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【inv27】『白銀の強襲者』
『白銀の強襲者』
(2013/01/11)
「……ん?」
 ある日の朝。
「いや、朝か?」
 彼は体内時計にそれなりの自信を持っていた。目覚ましなどというシロモノを使わずとも大体同じ時間に目を覚ます事ができる。
 が、いつもと決定的に違う事があった。
「暗い……なぁ。早く起きすぎたか?」
 天気が悪い、、、とも考えたがそれにしたって暗すぎる。雨の日でも日が昇る時間になればそれなりの日照はあるはずだ。
 が、真夜中と言って差し支えのない暗さ。仕方なく部屋の明かりを付けると、窓の外は白かった。
「……ってうぉ!?」
 白い。というより白が張り付いていた。男は泡を食って窓に近づき開けると、その白に触れる。
「冷た……い? なんだこれ……?」
 少し強めに押せば凹み、指を立てればあっさりと崩れる。そして手のひらの上で溶けるそれを見て、ようやくそれが何なのかを理解する。
「氷……いや、雪、か?」
 確かに昨夜、雪が降っていた。明日は積もるな、くらいは思っていた。ここクロスロードには四季がある。冬ともなればそれなりに雪が降る事もある。
 が、
「って、おい!?」
 男は慌てて物置きとしか使っていない二階へと走ると慌てて窓をあけようとして
「ふ、吹雪いてやがるのか!?」
 1階の窓と比べれば格段に窓の外は明るいが、その窓にも拭きつけられたらしい雪が薄く張り付きつもっている。男は意を決して窓を開く。室温で溶けた雪が再度窓の縁で凍ったのだろう。べりべりと音を立ててようやく開いた扉の向こうは白だった。
 ……うぉ……
 まずこの住宅街のほとんどが1階建てになっていた。いや、この窓の向こうがまるで地面のように見えると言う事は1階部分が埋まっていると言う事だろう。となれば積雪は1mを優に超えている。ベランダに降り積もった雪も相当な物であっさり膝まで埋まった。じんと足から登ってくる冷たさを我慢しつつ周囲を見渡せばこの異常事態に呆然とする来訪者がちらほら見られた。

