 驚く間にマオウは二人の首根っこを掴み、渾身の力で後退。
 二人の頭が遮る先に水面の輝きがあり────

「シャレにならん!」
 ヨンの右腕が、クセニアの左脇が冗談のように抉れた。
「……がぁっ!?」
 まるで空間ごと消えたような消失に目を白黒させ、そして思い出したかのように発生する痛みと熱さにクセニアがらしくなく混乱を含んだ声を洩らした。
『無茶をする』
 上空からの轟音。
 巨大な影がこちらに飛び込まん程の勢いで襲いかかり、三人をひっかけて飛翔。
『がっ!?』
 次いで衝撃を示す声が一度。だがブレることなくその巨体は壁の向こうへと滑り込み、そのまま胴体着陸の勢いで落ちた
 突然の出来事に臨時キャンプに待機していた者達が集まり、目に見えた惨状に慌てて治療を開始。
「な、何が起きたんだい!?
 って、ヨン!?」
 胸に大穴。即死の一撃を受けた男を見てクセニアは己の痛みも忘れて意識を飛ばす。
 が、それがまるで冗談のように復元していくのを見て、ぽかんと口を開けた。
「し。死ぬかと思いましたよ」
「い、いやいや、死ぬだろ、心臓撃ち抜かれたら!?」
「一度ならなんとか。これでも吸血鬼ですので。
 しかし……痛いですよ。シャレにならないくらいに」
 一見修復したヨンの胸が、しかししゅうしゅうと白い蒸気を挙げている。
「な。何が起きたんだい!?」
「……全く見えなかった」
 クセニアの言葉にマオウが苦々しく応じる。
「ええ、私にも見えませんでした。でも推測は出来ます」
 胸の、白い蒸気を指に絡めてヨンは呟く。
「流水……、私の苦手な物の一つです。
 それにやられた」
『水、ということか?』
 巨獣と化しているザザの右足は血塗れだった。近づいて調べればまるで散弾銃にやられたようだと称するかもしれない。
「恐らくは。恐ろしい速度で水を撃ちだされて穿たれたんだと思います。
 私も、クセニアさんの弾丸も」
「ふ、ふざけんな! 何も見えなかったぞ!」
「水、と言う事を考慮しても異常だな」
「水、いや、」
 一人取り乱している事に改めて気付いたクセニアが咳払い一つ、
「もしかしてウォーターガンってやつか?
 あれはダイヤモンドでも切断するって聞くが」
「……水を銃のように撃ちだすか。とんでもないな」
 ヨンが流水と断じた事もあってそれはおおよそ当たりだろうと皆はオアシスの方を睨む。
「だとすると、シャレにならんな。
 弾丸を迎撃すると言うのであればむやみに近づけず、遠距離攻撃は尽く撃ち払われかねん」
 マオウのつぶやき。
 それとほぼ同時にそう遠くない所で撤退を口にするエディの声が彼らの耳に届くのだった。
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フィールドモンスターをなめたらいけません☆
というわけで蘇生持ちのヨンさんには一度死んでいただきました。
町の状態も大体知れたと思います。
さて、撤退するか、強引になにかするか。
決断をどうぞ〜☆
『衛星都市探索』
(2012/07/12)

