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【inv26】『地面の下の懲りない面々』
『地面の下の懲りない面々』
(2013/01/21)

「計算は完ぺきっスっ!!!」
 ガンと床に突き刺さるタイタンストンパー。それが直後ひと震えしたかと思うと

 ずどどどどどどどど!!

 床に敷設されていた地雷がまとめて誘爆。待機していたメンバーが即座に全面に防御系魔術を展開し被害を避ける。
「ふ、この天才科学者に掛かればこんなもんっス!」
「珍しく成功したな」
「珍しく言うなっス!?
 ちゃんと計算すればこのくらい当たり前っス!!」
「つまり、普段考えなしに作った物振り回しているわけだな」
 エディのさらりと放たれた言葉にorzるトーマ。
「それにしても。掃除に来たとは思えない有様だな」
 爆発でボロボロになった廊下を見てエディは嘆息する。
「仕方ないっスよ。接触式、熱源探知式、赤外線探知式と、いろんな種類を適当に敷き詰めた感じだったんスから。
 それに地雷除去は爆発させるのがセオリーっス」
「まぁな。物質操れる錬金術師も控えているし、物理的な修復は任せると割り切ろうか。
 つか、もういっそ掃除の2〜3日前に言う事聞かなそうな連中の扉をロックして、動力落として無力化させた方が良いんじゃねえか?」
「その程度でどうにかできるならば苦労はしません。
 彼らは超が付くほどの問題児ですが、クロスロードで多くの発明品を生みだした集団でもあります」
 いつの間にか近くに居たサンドラが諦め気味の顔で呟く。
「あ、あたしもここに居座った方がいいっスかね?」
 妙な対抗意識を発揮して主張するトーマの頭を軽く押さえつけ、
「絶対連中と一緒になって悪乗りするからやめておけ」と一つ嘆息。
「馬鹿と天才は紙一重の集まりか。厄介な」
「常識にとらわれていては新たな物を生みだすなんて出来ないっスよ?」
「……」
 冗談でも無くこういう事を言える連中なんだなぁとなんか納得しつつサンドラに振り返り、
「そもそもここの動力ってどうなってるんだ?」
「基本的にはクロスロードの供用動力を入れているのですが、それでは足りないと言う人ばかりでして。私も把握していない方法で色々やっているようです」
「把握していないって、ここ、大図書館だよな?」
「大図書館は地下二階までです。ここは増設した別の施設と考えてください。
 そもそも大図書館であればここまで強引な方法を取る必要すらありませんし」
「ん? それはどういう意味っスか?」
「……それは秘密です」
 にこりと笑顔を返すサンドラに二人は顔を見合わせる。とりあえず口を割らすのは無理だと察し、爆煙の晴れた通路を見やった。
「とりあえず罠を排除しつつ、空いた部屋から掃除していくか」
「んじゃ、あたしは次のトラップ排除に行くっスよ」
 地図を再確認するエディを横目にタイタンストンパーを担ぎ直したトーマは意気揚々と通路の奥へと進むのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「くそぉ……」
 ぶつぶつと泣きごとを呟きつつヨンは粘性のなにかをこすり取り続けていた。
「いやぁ、悪いねぇ」
 白衣を肩に掛けただけの研究者が気楽そうに笑いながらその様子を眺めていた。手伝う気はさらさらないらしい。本人曰く狭い場所に居たので足腰が立たないということだが、多分嘘だろう。
「悪いと思うなら手伝ってくださいよ。ここは貴女の部屋ですよね?」
「はは。まぁ、そうだね」
 応じて立ち上がり、ゆらりと酔客のような足取りでヨンへと近づく。
「でもさぁ、ヨン君。今私には掃除なんかよりも重要な事があるのよ」
「何ですかそれ────」
 女性は近づく足を止めずにヨンへとぶつかっていく。避けるより前にまず白衣の間から無駄に豊満な胸が見えて目を逸らし、それでは何の解決にもならないと悟った瞬間体重を掛けられ、足元のぬるぬるに足をとられてすっ転んでしまう。
「ちょ、何をするんで────!?」
胸と顔が少し首を動かすだけであたる場所にあった。
「何しろ私が興味津津だった人が目の前に居るんだもの。
 他に何をしろと言うの?」
「興味って、え!?」
 熱っぽい瞳がただでさえ短い距離を詰めてくる。
「幸運だわ。……いえ、これは貴方の幸運かしら」
「ちょ、一体何を言っているんですか!?」
「何って、思った通りの事よ?
