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【inv26】『地面の下の懲りない面々』
『地面の下の懲りない面々』
(2013/02/24)

「ふ、ふぅ。大変な掃除だったな……」

 その言葉は余りにも白々しく地下三階に響いた。

◆◇◆◇◆◇◆◇

 結構ドタバタしていたはずの研究施設群を支配した数秒の沈黙。それに胃が軋む音を幻聴しつつもヨンはなるべく人の少ない方へと退避。
「あ、妖姫さん」
「真っ先に女性に声を掛ける故、弁解も意味をなさぬと思うよ?」
 綺麗な微笑みから放たれた致命の一矢に胸を抑えるヨン。吸血鬼に効く胃薬などあるのだろうかと下らない事を脳裏に走らせつつ何とか気を取り直す。
「ず、随分掃除は進んだようですけど、あと私にできること、ありますかね?」
「とっておきのがあろう?」
 即座に帰って来た言葉に漂う不穏な臭い。それを自覚させる前に文車妖姫の指先は奥へと向けられる。
「技術者集団の用意したからくりが暴れておるようでの。
 ぬしの出番でないかえ?」
「からくり……? トーマさんが真っ先に飛びついていそうですけど」
「うん、飛びついて弾かれておったの」
「あ、はい」
 余りにも容易に想像できた光景にヨンはカクリと頷く。
「戦闘組は皆集結しておる故、主も早々に行く方が良いでないかえ?」
「わかりました」
 少しくらい失地回復しておかないと今後にも関わる。
 ヨンは早足に戦闘のはじまりつつある場所へと向かった。
 
◆◇◆◇◆◇◆◇

「あー、うん。ここの連中は大体インスタント食品だねぇ」
「インスタント?」
「科学世界の簡易食品だよ。あれは良いね、まさに科学者のためにあるような食事だ。
 カプセルや固めたパンのようなものもあるから研究しながらでも食べられる」
「そんなんじゃ体に良くないですよ」
「そんなの気にするのはここに籠ったりしないよ」
 比較的温厚に部屋を解放した科学者たちがブランの持ってきた弁当に手を出しつつあっけらかんと言い放った。
「飯が食いたいなら上で作業すれば良い。そうだろ?」
「……分かるような分からないような。
 しかし貴重な資料が多いのは分かりますが確かにこんな地下に籠る必要は無いのでは?」
「あるんだなぁ、これが。
 知っているかい? ここはABC2W対策がされているんだ」
「……?」
 ブランの疑問にPBが反応する。
 ABC2Wとはクロスロードに置ける「大量殺りく手段」の総称だ。
 つまり科学世界におけるアトミック、バイオ、ケミカルのA,B,C。
 そして魔法世界における神罰(ラース)と、魔法その物マジック(Wの反転)を指す。
「ここでなら何をしても上には影響は無いってことだねぇ。
 通気口には何重にも科学、魔法結界が為されてるし」
「……でもこの中にいたら死ぬのでは?」
「まぁ、それは宿命だねぇ。一応いくつか安全策はあるけど」
 ああ、こいつら何か基準が間違っている。そう確信してブランはため息吐きつつ本題に入る。
「で、あのあしゅら君とやらって何か対策適用できますかね?」
「あー、あれかぁ。まぁ、そこまで対策は必要ないと思うけどねぇ」
「と言いますと?」
「俺達見たいな連中は共同開発とかしちゃダメなんだよ」
 また意味が分かららない。が、確かにここの連中は1つの部屋に1人だ。
「余りにも全員とんがりすぎだからな。こう言うのを上手くまとめる才能の持ち主でも居ない限り……」
「……」
 なんとなく察した。が、それはそれでまずいのではないだろうか。
 どう伝えた物かと思考しながらブランは戦地へと向かうのだった