『管理組合です』
 遠くから音が響いた。恐らく拡声器か何かで放送を流しているのだろう。
『現在クロスロードは異常な積雪により、大変危険な状態になっております。
 1階部分の扉はほぼ使用不可能となっておりますが、2階から外に出るときには飛行系術などを使い、決して雪の上に立とうとはしないでください。埋まります』
 何を言っているんだ? と言う顔をする男。それから不意に埋まった自分の足を見る。
 すぐ目の前に『地面』があるが、よくよく考えればあれは降り積もった雪だ。ではそこに立てばどうなるか。
「……死ぬな」
 正確には埋まって動けなくなって凍死する。
 もしくは雪の中に埋まってればある程度あったかいので窒息して死ぬ方が先かもしれない。
「……しっかしどうすんだこれ?」
 家で遭難するという貴重な体験がクロスロード全域で発生していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「大まかに説明すると、車両の入れる区画は除雪車を使ってニュートラルロードまで雪を押し出す。ニュートラルロードの雪は路面電車を使って中央まで運び、サンロードリバーに雪を落とす。と言う流れだ。
 個々の除雪部隊の役目は2つ。1つは屋根の雪下ろし。
 クロスロードの建物がかなりの強度を持っているがそれでも限界はある。特にビル系の屋上が四角い建物は雪がどんどん積もって危険なだけでなく、路地に落下して被害をもたらす可能性が高い。
 もう1つは個々の遭難者の救助部隊。家の前の雪を排除し、扉を開けれるようにする事が目的だ。特にケイオスタウンでは妙に入り組んだ通路も多いので出るに出られなくなった住居も多いらしい」
 なるほどと、カイロを手にチコリは頷く。完全防寒装備でちょっと丸っこくなっている彼女はきょろりと周囲を見回すが見知った顔は余り居ないようだ。
 雪かきに参加しているのは大体200名程度と聞く。5カ所に分かれて今の説明を聞いているところだそうだ。なにしろ交通網が寸断され、歩くのにも一苦労と言う状況で、更に雪はやむ気配がない。時折突風が吹くため飛行系の特技や魔術も使用を控えねばならない状態である。
「あと各自に発光弾渡すので、遭難した時はこれを打ちあげるように。
 一応イエティや雪女などの氷雪系の来訪者は緊急対応メンバーとして確保してるので」
支給されたのは指3本くらいなら入りそうな銃口のおもちゃのような銃だ。
「あと間近で炸裂すると失明しかねんから注意な。それから焦ってロックを外さないまま引き金を引いても出ないから、それも注意だ」
 ほーと渡された銃を眺め見つつチコリは足元を見る。
 すでにくるぶしくらいまでが雪に埋まりつつあり、よいしょと足踏みして雪から脱する。
 時刻はもう御昼近いはずだが、空は日が堕ちたように暗い。通りの先を見ようにも雪に邪魔されてほとんど見えない。
「最後に、扉の塔の数カ所に強力ライトを設置し、臨時の灯台にしている。
 PBのフォローがあるのでクロスロード内で迷子になるとは思わんが、万が一の時は目印にするように。以上だ」
「んー、とりあえず頑張りましょうかね」
 遭難の恐れがあるため、余り一人にならないように気をつけよう。
 そんな事を思いながら
 不意に振り返った彼女は吹雪を吹き飛ばすような大爆発を聞いたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「ふぅ」
 雪を落として滑り込むようにエントランスへ。
 足が張っているのを感じる。いくら鍛えていると言っても雪を掻きわけて歩くと言うのは使う筋肉が違いすぎる。筋肉痛になるとは思わないが明日あたりはだるくて仕方ないだろうなと嘆息。
「こんな日に物好きですね」
 静まり返った図書館内で涼やかな声の主は司書長のサンドラの物だ。開店休業中のこの状況でもきっちり司書服を着こんでいた。
「聞きたい事があったんでな。館長は居るか?」
「寒さで腰が辛いと言い張っていましたね」
「嘘かよ。問題ないならこっちから出向く」
「ではご案内します」
 すっと入っていくのはカウンターの奥だ。振りかえらない所を見ると入ってこいと言う事なのだろう。
 パソコンの並ぶカウンターから司書事務員用の部屋へ。いくらかの本と帳簿が並ぶそこを過ぎて一旦廊下へ出ると、館長室というプレートのある部屋の前へと辿りついた。
「館長、お客様です」
「ん? 誰だい?」
「エディ様です」
「良いよ。通してくれ」
 がちゃりと扉を押し開くと大図書館の西洋風の趣を全く無視した和室がそこにあった。奥にここが執務室であるとなんとか主張する机があるが、中央にででんとあるコタツが何もかもを台無しにしている。
「寒かっただろう? 入りなさい。
 ああ、靴はそこで脱ぐんじゃぞ」
 畳は一段高いところにある。エディは気を取り直して靴を脱いで上がると、スガワラ老に倣ってコタツに足を突っ込んだ。そうしている間にサンドラがお茶を入れたらしくコトリと湯のみが置かれた。
「ああ、俺からも酒を持って来たんだがな」
「開店休業中だが一応執務中という建前だからな。
