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【inv24】『百鬼夜行の夜に』
『百鬼夜行の夜に』
(2012/10/31)

「で? どうするのかしら?」
 武士団の先鋒と百鬼夜行の戦いは妖怪側の優勢で推移していた。
 だが、武士団の戦いを見ればその消極的な動きから目的を推測する事ができよう。
 つまりは削りと足止め。
 この祭りの趣旨として9陣全ての百鬼夜行が集結してこそ目的達成となる。足止めはそれを阻害すると言う上では充分すぎる意味を持っていた。
 だが一方でそんな事どうでも良い者にとっては武士団が及び腰になって居るようにしか見えない。自身らの安全が確保されたと知った観客からは武士団への非難の声が降り注ぐが、彼らはただまっすぐに己の敵を見据え、じりじりと後退しながら消耗を与え続けている。
「どうするって何がだ?」
 若干の間があったため聞き流されたと思っていたが、おもむろにシュテンは問いを問いで返す。
「彼らの目的はこちらがどうあっても前進をしなければならない事を利用し出血を強いる事。でもそれが分かって乗ってやる必要は無いと思うのだけど?」
 クネスの言葉にシュテンは煙管をひと吸いして牙の間から煙を洩らす。
「必要はあるさ。これはそういう祭りだ。
 百鬼夜行。『行』って見せつける祭りだ。止まっちゃ始まらねえ」
「……まぁ、そうなるわよね」
 その答えは予想していた話だ。
「待ってるぞと言われて出向く魔王というのもそれはそれで面白いかしら、ね?」
「こちらからヒヨッコの勇者を捻り潰しに行くのは矜持に関わる……と言うわけでもないからな。大体は世界の制約がそうさせているだけだ」
 名の通り、かつて魔王であった者は前方へと視線を向け、足を踏み出す。
「いやいや、マオウさんは警備隊でもないのですから、ここは我々にお任せください!」
 やる気満々のマオウにブランがびっくりしたように口を挟む。
「ブランさん、この祭りの参加者って事はこう言う荒事を荒事ではじき返すって言うのも含まれているのよ?」
「いや、確かにそう言われるとそうかもしれませんが……
 いえ、本人の意志を尊重します。責任は取りませんよ!」
「自分の身くらい自分で守ろうと言うもの。
 それとも自分の身も守れぬと見えるか?」
 力を削がれようとも王の貫録は小揺るぎもしない物言いにブランはトンデモナイと首をぶんぶんと振った。
「まぁ、こちらと前の戦いに参入するのは力不足ですので、三陣、ダイアクトーの戦闘員とでも相手してまいりますよ」
「ブランさん、気を付けてね。
 彼らああ見えてかなり強いわよ?」
「そうなのですか?
 いつもやられているイメージしかありませんが」
 クロスロードを一週間も歩けばダイアクトーの高笑いに出くわす。
 その時の戦闘員と言えばヒーロー軍団にひと山いくらで吹き飛ばされているイメージしかない。
「やられているわね。毎日。
 その意味、わかる?」
「……毎日、ですか?
 あんな派手にブチ飛ばされて?」
 戦闘員の侮れぬ所。それはどんな凶悪な一撃を喰らってもなぜか撤収時には自分の足で退却する事は当たり前として、その後の片付けにもきちんと参加していることだ。
「心しておきます。それでは!」
 しゅたりと手を挙げ、乱戦を迂回して去るブランを見送って、クネスはマオウへと視線を向ける。
「あたしは回復支援に徹するわ」
「そうか。では軽く参加してくる」
 特に何かできるわけでもないだろうが、ナニカも(`・ω・´)とやる気を見せているのを見て「行ってらっしゃい」と微笑みを見せる。
 一陣の激戦は長く続きながらも百鬼の群れは前へと進んでいる。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「融通の利かないこって」
 エディは苦々しく呟きながらも町を駆けていた。
 彼が持ち出した策、早々に陣を終結させるというのは拒否されてしまった。
 理由はいくつかあるのだが、もっとも大きな理由は決めたルートから逸れる事は失敗に等しいという物だ。それに付随して多くの観客の存在が安易なルート変更を許さないし、ガードに徹してくれているセンタ君の配置換えも容易にできる物ではない。
 もう一つの案、幻覚系の能力で武士団のボスが待つという地点が攻撃されているという錯覚を起こさせる方法だ。
 これについては余りの激闘に手を出せていない、或いは両方を巻き込みかねないとして動けなかった警備組からいくらかの賛同を得て、行動に移って貰っていた。
 それらの手配を済ませて彼が向かったのは第四陣。
「れぇぇええええええっつぱぁああああああてぃぃぃいいいいい!!!」

『『『ヒャッハアーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』』』

 腹を絶え間なく打撃する銃声と衝撃。
 歓声と悲鳴とでカオスな状態となったそのルートでは確かに機械化兵団が重装備で陣どり、弾幕を展開していた。
「おい、あんたら!」
「ん?
