<< BACK
【inv23】『衛星都市奪還作戦』
『衛星都市奪還作戦』
(2012/08/08)

「人を暇人扱いするなんて、貴方も随分と言うじゃない。我が使徒」
「じゃあ忙しいんですか?」
「忙しいわよ?」
 美しくも妖しい女性は目を細めて誰もが息を止め見惚れるような微笑を浮かべて見せる。
「大きな戦いは楽しいわ。強さは羨望を生み、羨望は嫉妬を生む。
 肩を並べ戦っても、そこには憧れに潜む焦れが蠢くの。
 皆が私を呼びさまし、賛美するの」
「……で、実際に何かしているのですか?」
「……可愛くないわね。もう一回強く加護かけてあげようかしら?」
 その出自を神族とし、魔族の属性をも経た彼女は「感情」のひと柱を信仰に置き換えて、クロスロードでも有数の実力者となりえた異物の一人。
 レヴィ────大悪魔リヴァイアサンだ。
「でもまぁ良いわ。可愛い使徒が一人の呼び掛けに応じて上げましょう。
 なぁに?」
「これ、何か分かるでしょうか?」
 と、差し出したのは防衛任務だかで見つけた『核石』。鑑定屋にそうと診断はされたものの、何者かさっぱりわからぬそれを見てほんの少し目を見開いた。
「ヨン……貴方凄いわね」
「え?」
 驚いたような顔のレヴィは視線をヨンに移して数秒黙り込み、

「みんなが忙しく戦ってる時に、こんなどこにでもあるようなしょーもない核にうつつを抜かすなんて。そうそうできる物じゃないわ!」
「ちょ、おま!?」
 身も蓋も無い言葉に思わずツッコむヨンにレヴィは大笑いして
「あははは。面白いわ、ヨン。
 貴方最高よ。多分ゴーレムか何かのコアなんでしょうけど、こんなものどこにだってあるじゃない」
「そんなこと言われたって鑑定屋は何も言わなかったんですよ!」
「それはそうよ。ゴーレムクリエイトなんていうのは精霊術でなければ錬金術でもかなり高位の術式だわ。そのコアともなれば秘奥の秘奥。それに刻まれた術式だけを見て何かを当てろだなんて無茶も良いところよ。
 まぁ、アルカかスガワラの爺さんあたりに見せれば分かったんでしょうけどね」
 ぐうの音も出ないヨンにレヴィは笑い疲れたとばかりに目じりの涙をぬぐうと
「ねえ、ヨン。それちょうだい。というか貰うわ。私への貢物ね」
「え? ちょ!?」
「ふふ、自分の敬愛する神に捧げるなんて感心だわ。
 ちゃんと加護を上げないとね」
 つい、慌てて取り返そうとするヨンにレヴィはスと近づき頬に口づけをする。
 見たままを言えばそうだが、ヨンとて格闘術の達人。余人にしかも顔に唇を寄せられるなどまずあり得ないのだが、神を名乗ってそん色ない女性はあっさりとそれを為して見せる。
「じゃあね、ヨン。
 また面白い事を期待しているわ」
「……っ!」
 そのまま追いかける間も無く何処かへ消えゆく女性を見送りながら、ヨンは呆然とわずかに熱を持った頬を撫でる。
「……ヨンさん、流石」
 不意に真横からの声にぎょっと振り向けばアインが無表情でじーっと見つめていた。それもかなりの至近距離で。
「……こんなときにも外さない。流石」
「ちょ、誤解ですよ!?」
「……大丈夫。どう見ても誤解のしようがない。
 そしてお見舞いの必要もないほど元気だけど、今からお見舞いが必要?」
 アインの言葉にえと首をかしげ、それから突き刺さるような周囲の視線に気付き、息を飲む。
 まぁ、ヨンはこれで非常に有名人。かつ、絶世の美女と言っても過言でないレヴィにキスを貰い、その直後に人形めいた、しかし整った顔立ちの少女に詰め寄られているのだから、まぁ「こんな非常時になにやってるんじゃワレ」という感じだろう。
 ついでに言えば美女───嫉妬の悪魔から加護を再充填されたばかりである。
 次に起こる展開を、疑う余地はなにひとつなかった。