 後で頂くとしよう」
 差し出された酒に目を細めつつ受け取り、それでと首をかしげる。
「この雪は人為的な物かどうか、見解を聞きたい」
「思惟的に引き起こされた自然現象じゃな」
 わずかの間も開けずに応じた老人をエディはやや訝しげに見る。
「館長はこれでも天候に由来する厄神ですので」
「これサンドラ。それは昔の話で天神じゃぞ」
「それは天神に昇った本体の事と聞き及んでいますが?」
「……。
 ああ、まぁ、なんだ。天気に関する能力を持っておるからの、とでも言っておくか」
 取り繕うように老人はそう言った。
「で、まどろっこしい言い方だが……?」
「雪は降るべくして降っておる。が、何者かが雪が降る条件を整えた結果である、と言う事じゃな」
「故意にこのあたり一帯を埋め尽くすような雪を降らす事なんかできるのか?」
「元よりこの数週間、非常に強い寒気が入り込み、上空は軽くマイナスに突っ込んでおる。
 ここに大量の湿気が入り込めば当然雪になって降ってくる」
「大量にも程があるだろうに」
「そうかのぅ。元より水には困らんと思うが」
「……」
 水と言われれば誰もがピンと来るだろう。
 この街の象徴の一つでもあり、この世界唯一(だった)大水源。そして昨年の初頭ではその水が危うくクロスロードを押し流すところだった。
「サンロードリバーの水を使っているということか?」
「川の水位が下がっているらしいからのぅ。
 まず間違いなかろう」
「……それにしたってどうやって」
「どうやってかは知らん。が、それが可能な事は最古参組は知っておる。」
 最古参組という単語にエディは眉間にしわを刻む。
「救世主ならば可能であると言う事です。
 誰の仕業かは分かりませんが一つの火球が万の怪物を飲みこんで消し去ったと言う話ですから」
 確かに『大襲撃』の話の中にそんな一文があった。確かにそれほどの大火力を振るえるならばどれだけの水を蒸発させられるか想像もつかない。
「……って、救世主……副管理組合長の誰かが犯人ってことはねえだろうに」
「ないじゃろうなぁ……、祭りに合わせて雪を降らす程度なら分かるが流石にこれはやり過ぎというレベルを遥かに超えておる」
「また怪物が変な策を巡らせているとか……?」
「一度あったことを否定はできんな」
「ちなみに湿気以外はどうなんだ?
 この寒気とかも『何者か』の仕業である可能性は?」
「無いとは言えんが断定もできん。四季がある以上この時期冷え込むのは当然じゃし、冬場の風向きが北からになるのもこの数年のデータからすれば不思議ではない。
 サンロードリバーの川上から川下への風も大体いつも通りじゃしな」
「そこは調べるしかないと言う事か」
「調べるにしても行動そのものがままならんがな」
「雪そのものは自然現象とするならここでいくら調べても何もわからない、か」
「100mの壁があるからの。
 それに気象学は十年単位のデータの蓄積がないとまともな精度は期待できん。
 どれもこれも推論にしかならんよ。
この『惑星と思われる大地』に地球世界並みの雨量を確保するだけの大洋や、酸素を供給する森林が無いとおかしいのじゃが、それの存在も不明のままじゃしな」
「……足で稼げ。ただし足は封じた、か」
「完全に封じられたわけではないが、一人で調べに行くのは自殺と同意だろうなぁ」
 それこそ冬の雪山登山を遥かに超える覚悟が必要だろうし、仮に辿りついたとしても戻れるかすら怪しい。
「他にも一応聞きまわって考えてみる」
「うむ。流石に管理組合も黙ってはおれんじゃろうし、妙案があれば飛び付くと思うよ」
 エディはひとつ頭を下げてコタツから足を引きぬく。
 かなりあったくしているはずだが、途端に足元にまとわりつく冷気にふとコタツを振りかえる。
「これは悪魔の兵器と呼ばれておってだな。冬に多くの者を食って離さぬのじゃよ」
「言わんとする事は分かるよ」
 肩を一つ竦めてエディは調査へと乗り出した。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「さて、意気込んではみた物の」
 そろそろ歩くのもだるくなってきた静樹はため息一つ周囲を見渡す。
 流石にこの雪で店を開けているところも皆無。飲食店とあってはなおさらで休憩できそうな場所もない。
「手掛かりなぁ……」
 普段であれば町を歩けばどこかで騒ぎが起きて居たり、町行く人の噂話を聞いたりもできただろう。が、5分も突っ立っていれば自分が雪に埋まりそうなこの状況、手掛かりがたとえあってもすでに真っ白な雪の中である。
「もっと明確な作戦を立てないと流石に無理か」
 犯人を見つけたらどう懲らしめようかというプランはいくつも脳裏にあるが、肝心の犯人を探す手段がおろそかであった。
 さて、ここで反省していると凍え死に兼ねない。妖怪の自分が凍え死ぬなど笑い話にもならないが、このターミナルでは大きく力が削がれている。元の世界では何でもない事で死ぬ事もあるのだ。油断はできない。
「一旦戻るか」
 休憩する場所が無ければゆっくり考える事もできない。唯一信頼できる場所は管理組合に割り当てられた家である。