 ああ、いつぞや遭ったな。警備組か。お勤め御苦労」
 白い歯を輝かせびしりと教本に乗せるべき綺麗な敬礼を見せたマッチョに毒気を抜かれたエディはコホリと咳払いし、
「何が目的だ?」
 ひたすら撃ち放たれる銃弾。その先の百鬼夜行を指差し問う。
「決まっているだろう? 百鬼夜行の足止めだ」
「それはあの武士団に勧誘されてか?」
「それもあるが、元よりこの祭りは乱入上等。
 ならば我々もその祭りに加わったまでの事。
 祭りとは踏まえておるぞ?」
 言って放り投げたのは一発の弾丸。受け取って見ればそれはゴム弾であることを銃使いであるエディは把握する。
「暴徒鎮圧用兵装で固めている。当たり所が悪ければ致命傷となるかもしれんが、喧嘩祭りとはそういう物だろ?」
 銃弾の雨を掻い潜ってきた魔族の一撃に隊員の一人がブチ飛ばされ二人の横を転がった。
「では主義主張は無く、単純な乱入と言う事か?」
「いかにも。ただ1つ目的はある」
 エディから視線を外さないまま後方へと伸ばした右上にはその巨体に見合うデザードイーグルの姿。ハンドキャノンとも呼ばれるそれを片腕かつ後方へ伸ばすと言うありえない姿勢で上空から襲いかかってきた怪鳥を見事に撃ち落とした。
「ダイアクトーのところのちっこいのは多分趣味だろうが、律法の翼や管理組合はこの場を試金石としているのだろう」
 ヒャッハーズは欠けた穴を鉄量であっという間に埋め、すぐに相手を押し返す。比較的個人主義、多くても3〜4人単位でチームを組むことの多い来訪者達にとって、ヒャッハーズの軍隊行動は抗しがたい物だろう。実際妖怪たちも一人二人がたまに突出してくるが、火線を集中させられて押し戻されてしまう。ここで数人がかりでフェイントや盾役などを分担すれば持ち前のポテンシャルで戦いを有利に進められるはずだが、彼らにそれらの動きを為す土台が存在しない。
 これは大襲撃の際にも見られる事だ。指揮官経験のある者の指示に従い大まかな行動は取れるが、個々の連携は脆く、場合によっては防衛戦の崩壊にもつながるケースがある。『再来』の時には衛星都市で右往左往し、防壁の一部が崩された後も適切な復旧ができないまま被害を拡大していた。
「試金石、ね」
「我らとて知る必要があるのだよ。
 誰に背中を預けられるかとね」
 示し合わせたようにヒャッハーズが後退を始める。それを見て好機と踏んだ数名があっさりカウンターに遭って転げ、足は再び止まる。
「我々はクロスロードでも屈指の制圧力を持つと自負している。
 が、弱点ももちろんある。君ならそれが分かるはずだ」
「……弾薬だな」
「その通り。どうしても補給のタイミングが我々の弱点となる。
 その時に誰が頼れるか。誰の傍であれば隊員を損なわずに戦えるか。
 それを見極めるのに丁度良い祭りではないか」
 町を使った総合演習。
 普通に考えれば馬鹿馬鹿しいにも程があるが、管理組合の持つ建築能力を考慮すれば町並みの少しばかりが破壊されても明日には修復しているだろう。
「よし、我々は撤収する。だが忘れるな。
 補給が弱点とは言え、補給さえすれば我々は戦い続けられる。
 そのための肉体でありそのための筋肉だ。行くぞ!」
 気持ち悪いほどシンクロした動きで投擲されたスプレー缶のような物にぎょっとして背を向ける。街道のセンタ君達も濃い色の障壁を一斉展開。

 カッと町が色を失うほどに光に照らされ、ドンという凄まじい衝撃が腹の底を揺らした。

 フラッシュグレネードの一斉投擲。
 それにより生まれた時間で瞬く間に撤収しきってしまったヒャッハーズの背を見てエディは彼の言葉を反芻していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「二人目っ!」
