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【inv26】『地面の下の懲りない面々』
『地面の下の懲りない面々』
(2013/02/10)

「隙ありぃぃいいい!」
 扉の陰に隠れていた科学者が妙な工具片手に襲いかかる。

 ずん

 その一秒後には男は背中を床に叩きつけて倒れていた。
「なん……だと……?」
 驚愕の言葉を洩らす科学者だが、まともな不意打ちにすらなっていない攻撃を処理できずに近接職なんてやってられないとアインは肩を竦めた。
「……確保」
 数名の掃除参加者が起きれない科学者をさっさとふん縛って確保。掃除を開始するのを見て彼女は次へと向かう。
 めぼしい罠はトーマが妙なハイテンションに突入しながら排除をしている。また自爆しなければいいけどと呟いて次の部屋へ。
「ふ、よくぞここまでたどり着いた。しかしこの部屋にはぶげらぎゃ!?」
 躊躇わずに踏み込み、何かを握っていた右腕を掴んで捻って投げ飛ばす。
 肩と頭から床に落ちた科学者はスイッチのような物をぽとりと落として気絶した。
「……確保」
「段々容赦がなくなってますね」
 続いて入ってきた掃除班が気絶した科学者をフン縛りながら苦笑と共にそんな言葉を零す。
「とりあえず……おしおきだから」
「な、なるほど」
 奥を見れば事もあろうにチェーンガンが備え付けられていた。あんなものを発射されたら一瞬でミンチになってもおかしくないだろう。ホントに何を考えているのだろうか、個々の連中は。
「よう、そっちはどうだ?」
「……制圧した」
 顔をのぞかせたエディにアインは応じる。
「こっちも話に応じるところはあらかた片付いたな。うんともすんとも言わないところをトーマが張り切ってブチ破ってるところだ」
「……大丈夫なの?」
「踏み込まないように言っている。まぁ、アレで砕けないなら牽引砲でもブチ込むさ」
「……うん、まぁ、ここ流の掃除だね」
「そういう事だ」
 妙な悟りを開きそうな納得をして気を取り直すと、二人は通路の奥を見やった。
「さて、あれをどうするか、だな」
「……ほんと、何考えているんだろう」
 荒れ果てた廊下の先に確かにそれはあった。
 ドラム缶ボディから飛び出るいくつもの手にはこれでもかと武装が握られていた。人間で言うと胸に当たる部分には「さいしゅうぼうえいそうち」と書かれている。
「思いっきりトーマと思想が一致しているな」
「……うん。見覚えがある」
 エディはおもむろに銃を抜くと数発発砲。しかしその全ては数多の手が操る武器や盾に弾かれて意味を為さなかった。
「無駄に性能良いな」
「……もっと人の役に立つ事に使えば良いのに」
 詰まる所、作る頭はあっても使う頭が無い連中なのである。
「いっそあれに牽引砲ブチ込むか?」
「……悪くないと思う。あれ、近づくのも危険」
 何しろリーチが長い上に両脇は通路で後ろどころか側面にすら回り込む事もできない。

