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【inv24】『百鬼夜行の夜に』
『百鬼夜行の夜に』
(2012/10/17)
「アルカさん、本当に受けるのですか?」
「ん? ま、いいぢゃん。
 あっちもそういう余興どんと来いなんだろうし」
 『とらいあんぐる・かーぺんたーず』の裏庭。サンロードリバーを挟んでもなお届く喧騒に猫耳を傾けながらアルカは笑う。
「しかし……」
「ま、あちしらはどっちかというと抑え役だしね。
 そもあちし自身としてはどっちかと言うと妖怪種だし」
 ちなみに彼女の種族を正確に述べるのであれば元人間種ベースのホムンクルスで人狼系妖怪(九尾狐)から感染して妖怪化したワーキャット(猫又)ということになる。なにがなにやらさっぱり分からないが、いろいろあってそうなのだから仕方ない。彼女の根源まで語り始めるとそれだけで小説数冊になりかねない。
 ともあれ気分的には自身を猫又と称しているので妖怪種寄りではあるのだろう。
「だからあちしらはあくまで観客防護だけやるにゃよ。
 その分気兼ねなく暴れられるのはシュテンも望むところでしょ」
「……わかりました。しかし……一陣はまだ良いとして二陣と三陣はちょっとやそっとの被害では済まない可能性が……」
「ん〜。三陣はあの人次第にゃけど、二陣はねぇ。頭に血が上りやすいし。
 一応施療院の方にも声かけたみたいだから死ななきゃ何とかなると思うけど。ルーちゃんも居るわけだし」
「……はぁ」
 翼を持つ少女は重いため息を吐いて河の向こうを見る。
「下位陣の方にウルテちゃんに万が一の介入はお願いしたし、今回は影の連中にも協力願ったから、よっぽどヤバイのは事前に潰してると思うけどね」
「……」
「あちしらも表舞台に引っ張り出された事もあるけど、良くも悪くもクロスロードは安定期に入りつつあるにゃよ。
 そしてそうなれば、町には別の争いが生まれるものにゃ」
 よいしょと立ち上がって体を伸ばしつつ、猫耳少女は目を細める。
「今回は丁度良い機会かもよ?
 この街のパワーバランスがどうなってるかを知る、ね?」

 ◆◇◆◇◆◇◆

 居並ぶはクロスロードでも有数の実力を持つ妖怪種や魔族。人々に恐怖を与えるその姿もこれでもかと並べば一種の感動を齎す。それはまさしく『畏敬』と呼ばれるべきものだ。
 その先陣に立つのは妖怪種の王シュテン。彼に匹敵する者が他に居ないかと言えば議論を呼ぶが、混沌と悪意を好む彼らも人と同じように『ある一定の地位』を得るとそれなりの秩序というか社会性を身につける傾向にある。
彼らの祭りと承知し、この座の王は彼と譲っているのだ。
 もっともそのギラギラとした視線はお互いを値踏みしているようでもあるが。
 シュテンは手には煙管。棍棒と見間違えても仕方ないほどのそれから煙を吸い、吐き散らして目を細める。
 観客は祭りの実行委員が敷いたラインを踏み越えることなくその姿に歓声を挙げ、写真を取り、手を振る。泣きわめく子供も後を絶たないが、案外色々な地方で見られる『脅かし、怖がらせ』の祭りと勘違いしているのだろうか、親はあやしながらもその勇士を見るように促していた。
「ほほう、これは壮観でございますなぁ!」
 さて、一陣に紛れ込む者の中には少々場違いな面々も居た。
 姿形が実力ではないというのはこのクロスロードでの常識だが、こと彼の場合はお上りさん色が強く、どう見ても場違いだった。幸いというか落ち着き払ったマオウと呼吸を忘れそうな威圧感の中平気な顔で微笑んでいるクネスが傍に居るため、違和感は薄れている。
「そういえば、何でその子連れて来たの?」
「動けずに祭りの音を聞くだけというのも詰まらないものだからな」
 マオウの方にはクロスロードの探索者ならば誰もが知り、その上でちょっと眉根を顰める存在があった。ぶっちゃけ(=ω=)←こんなの
「爆発しないの?」
「不発弾ということらしい」
 極稀な確率でそういう個体がいるのだそうだ。伝聞係としてマオウに預けられたナニカは2本の棒線な目をきょろりと動かしながらたまにぷるぷると体を震わせていた。
「そろそろ出発ですかねぇ」
「そうみたいね。ただ、その前に何かありそうよ?」
 クネスの視線の先、行列の先に立ちふさがるように、一人の若い武士が居た。地球世界は日本の歴史に詳しい者が居るならばその格好は鎌倉〜江戸時代の『侍』でなく、平安時代の武士である事を見てとったかもしれない。
「大江山の鬼 酒呑童子に物申す!」
 まるで歌舞伎か何かのような明朗な声が夜闇を打ち据える。何かの演出が始まったかと観客たちはざわめきを沈め、若い武士の姿へと視線を集めた。
「我らが主はこの先、百鬼の集う場にて待ち受けたり。
 されど、汝らがそこに到る事は無し!」
「ほぅ、若いの。お前らがここだけじゃねえ、全ての足止めでもするってか?」
「否、我らでは叶わぬ」
 故にと男は言葉を継ぐ。
「しかし我らを統べる者、源頼光殿は人としての戦いを汝に突きつけん!
 即ち────」
 第二陣、三陣の出発するはずの場所で盛大な戦闘音が響き渡った。
「人としての策をごろうじろ!!!」
 若者の背後に居並ぶ武士が野太刀を引き抜くのを見、それから首を巡らせたシュテンは傍らの鬼へと視線を定めた。その鬼は体の全身に目玉を付けた百目鬼である。
「何が始まったのですか?」
 興味を抑えきれずに近づいたブランの声を聞いたか聞かずか。
 百目鬼は数多の目で困惑を表現するかのようにきょろきょろとさせて言い放つ。
「二陣と三陣に────」