 杓杖の先を突きつけると、そこに形成された雷が相手を打つ。
 すぐさまそれをひと振りして接近しようとした一人を牽制し、雷次は一度距離をとった。
 乱戦。
 まさにそう呼ぶにふさわしい光景が展開されている。
「お前は結構やるようだな」
 ずんと足音を響かせて雷次の前に立ったのは鬼だ。
「っと!? お前はこっち側じゃねえのかよ!?」
「こう言うナリでも律法の翼の一員、しかも番隊長を任されてるんでね」
 言うなり振るったのは刀。しかし2mを越える体躯の持つそれは柱か何かを見間違うほどにでかい。
「ぐぉっ!?」
 受けれるはずもない。咄嗟に身を捻りその質量と速度が派生させる巻き込みの風に抗いながら雷次はなんとか回避を成功させる。
「言っとくが、死んだら自己責任だからな?」
 余りにも軽すぎる言。だが継いで繰り出されるそれは掠るだけでも肉を持って行かれそうな暴風に違いない。
 打ち払う事も受け流す事も現実的ではない。全ては圧倒的な暴力が呑み込んで叩き潰す未来にしか繋がらない。さらに厄介なのはその圧倒的なリーチ。無理な回避から姿勢を戻しきれてない状態で逃れる目が無い。
「ぐ!?」
 一か八か杓杖を上段に掲げて受ける体勢を採った瞬間、さらなる巨体がその刃を上から踏みつけた。
 観客から上がる悲鳴と歓声。
 幅数百メートルという大通りにあってでかいという印象しか持たぬその獣が放つ蹴りを鬼は笑みを作って後方へ回避した。
「てめぇ、覚えがあるな。
 ザザとか言ったか」
『俺はお前を知らないがな』
「律法の翼三番隊隊長 ドイルフーラ。
 まぁ楽しく戦ろうや?」
「ザザ……さん?」
『割り込んで済まないな』
「いや、助かりました」
 介入が無ければ良くて腕一本持っていかれていた。それを思えば感謝すれども批難するなどありえない。
『律法の翼はクロスロードで一番冗談の通じない相手だ。
 一人で立ちまわるな』
「おいおい、ひでえな。冗談の一つも理解するさ。
 まぁ、冗談よりも楽しい事をないがしろにはできねえがな」
 ドイルフーラは肩を竦めてからぐっと身を下げ、迷いなく突撃。
「っ!」
 まるでダンプカーが突っ込んでくるかのような圧迫感。それをザザは正面から受け止める。
 どずんと物凄い衝撃音が周囲を打ちつける。助走の分衝撃が上回ったドイルフーラがザザを一気に押し込み、次いで踏み出した足が先ほどまでザザに踏みつけられていた剣の柄を叩き、切っ先を刎ね上げさせる。
「っぶな!?」
 そこに身を捻って刀身を打ちつけたのは雷次の杓杖だ。そうでもしなければザザの顎先に切っ先がめり込んでいたかもしれない。
「怯えた割には良い動きだ」
「ナメんな!」
 返す刃ならぬ返す杖でドイルフーラの腹へ突き込むが、左手で弾かれた剣の刀身を握ってブン回し、それを迎撃。手から血がにじむ事も気にせずにさらにザザの膝を狙う。
 そうと行くまいとザザは左肩へとアギトを剥けた。ガチリと物凄い音が響き、しかし外す。半身になったドイルフーラは手を離し、噛みつきのために前傾姿勢となったザザも一旦間合いを採った。
「即席の連携にしてはなかなかだ」
「上から目線で言ってるんじゃねえよ!」
 吠える雷次に呵呵と笑い剣を構えなおす。
「この場のツワモノはお前ら二人のようだな。
 さて、俺を何とかしねえと進めねえぞ? それに、俺だけじゃないしな」
 律法の翼のメンバーが妖怪や護衛隊と戦いを繰り広げているが、どう見ても律法の翼の方が有利だ。というのも
「多対一か」
「俺は逆を喰らってるがね」
 過激派と言われている彼らだがその前提は秩序の番人たる立場にある。捕縛術は当たり前のように習得しており、そしてその基本は常に多対一を作る事となる。
