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【inv23】『衛星都市奪還作戦』
『衛星都市奪還作戦』
(2012/08/22)

「さて、じゃあやりますかね」
 怪物に蹂躙されたはずの都市は無事なままで発見された。
 しかしそれはフィールドモンスター『シティイミテーション』となった怪物だった。
 そしてそれを討伐した今、町はやはりほぼ無傷なままで探索者の前に現れた。
 しかしよくよく確認すれば特に南側に大きく被害の爪痕が刻まれているのが分かる。そのことからどうやら『町がある一定以上の被害を受けたところで怪物化した』。
それ故に怪物化が解けた瞬間、町が変貌したタイミングに戻ったと推測した。
 町に捉えられた探索者達が無事だったのも怪物化が解除された瞬間元の状態に戻ったからであろう。
 そんな背景を持つ町の中心。一見静かに水を湛えるオアシスからやや離れた位置に探索者達は集っていた。
 主に集まっているのは氷系の術式を得意とする者と。ガード、カバーリングを得意とする者。そして一度くらいなら死にかけても何とかなる連中である。
 その筆頭に立つのは南砦管理官イルフィナ・クォンクース。彼は氷使いとしても知られている。
「湖を凍らせるとはね。スケールが違うねぇ」
「このサイズの水を凍らせるだけの術師はなかなか居ないからな。
 数を揃えて凍らせるというのも普通はすまい」
 クセニアの言葉にマオウが苦笑を見せる。
『もう少し距離を取った方が良いんじゃないか?』
 くぐもった声。巨大な獣が滑空し、二人に影を作る。
「折角の特等席。見なければ損と言うものだ」
「その意見には賛成ね。
 フィールドモンスターが倒される瞬間なんて見れる物じゃないわ」
 追従する言葉は後方から。
 振り返ればおおよそ非戦闘員であろう人物を伴ったクネスがそこに居た。
「なんだそいつら?」
 クセニアが訝しげに問うと「研究者ってやつね」と応じる。
「今言った通りよ。私達は今後もフィールドモンスターとやり合わなきゃいけない。
 少しでも存在を理解しないと」
「それは熱心な事だ」
 マオウは言いながらも、自分と同じ目的だが、あからさまに自衛能力のない面々を前にしてほんの少しだけ眉をひそめる。
「研究者というのは得てして自分の命よりも新発見の方が重要っていう存在だわ」
「なんとも哲学的だな」
『始まるようだな』
 心なしか距離をとりつつザザが呟く。
 キンと、空気が澄んだ音を立てた。
 精霊を操る者、温度その物を操る者、純粋に氷を生みだす者。
 様々な氷術が同時に構成され、
「放てっ!」
 オアシスに向けられる。
 特質すべきはその行為の全てはオアシスを狙わぬ事。その直上の気温を下げ、淵を凍りつかせ、その余波をオアシスに浴びせ掛ける。
 背後で見守る者に襲いかかる寒気。皮膚感覚が一瞬でしびれ上がるような感覚の後に、寒さというより痛さが全身を駆け抜ける。
「ちょ、痛いっ!?」
「これは堪えるな。ザザの毛皮が羨ましい」
 目もまともに開けていればその表面の水気が凍りつきそうなほどの温度変化。
「どう?」
 クネスの問い。吹き付ける冷気は勢いを失わない。
 学者の中には準備万端とゴーグルのようなものを付けている者も居るが、待機中の水分が氷結し、巻き起こるダイアモンドダストに視界が確保できていないらしい。
「おお、オアシス凍っているな」
 とある学者がそんな事を言う。見ればちゃっかり建物の影に隠れつつ、自分の視界としてビデオカメラを設置してモニターを見ているらしい。電話線や通信ケーブルも100mを越えれば「100mの壁」に阻まれ意味を為さなくなるが、返せばその範囲内ならば普通に使用できる。
 それが正解と見学組はその学者の方へ集合。画面を眺めると流石に術師連中は耐性があるのかこの寒さの中でも術を維持し続けている。そしてその前方、オアシスの淵が急速に氷結していくのが確かに見てとれる。
「反撃は無い様だな」
「オアシスそのものを狙っていないから反撃が発動しないってことか?
 なんともまぁ、ずるがしこい」
 クセニアの褒め言葉も画面に集中する連中にはどうやら届かなかったらしい。
 凍りつく範囲は加速度的に増え、しばらくすると表面は完全に凍りついてしまった。
「問題はここからね」
 クネスの言葉に学者連中は頷き、その他の見学者は首をかしげる。
「どういう事だ?」
「湖が凍る場合、まず表面が凍るのは分かるわよね?
 そこから下って外がどうであれ3〜4℃の水温があるのよ」
「ああ、聞いた事があるな。だがこのまま冷やしておけば完全に凍るんじゃないか?」
 クセニアの言葉に「確かにそうなんだけど」と頷いて
「明らかに熱は伝わりにくくなるし、彼らだって無限に魔術が使えるわけじゃない。
 外気温は容赦なく冷気を拡散するわ。速度と魔力が追い付くかどうかね」
『あの状態で砕いたりはできないのか?』
「できると思うが……まだ氷で無い部分が不確定要素だな」
 マオウの応じにザザは難しげに鼻頭にしわを寄せた。
「しかし、砕くのは手かもな」
 クセニアがぽつり。
「ほら、要するに凍ってない部分を露出させれば凍らせやすいわけだし」
「確かにそうね。氷の状態で反撃がないかも確かめたいし、やる価値はありそうだわ。
 案外それで倒せたりしてね」
「この街も半壊程度で怪物でなくなったからな」
 となると問題は。
 冷気のど真ん中に誰が伝えに行くか。