 ヨン君。私は貴方に興味があるの」
 そこで一旦言葉を途切れさせ、そして吐息と共に彼女は言う。
「だから貴方を研究させて」
「は?」
 頭の熱が一気に冷めた。だがそれに構わず彼女は続ける。
「私の研究はね、『ターミナル』に対して詐術を働く方法よ」
「詐術……?」
「そう。そして現在推測されているインチキの全てに貴方は深く関係している」
「な、何の事ですか?! 心当たり無いですよ!」
「心当たりがないならなおさら凄いわ。
 だから私は貴方が欲しいの。どう、私の物にならない?」
「思いっきり解剖されそうな勢いなんですけど!?」
 逃げ出そうとするが下手に動けば良からぬ所に触れかねず、力を入れようにも掃除未完了の「ぬめぬめ」の上に倒れ込んでおり、踏ん張りが利かない。
「意味が分かりませんよ! 私が何と関係していると言うのですか!?」
「この世界では元の世界で力の大きな者ほど力を制限される」
 女科学者は淀みなくそう唱える。
「それは神でも小人でもそう。英雄と呼ばれた者でもこの世界に降り立ったばかり同士であるならばちょっとした剣士に苦戦しかねない」
「それが何だと言うのです」
「でもその定説を覆す人が居る。
 知って居るわよね? 1つは真っ先にこの地に降り立ったが故に何者かに特別な力を与えられた者」
 そう言われれば誰もが思いつくだろう。
「副管理組合長……アルカさん達のことですか?」
「ええ。2つ目は力を分割して入りこみ、この世界で統合する事によりルール以上の力を発揮する者」
「……ダイアクトーさん……?」
「そして3つめ。恐らくは我々が未だ見ないもう一つの扉を使って世界の制限を砕いた者」
「……」
 アルルムと言う名のアルカにとてもよく似た少女。
「そして4つめ。信仰という特別ルールを用いて力を規定以上に増大させた者」
 完全に口を噤んだヨンを見て科学者は微笑む。
「今回のアレはパッケージされて持ち込まれた物を解放した場合、力の制限が為されるかという実験の事故なんだけど……そこにも貴方は乗り込んできた」
「……偶然です」
「偶然も繰り返せば必然よ。聞けば貴方は偶然その物を操作されているんじゃなくて?」
 無論脳裏に浮かぶのは4つ目の該当人物に与えられた迷惑な『加護』だ
「クロスロードの歩く紛争地域。私は貴方に興味があるという理由が分かった?」
「分かりたくないですけど、というかさらりと受け入れがたいあだ名付けられましたけど!!
とりあえずどいて───」
「とりあえず料理お待ちです。あ、ついでに皆さんの差し入れも作ってきたので交替で食べてください」
 でかいバスケットを二つ抱えたブランがひょこりと顔をのぞかせる。
それから5秒ほど二人の様子をガン見して
「失礼しまし─────」
「ストーーーーーップぅ!? 待ってください! そこで戻られるとアウトです!?」
「いや、もう既に充分にアウトと思いますが?」
「否定できないっ!? 良いからどいてください!」
「ええ? 別に前払いで私の体を好きに……」
「しません!」
 どう見てもR18的な光景にブランは心の底からため息を吐いて
「……ええと、もう私帰って良いですかね? あ、ご飯ここに置いときますんで好きに食べてください」
 と包みを2つ近くの机に置いた。
「いや、ちょっと、ブランさん!? 助けてくださいよ!