 寄って道と中央の戦いを利用され作られた戦闘区域にはうまく連携を採れない護衛組や妖怪が苦戦を強いられていた。
「さぁて、どうすぶぐぎぇら!?」
 鬼の頭に超重量物が落下した。
「お前は相変わらず喋りすぎだ」
 濁った声が呆れるように響く。ついでに雷次が顔を真っ青にして一歩退いた。
 巨大な蜘蛛の体に人のような顔。2陣を預かる土蜘蛛である。
「くっそ、てめぇ!? 空なんかとべたのかよ!?」
「できるかそんな事。単に建物よじ登ってジャンプしただけだ」
 ゲシゲシと8本の足で踏みつけつつも取り押さえながら土蜘蛛が顎をしゃくる。
「助かったぜお前ら。悪いが他の援護を頼む」
「了解だ」
『……まぁ、良いだろう』
「はっ、お前ら忘れてねえか?」
 その言葉がまるで剣圧を得たかのように、二人は息を飲み、それから己の無事を確認して振りかえる。
 何もしていない。
 動いてすらいない。
 なのに泰然とたたずむ男は彼らに斬られたという錯覚を与えていた。
 観客席からも悲鳴が響く。その剣気に中てられてショック症状を引き起こした者が続出したのだ。
「おいおい、鬼よりもバケモノってどういうことだよ?」
 律法の翼。過激派と呼ばれる荒くれ者共に秩序を与え使役する王。
 ルマデア・ナイトハウンド。
 『夜の咆哮』という字名が示す意味に驚愕し、二人は戦いの姿勢をとるのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「くく、空の王は悠然と見下ろしておけば良いと言う事だな」
 基本的に尊大なアホの子、ファフニールの言葉にアインはとりあえず肯定を示しておいた。とにもかくにもこの巨体が乱入してきたら収拾がつかないばかりか、確実に観客へ被害が出る。
「……些事は私達に任せて」
「うむ、良きに計らえ」
 念押ししてアインは身をひるがえす。目に付いた隊列でも戦闘は繰り広げられているようで、とりあえずそこへと突っ込んで明らかに進行を妨げている術師風の男の頭を蹴り抜いた。
「おう、アインとか言ったか?」
 銃弾が2発、傍らを通って呪文を唱えていた男の肩を抉り抜いた。
「手助け、居る?」
「ああ。戦力的には問題ないが、さっさと片付けて他の応援に行くべきだろうからな」
「了解。上位陣は凄い事になってる」
「音で分かる」
 クセニアは楽しそうに笑い、次々に現れる障害を打ち抜いて行く。
 それをくぐり抜けてきた鳥をアインが処刑鎌で切り捨てた。
「紙?」
 切り捨てた鳥が紙切れになり風に流されるのを見て眉根を寄せる。
「式神とか言うやつなんだと。
 そいつのせいでなかなか近付けなくてね」
「分かった。じゃあ遊撃する」
「頼む。こっちは派手に暴れるとするよ」
 これでもかと言うほどに弾丸をばら撒くクセニアに泡を食った襲撃者が身を隠す。それでも果敢に押し寄せる使い捨ての兵隊に彼女は笑みを濃くする。
 削れば相手は追加を出さざるを得ない。そしてその瞬間は自身の居場所を晒す事になる。
「……見つけた」
 建物の屋根から路地裏に飛び降りたアインが鎌の背の部分で術者の頭を思いっきり殴りつける。かなり良い音はしたが頭がい骨陥没とまではいかないはずだと次のターゲットを探しに行く。
 有能な遊撃手と乱暴な迎撃手を迎えた六陣はすう勢を妖怪側へと傾けつつあった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

 乱闘。
 そう評するべき光景が眼下に広がって居た。
 既に戦いの渦中にある仲間もいる。
 だがすぐに飛び込まずヨンは黒服達の動きに着目した。