 皆の視線が毛皮に包まれた巨躯に集まり、視線の先ではため息が一つ漏れた。

 ◆◇◆◇◆◇

「なるほど、何も覚えていないんですか」
 なんだか肌寒いなと思いつつ一之瀬は彼らの言葉を反芻する。
「ああ、家に入り込んでから、気が付いたら家の中に立っていた。
 そんなお芝居をやってた覚えは無いな」
 ドワーフの男は一之瀬に教えてもらった自分たちの惨状にげんなりしつつ応じる。
「じゃああの爆撃も覚えていないんですね?」
「今自分がゾンビの類じゃないかと不安だな」
 苦笑いで応じられ、一之瀬はふむと呟いた。
 取り込まれている間の記憶もないなら仕方ない事だろうが、彼らにはそれにより付くはずの外傷も一切なかった。調査の時に彼らに傷を負わせてみたらしいが、その痕もない。
「本当に取り込まれた……怪物化した瞬間を保存しちゃうみたいですね」
「幸いにもな。しかし、怪物になったままではないかという不安とは、なんとも」
「大丈夫じゃないですかね」
 一之瀬はPBに確認しつつそう応じた。
「怪物とは会話ができない。って事ですし」
 実は例外個体が既にいるのだが、特例過ぎる上に余計な不安を与える必要もないと、それは未公開のままなので、二人はその言葉に安どの笑みをこぼす。
「運が良かったと思おうか。
 あとはオアシスを倒せればこの街は戻ってくるわけだ」
 リザードマンのややしゃがれた声に一之瀬は頷く。
「無事に終わると良いんですけどね」

 ◆◇◆◇◆◇

「なるほど」
 純白の酒場にて。
 ヨンは皆の言葉に感嘆の言葉を零した。
「というか」
 誰かの呆れたような声音。
「どうしてフィールドモンスターとやり合ってきた連中よりもボロボロなんだ、お前は?」
「……流石はヨンさん……」
 隣でちびちびと果実酒を舐めていたアインがぽつりとつぶやく。
 掛け直された『嫉妬』の加護は近くに居たアインの存在をネタに爆発的な効果を見せた。しかも住民の半分が戦闘能力を持ち、なおかつそういう荒くれ仕事のために恋やら家庭やらに基本的に縁遠い連中が多い。
 町と言う体裁があるため、普通の冒険者連中からすれば格段にリア充率は高いのだが、そんな事は知った事かとばかりにヨンに嫉妬と、敵意が殺到。考えるよりも手を出す方が早い連中の猛攻に会い、辛くも逃げ出したというのが結果だった。
「……騒ぎの種もしっかり蒔いてた」
「そ、それは内緒で!」
 内緒にしたところで何も変わらない。
 そうは分かっても今は忘れたいと視線を祝勝会を繰り広げる連中へと戻した。
 結果から言えば砕かれた氷は反撃する事は無かった。
 そして半ば以上凍りつき、そして砕かれた氷はある時点で突如全ての氷を溶解させ、攻撃を加えていた連中を水浸しにした挙句、未だに残る冷気で体表面を凍りつかせ、凍傷を起こしまくったという悲劇を生みだした。
 幸いというか、背後に控えていた支援部隊のおかげで腕を切り落としたりするような深刻な被害は発生しなかったが、その案を伝えに行ったザザはついでとばかりにその剛腕を奮っており、氷結の被害も一番に喰らってしまっていた。
 今は皆に感謝されつつ、氷の破壊をしていた面子と酒を酌み交わしている姿が店の奥に見えた。
「特にエフェクトが掛かる事もない、HPが無くなったら即元に戻るって感じですかね」
「巨大ロボの時もナニカそうだったと言うし、そう言う者だと思うべきなんだろうな」
「では下手に攻撃を激化させるとそのまま元の存在も殺してしまう可能性があるわけですね」
「……でも囚われていた人は無事だった……。
 一定の無敵時間みたいなものがある……?」
「確かにそれはありえる話ですね。
 むしろこちらにとってはありがたい現象ですけど」
 ふむと頷いてヨンは周囲を見渡す。
 と、まぁ、いくらかの殺気が体に突き刺さり、あれ? いつの間にか囲まれていますか?と冷や汗を掻く。
「ま、まぁ無事に解放されて何よりです。
 次は奪われないようにしたいですね。はは、それでは」
「あ……」
 脱兎。と言う言葉がぴたりとくる動きで店から走り去るヨン。
 それを追ういくつもの影。
「……まぁ、ヨンさんだから平気、か」
 どうせあの男の事だから、走っている最中にまた女性とかにぶつかってフラグを立てるに違いない。
「……三度くらい刺されてもきっと平気」
 物騒な事を無表情で言い放ち、アインは見知った顔のところへとひょこひょこ歩いて行くのだった。

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 というわけで探索から考えると随分と長くなってしまいましたがこれにて衛星都市奪還戦完了です。
 参加者の皆さま、お疲れさまでした。
 なんやかんやと忙しく、更新が前よりも遅れがちでもうしわけありませんが、もう睡眠時間を生贄にやる気を召喚してやっていきたいと思いますのでよろしく。
 さて、2つともシナリオが完了しましたし、次のイベントを起こさないとな☆
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