 下がぬるぬるで立ち上がれないんですよ!」
「いや、そりゃ……上の人にどいてもらえばすぐと思うのですが」
 そこまで言ってブランはバカバカしくなり、さっさと部屋を後にするのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「ということが起きてました」
「……いつもの事」
 アインが小さな包みを受け取りつつ応じる。
「いつもの事……ですか」
「いつもの事だろ。俺もレーション持ってるの思いだして顔出したらあれだからな。
 とりあえず見なかった事にしてこっちに来たわけだ」
 クセニアも図書館側が用意した携帯掃除機を手に肩を竦める。ちなみにその部屋の扉がトーマが見事に粉砕しているため、中から声が響いているのでほぼ全員認知済みである。ついでに言えば若干名の男性が何やら集まって会話していたが、これもいつもの光景だろう。
「あ、クセニアさんもどうぞ」
「ありがとよ。サンドイッチか?」
「ええ、館長がすでに差し入れを創っていまして。手伝って出来あがった物を持ってきました」
「……お疲れ様」
「いえいえ。でも気楽に戻ろうとか思うんじゃ無かったよ、と」
 一度上に戻ると言う事は結果的に地下1、2階の禁書ゾーンを通過するわけであり、その際に再び数多の誘惑やらに晒されてかなり精神力が削がれているようだった。
「あれだね……硬い鎧着てても、メイスでがんがん殴られ続けたらいい気分じゃないみたいな?」
「確かに気楽に見て回るにはちと荷が重いシロモノだねぇ」
 クセニアもどちらかと言えば禁書関係を目当てに掃除に参加した類だが、まさか歩くのに死を覚悟せねばならないとは思ってもみなかった。
「……この部屋もこれで終わり」
「サンドイッチ配るついでに他も少し見てきましたけど大体3割くらい終わった感じですかね。
 協力的なところは自分で片付けているようですし」
 ここに居る全員がぐうたらと言うわけでもない。中には必要以上に潔癖症を発揮し、塵一つ落ちていない部屋もあったらしい。或いはそういう掃除をする装置や、ホムンクルスやロボットなどのお手伝いを用意して部屋を維持している者もそこそこに居る。
「ただまぁ、罠が多すぎて確認に行けない場所もあるみたいだから、実質半分以上は終わっているんじゃないかな」
「ほー。そういやぁさっき凄い爆発響いてたけど、ありゃ何事だ?」
「あれはトーマが地雷原吹き飛ばしてた音だと思うけど」
「……あっちも相変わらず」
 とはいえ、流石に懲りたか慎重に行動しているようなので、それほど心配はしていない。
「って事は、今からが本番かねぇ」
「掃除に来たんだか破壊に来たんだかわからないですけどね」
「……来年のためにも英断は必要
 掃除だって思ってて……甘く、見てた」
「ま、今回こらしめたところでどれだけ効果があるかが分からないけどな」
「……でも、やる。名誉挽回」
 無表情ながらに手だけ ぐ と握りこぶしを造り、アインは罠が除去された通路へと歩いていく。
「俺も行くかね。普通の掃除は気楽だが飽きる」
「いや、飽きてはだめでしょうに」
 クセニアの本末転倒無い言いようにツッコミを入れつつ、ブランは2人の後を追うのだった。

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まぁ、ヨンさんですしね。
ともあれ一転皆さん平和な掃除に走っておりましたのでそっちの描写しましたっと。
次回は通路の罠を突破された科学者軍団が色々と秘密兵器を繰り出します。
って感じにしようかなぁと思いつつ。
でもまぁ、とりあえず好き勝手に制圧してもらって次回完結って感じの方がいいでしょうかね。
 どうなるかはいつも通りリアクション次第ということで
 よろしくおねがいします。
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