「どうにもならんな」
 マオウが重々しくため息一つ。
 催眠術を掛けてみようとしてもそもこちらに集中すらしない。殴り飛ばしても蹴とばしても気付けば怪我も修復して良く分からない演劇を続ける2人に、完全にお手上げと言ったところだ。
「放って帰るのも気が引けるんだがね……。
 せめて食料と水は置いていくかい?」
 クセニアが背負った荷に視線をやるが
「いや、こいつら動き回るだけ動き回って食ってる様子がない。
 普通ならもう何らかの変調があっていいはずだ。
 それが無いとなると……飲食を必要として居ないのかもな。案外空気を除去しても普通に動き回るかもしれん」
「じゃあ、これも無駄になるのかね?」
「……どうだろうな」
 マオウは自分らを居ないように扱い、動き続ける男たちを横目に
「ただまぁ、後悔はしなくなるんじゃないのか?」
「気休めかぃ? まぁ、それはそれでアリとは思うけどねぇ」
 くれてやるつもりで持ってきた物だとそれを置き、クセニアは家を出る。
「あ、マオウさん。クセニアさん。
 さっき騒ぎがあたようなんですが、何があったんですか?」
 駆け寄ってきた一之瀬にクセニアは苦笑を浮かべ
「あの吸血鬼が湖に撃たれたんだ。
 幸いというべきか、一回くらい死んでも問題ないヤツだったらしいがね」
「……え、ええ、と。それは大丈夫だったと言う事でしょうか?」
「一応動き回ってはいたな。
 吸血種に『元気に』とか『健康そうだ』って単語が適用されるかは知らんがな」
 吸血種にも色々居るが、大体はアンデッドに属する。確かにその手の言葉はあり方からして逆だろう。かといって不健康そうだったが彼らにとっての健康そうに当たるかどうかはまた謎である。
「ま、まぁ、無事なら何よりなんですけどね。
 そういえばみなさん撤収するような感じなんですけど……これからどうなるんでしょうか?」
「どうもこうも、フィールドモンスターが2体居るんだ。
 クロスロードから加勢を連れてきての総力戦だろう」
 クセニアが肩を竦めて言い放つ。
「そうなれば、こいつらの保証はなし、か」
「どうにもしようがないんだ。
 あるいは持ち帰った情報で何か思いつく連中がいるかもしれないねぇ」
 希望的観測と言うしかないその言葉に誰もが押し黙る。
 それが彼らにとって幸福な結果かは分からない。
 それを口にしないままに、三人は町の外へ向けて歩を進めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「イタタ、油断したつもりはなかったんですがね」
 見る間に、しかし当の本人としてはいつもよりもかなり遅い速度で修復した胸を撫でながら遠目にオアシスを眺め見る。
「お前さんも相当にバケモノだな。
 普通死ぬだろうに?」
「これでも吸血鬼ですからね。
 それなりに不死ですよ。といってもそう何度も死んでられませんが」
「そんな物かね。
 他の連中も流石にまずいと撤退に向かっているらしい。大丈夫ならばさっさと退くぞ?」
「そうですね。おや、エディさんは?」
「ちょいと確認をしてきた。
 直接的な被害の無いアイテムが相手ならば攻撃はしてこないようだな。
 あるいは射程外だったか……」
 そう呟きながら表示された結果を眺め見る。
「ああ、防御属性ですか」
 エディが手にするアカイバラノヤリを見てヨンは呟く。
「物理無効のようだな。まぁ水だから予想の範囲だが」
「精霊の類になるんでしょうかね。狂ったウンディーネとか」
「あんな見えない速度で人さまの胸をブチ抜くウンディーネなんて聞いた事はないがな」
「とはいえ実例がそこにあるからな。
 ともかくやるべき事はやったさ。撤収しよう」
「それにしてもフィールドモンスターが2体か。ありがたみが無いな。
 大迷宮都市もそうだったんだろう?」
「そもそもありがたい物ではないと思いますけどね。
 山の上に塔が建っていれば両方共にフィールドモンスターに変貌する可能性があるというだけですよ」
「まぁ、その結果はシャレにならんがな」
 エディが呆れたように嘯いて、早足に道を往く。
 すでに町を捜索している者は見当たらない。少なくとも町からは撤退したのだろう。
「詳しい事は戻ってからだろうが、知る限り犠牲者は2人と半分だ。
 フィールドモンスター2つが相手とするならば上々だろうよ」
「半分って何ですか……言いたい事はわかりますけど」
「分かってるなら素直に頷いてろ。
 さて、どうなることやら」
 ぴしゃりと言われてヨンは困ったように口をつぐむ。

 再び彼らがこの地に戻るとき、それは如何なる展開を臨んでの事か。
 今はまだ分からない。

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というわけでinv22としては今回で終了となります。
依頼は達成していますので各自所定の報酬と終了値5を受け取ってください。
この続きは別のinvとなります。
では探索お疲れさまでした☆
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