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【inv23】『衛星都市奪還作戦』
『衛星都市奪還作戦』
(2012/07/27)

「これか!」
 楽しげな声に近くに居た探索者が振り返るのも気にせずにクセニアは目を輝かせる。
 そこにあるのはひたすらに無骨で重厚な鉄の塊である。
 全面に魔術紋を刻んだ複合素材板を重ね、その隙間からは機銃の口がこれでもかと突き出している。
 さらに背に背負うのはその全長とほぼ同サイズの砲門。
 先の大襲撃のときに作りだされたこの兵器は今回も引っ張り出されて南門の前、伏線に鎮座していた。
「こう言うのを一度ぶっ放してみたかったんだ!」
「いや、流石に管理組合とかが操作するんじゃないですかね」
 顔見知りが居ると知って近づいてきた一之瀬がクセニアの発言に苦笑いを浮かべた。
「なんだ、使えないのか?」
「流石に何台もあるわけではないでしょうし、そもそも一人で運用出来る物じゃないと思いますけど?」
「いや、一人で運用できるとも」
 と、口を挟んだしがれ声の主を探して二人の視線は一旦彷徨い、わずかに下へ。
 そこにはドワーフのいかにもという感じの男が油にまみれた手袋であごひげを撫でていた。
「一人でですか? こんなのを?」
「正確にはコンピュータ制御ってやつだな。
 目標さえ指示してやれば一人でも扱えるようになっている。
 まぁ、管理組合からの要請で数人での運用が必要となるようにインターロックが掛かっているんだがな」
「一人で扱える物を、どうして何人も必要にするんだい?」
「テロ対策でしょ?」
 一之瀬の回答にドワーフはつまらなそうな顔でうなずく。
「やつらはそう言ってたな。確かにこの砲門がクロスロードや大迷宮都市に打ち込まれれば酷い事になりかねん。
 気にいらんがまぁ、仕方あるまいよ」
「そんなものを衛星都市にブチ込むんだから因果な話だねえ」
 クセニアの言葉にドワーフが一瞬ぽかんとして、豪快に笑った。
「なるほど、確かにこいつは危険な兵器だ」
 何だかわからないが、妙な納得をしたらしく、ドワーフは笑いながら去っていく。
「で、さっきのおっさん、誰なんだい?」
「確かドゥゲストさんですね。この列車砲の開発責任者のはずですけど?」
「へぇ。流石はドワーフと言うべきか、ドワーフなのに科学満載の兵器作るんだと言うべきか」
「……学者系は余り魔法だ科学だと拘らないぽい」
 横合いからさらなる声。物静かだがやたらと通るそれに振り返れば黒を基調とした衣装をまとう、どこかに表情を置き忘れたような少女が段ボールを手にこちらを見ていた。
「そうなのか?」
「……拘る人はここに居られないとか、言ってた。
 特に神学者はノイローゼになりやすいとか」
 クロスロードの物理法則は地球世界に非常に近しいが、魔法だの神族だのを受け入れている事からして、一言では表しがたい異様さを内包している。
 地球の物理法則からすれば、体長10mもある竜族や巨人族はその自重に耐えられずにつぶれて死ぬと考えられる。が、そんな事が起こる様子はなく、彼らはなんの違和感も感じずに生活していた。
 骨や筋組織が人のそれとは違うという仮説は当然提唱されているが、竜族はともかくとして巨人族には科学的に見る限り人の組成と大差ない者が多く確認されているらしい。
「まぁ、使う側の人間にとっちゃ、使えれば良いとは思うけどね」
「否定はできないけどね」
「……そうでもない」
 無口系少女───アインの否定に二人は首をかしげる。
「……便利だからって何も考えずに使ってると酷い事になる場合もある。
 前にそんな事件もあった」
 彼女が口にしたのはかつてクロスロードと大迷宮都市で普及しかけた指輪に纏わる事件だ。その事件は一歩間違っていればABC2W級の災害を発生させていたかもしれない。
「この列車砲がフィールドモンスターになる、とか?」
 茶化すように言った一之瀬の言葉に周囲がしんと静まり返る。
 無論冗談ではあるのだが、ここに居る整備士たちはこの砲の威力を知っているからこそ、笑い飛ばせなかったのだろう。
「うん、確かにそうかもしれないね」
 だが、使える物は有効活用せざるを得ないのもまた現実である。
「ともあれこんなのが中心なら支援以外にすることなさそうかな」
「そうかい? 俺としちゃぁ中距離戦を仕掛けたいところなんだけどねぇ。
 2人ひと組で」
「……町に?」
「いや、オアシスの方だよ。あっちの方がなんとなく厄介そうじゃないかい?」
「……遠くから攻撃した方が安全?」
「んー、こっちは獲物が銃だから町やオアシスに打ち込んでもあんまり手ごたえなさそうなんだよなぁ」
「でもヨンのやつが派手に反撃喰らってただろ?