「……リーダー、行かないので?」
「我々の目的はダイアクトーの討伐でなく、人々の憩い、祭りの成功にある。
 派手に暴れて被害を拡大しては悪と何ら変わりない」
 ぴしゃりと言われて急かしたヒーローはなるほどと頷く。
「よし、半数はダイアクトーの相手を。すでに何段階か解放しているようだから決して無理はせず、少なくとも直撃だけは避けるように。
 残り半数は戦闘員を抑え込み、被害の拡大を防げ」
「「「はっ!!」」」
 ヒーロー達が建物の上から颯爽と舞い降りる姿を見て、年若い者たちが歓声を上げた。
「やっと出ましたかヒーローV!」
 びしりと指差す黒服の1人。それは忌々しさを込めつつも、どこか安堵した風にも聞こえる。
「ふ、今宵は悪が多すぎてな」
「ちょっとそれ! あたしよりも優先するのが居たって意味!?」
 セリフを続けようとしたら、なんか変なところで食いつかれた。
「はん、お前見たいなのに構う暇はないとのことじゃよ」
「うっさいチビ!」
「黙れ抉れ胸!」
 低レベルの喧嘩を今だ続行中の九十九とダイアクトーであるが、先ほどのヨンの言葉の通りすでに何段階かリミットを外している彼女の攻撃力はシャレにならない。それを避け、かわし、幻影でいなし続けている九尾狐は言う通り見た目以上の力を有しているのだろう。
「ふっ!」
 黒服の鋭くも的を外したパンチを受け払い、そのまま背負い投げるが、空中で身を捻って着地。肩の骨が外れるはずだが黒服は意にも介さず足払いを放ち、続けざまに顎へ蹴りを突きあげる。
 足払いを重心移動でいなし、続く蹴りは手で防ぎ、殺しきれない勢いは後方に飛ばされることで消費する。
 着地と共に再び接近、パンチの応酬が始まる。
 見る者に息を飲ませる展開だが、もう何十回も繰り返した行動であり、お互い語り合う猶予を持っている。
「で、今回の目的は何ですか?」
「お嬢様的には祭りの主役になりたいんだろうが……流石に年次行事になったこの祭りを乗っ取るのはまずいからな。落とし所を探している」
「素直に撃退されるのは?」
「来年はもっとひどいことになるぞ?」
 ヨンが来る前からリミットを外している事を考えれば確かに黒服の言う事はもっともだ。
「しかし主役と言われましても……」
「そうなんだよなぁ」
 小声でしみじみと会話しながらもその動きは紙一重の攻防を繰り広げている。
「ついでにあの妖怪狐殿が妙にダイアクトー様と気が合うらしくてな。
 もうどうにもならん」
「確かに、普通でしたらすぐさまこちらに殴りかかってきてもおかしくないですよね?」
「あちらのリーダーも狐殿だからな。彼女があのままでは陣の進行がままならん。
 代役でも立ててお嬢様と共に引き離すのが最良かもしれん」
「しかしそれでは来年の問題が残るのでは?」
「じゃあ妙案はあるのか?」
「むぅ」
 思考する必要があると判断し、お互いに強烈な蹴りをクロスさせ、その反動で距離をとる。
 さりとて両案がすぐさま浮かぶわけでもない。
 くるり周囲を見渡し、参謀系のヒーローを探す。
 戦闘員たちと軽くやり合いながらそちらに近づいたヨンはざっと事情を説明した。
「とりあえずダイアクトーさんの興味をこっちに引いて戦場を前に動かしましょう」
 彼はヨンと同じく大体の事情を正しく認識している。
「九十九殿を抑える役は妖怪どもに任せるほかありませんが」
「あの人の事良く知っている人いないしね」
 うんと頷いてヨンは再び移動。ダイアクトーの視界に入る位置から飛び蹴りを放つ。
 案の定気付いたダイアクトーがそれを左腕だけで受け止め振りはらう。
「邪魔しないでよ!」
「悪の邪魔をしてこその正義だ」
「ふん、何を今さら!