 ◆◇◆◇◆◇◆

「あいつらは……」
 一陣は流石に見物するには人が多すぎると、それよりはマシな二陣へとやってきていたザザは訝しげに、しかしどこか楽しげに言葉を紡ぐ。
「ザザさんでしたっけ? 何が起きてるんですか?」
 背後から腕をつついたのは雷次だ。ザザはぐいとその腕を引っ張ると自分の肩に彼をかつぎあげる。人々よりも頭一つ高い位置からようやく視界を開けさせることのできた雷次は騒ぎの原因を直視して顔をしかめた。
「あいつら……なんですか?」
「律法の翼、しかも過激派連中だ。大層な事にルマデアの野郎も居るぞ」
 白銀の甲冑に身を包んだ男───このクロスロードに秩序と法を求め、犯罪者と定めた者を討ちとる暴力的自衛団。その長が赤の髪を祭りの明かりに晒して列の進行を妨げていた。
 その背後には獲物を手にした者達がざらりと居並ぶ。その全てが思い思いだが、翼をあしらった紋章がどこかしらに刻み、己の身を主張する。
 PBに律法の翼の説明を聞いた雷次はぐっと眉根を寄せる。
「なんであいつらが邪魔してるんだよ?」
「さぁな。挑戦者大歓迎の喧嘩祭りだ。元より無法が当たり前のケイオスタウンの連中を毛嫌いしている節があるヤツラには参戦するメリットがあったと言う事だろう」
「それにしたって祭りなんだぜ……って、応援に行ってくるぜ」
一瞬即発。今から開始だと言うのに高まる緊張に観客も危険を感じて距離を取り始める。もちろんはやし立てる者も居るが。
 警備担当は泡を食って妖怪側や観客を護る位置へと身を移していた。
「どうやら面白い事態にはなっているようだな」
 人を掻きわけ進む雷次の背を見てザザは自然と笑みを作っている自分に気付く。
 自分から喧嘩を売るつもりは無い。無法無鉄砲はもう自分が背負う言葉ではなくなっていたという事実に年齢を感じた物だが、自分が闘争の場から離れられたかと言えばそんな事は無かった。
 この場は安全だろう。法と秩序を標榜する彼らが観客に大きな被害の出る手段を取るとは思えない。しかしそれは聖か中立属性の者に限ってだ。
 かつて彼らはコロッセオで魔属性の観客全てを殺しかねない騒ぎすら起こしている。
 我が身をどこに置くか。
 警備担当でもない「ただの観客」のザザには選択の自由がある。
 無論巻き込まれる場所に行く事も可能だ。
「さて」
 早くも血の気の多い者達が間合いに踏み込んでいる。
 戦いは始まるのだ。