 爆弾とか落とすと同じだけの反撃が着たりしないのかね?」
 その言葉に二人は応えようがないと口をつぐむ。
 丁度その時、別の場所で同じ問いを発している者が居るとは知らないクセニアは威力の高さを思わせる砲塔を見上げるのだった。

◆◇◆◇◆◇

「というわけで、ヨンさんに反撃があり、アカイバラノヤリには反撃が無かった事を考慮すれば、いきなりの大火力攻撃は避けた方が無難だと考えるわ」
 クネスの言葉に管理組合員を中心とした、作戦会議参加者は思考のために沈黙する。
 最後の最後で発生した一件は安易に検証するのも危険な事態ではあった。
 幸いと言うべきか、被害を受けたのが吸血種のヨンだったから一命を取り留めたものの、他の探索者であったならば死んでいただろう。
「反撃限定だと言うのであれば確かに実験は必要だと考えるが」
 カイゼル髭の男がやがてそう提言すると、同意する言葉がそこらで聞こえた。
「自動兵器あたりで攻撃すれば安全に確認ができるだろう」
「大襲撃と違って急ぐわけではないしね。
 確かめるべき事は確かめてからだよ」
 ホビット族の女性の言葉に大体が賛同を示した。
「しかしオアシスばかりを皆気にしているが、先に町を攻略すべきではないのか?
 『取り込み』の発動条件はあくまで推測でしか分かっておらず、また解放の手立ては分かっていない。
 そんな状態で万が一その推測が違えば、全滅の恐れすらある」
「確かにな。衛星都市が変貌したと思われるシティイミテイターと言うべきそれは自分の上のみをフィールドとしているかがそもそも不明だ。他のフィールドモンスターは自身よりも広い範囲でその『領域』を持っていたからなおさらだ」
 フィールドモンスターの名の元となった自己の周りに展開し、その区域を自身に有利な条件に変更する特性。発見例が少ない故断言はできないが、シティイミテーターが持っていないと考えるのは早計に過ぎた。
「加えて言えば『物理』攻撃は避けた方が良い。
 アカイバラノヤリはあれが『物理』無効と表示した。あるいは『物理』攻撃にのみ反撃をするかもしれないからな」
 エディの言葉に交わし合う視線の数が増す。
 ややあって上座に座っていた有翼族の女性がゆっくりと口を開いた。
「防御役並びに一撃を無効化可能な不死種に協力を要請し、3種攻撃を確かめましょう。
 先行隊として派遣し、実験してください。
 また本隊参加者の中で属性変更スキルを持つ人を選抜しておいてください」
 声音こそ柔らかだが、強い意志を内包する声に皆が頷いて動き始める。
「お二人はお疲れさまでした。可能であれば本隊の方へも参加をお願いします。
 また、アカイバラノヤリを含む経費については管理組合へ申請しておいてください」
 慌ただしく動き出した会議場でルティアは柔らかく微笑む。
「ああ、そうさせてもらう。
 しかし、いいのかい? 町を先にどうにかしなければならないってのは確かだと思うが」
「とはいえ、町への攻撃の余波で反撃されてはたまりませんから。
 まずは実験。その結果から町への攻撃をする事になるでしょう」
「……でも町に取り込まれた人の打開策もまだなのよね」
「それについては……ハッキリ言ってどうしようもありません。
 ただ、ナニカさんやセンタさん……いえ、エスディオーネさんの事例を鑑みれば、フィールドモンスターを撃破した瞬間、解放される可能性があります」
「……ただまぁ、兵器の飽和攻撃の最中に戻ったらシャレにならんだろうがな」
「そればかりは運を天に任せるしかありません。
 一応は取り込まれた人の所在地は確認しています。可能な限り救出をするつもりです」
 迷いのない、とはとても言い難い、犠牲を前提にする言葉を嫌う響きを言の端に滲ませながら彼女は言う。
「多くを望むのも酷な話か」
 エディはぽつり呟き、天井を見上げた。

◆◇◆◇◆◇

「データ不足です」