◆◇◆◇◆◇◆◇

「ふふ、見える、見えるっスよぉお!!」
 と、なんかトーマが叫んでいるのはさておき。
「……っ!?」
 さいしゅうぼうえいそうち あしゅら君の前でアインはひたすらに回避に専念していた。
 数多ある手が近接武器だけならばまだ何とでもできようが、手の1つには拳銃が握られているし、腹にはミサイル、目からはビーム、胸からは熱放射線が飛び出すというびっくり仕様である。これでは迂闊に踏み込めない。
「例え無理だと言われても」
 そこにさらなる乱入者の姿が合った。
「俺がやらねば誰がやる」
 腕の一本に対し銃撃。アインに迫っていた刀が弾かれる。
「正義のクセニア、暴力的に参上!」
 胴体へ向けた二連射。それが今や打ち放たれんと開いた腹のミサイルに命中して爆発を起こす。
「やったか!?」
「……トーマ、それ、駄目」
 アインがげんなりとつっこんだ通り、腹のミサイルが誘爆してもあしゅら君に大したダメージは無いようである。返せば小型ミサイルレベルの攻撃では意味が無いと言う事か。
「一旦退きな」
 ぽいと投げたのはスモークグレネード。発生した煙を見てアインは一旦距離を取り、通路を曲がって射線から逃れる。
「ありゃ、厄介だなぁ」
「……うん。どこから弾薬供給してるのか不明」
「ここの連中に一般観念求めても仕方ないがな」
 牽引砲を引きずってきたエディがやれやれと呟く。
「他の科学者たちをけしかけようとしたんだが、大体のヤバい系はアレに関与しているらしいな」
「……ああいうの、大襲撃のときに出せば良いのに」
「盛大に味方に襲いかかりそうだがな。さて、こうなると正面突破しかないか」
「ふふり、そろそろこの天才の出番っスね!」
 にゅと出てきたトーマを一同微妙な視線で眺めてみる。
「な、なんスかその目はぁ! この天才が解決策を見出したと言うのに!」
「……聞くだけ聞く」
「くっ……聞いて驚けっス!
 あの『あしゅら』の腕は同期が万全じゃないっス。恐らくそれぞれが好き勝手に追加したせいっスね」
「なるほど。ってもなぁ」
「万全じゃないにしたってある程度の連携取れてるぜ、あれ」
「ふふ、ならば連携が取れないほどにかき乱せばいいっスよ」
「……どうするの?」
「真正面から3分くらい切り合えば多分処理落ちするッス!」
 3分という言葉に顔を見合す。それは疑いの視線でなくやれるかどうかの思考から来るものだ。
「通路は結構な広さはあるが、せいぜい前線張れるのは2人か。
厄介なのは内臓武器の方だよな」
「……うん。特に目からのが厄介。事前に無駄にぴかぴか光るけど、そこに注目してたら他を避けられない」
「となれば俺は後衛張ってそれの牽制か?」
「もう1人前線が欲しいな」
「あ、流石にもう痛いのは勘弁っス」
 タイタンストンパーを背後に隠してトーマが首を振る。
「じゃあ私が出ますよ」
 背後から現れた新たな人物────ヨンを見て
「……色々充電してきた?」
「こんなところでもお盛んとはねぇ」
「まぁ、旦那だしな」
「いつも通りっス」
「最近扱い酷くないですかね!?」
 少し涙目で訴えるが、皆は「仕方ないじゃないか」的な視線を向けて閑話休題。
「とりあえず一気にたたみかけるとするか」
 牽引砲を叩いたエディが
「あのボディ、多分魔法でも防御力upしてるんで防御と回避重視で良いっスよ。
 ただ、腕の関節は狙い目っス」
「了解しました。じゃあ行きますよ」
「……おっけ」
 ヨンとアインが一足に踏み込む。即座に反応する腕が瞬間、防御に動く。そこにめり込むのは牽引砲の一撃だ。
「まずは景気付けだ、受け取ってろ」
 ニィと笑って銃を構えるエディ。
「こっちも行くぜぇ?」
 クセニアが援護射撃を開始。背中から銃弾が襲い来る状況は前線としては落ち着かない状態のはずだが、アインもヨンもその動きに乱れは無い。
 嵐のように襲い来る刃の嵐が四人の迎撃が完全に封殺。
「レーザー来るよ」
 声に二人が距離を取れば、床に光が走る。
「さて、乱れが始まったっスよ」
 トーマの言葉を背に聞きながらアインとヨンもそれを確信する。最初はかなり厳しい攻撃が続いていたのだが、次第にその連携に歪みが生じていた。
「この無駄に硬い装甲が無ければ倒してしまうんだけどね」
「……連携が乱れても気が抜けない」
 バンと開いた胸部装甲を見て慌てて回避。熱線が二人の間を焼く。
「あの瞬間でも狙えればいいのですけどね」