 良いわ! だったらあんたから捻り潰してあげる!」
「ほぅ、にげモゴ」
 すぐさまに挑発しようとした九十九の口をにょろりと伸びた手が抑える。着物から伸びるそれは小袖の手という妖怪のものである。
 ヨンはそちらに振り向かずままGJと呟き、ダイアクトーへと拳を向ける。
 じりじりと間合いを測るようにして背を進行方向へ。
 一歩間違うと大けがの撤退先が始まりを告げた。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「うーん、危ないなぁ」
 一転大騒ぎとなったクロスロードを俯瞰しながら一之瀬は露店のおっちゃんからたこ焼きを受け取る。
 戦闘にそれほど積極的に介入したいわけでもない。
 というわけで露天巡りを行うことに決め込んだらしい。
 この時間、しかもあの派手な音に引きづられて露店はどこも閑古鳥状態。店をほったらかして見物に赴いた者まで居るようである。
「8陣とか9陣の方が平和そうだねぇ」
 争いが無い場所とは言え露天巡りをするのであればどうしても陣が通る道の脇となる。
 とすれば平和な下位陣をめぐるのが妥当ということになり、たこ焼きを下で転がして熱さを逃がしつつふらり歩く。
「しかしもっと平和にお祭りできないのかなぁ」
 1日目、2日目は普通に縁日と言う感じだった。が、本来の祭りはこちら側なのだ。荒々しいにも程がある。聞いた話によれば各々死なない程度には加減しているようでもあるのだが、それでも当たり所が悪ければあっさり死ぬことに違いない。
 中には元より犯罪紛いな事を狙っている者も少なくないと言う。
「あら、こんな時に一人でお散歩?」
 次はどうしようと視線を上げると目の前に息を飲む美女が立っていた。
「え? あ、はぁ。被害の無いところにでも行こうかと」
「それで良いの?」
 良いとは? という問いが近づけられた顔に遮られる。
「貴方だって来訪者なんでしょ?」
「そうですけど……」
「その銃は飾り?」
 背に背負ったバレルライフルに手を触れられる感覚。いくらなんでも自身の武器をこんなにたやすく触れさせるなんてありえないと頭が考えても体が動かない。
 美女に照れている? というのは違うと本能が告げている。
 どちらかと言えば逆らってはいけないという、そう、恐怖心。
「ふふ、そんな縮こまらないで良いわよ。
 君に一つ面白い事を教えてあげる」
 耳元に吐息が掛かるほどに近づけられた唇が一つの言葉を紡ぐ。
「100mの壁を誤魔化す方法はもういくつも考案されているわ。
 そして護衛組のその守備範囲から、絶対に目に届かない場所があるのよ」
「……っ、それは?」
「ふふ。じゃあね」
 トンと肩を叩かれたと思えば既に周囲には誰も居ない。
 白昼夢? にしてはまだ甘ったるい香水の匂いが周囲に残っている。
「なんだあれ……?」
 一之瀬は呆然とそう呟いたのだった。



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というわけで大激闘が続いております。
知らない人が見たら内戦ですねこれって位に派手です。うひひ。
 さて、次回が後半戦〜ラスト位を予定しております。
 場合によってはさらに被害拡大しますけどね。
 うひひ。
 んではリアクションよろしゅう。
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