 マオウの問いかけ。その回答は余りにもそっけない物だった。
「身も蓋も無いな」
「予測とは数多の観測を元に作り上げた統計から生まれる物です。
 私の事例は1例でしかなく、またフィールドモンスターの観測数が10にも満たない以上、それが10%の確率か、100%の確率か、はたまたコンマ以下の確率かは計算できません」
 淡々と述べられる言葉にため息一つ。
「まったくもって正しいな。科学のロボットというのはそういうものなのか?」
「私の所属する科学技術群ではメジャーです。
 生体脳が有するゆらぎを再現する事もできますが、計算には不要です」
「揺らぎというのは?」
「ゲシュタルト崩壊 という言葉を御存知でしょうか?」
 聞き覚えのない言葉にわずかに眉根を寄せたマオウだが、PBの解説にああとうなずく。「あの同じ文字ばかりを見ていると違う文字のように思えると言うあれか?」
「はい。同じ文字のはずなのに脳が違う文字と錯覚してしまう。我々から言えば単なる処理エラーですが、生体脳の多くはそう言ったエラーをわざわざ持っています。
 これは一方では『勘違いによるクリティカルパスの発見』に繋がる機能です」
「……どういう事だ?」
「いつもの帰り道を間違える人はめったに居ません。
 しかし生体脳はふと1つ曲がる道を間違う事があります。しかしそのまま進んだ結果、いつもよりも家に早く帰宅できたならば、それは果たして『間違い』でしょうか?」
「つまりそれは発明や発見の事を言っているのか?」
「はい。機械知性は基本的にエラーをエラーとしか認識しません。してはいけません。
 NGはNGであり、それが揺らぐのはエラーでしかありません。
 曲がり角を間違えたのならば、例え早い経路であってもNGなのです」
「そんな脳を持つあんたとしては、例の少ない事柄で確率を語るのはNGって事か」
「御理解いただけて何よりです」
 淡々とした返事に難儀な物だと感じるのは彼女の言う『生体脳』だからだろうか。イレギュラーに逸れぬ正しい処理であるはずなのだから批難される謂れはないはずだ。
「ただし他の事例で水増しして予測する事は可能です。
 私、およびナニカ様に起きていた事例は『取り込まれた』というより『変質』していたと推測されます」
「どう違うんだ?」
「取り込まれたというのは箱の中に入れられた状態です。あくまで箱と私は別の存在です。
 しかし変質は私は箱の一部になっていると言う事を指します」
「……確かにあいつらは町の一部……付属品のように振舞い続けていたな。
 傷つけてもすぐに修復したし」
「フィールドモンスターの撃破が元々の存在へと戻す唯一の手段であることは100%の事例のため、高い確率で今回も起こりえると予測できます。
 その際に取り込まれた探索者が元に戻る可能性は充分にあると予測できます。
 またその瞬間は完全復帰する事が予測されます」
 ナニカの一件の際には周囲でかなりどんぱちをしたが、戻った巨大ナニカはほぼ無傷だったと言う。
「となると、助けられる可能性はあるわけだな」
「可能性で語ればゼロはありません」
 人間が言えば皮肉であろうが、彼女は純然たる結果でそう語る。
「確かにそうだ。では数字もわからぬゼロでない物を拾うのも一興か」
「危険を伴いますが」
「危険を伴わずに得られる物がどれほどの物だと言うのだ?」
 自己保全を基本概念に組み込まれているはずの機械知性は、しかし頷いた。
「なるほど、では御武運を」
「……貴様は妙だな」
「先ほども申した通り、生体脳の揺らぎを再現する事も出来る仕様ですので」
 そう言って造られた美貌で笑みを作って見せるのだった。

◆◇◆◇◆◇

「なんだ、目的地は同じになったのか」
 巨体からの言葉にヨンは目を瞬かせる。
「ザザさんも館長に?」
「いや、ティアロットに会いに来た。この地下に居ると聞いてな」
「ティアさんに?
