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【inv24】『百鬼夜行の夜に』
『百鬼夜行の夜に』
(2012/09/04)
 クロスロードで言う「大きな祭り」には2つある。

 1つは2月に行われる慰霊祭。これは最初の「大襲撃」の死者を弔う催事であったが、以後に続く「大襲撃」の死者も含め、慰霊を行う物となった。
 慰霊祭とはいえ、ここは死と隣り合わせに生きていた者たちが多く集うクロスロード。湿っぽいのは最初の催事の時だけで、その後は少し遅い新年会という勢いでお祭り騒ぎになるのが慣例化している。
 もう一つがこれ、「Walkers the Nigth」と呼ばれる祭りである。
 これは毎年9月頃に開催される妖怪種が主軸となった祭りだ。
 元々は妖怪種特有の行動である「百鬼夜行行脚」だったのだが、周囲の連中が面白がって賛同し、大きな祭りとなった。
 地球型世界からの来訪者が多いこの地では、大体秋は収穫祭の時期であるし、その他夏祭りなどとも合わさって冬を前にした一大祭りと化していった。
 そんな中、元々の「百鬼夜行」を妖怪種達が何故行ったかについては案外知られていない。
 妖怪とは妖精の一種とされるが、地水火風などの現象物質に伴う精霊に対し、妖怪の多くは音や光、幻覚などの曖昧な、ある意味「勘違い」とも言うべき現象から発生したものである。彼らの言葉で言うならば「畏れ」。即ち恐怖心などの負の感情だ。
 植物が枯れればドライアドもその場にとどまれないと同じように、妖怪種のほとんどはその根源となった恐怖を失うと存在そのものをかき消されてしまう。
 故に百鬼夜行が行われる。それは「己を示すための行脚」。「ここに居るぞ」と主張し、認められる事で妖怪種は存在できるのだ。
そう言う意味ではすでに伝説と同化し、存在を現実に近い形で確立させている鬼や雪女、天狗などはこれを行う意味はあまりない。
しかし彼らは同胞のために己を見せ、夜を練り歩くのである。

 クロスロードにおいてその首魁を務めるのはシュテンという鬼である。
 地球世界の日本系伝承にその名を刻む鬼の王、酒天童子その人であり、その脇にある時に巨大な鬼、時に和装の美女の姿をとるのがイバラギ───即ち茨木童子であった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「……というのが私の調べたこのお祭りの概要」
「なるほど」
 うんうんと頷いたのは黒スーツを着た猫耳の男だ。
 その横ではクネスとヨンが聞いていた。
「……だから、ヨンさん。ヨンさんが吸血鬼のコスプレするの、何か違う気もする」
 アインの突っ込みにヨンはへらっと笑って「こう言うのは気分ですし」と応じる。吸血鬼が吸血鬼のコスプレをするのは普段着と言うのではないだろうかと追加で突っ込もうかとも思ったが、隣に居るのも確か吸血鬼だし、そこから突っ込みがないしと口をつぐんだ。
で、目の前でメモを取っている猫耳青年に視線を向け
「わかった?」
「え? あ、そ、それくらい知ってたし!?」
 慌ててメモを隠し、ふんと鼻を鳴らす。それがあまりにも滑稽でアインはぽかんと青年を見やった。
「って、あれ? 魔族じゃないのか?」
「魔族種と妖怪種は違うわよ。
 アインの説明の通り、妖怪種は感情を起源とする精霊種。フィアーとかパンシーとか精霊使いが使う妖怪種モドキも居るわね」
 クネスの言葉にほーと感心の声を上げつつメモる青年。
「……吸血鬼はどっち?」
 アインの問いかけに
「両方居るって言われてるわね。
 血を吸う何かを怪物に見立てた恐怖から生まれた妖怪種系吸血種と血という魔術媒体を自らの糧として長命不死を実現した不死種。私は後者ね」
「あ、私も多分後者ですね。とはいえ吸血衝動はほぼ無いですけど」
「妖怪種の方は『血を吸う化け物への恐怖』から発生してるから吸血衝動が消える可能性ってほとんどないんだけど、私達の場合は代用する何かがあれば良いからね」
「……なるほど」
 と、黒ローブに黒フード、手にはデスサイズと、死神のコスプレ……わりかしいつも通りの格好のアインがこっくりとうなずいた。
「魔族は居ないのか?」
 猫耳なシャ・ブランの問いに「居るはずですよ」とヨンは頷く。
「恐らく第一陣から三陣に加わるでしょうね。
 第一陣とか魔王のみなさんが参加するとか言ってましたし」
「一陣?」
「このお祭り、結構派手な妨害があるんですよ。
 だから一番目立つニュートラルロードを長く歩くルートによって1陣、2陣とグループの名前がついていまして。非暴力系の妖怪種なんかは9陣とかそのあたりを往きます」
「それじゃ魔族とかも参加するなら1陣とかか?」
「魔族と言ってもピンキリですしね。家事全般得意なキキー・モラやインプは数字の大きい陣に加わるでしょうし。逆に護衛代わりに強い人がそっちに数人回るはずです」
「なるほどなるほど」
「じゃあ1陣に参加すれば魔族の調査ができるんだな」
「そうなるわね」
 クネスの言葉に後押しされるようにメモを仕舞ったブランは、「さ、参考にしてやる! ありがとよ!」と言い放ち去って行った。
「でも、大図書館で調べた方が早い気がするのよね」
「辞典系の単純な調べ物だったら分からない事ありませんからね」
「……教えてあげればいいのに」
 と言いつつ訂正もせずにその背中を見送るアインだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