「狙ったけど銃弾溶けたぞ」
 クセニアが舌打ち交じりに叫ぶ。どうやら熱線発生部に弾丸をブチ込んでみたらしい。
「ホント、無駄に高性能だな。ここの連中」
「……」
「トーマ、だからここにいる事を検討するなと」
「いやいや。アインさん、20秒、耐えられるっスか?」
「……なんとか」
「ヨンさん、後退してこれ、使うっス!」
 ガンと床に挿したタイタンストンパーを見てアインが前に飛び出し、ヨンが一足に後退。エディとクセニアが乱射してひたすらに攻撃を弾く。
「そこに腕を差し込めば自動装着するっス」
「了解です。って、結構重いですねこれ」
「さっき吹き飛ばされた拍子にアシスト機能が壊れたっスかね。
 とりあえず余裕が無いっスよ」
「はい」
「……っ!」
 体を前に。ヨンが身を乗り出した瞬間、アインに3つの刃が迫っていた。
「ちぃっ!?」
 エディがこれでもかと連射するがアクスの一撃が弾けない。
「少しくらい良いところ見せさせていただきますよ」
 アインに背をぶつけつつ、杖でアクスの柄を叩いて軌道をずらす。
「ブランさん。ナイス!」
 ヨンがアキレス腱が引き千切れんばかりに前へと突進。浮き上がった武器を全員が弾き散らしていく。
「ヨンさん、頭下げるっス!」
 言うなりドンという爆裂音。牽引砲の一撃が再び開いた胸部装甲に赤熱した弾丸を叩き込み、その巨体を揺るがす。
「これで仕舞いです!」
 そうして開いたままの胸部にガズンとタイタンストンパーの杭が突き刺さった。
「吹きとべっ!!」
 ガガズっと言う独特の振動音が「あしゅら君」を激震させる。
「やったry」
「もうそのネタは要らんわ。というか、もう勘弁しろ」
 がっとトーマの頭を抑えつけてセリフを中断させたエディは崩壊を始めたあしゅら君を見て大きく息を吐く。
「やれやれ、ようやく掃除もカタが付きそうだな」
 後は制圧のみ。
 それと、盛大なお仕置きをすべきだろう。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「うぉおおお、研究させろぉおおお!?」
「嫌だぁ、太陽の光は嫌だぁ。溶けるぅううう!?」
 というわけで、ここは大図書館の中庭。春には桜で桃色に染まる風光明媚な場所も冬場とあっては物悲しい様相を見せていた。
 とはいえ、冬晴れのこの日。天日干しには丁度良い日差しの下で、科学者集団が走らされていた。
「溶けるって、吸血鬼じゃあるまいし」
「その吸血鬼は無事ですけどね」
 ブランの言葉にデイウォーカーのヨンは「まぁ、そういう事もあります」とよくわからない返しをする。
「……精神科医に見てもらった方が良いんじゃないかな」
「この中に精神科医も居るそうだけどな」
「それ、絶対狂わせる方だろ」
 エディの言葉にクセニアは確信を持って呟く。
「ともあれ、掃除はこれで完了。彼らには健康になって貰うためにも大図書館周りを10週位走って貰いましょう。1週間くらい」
 サンドラはしれっとそんな事を言う。ちなみに科学者集団の後ろからは修復された「あしゅら君」が逃走防止並びに走るのをやめないように追い回している。まさに自業自得がそこにあった。
「ふふ、籠るだけが科学者じゃないっスよ」
「アクティブすぎるのも困りものですけどね」
 いろいろと思い当る節の多いヨンの呟きは天才少女(自称)には届かない。
「では宜しければ来年もよろしくお願いします」
「……来年はもう少し楽に出来ると良いなぁ」
「ないですね」
「無いな」
「ああ、無い。間違いねえ」
「確信を持って言うのもアレなのですが、ワタシもあるとは思えませんねぇ」
「だから依頼するのですよ」
 サンドラの言葉に全員が苦笑を洩らす。
 なんにせよ、今年度の掃除はなんとかなったようである。

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 はい、というわけでこれにて【inv26】地面の下の懲りない面々は終了です。
 参加者の皆さまお疲れさまでした。
 年が明けたら少し時間に余裕ができるはずだったのですが、前より忙しくて少々あっぷあっぷしておりますが、気長にお付き合いしていただければな。と。
 さて、次のシナリオなにしようかな。もうすぐ3月かぁ……
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