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【inv26】『地面の下の懲りない面々』
『地面の下の懲りない面々』
(2012/12/20)

「脱落者は4名というところかえ?」
「ですね。あとで他の司書に回収してもらいましょう。
 ……即死的な物でなければ」
 司書二人の会話に来訪者達は戦慄を禁じ得ない。
 地下1、2階は一言で言って『異界』だった。
 まず踏み込んでその空気が違った。まるで大気が腐り、その上で別の何か麻薬のような物に変質したかのようにどろりと重く、腹と頭を揺さぶる。
 次いで声が聞こえるのだ。開け、と。
 あらかじめ入念にレジストの魔術などを掛けてもらってこれだから恐ろしい。クセニアのように普段公開されていない本に興味津津だった者も流石に一歩退いてしまった。
 だがここで回れ右は出来ない。下手な事をしなければ大丈夫という言葉の元、出発した一行であったのだが、それでも誘惑に勝てなかった。あるいはレジストを凌駕されてしまったか、うっかり本に手を出してしまった数名のうち、止めに入るのが間に合わなかった者が色々大惨事となった。
「いや、もう、『ばっかじゃねえの』って言いたくなったぜ」
 クセニアが冷や汗を拭いつつ後ろの扉を振りかえる。
 元々本に興味があった一人だからその呟きは酷く感情的だった。
「冗談抜きに古今東西から魔道書を集めていますからね。
 人間には到底管理不可能ですよ」
 止まらずに抜けて来てこの精神的消耗である。とてもではないがのんびりと書物を探すなどできそうにない。
「そな事はなかろ? あの子は人間種だったと思うがのぅ?」
「……ああ、そう言えばそうですね。
 個人的にはもうなんかそういうの超越している気もしますが」
 妖姫の言葉にヨンは苦笑交じりに首肯する。
「彼女?」
 訝しげに問いを返したが、それを遮るようにサンドラの声が響いた。
「それでは早速掃除を開始します。
 やけに静かですのできっと何か企んでいると思われますので注意してください」
「掃除を始めるときの言葉じゃありませんよね……っ!」
 ブランがぽつりと呟くがサンドラは軽くスルー。
「では早速行くっスよぉおおおおおお!!」
 テンションぶっ飛んだ声と共にうなりを挙げた腕の装置。
「ひとぉおおおつつぅぅううう!!! ぶべっ!」
 早速近くの扉に向けてパイルバンカーモドキをブチ込もうとしたトーマの頭をエディがぺちりと叩いたのだ。
「な、何するっスか?!」
「気持ちは分からんでも無いが、一応抵抗の意志を確認しろよ」
「こう言うのは先手必勝っスよ?
 そしてこれは科学者同士の戦い。どちらの科学力が上回り、掃除をするかされるかっス!!」
「ちなみに去年のままならそこを使ってるのは史学者だ」
「……oh」
「トーマさんはあいかわらず元気ね」
 クネスが微笑みと共に右腕が重すぎて立ち上がれないトーマに手を貸す。
「とりあえずサンドラと確認しながら去年ヤバかったところには赤紙張っていく。
 マシなところから手を付けて行こう」
「それが妥当ですかね。話を聞けそうな人に状況確認した方が良さそうですし」
「ああ、ヨンさん。ここにも愛人居るものね?」
 クネスがさらりと呟き、空気がかちりと凍る。
 次いでひそひそと囁き合う声と、侮蔑の視線。
「ちょ、クネスさん!?」
「あら、違ったかしら?
 森の子との隠し子の方だったかしら?」
 完璧に面白がって白々しい返事をするクネスにヨンは涙目になりながらもギュンと妖姫の方を伺い見ると
「流石はサキュバスとインキュバスの相の子よのぅ」
 納得げに放たれたそんな言葉がヨンの胸を貫いた。どうやら致命傷である。
「……結局エディさんとサンドラさんで危険かどうかの印付けをして、その間に安全なところから掃除を始めるでいいの?」
 アインの言葉にエディはやれやれと肩を竦めつつ「異論が無ければそれで行こうと思うが?」と返した。
「でも、危険じゃない部屋の住人は大体常識人だから、掃除の必要が無いところも多いかもね。まぁ、学者なんて研究以外はずぼらな人が大多数占めていそうだけど」
「それは偏見っス! 整理整頓をしておかないと欲しい物が見つからないし、結局作業が遅れるっスよ!」
 研究者代表としてクネスの言葉に非難の声を上げるトーマ。その論に「それもそうね」と頷きつつも
「で、自分のお部屋は?」
「……」
 どうやら反論の余地が見当たらなかったらしい。
「ふふ。私も魔術系のトラップが無いか先に確認に回るわ。制圧班は先に掃除を開始しておいてね」
 他にも探知探査の方が得意な数名は状況調査へと乗り出し、残るメンバーは安全と見做された部屋へアプローチを開始する事となった。
「ああ、武力組。
 そこ、抵抗したらまず鎮圧してみると良いぞ」
 と、エディが思い出したかのように一つの部屋を見て危険の赤紙をぺたりと張りつけた。
「そこっスね! くくく、見よ、この威力ぅぅううう!!」
「え!? 話も聞かずに!?」
 ブランが声を挙げるがもう遅い。タイタンストンパーがうなりを挙げ、扉に突き刺さり
 ずどん
 更に追撃の激震を与えて扉を粉砕した。
「ふふ、観念するっス」
 ばきりと破砕した扉を振りはらってその奥を見たトーマが

