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【inv25】『占いの裏側』
『占いの裏側』
(2012/09/26)
占い。
 それを説明するのは非常に難しく、また手段も多彩である。
 未来視、未来予知といった時間系の魔術、能力とは別。クロスロードに措いては「関連性の無い手段で曖昧な助言をするための技術」という何とも微妙な立場にあった。
 というのもターミナルに置いて未来視も過去視も使い物にならない。力は発現するが見通す事ができないのである。
「1秒は100mよりも遠い」とは、とある世界の名のある未来視使いが残した言葉である。以来この世界において未来と過去は100mよりも遠いというのが通説だ。故に「100mの壁」は見通す事を完全に阻害してしまう。
 では占い師は存在しないかと言えば、そんな事は無い。
 魔法が存在するこの世界で皮肉なことにクロスロードに居る占い師のほとんどは魔術の存在しない世界の来訪者だ。
 経験と話術、勘と計算。
 そのような未来と過去に直接干渉せずに相手を見据え、過去と未来を導きだす技術として占いはそこにある。
 無論魔法系世界の住民にとっては眉をしかめるようなペテンであり、科学系世界の者にとっても実際の魔術をその目にしてしまえば扱いに困るような者たちである。そのほとんどは元の世界に帰るなり、別の生計手段を探すほか無くなるのだが、ごく一部、凄まじい才覚でペテンをペテンと言わせぬ「占い師」として身を立てる者も居る。そういう者達は商人やそれなりの組織の長の相談役となる事が常である。
 こと商人は金という物理的な物に固執しつつも、意外な事に迷信や占いといったあいまいな物に非常に敏感である。自分の才覚の後押しがあれば人は前に進める。そのための手段として優秀な占い師は喉から手が出るほどに欲しい人材なのだろう。
 
 以上の事情を抱えるクロスロードの占い師。
 しかしそんな経緯知った事ではないとばかりに、現在占い師のチェーン店なる物が話題になっているのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「ってことなんですよ〜」
 にこにことクロスロードにおける占い師の立場を説明した神楽坂・文は喉を潤すべくまだ湯気立つコーヒーに口を付けた。
「で、そこじゃどんな占いをするんだ?」
 頭の中で情報を整理したエディが問う。
「人によって色々ですよ。小さな個室スペースなので亀甲占いなんて派手で大掛かりな占いをしている人は居ないらしいですけどね。
大体星占い、カード系、宝石占い、相、卦、と言った感じです」
「ありふれたと言えばありふれた、か。
 で、当たるのか?」
 もう一人、文に話を聞きに来た静樹が問うと
「凄い当たるらしいですね。これも人によって程度の差がありますけど、凄い人には大行列できるらしいですよ」
 言いながら写真を差し出すと確かに行列のできている様が写っていた。
「まぁ、半分以上は物珍しさと噂によるものですから、来月あたりになるとどうなるかわかりませんが、少なくとも行列ができている所の占い師はずっとこんな調子かもしれませんね」
「ふむ。有名な連中はピックアップできているのか?」
「カード占いのラミー・リーン。星占いのロロ・メグンド、クッキー占いのマオ・ランジュンあたりですかねー?」
「くっきーうらない? 何ですかそれは?」
「クッキーの割れ方で占うらしいですね。
 正直意味不明ですが、当たるから仕方ないと言うかなんというか」
 文の言葉に静樹は眉を顰める他ない。
「魔法は使って居ないのか?」
「恐らくは使ってないと思うかなぁ。
 ただ、魔力を帯びた物を使ってるっぽいから、判断付きかねるけど」
「マジックアイテムの効果とかかい?」
「それは未来視とかと同じかなー。道具だから100mの壁を無視できるわけじゃないし」
 レーダーなどの観測機器も100mを越えて探査は不可能である。
「昔から占いやってる人は確かに居るんですよねぇ。
 有名なのはアンドロイドのK-SD-01Yさんでしょーか」
「「……?」」
 突拍子もない種族名に二人が眉根を寄せる。
「超計算による未来予測で占いをするということで結構当たると評判なんですよ」
「それを占いと言っていいのか?」
 ごく当たり前の突っ込みにもニコニコしているということは、そういう突っ込み待ちだったらしい。
「でも、未来視も魔術概論的にはアカシックコードを読解する術だって説もありますし、大差ないかもしれませんよ?」
「でもそういうのとは違う、と言いたいのか?」
「勘ですけどね。というわけで調査をお願いしたいのですよ。皆さんの感覚で探ってもらいたいわけです」
「他に不審な点とか神楽坂さんが不審に思った点は無いのですか?」
「……そうですね」
 静樹の問いかけに頬に指当て
「何と言いますか、違うんですよね」
 本当に感覚的な物言い。訝しげにすると
「占い師として根本的に何かが違ってるというか、間違ってるというか、そんな感じがするんです」
「あんた、物書くのが仕事なのに、随分と曖昧だな?」
 エディのつっこみに文はへにゃっとした笑みを浮かべ
「文章にするのはもう少し事実を掴んでからのお仕事です。
 その事実を掴むのは感覚のお仕事ですよ。今回は人海戦術で行くべきというのも感覚ですねぇ」
 そう言われては返す言葉もない。
 ともかく調査に出るかと二人は席を立つのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「機械運を占って欲しいっス」
「なるほど、お任せください」
 さらりと受け入れられてはなじろむエディ。
「どうしました? まさかあっさり受けるとは、とか思ってるようですが」
「そそそ、そんなことはないっスよ!」
「そうですか?」