 ◆◇◆◇◆◇◆

「絶景絶景と」
 祭りを飾る明かりが綺麗だ。空には光に関する妖魔や妖精。それから電灯やらを付けた竜族などが舞い踊っているのが見える。わがままな竜王とあだ名されるファフニールが調子に乗って三回転ひねりとかやって目を回しかけているのを見てぞっとする。流石にあれが落ちると大惨事である。
「ん?」
 祭りの喧騒とは違うざわめきを感じて一之瀬は視線を下方へと向けた。
 そこに異様な集団が祭りの進路をふさいでいる光景があった。
「あれって確か……」

「はーーーっはっはっはーーーーーーー!!」

 少女特有の甲高い声で造られたわざとらしい高笑い。
 エナメル系のボンテージと称すべき衣服をまだ幼い裸身に纏い、仮面を付けた赤髪の少女がそこに居て、その背後には7人の黒服と、全身黒タイツの無個性集団が続いている。
「ダイアクトー?」
 クロスロードのマスコット的な扱いを受けるイロモノ集団───秘密結社ダイアクトーの出現に周囲は状況の整理を求めるような困惑に包まれていた。
「そこの妖怪ども。あたしはずーーーーーーーーーーーーーーっと気にいらなかったのよ!!」
 びしりと指差す先には同じくらいの背恰好の少女、九尾狐の九十九が居た。彼女がこの第三陣のまとめ役である。
「なんじゃ、いきなり?」
「どーしてあんたたちがでかい祭りを仕切ってるのよ!
 この街はあたしの物よ!!」
 何の臆面もなく言い放つ彼女に、ファンの連中が歓声を上げる。
「そう、あたしこそがこの祭りの主役であるべきなのよ!
 それを毎年毎年我が者顔で! ずーーーーーーーーーっと許せなかったのよ!」
「……え−っと、それ、第一陣に向かって言うべきじゃないかなぁ?」
 幸いなことに建物の上に居る一之瀬の声は浸りきっているダイアクトー三世の耳には届かない。
「だから決めたわ!
 今年からこの祭りはあたしたち秘密結社ダイアクトーが乗っ取るの!」
「何を勝手な事を言っておる。このチビジャリが!」
「はぁ!? あんたの方がちっさいじゃない! このぺったんこ!!」
「何を言っておる! これは仮の姿で本当は傾国の美女と諸書に記される───」
「妄想乙」
「その喧嘩買った!!」
 いきなり始まった程度の低い喧嘩だが、すぐさま黒服や戦闘員が動いたのを見て、九十九の背後に居た妖怪種、妖魔種、魔族が動きを見せた。合わせて警備隊も被害の拡大防止とダイアクトーの鎮圧へと動き出す。
「こりゃ、大変なことになりそうだねぇ」
 突発的ヒーローショー、町の賑やかしとして認知されるダイアクトーだが、本気モードの集団戦闘力は決して侮れる物ではない。
「でも喧嘩を売ったのって武士か何かの集団って話だったよね?
 なんで彼女らが?」
 彼の抱いた疑問はある程度の町の事情を知る者たち共通の疑問だった。

「いっきなりいくわよーーーー!!!」

 それらを一瞬で吹き飛ばす轟音が夜闇を引き裂いた。
 ダイアクトーの一撃が九十九をかすめ、道路を激しく撃つと、まるで隕石でも落ちたかと錯覚するほどの破砕音が響き渡る。
「あっぶな!?」
 目を剥いた理由はその結果生み出された数多の石。飛散したそれらは銃弾に等しい速度で周囲にまき散らされる。
 もちろんそれは戦闘力皆無の観客にも少なからず向かったのだが。