 決死の逃避を行うヨンはこの一件が後に厄介なことの引き金になる事をなんとなく予想していたのだが。
 逃げ切った時にはきっと頭から抜けてしまう事だろう。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「クラスター?
 瑠弾ならあるが?」
 子供をばら撒く弾丸と言う意味ではだいたい同じ物だが、子の性質がやや違う。
「クラスター爆弾はばら撒かれた玉も爆発するのよ」
「そんなもん列車砲で撃ち出した衝撃で全部爆発するわい」
 ドゥゲストの言葉にクセニアはぽかんとして「それもそうだ」と引き下がる。
「それに列車砲で撃ち出した時点でかなりの加速度を得る。
 お前さんの構想しているじゃろう「攻撃でない攻撃」には見做されんと思うがの」
「……俺が浅はかだったで良い」
 肩を竦めてどかりと列車の壁に背を預けて座る。ちょっと拗ねたらしい。
「まぁ、それはさておき列車砲の砲撃はちょっと待ってほしい。
 試したい事があるんだ」
 窓からそう声を掛けたのは巨躯の男、ザザだ。
「やってみたいことは2つ。そのうちまず1つは、オアシスの水を掬えるかどうか試したい」
「……水を掬うと言う行為が攻撃に当たるかどうか、と言う事かい?」
 同席していた青髪の男───イルフィナが問うとザザは頷きを返す。
「こいつで水を出しつくせるならば攻撃すらする必要はないだろ?」
「だが、一つ問題がある」
 すぐさまイルフィナは言葉を継ぐ。
「実はあのオアシス、水源が不明なんだ」
「……は?」
「衛星都市が成立した後、飲料水でもあるので管理組合がオアシスの管理をしていたんだがね。その時に計測した結果、雨が降ろうと日照りが何日続こうと、人が増えて取水量が増えようともオアシスの水かさが増減した事は一度も無いんだ」
 これにはザザも次の言葉がでない。
「そんな物を使っていたのかと言われればそうとしか言いようがないんだがね。
 水そのものの安全性は保証できていたから合えて告知も通達もしていなかったんだ」
「……つまり、水を掬い出せたとしても、水量が減らない可能性がある、と?」
「その通り。早めに告知できていればよかったかもしれないが、住民感情もあるしね。
「ちなみにその水、本当に安全なんですよね?
 ほら、例えば怪物だから実は鑑定できなかったとか……」
 はいと手を上げた一之瀬の言葉にイルフィナは頷き
「別世界に持って行って確認したからね。
 この世界で制限を受けてもほとんどの異世界に置いてはそれぞれが本来の力を制限される事は稀だ。まぁ、根本的な物理法則に左右されたりはするんだけど。
 ともあれ、安全な飲料水であることは保証できる」
「なるほど」
 それで本当に大丈夫かどうかは定かではないが、一応責任のある人間がこれだけの探索者を前に言うのだから半端な事は言うまいと納得しておく。
「さて、ならば私の案を聞いてほしい」
 次いでマオウが声を発する。
「まずは町への大爆撃。これはやむを得ないと考える。
 が、その後一度は町の状況を確認させてもらいたい」
「それは、取り込まれた探索者の安否確認か?」
 クセニアの問いにマオウは頷く。
「それもある。後は都市が死んだふりをしていないかどうかだな。
 あと、懸念があるとすればフィールドの干渉だ」
「干渉? つまり2つのフィールドモンスターの効果が重複していないかということか?」
「もしくは片方に取り込まれていないか、という話だ。
 町を倒したらオアシスが本気を出したり、町を破壊せぬ限りオアシスは町の「再生」の影響下にあるのではないかと言う事だ」
「確かにそれについては一つの懸念ではある。
 大迷宮都市と救世主の1体が同じ場所でフィールドモンスターになっていた際、救世主の変貌したゴーレムが討伐されて初めて大迷宮都市の変貌した巨大アリ地獄が動きだした。これをどう見るかにもよるけどね」
「ま、都市から破壊するという手順は賛成だ。
 やはり反撃のルールが分からないのが怖いからな。出来れば凍らせたりしてみたいもんだが」
「町を首尾よく破壊できればそれは私が試そう」
 氷使いでもあるイルフィナがザザの言葉に頷く。
「水である以上、確かに状態変化を試すのは一つの方策だね。
 そして気体になる場合には先ほど述べた通り補充される可能性があるけど、氷なら多分別だ。面白いね」
 大体の方策は決まったとイルフィナは砲身の伸びる先を見た。
「じゃあ、攻撃開始と行こうか。
 爆撃部隊用意、町の中心部、オアシスを外す位置に標準合わせ。
 防御部隊は不慮の反撃に注意。回復部隊並びに支援部隊は準備よろしく」
 そして、大音量と共に衛星都市は破壊の嵐に包まれた。

◆◇◆◇◆◇◆◇

 一時間後。
 外周部をクレーターだらけにした都市から土煙が払われると、皆の前で幻のような現象が発生した。
「さ、再生した?」
 一之瀬の言葉の通り、元々何があったのかすら判断不能なでこぼこの大地に一瞬で街が蘇ったのである。
「……砲撃、再開するか?」
「いや、一撃だけ防壁に撃ってくれ」
 マオウの言葉にイルフィナが許可を出すと、魔術の一撃が土壁に大きな傷を付けた。
 それから5分くらい経過しただろうか。
「再生しないね」
 双眼鏡を手に見ていたクセニアの言葉の通り、その傷は修復される様子はない。
「ってことは、シティイミテーターじゃなくなった?」
「らしいね。お」
 双眼鏡のレンズの先、町から何者かが飛び出すのを見る。
 それは、建物に囚われたはずの探索者の2人の姿であった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 はい、神衣舞です。
 まぁまぁ慎重でございますこと。だが、それが良い!
 いろんな意見が出ておりますのでそれに乗じて紹介できてない設定をぽんぽん出したりしております。というわけでそう言うのを引き出せたぜひゃっはーくらいに思っていただけると幸い。
 そしてヨン様が一人新しい災いの種を生んでるんだけど。
なんてGM思いなんだろうほろり。
 では次回最終回予定ということでよろしゅう。
niconico.php
ADMIN