 ……そういえばこの間、一緒に行動していたんでしたっけ?」
 なるほどと頷いて扉をくぐると紙特有の香りが一気に迫ってくる。電子メディア媒体なども数多貯蔵されているはずだがその圧倒的多数を誇るのはやはり紙であると五感が感じる。
 そんな空気をかき分けるようにして受付に進むと司書服を着たスタッフが笑顔を向けた。
「ヨンさんこんにちは。今日は調べ物ですか?」
「ええ。館長に相談というべきですけど。
 ザザさんはティアさんに用事があるそうですが、目的はほぼ同じですよね?」
「ああ」
「だったら外の食堂に居ますよ。
 ティアさんが籠りっぱなしだからってアリスさんと館長が引っ張り出してましたから」
 大図書館の庭には館長の趣味で立てられたカフェがある。味も良いことから大図書館に行かなくてもカフェに寄る常連も増えて来たらしい。
「ありがとございます」
 軽く礼をして別の出入り口より外へ。そのルートからまっすぐカフェまで行く事が出来る。
 大図書館の周囲を飾る桜も緑が強くなってきた。春の終わりを強く感じながら二人は木造の店へと足を踏み入れた。
「いらっしゃい。おや、ヨン君か。そちらは……ああ、ザザ君だったかね」
 髭の老人が笑顔で出迎える。菅原道真信仰から生まれた妖怪である彼は立ち上がってカウンターの裏に回った。
「俺の事を知っているのか?」
「わりかし有名だと思うがね。特に周囲に頓着しないセイ君が気にいっているというだけで相当な物だ」
「そいつは初耳だ」
 悪い気はしないが、それが苦笑いになってしまうのは彼との出会いが自分の力に不審を抱くけきっかけになってしまったからだろうか。
「浮かぬな」
 と、いつもよりもよっぽど浮かない顔をした少女がザザにそう声を掛ける。
「久々だな。お前に聞きたい事があってきた」
「衛星都市の事かえ?」
 聞いてから面倒そうに目の前のパンを小さくちぎって口に放り込む。
 どうやらこの少女、このパンを食べる事を億劫に思っているらしい。
 その横では一件か弱そうな少女が監視するように見ていた。しかしザザの視線を察すると慌てたように目を白黒させ、小さくお辞儀をする。
「のぅ、アリス。
 別にビスケットでもよかろうに。地下の連中が『びたみんざい』とかいう物をくれるから問題ないらしいしの」
「ダメです。ただでさえティアさん放っておいたら何日もご飯食べないんですから。
 食べる習慣をちゃんとつけてください!」
 きりっとした態度に外見に似合わず『老練』という空気を何時も持っているティアロットはため息のみを返す。
「わしはアリスに賛成だな。使わない器官は勝手に弱る。そうすれば栄養をどれだけ取っていても体は壊れていくものだ。
 それに精神にだって良くはない。実情はどうであれティア君は人間種なんだから可能な限りそのライフスタイルは堅守すべきじゃよ」
 理論的に言われると弱いらしく、しかし逃げるようにザザへ視線をやる。
「で?」
「オアシスと衛星都市を倒す方法を知りたい」
「飽和攻撃による完全破壊。再生を許さねば良い」
 それはまさしく管理組合が取ろうとしている方法だった。
「でもオアシスは反撃する恐れがありますよ?」
「反撃にも種類と法則がある。対象指定の無制限距離というのもな」
 そう言えばこの世界で使えるかどうかは知らないが、かつての世界ではティアロットの持つ呪式の中に攻撃の対象を攻撃者に強制変更するというとんでもない物があった気がする。
「だが今回の場合ヨンの行動は水に届き、ヨンは同じ攻撃でなく、水による一打を受けた。
 相違無いの?」
「ええ。その通りです」
「なればそれは自動反撃でない可能性も考慮すべきじゃろうが。
 『因果』関係の反撃であるかもしれぬな」
「因果?」
「摩擦をすれば熱を持ち、その熱が物の発火点を越えれば火が付く。この事象の繋がりが因果関係じゃ。摩擦をすることで火を付ける事が出来るとの。
 しかし『因果』を具象化した魔術はそれを省略したり、一部を改変するものがある」
 相変わらず魔術師の解説は難解だとザザは眉根を寄せながら言葉を頭に入れる。
「例えば『その槍に狙われた者は心臓を貫かれる』という槍が地球世界にはあったのぅ。
 槍が狙った瞬間『心臓を貫く』という因果を強制的に結び、結果を固定するわけじゃ。
 そうして突き出された槍は如何なる防御も無視して心臓を貫く」
「そんな無茶苦茶な……」