「はいはーい。ここで管理組合よりお知らせします」

 それら全てが沿道に敷かれたラインで展開した薄膜によってはじき返される。視線を向ければ多くのセンタ君がバリアを張って居た。

「管理組合は乱入者 源頼光氏の要請を受けて、祭りでの被害拡大防止に介入いたします」

 アルカの声で響き渡ったそれが全てを説明していた。
 詰まり

 ◆◇◆◇◆◇◆

「律法の翼も、ダイアクトーも、その武士の連中が呼び集めたってこと?」
 Ke=iの言葉にヨンが難しい顔をしつつも頷いた。
 ここは第九陣。小人や比較的無害な妖怪種が集まる、異様だが微笑ましいパレードが始まったばかりである。
「……そう、みたい」
 アインも視線を北の方へと向け、困惑の表情を作る。
「一応HOCには護衛に参加する旨伝えましたけど自由参加ですからねぇ……。
 しかも律法の翼相手はちょっと……」
「でも過激派の方はヒーローの敵じゃないの?」
「一応は。でもダイアクトーが出ているということはそっちに集中しちゃいますね、きっと」
 何しろ明確な敵対集団であり、ヒーローのアイデンティティとしてはそちらを優先せざるを得ない。
「……上位陣の方の護衛の層を厚くするかって議論が始まってるみたい」
 護衛組の一人であるアインがPB経由の連絡を口にする。
「でもこれに乗じて何時もの連中の襲撃もあるのよね?」
「あるでしょうね。だからこそ、ここからは離れたくは無いのですが」
 と、不意にある物が目に付いてそれを探し追えば、翼の意匠を抱く集団がいつの間にか増えていた。
「……律法の翼?」
 アインの呟きに付近の警備隊が身を固くする。が、
「いや、彼らは穏健派の方ですよ。
 こちらの護衛応援ですか?」
「はい。ウルテ様の指示で。
 一応下位陣にはある程度の護衛を追加しています」
 律法の翼の隊員が優しげな笑顔で頷く。
「施療院の方々も展開しているそうです」
「なんだか大騒ぎになっていますねぇ」
 クロスロードの名だたる組織が動いている。これは場合によっては内戦と取られかねないほどの規模だ。
「……第四陣にヒャッハーズが出たらしい」
 追加情報にアインは珍しく困惑を浮かべた。ヒャッハーズと言えば重火器を愛してやまないマッチョ集団だ。トリガーハッピーな連中は大襲撃の際には常に前線で戦い敵の屍を築く。
「彼らまで……」
「こりゃ、のんびりして居られないかねぇ」
 Ke=iが自身の装備に緊急チェックを走らせつつ呟く。
 予想だにしなかった事態にどう動くべきか。
 それぞれが対応を脳裏に描き始めていた。

◆◇◆◇◆◇◆

「こういう連中も居るわけね」
 どう見ても統一感の無い連中の乱入は管理組合の通知の直後から始まった。
 ここ、第六陣に護衛として参加していたクセニアは迫った一人に銃口を向けて皮肉下に笑う。
 彼らの目的は様々だが、中には誘拐とも言いかえられることを目的にした連中が居る。彼らから言えば式神化。あるいは使役化だが、同意も無くされる方はたまったものじゃない。
 警備隊と協力しつつ、迎撃能力を持つ者が応戦を開始していた。
「そっちは後で相手してやるよ!」
 後ろから迫る集団に煙幕弾を撃ち込んでから正面の敵に相対する。術師なのだろう、武者の亡霊を呼び出しこちらに差し向けてくるが、さらっと無視して術者を撃ち抜いてみる。
「面白いな。さぁ、列を進めようか。
片っ端から迎撃してやるよ!!」
勇ましい言葉に周囲の連中が応と応じて力を奮う。
次々と出てくる相手に鉛玉をプレゼントするが、その多くが術で造られた戦力らしく、霞のように散っていく。
術者を探すが観客に紛れられると最早分からない。猛禽類の視線を巡らせて、怪しいヤツに近づいてとりあえずブン殴って見る。どうやら当たりだったらしく、背後から迫っていた化け物が煙のように消えてしまった。
「ホントにワクワクするねぇ。さぁ、どんどん行こうか!!」
 喧嘩祭りはこうして開始直後から大波乱を迎えるのだった。




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はーい。開始直後10分程度までをお送りしました。
 というわけで最早クロスロード大決戦状態となっておりますが、遠慮なく行きます。止め時を失するといろいろとやばいことになりますので皆さん頑張ってね☆
 というわけで最終日中盤戦、はりきってよろしくおねがいします☆

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