 そもそも宇宙服を着こんだ変質者のような格好でも動じなかった占い師だ。今さらかもしれない。
 水晶玉を相手に何やら呪文らしきものを唱えている占い師を見つつヘルメット内に用意されたディスプレイで魔力の計測結果を確認する。
 若干の魔力反応あり。どうやら水晶玉に干渉しているようだ。見れば水晶玉が淡い青の光をほんの僅かに放っている。
「おお、見えますな。貴女の機械には良い時と悪い時が明確に出るようだ」
「そ、それは間違ってるっス! ウルトラパーフェクトな天才美少女の作る機械に悪い時など……!」
「しかし、水晶玉には出ているのです。そう、戦闘の、人形でしょうか」
 ぎくりとする。が、ヘルメットで顔は見えないのでセーフである。
「そ、そ、そんな事は無いっスよ」
 でも声が震えているので台無しである。
「しかし安心なさい。貴女が趣味で作る機械はかなり微妙でも、他の人に請われて、あるいは本当に大事な局面で作る機械には祝福が宿るでしょう」
 笑顔でそう言われると返す言葉もない。
「ただ、恋愛運は己を認め、正さなければ改善は難しいでしょうね。
 人を見て自分を見る事で初めて人と人は繋がれる。貴女は機械を通してそれができる人だと出ています。あとはそれを心に刻み、日々努力することですね」
「……はい」
「お時間ですね。またお気に召したらいらしてください。
 あと、転倒注意で」
 最後の一言が気になったが、後ろでは数人の客が待っているとあって流石に強引に長居はできない。
 がしょんと機械音を立てつつスペースを出たトーマはうーむとうなりつつ空を見上げた。
「わきゃっ!?」
 と、そんな彼女にぶつかった少女。
「おっと済まないっス」
「い、いえ。こちらこそすみません。
 ……ロボットさん?」
「ただのウルトラ天才美少女っス」
 周囲の順番待ちの客が「自分で言うか?」的な視線を向けているが、残念ながら視界のせまくなった彼女には届かない。
「はぁ。ウルトラさんですか」
「それだと光の巨人になりそうなので違うと言っておくっス」
「……もしかして、神楽坂さんのお仕事を受けてる方ですか?」
「む? あんたも占い師っスか?」
「あ、いえ。さっき仕事運とか近日中の運勢を占って貰ったら……
 奇怪な……げふんげふん。少し変わった方が仕事仲間になると」
「ほほう」
 まるで自分の事と思ってないような口ぶりにチコリはどうしようという顔をする。
「それは大変っスなぁ」
「……えっと、はい」
「ではあたしは他の店も調査してくるっスよ」
「あ、私も2つほど回ったので一応情報交換しておきませんか?
 同じお店に入った時に色々とわかることもあるでしょうし」
「良い考えっスね。じゃあ少し」
 と、振り返ろうとしてバランスを崩し、ぶっ倒れるトーマ。
 流石に色々な機能を詰め込み過ぎて重量過多になったらしい。
「転倒注意……っスか」
 慌てふためくチコリの声を聞きつつ。さて、どうやって起きようかと考えながらトーマは青い空をみあげるのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「謎を解く事は可能でしょう。しかし謎を解く事が幸福に繋がるかは別の話です」
 クロスロードより南方へ約50km。
 大迷宮都市までやってきていたマオウは系列の占い師からそんな言葉を与えられていた。
「ほう、知らぬが仏、とか言う慣用句があったか」
「ことわざですね。確かにそうかもしれません」
 八卦という妙な模様のある板を前にした占い師の目を見ても、穏やかな物だ。
「随分と占いが当たると評判のようだが、何かコツでもあるのか?」
「飯の種を話せというのも随分な話ですね。
 まぁ、長年の経験と技術のたまものでしょう」
「超常的はないと?」
「占い師は過去を視て、未来を覗き、相談者に道筋のヒントを与えるだけの存在です。
 私にとっては魔術や機械人形の方がよっぽど超常的ですね」
 ずばり問いかけたのだが、流されてしまった。マオウは面白いと目を細める。
「では100%当たる物なのか?」
「貴方はここを出て右に行くでしょう。
 そう言った瞬間、貴方には左に行けばその占いを破綻できる可能性を持ってしまいます。
 占いに100%はありません。導に従うかどうかは相談者の意思が決める事で、その結果を良いと思うか悪いと思うかもまた相談者次第です」
「ではお前が何を言っても責は無いと?」
「故に助言者なのですよ」
 人ができていると言うべきか。のれんに腕押しと言う感じだ。
「面白いな。私も占い師になるだろうか」
「誰でもなる事は可能です。
 ですが貴方にあるのは王者の相、人の声に耳貸すこともありますが、最後は貴方自身が率いるのでしょう。貴方は助言者でなく決定者です」
「……」
 わずかに表情に苦み走ったのを占い師は見てとっただろうか?
 しかし例え見てとったとしても彼はそれを表情に出さないかもしれない。
「参考になった」
「いえ、貴方に良い明日があらんことを」
 占いの小屋を出たマオウはふむと顎に手を当てる。
 なるほど確かに良い相談者ではあるが、占い師かどうかと言うと少し怪しい。というのが得た感想だ。
「しかし的確にこちらの過去や現状を当ててくる事もある。
 すべてではない、が、ふむ」
 例えば断片情報を元に会話を組み立てているとするならば?
 それはどういうカラクリなのだろうか。
「興味がわいた。もう少し調べてみるとしよう」
 ニヤリと口元を笑みに歪ませて、マオウはふらり町へと消えて行った。

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はいどーも。占いの裏側その1をお送りしました。
断片情報がてんこもりですねーっと。
さてこの話の結末がどこにいくのやらってところでリアクションお願いします☆
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