「我が科学力は世界一ィィィィィィイィアァァァアアアァアァッ!!!」 

「あ、対抗しやがった」
 聞き覚えがとてもよくある声が廊下に響き渡る。
どうやら床に仕掛けられたトラップの類は破壊しつくしたらしい。そうなれば天狗になっている自称天才科学者にとって、あの獲物は絶対に見過ごせない事だろう。
どこにそんなパワーがあるのか、小柄な体に合わぬ巨大な腕を振り上げ、その機構がうなりを上げる。
「貴様らとトーマ様では格が違いすぎるっス! それを今証めぶばっ」
 白い手袋をつけたような手がトーマの顔面をがっしり掴んだ。
「ごべばっ!?」
それから少し振りまわした後にぽいと捨てる。
「……首の骨、外れて死んでない?」
「……まぁ、トーマだから大丈夫だろうよ」
 まぁ、正面突破するとどうなるかの分かりやすい実例を示してくれたと思う事にして、エディはため息一つ。
「あれの「掃除」が終わればひと段落だろうな。おい、生きてるか?」
「……なんとか致命傷で済んだっス」
「……それ、大丈夫じゃない。でも喋れるなら大丈夫……か」
 立ち上がれないトーマの救助をしつつ、エディは対策を脳裏に描こうとするのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「わかりました。私もその『詐術』には興味がありますし……」
 ふと思案げな顔になり、それからシリアスにそう告げたヨンに
「ほう、物分かりがいいな。私が女だからだな。よし、前払いだ。好きにして」
「しませんからねっ!?」
 そのシリアスを続ける事は許されなかった。
「なんだ、まさかもう既に……!?」
「既に何だって言うんですか!?
科学者って人の言う事聞いたら行けないとかいうルールがあるんですか?!」
 自分の組織に参加する、今も外でなんか騒いでる少女との類似点を浮かべつつ叫ぶ。
「いや、でもお前は吸血種だろ? 女なら見境ないものだとばかり。
 ……いや、まさか。それはカモフラージュで実はおと」
「それ以上言うと訴えますよ!?」
 無法都市のどこに訴えると言うのやら。
「とにかく、ですね。
 契約しましょう。月に1日だけ、貴方に協力します。付帯条件として、私へ何らかの効果を作用させる事は禁止です」
「つまり通い妻だな」
 顎に手を当てきらーんと目のところに光入れる女科学者。
「ああ、もう、前言撤回していいですか?」
「いや、すまんすまん。代償は私のから」
「受け取るのは研究の情報です」
「……随分と高い要求だね」
「いや!? 貴女の妄言よりも人道的ですよ!?」
「馬鹿な事を言うんじゃない。科学者にとって研究成果こそが至上で、後の物はそこに到るための道具に過ぎん。この身もこの頭もだ」
 何のためらいも無く冗談すら交えずに彼女は言い放つ。
「つまり君は私の全てを奪い去ろうと言うのだね。流石はクロスロード随一の色男。吸血種とは仮の姿で実は夢魔種ではあるまいな?
 まさか、すでに私は妊娠させられているのか!?」
「そろそろ本気で怒って良いですか?」
「そういう性格だから構われるのだろうな。よろしい、その条件飲もうか。
 私は分かればそれで満足だからな。別に強さなど結果に過ぎん」
 あっさりと前言撤回した女科学者は楽しげに眼を細める。
「よろしく『嫉妬の使徒』」
「挨拶などどうでも良いですから、そこからどいてください。マジでお願いします」
 その笑みには泣きごとが返されたのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「おじゃましますよっと」
 ノックしても返事が無かった部屋。ノブを回せばカギはかかっておらず、不意打ちを警戒してどんと扉を押し開いて距離を取る。
 部屋の中は真っ暗。どうやら留守のようだ。
 他の部屋と大きく違うのはまるで空き部屋ではないかと疑うほどに何も無いと言う事。
「……いや、持ち主は居るんだろうな」
 机の上に2冊の本。それからインクとペン立て。作家でも居座っているのだろうかとクセニアは注意深く周囲を見渡してから机に近づく。
「こいつは回収した方が良いのかな」
 厚さにして握りこぶしの半分はあろうかという重厚な本。その革張りの表紙に触れた瞬間、クセニアは全身に電撃を流された。
 違う、そう錯覚したのだ。
「ぐ、な!?」
 視線を本へ。その装丁はまるで女性のような顔が引きつった皮膚を纏って苦悶の叫びをあげているような醜悪な物。見るだけで視界が歪む。これは大図書館地下1.2階を通過した時の感覚に非常に近い。
「がぁああっ!」
 気合いを入れて手を引き離す。本は己が無害な物であると訴えるかのように、ごく普通の放物線を描いて床に落ちた。
「なん……だ、これは……?」
 自身には未だ呪術や精神汚染に対するレジスト魔法が掛かっているはずだ。それでもなお、あっという間にそれを侵食してこちらを喰らいに来た。
「研究者どものトラップ? 確かに強力だが……」
「違います。クセニアさん」
 す、と入ってきたサンドラが床に落ちた本を拾う。
「お、おい。大丈夫なのか?」
「こと本に対してなら私と妖姫に勝る者は居ません。本限定ですけど。
 これは『アザゼアの白書』。とある世界を食いつぶした本です」
「世界を食いつぶした……?」
「はい。この著者であるアザゼアは世界の全てを知る事を欲しました。そして彼が思い至った手段は世界の全てを本に納めてしまう事です。
 結果、彼も世界も本に呑み込まれ、この本はさらなる知識を求めて世界を喰らい続ける物となったのです」
「……ちょっとまった、そんな物がなんで平然と机に置いてあるんだよ」
「単純な事です。世界を喰らう本よりも強い意志を持てば喰らわれる事はありません。
 即ち本とは読まれるためにあり、これを手にする者が正しく読み手であり続けるならば、抗う事はできます」
「……意味がわからねえ」
「ええ。それはとても異常な状態であることを強要する物です。即座に理解できるものではなく、また理解して良い状況ではありません」
「……あんたはそういう異常ってことか?」
「私は残る2つの例外なだけです。即ち本を管理する者」
「……もう一つは?」
「本を媒介する者。即ちこれを本でなく品物としか見ない商人です。
 最も、そうであったとしても全ての例外は書に記される者である事に代わりはありません。やはりある一定の異常性は介在するのでしょう」
「……ここの利用者も、か」
「はい。奥で暴れている連中とは真逆の『異常』です。貴方達であればいずれ知りえるか、あるいはもう知り得ている人でしょう。しかし知りすぎてはいけません。無法にして混沌の町にも地獄は存在するのです」
「ハ.そんな物が怖くて銃なんかぶら下げてられるか」
「怖い、怖くないの話では無いのですけどね。
 書物も伝承も、それを曖昧に表現し、その本質に警告を潜ませます。
 直接触れることなく知る事ができるということを大切にすべきです」
「ごもっともだな。だが百聞は一見にしかずとも言うぜ?」
「はい。ですが君子危うきに近寄らずです」
 そもどちらが正しいと言う話ではない。状況でどちらが最良かを選ぶだけである。
「まぁ、気にはしておくさ」
「それが良いでしょう。さて、どうやら奥の最終防衛装置の対処を始めようとしているようです。ご協力願いますか」
 もう少しここを見てみたい気もするがどうしたものか。
 確かに長年信頼してきた本能的な危険察知能力はこの場に居続けることが余り良くないと訴えている。
 なんなんだろうな、ここはと小さく呟き、クセニアは行動を決めるのだった。
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というわけで所詮はただの技術屋集団。戦闘屋が本気で攻略にかかれば押して行けると言う感じで信仰しておりますが、さいしゅうぼうえいきこう あしゅら君(仮名)が最後の壁として立ちふさがります。
 果たして結末やいかに!?
 そしてあしゅら君には御約束のアレは付いているのか!?
 次回最終回のつもりでリアクションよろしくおねがいします☆
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