「ぴぎぃ?」

 変な声挙げて硬直した。
「……何事?」
「ああ、その部屋の主は……」
 のたりと出てきたのは絵にも書けないおぞましさと言うべきか、ぶっちゃけ『名状しがたきもの』であった。そしてそれを見た者がガクガクと震えだしたり全力で逃げたりし始める。見た者に精神異常を与える能力を持っているらしい。幸い多くの者は地下1、2階を突破するために掛けたレジストの効果が残って居たため恐慌に陥る事は無かったのだが、なにぶんトーマは近すぎた上に
「……ま、まだ出てくる」
 その余りの異様な存在が次いでぞろりと出てくる。
「なん、ですか。この部屋!?」
「とにかく殲滅なさい!」
 クネスがいち早く前へと飛び出し、トーマの襟首をひっつかんで強引に入り口側へブン投げる。それを待ってエディとクセニアが銃弾を化け物にこれでもかとブチ込んだ。

「ォォォォオオオオオオオオオ!?」

 苦悶の声を挙げる名状しがたきもの。それを好機とアインとヨンが一気に踏み込み、斬撃と打撃を叩き込むとそれは形を失ってコールタールのように広がった。
 次いで出てくる化け物を二人は目の当たりにしてしまい、その精神効果に足が硬直する。
「っ、今までの戦いで一番酷くありませんかこれっ!」
 それでも口を叩けるのは流石と言うべきか、何とか視線を引っぺがしてアインに体当たり。のびて来た触手を間一髪避けると体制を立て直した。
「くっそ、流石に見るだけでってのは辛いね」
 クセニアが忌々しげにリロードして発砲。
「もう少し持たせよ」
 後ろからの落ち着いた声音。巻物が翻り怪物にとりつくが捕縛の効果は無いらしい。代わりに墨で次々と書かれる文字と図形を近くにいたクネスはつい読んでしまいギリと奥歯を噛みしめる。
「消散っ!」
 凛とした声が響き渡る。刹那に文字が奇妙に輝いたかと思うと怪物はぐずぐずと溶けて消えてしまった。
「な、なんなのですかこの部屋の主は」
「その部屋の利用者は本に封じられた魔物の解析専門家のはずです」
「じゃあ今のは本から召喚した化け物ってことでしょうか?」
 サンドラの返答にブランが問いを重ねると、金髪の美女はひとつ頷き
「恐らくは狂気に纏わる禁呪書からの抽出物でしょう。確かにこの部屋に反応があります。
 回収しないといけませんね」
 平然さらりと言うサンドラを全員が胡乱下に見つめる。それと同時にこの大掃除がとんでもなく難易度の高い物であると────それこそトーマのタイタンストンパーや、エディの牽引砲が決してやり過ぎではないのだと、一様に悟るのだった。

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 というわけで今回はレジスト強化!って話題ばかりだったので「だったらこいつ出しても良いよね☆」ということで今流行りの冒涜的な方々にいらしていただきました☆
 というわけで次回は派手なお掃除を予定しています。
 本番前の「俺のターン」状態ですので今のうちに出来る限りの掃除をお願いします(ぉ
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ADMIN