「因果術式の1つはは世界に『結果は同じ』という詐術を行う。
 或いはこれも地球世界の例えじゃが『アキレスと亀』と言う物がある。
 先行する亀に人間が追い付こうとしても、亀が元々居た場所に着いた時には亀は少なからず前進するため追いつけない。そこから亀の居た場所まで人間は動くが、やはり亀は前進するため追いつけない。これは繰り返され人間は亀に追いつけないというものじゃ」
「でもそれ、時間の概念を無視していますよね?」
 アリスと言う名の少女が口を挟むと理解しようと頭をひねっていたヨンがああと頷く。
「その通り。もう一つの因果術式は結果を生むための要素1つを隠匿し、結果を歪めると言う物じゃ。最初の例で言えば手をすり合わせるだけで火を付ける事ができる。
 『時間』や『発火点』という概念を世界から隠して誤魔化すんじゃな」
 聞けば聞くほどにいじわるななぞなぞを聞いている気分になる。
「攻撃した者に反撃をし、それは必ず相手を貫く」
「どんなに防御しても攻撃者は反撃されると?」
「ありえるだけで確実ではないがの。
 そうなると如何なる防御も無意味じゃ。ぬしのように喰らっても平気なやつを用意するしかない。
 逆に言えばスイッチをぬしが持って全ての攻撃を行えば、その1度の攻撃に対して反撃はぬしに1度だけ来るかもしれぬがな」
 それならば治療も受けたヨンはもう一度だけ耐える事ができる。
「なるほど」
「あくまで今ある情報からの推論故、絶対とは限らぬ。勘違いするなや」
「でも、可能性は高かろうなぁ。
 恐らくは『王冠』ではないだろうか」
 アイスコーヒーを二人に差し出しながらスガワラ老は言う。
「王冠?」
「見たことないかい?」
 言ってストローを取り出し、アイスコーヒーに少しだけ刺してストローの口をふさぐ。
 するとストローにコーヒーが残り持ち上げられた。
 口から指を外すとコーヒーはその水面に落ち、ほんのわずか一瞬、王冠にも似た形状を見せてわずかながら水滴を周囲に飛ばした。
「ああ」
 確かに程度は酷いが起きた事はこれに非常に似ている。水を殴れば当然水滴は周囲に散るだろう。
「これもティア君と同じく予想にすぎぬがのぅ。
 だったら対応策は一つ思いつく」
「……凍らせる、か?」
 ザザの言葉にスガワラ老は満足げに頷いた。
「もしもそのフィールドモンスターがウンディーネの亜種であれば凍らせればその性質を変質させ、フラウの特性を得る。
 その変質にフィールドモンスターとしての特性を維持できるかは不明だが、少なくとも『王冠』は発生しないじゃろうなぁ」
「なら適任が1人居ますね。来てくれるかは分かりませんが」
「管理組合に進言すれば可能性はあるだろうな」
 頷き合う二人から視線を外し、ティアロットはぽつりと言う。
「欠片の情報からの推論に過ぎぬ」
「でも参考にはなりました。あとは衛星都市の方ですが……
 やはり単純な物理攻撃が一番でしょうか?」
「分からぬな。ただ再生したにせよ一度は壊れたのであればまずは完膚なまでに破壊するのがセオリーじゃろ」
 特に口を挟まない所を見ると、スガワラ老も同意見らしい。
「コアとかがどこかにあると言う可能性はないですかね?」
「わからん。じゃがあると仮定して見つけるまでに被害者を何人増やすつもりじゃ?」
 そう言われると言葉も無い。不用意に踏み込めば第二第三のミイラを生みだすに終わりかねない。
「まずはその線で考えるしかないか」
 話を頭にまとめたザザが席を立ち、出されたコーヒーを一瞥して流し込む。
「参考になった」
 礼の言葉を放つが、ティアロットの翠色の瞳はパンを胡乱げに見つめる仕事に戻ってしまったらしい。
「少しは食わないと大きくならないぞ」
「余計なお世話じゃ」
 特に胸回りが残念な少女はほんの少し目に力を込めてザザを睨みあげるのだった。

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はいはーい。というわけで次回は実験のあとでどっがんどっがんいきますよー。
まってー!まだまずい!と言う人はお早めに。
まぁ言ったところでよほどの事がない限りはどっかんどっかんいきますけどね。
うひひ。ではリアクションをよろしくおねがいします。
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