 開催の前にスタッフ側で参加する者に対する説明会と班分けがされるのも恒例となっていた。
「お祭りかぁ……心がウキウキしてくるわね」
 と、Ke=iが笑顔で呟くと
「だよねぇ。こういうのって楽しいよな」
 と、ジャックランタンの仮装をした一之瀬が笑顔でうなずき、被ったかぼちゃががこりとずれてつんのめる。
 その手をがしりと掴まれ、危うく転倒回避。
「ああ、すみません助かり……」
 振りかえると目の前いっぱいに爬虫類系の顔が広がっていた。
「……ました」
「あれ? 驚かないのかい?:
「え? その声……クセニアさん?」
 普通に返されてクセニアは困ったように頭を掻く。
「驚かないのかと言われましても……普通に竜人族かリザードマンかと」
「……ああ。うん。良く考えたらそうだね」
 人間種あたりは故郷の感性から「仮装」を楽しんではいるものの、よくよく考えてみると周囲には仮装でないリアルな異形が普通に歩き、会話している。
 そも大本が異形の親玉、妖怪種なのだからなんというか。
「あの、仮装をするのは友好のためだって、聞きました」
 ちょこんと近くに居た犬耳娘がおずおずと口を挟む。赤いフードにエプロンドレスを付けたその姿が「赤ずきんちゃん」であろうことはこの面子だと一之瀬くらいしか推測できそうにない。
「驚かすためじゃないのね」
「妖怪種のみなさんの中には驚かす事が存在意義みたいな人もいますから、総じて違うとは言えませんけど……」
 実際参加者以外にも多くの観客がこの祭りを楽しみに来る。この祭りのために異世界から来訪する者も居るらしい。そういった客を狙って妖怪種は驚かしをかけるのだ。
 一方で一般参加者のノリはやはりハローウィンパーティに近い。彼ら以外にも既に仮装して会場に集まっている来訪者の姿は決して少なくなかった。
 と、ちょいちょいとクセニアの肩が叩かれる。
 ん? と振り向くと

 巨大な目がぎょろりとねめつけた。

「うわぁっ!?」
「あ、一つ目小僧さん、こんにちは」
 ちょこんと頭を下げるチコリにひとつ目小僧はひょいと手を上げてすらこらさっさと去っていく。
「流石は脅かしのプロ」
 Ke=iが大笑いする横で一之瀬が感心し、変化の術が解けたクセニアはバツの悪そうな顔をしつつ起き上がる。

『よっしゃ、お前ら、説明するぞ』

 濁声が会場に響き渡る。
「はいはーい。みんなー、九十九ちゃんにちゅーもーくじゃ☆」
 ひらひらと手を上げるのは尻尾が9本ある狐耳の幼女だ。
「まぁ、毎年のことじゃから皆もわかっておろうし、わからんならPBに聞けばすぐ答えてくれるから、概略ははぶくぞ」
 えへんとえらそうに言う彼女は九尾の狐。3段階ある狐の位では最下層の野狐ではあるが、妖怪としての格が非常に高い事は知られている。現にクロスロードの妖怪種の中でも上位に座しているはずだ。
「設営スタッフは明日9時より班分けして会場設営にとりかかる。
 主にテント設営や緊急通達網の設置、観客誘導の練習などじゃ。
 一方護衛組については今からあのあたりで班分けするから誘導に従うが良い」
 扇子で指し示す先、鬼や土蜘蛛など、が待ち構えているのが見える。
「知っての通り、毎度わしらを使役せんと狙う連中が今年も殴りこんでくると思う。
 まぁ、もう恒例行事化しておるからのぅ、管理組合にも規制させんと、堂々と殴り合うから楽しい祭りになるじゃろうな」
 この言葉に驚きを見せるのは今回が初参加の連中だろう。仮装パーティーと思いきや、喧嘩祭りの要素がでんと出てくる。
「おととしは巨大な光の巨人なんて出たとか言ってたっけ?」
 Ke=iの言葉に一之瀬が「それってうると……」と言いかけたところで九十九の言葉がかぶさる。
「ただし、第六陣以降には一般参加者も加わるからの。そちらへの攻撃はご法度じゃ。
 そんな不届き物がおるなら容赦なくくびり殺してやると良い」
「過激だねぇ」
 クセニアがにぃと笑う。
「連絡関係は100mの壁があるからの。町の緊急連絡とは違うパターンで煙玉を上げる。PBがあるから間違えんじゃろうが、それを覚えて行動してもらえば問題なかろ。無論トラブル対応は各自の判断じゃがな」
「おおざっぱだなぁ」
「仕方ないですよ、予想外の事、多いですし」
 一之瀬の呟きにチコが苦笑気味に応じた。
「祭りは一週間後の夜じゃ。今年は管理組合からの要望で前に2日、祭りをやるからそちらの警備、スタッフも交替で1日ずつ順番にやってもらうことになる。
 無論三日目は全員参加じゃがな。
 とりあえず説明はそんなところじゃ。分からない事は妖怪種で祭りの腕章つけたのがおるから、そいつに聞け。
 以上じゃ」
 彼女がそう締めくくるなり、スタッフ側と警備側とをわけるように集合の声が掛かる。
「じゃ、お互い楽しく頑張りましょうか」
 Ke=iの言葉に皆はそれぞれ頷いて、自分の希望する持ち場へと向かうのだった。

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 というわけでシナリオとしてはお久しぶりのお祭りです。
 今年もまぁ、厄介なのが飛び出しますよっと。
 次回は祭り1日目、2日目をお送りする予定です。
 本番ではありませんが祭りを楽しむもよし、お仕事をするもよしです。
 ではリアクションをお願いします。
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