 がぎょん

 不意に吹雪く風音にまぎれて金属音が響いた。
「何だ?」
 振り返ればその建物は店とは違った。HOCの文字が看板に刻まれており、PBからの情報でヒーローと呼ばれる職業(?)のギルドのような物と知る。
「この中からか?」

 ガゴッ

 それはまるで扉をたたく音。
 いや、扉を実際叩いているのだろう。殴って居ると言った方が正しいかもしれない。

ガゴッ! ガゴッ …… バギャァッ!

 数度の打撃音に続いて木材が割れる音が響いた。
「ふう……てこずらせてくれたもんっスね。
 しかしこの超高熱外殻武装特殊スーツの前には無力っス!」
 事務所の扉をブチ破って勝ち誇る特徴的な声。そちらを見ればアイアンゴーレムのような風体の何かがずんと立って笑い声を響かせている。
「……トーマ、何をしているんだ?」
「お、早速このナイスでスペシャルなスーツに魅せられて来たっスね!」
 いや違うが、否定してもややこしそうなので頷いておく。
「これは外殻を超高温に出来る特殊スーツっス!
 これで雪道など全て溶かして進んで行けるってもんっスよ!
 雪掻きなら任せろーーー!!! っス!」
 言うなり何かを起動させたらしい。鉄色のボディが段々赤熱し、吹き付けた雪が瞬く間に蒸散した。少し離れてもそれが物凄い熱を放っている事が分かり一歩後ろに下がる。
「ふふ、成功っス! じゃあ行くっスよ!」
「え? いや、トーマ、タンマ!」
 だが気分の高揚した彼女には届かない。
 早速とロボットのようなスーツを着込んでなお背を越える雪に突っ込んでいく。
 途端にじゅっという音が連続して響き、スーツの形に雪が溶けて道ができた。
「確かにこれは凄いかも……」
 でも、と言葉が続き
「え? うぉ? ま、前が!?」
 まるで雪山の温泉のように空いた穴から猛烈な湯気が噴き出し、周辺が一瞬で霧のようなものに包まれる。それだけならまだ良かった。
「の、お!? 水が!? え、あ、湯気、ちょ!? て、停止っス!?」
 が、遅かった。
 トンネルの中で急激に氷から蒸気に状態変化した水はある結果を引き起こしたのである。

 どぉおおおおおおん

 それを水蒸気爆発という。
 まるで大砲空飛びだした弾丸のようにトンネルから放りだされたトーマは粉砕されたスーツをかろうじて纏ったまま雪に埋もれて行く。
「……ええ、と。救助しないと死ぬよな。あれ」
 目の前で突如発生した要救助者に呆れつつも彼は埋もれて行く少女を掘り起こしに掛かるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇

「心折れて良いですかね」
「そのまま死にたければな」
 泣きごとを言う一之瀬にクセニアがにべもない答えを返す。
 ここはクロスロードからおおよそ10kmは離れた地点だ。もうそろそろ南砦が見えるはずだが吹雪のために未だ確認出来ないでいる。
「雪の行軍が大変って話は色々聞いてましたけど、ここまで何でもありの世界でもこのざまとは」
「何でもありって言ってもなぁ。吹き飛ばしてもすぐ積もるし、駆動機系も道がこのざまだし、地道に進むしかないだろうよ」
 彼らのすぐ横にはかなりのロースピードで走る武装列車の姿がある、と言っても今回に限ってはその装甲の大半ははぎ取られ、代わりに間に合わせの配管が張り巡らされている。
 これは先頭車両で発生した蒸気熱を受けた水を巡らせていて、まとわりつく雪をなんとか凌ぎ、内部の温度を保っている。
 代わりに極端に低下した防御性能や元より吹雪で確保できない視界を補うために数名がその横を歩いていた。一応先頭車両の先にはへの字型の除雪板が設置されており、彼らが歩く分まで外に払っているので極端に歩きにくいと言う事はないがそれでもくるぶしくらいまでは雪に埋もれるため体力を盛大に奪って行く。彼らにとってはたかだか10km歩いただけなのだが一之瀬のように蒼い顔している者も少なくない。
「よし、そろそろ交替だ。3班は外に出ろ。2班は雪を落としてあったまれ」
「助かったあぁ」
 安堵の吐息も白い。よたよたと列車に寄り、補助柵を掴んで体を持ち上げる。
「まぁ、雪は酷いが寒さはそこまで無いのが救いだな」
 クセニアの方は若干余裕を見せたままそれに続く。彼女の言う通り外気温としては0度前後だ。寒いは寒いし、耐えず吹きつける雪、それに冷たい風のせいで気温以上に体温は奪われていた。
 転がり込むように列車内に入ると所狭しと物資が詰み込まれており、その隅っこにストーブらしき物が鎮座している。
「おや、お疲れ」
 1班だったらしい探索者の女性が差し出してくれるコーヒーを受け取って窓を見やる。無論大したものは見えない。
「これ、大迷宮都市まで行けるんですかね……」
「行くしかないだろ? 列車的にもあそこか衛星都市まで行かないと回転できないわけだし」
 クセニアが改めて呆れたように応じると、女性はフフと笑い、
「一応回転せずとも後退はできるでしょうけど、雪掻きが無いから往生するわね」
 と、述べる。
「それにしてもまだ砦よりも内側だ、今からが本番だぜ?」
 銃の点検をしながらクセニアがうれしそうに笑う。
「こんな環境でドンパチはしたくないですね……っていうか、この雪の中、怪物襲ってくるんですか?」
「雪で立ち往生するなら、俺達が未到達の場所からクロスロードまで歩いて来る根性はねえと思うけどな」
「……ごもっともで」
 歩くだけでこれだけ参っているのに、いざ戦闘となったらどうなってしまうのだろうか。
 いやな想像を浮かべていると不意に列車が停止するような挙動を見せた。
「……まさか、敵?」
「……いいえ、恐らく南砦に到着したのでしょう。ここでも物資を卸すはずだわ」
「なるほどな。ちょっと休憩ってところか」
 三班としては出鼻をくじかれた感じかもしれないが、まともに周囲も確認できないとあってはこうなる事も仕方ない。恐らく指揮者は距離よりも外を歩く者達の動きや顔色を優先で判断したのだろう。
「ま、気楽に行こうや」
 ガチンと銃の動作確認の終了とばかりに音を響かせて、クセニアは笑みをこぼすのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「ふ……うぅ」
 すっかり冬景色の「森」を見るのは初めてかもしれない。
 森は「足」とも言うべき下草の層が常にある程度の熱を発しているため常に植物環境に良い状態を保っているはずだが、ケタ外れに降り積もる雪にその機能も追い付いていないようだ。特に水を吸収する通称「水風船」は限度を超えたレベルでパンパンに膨れ上がっている。
「ともあれコアさんと、あとあの有害キノコの無事を確認しないと」
 毒物の倉庫であるキノコがばら撒かれては色々とまずいのは元より、この森を管理するコアが倒れても色々大問題のきっかけになる事だろう。
 色どりを失った森の中を進む。何時もより妨害は明らかに少なく、気がつけば目的の場所に辿りついていた。
 恐らく、だがここがいつもコアが居る区域だろう。そこには巨大なつぼみが意地でも開かないとばかりに絞られていた。朝顔が開く前の様子と言えば分かりやすいか。
「コアさん、いますか?
 無事です?」
 と、声を掛けて見てもピクリとも反応しない。幸いその茎は緑色は保っているので枯死しそうだと言う事ではないとは思う。
「どうしましょうかね」
 座り込むには地面はべちゃべちゃしすぎている。彼は用意してきた術で場を温めつつ思案する。ここに居座っていれば下草の暖房効果もあり凍死する事はないだろうが、この調子ではコアが応じてくれそうにもない。あっためていればやがて顔を出すかもしれないが無理に顔を出させる意味もそんなには無かったりする。無事を確認したいと言う自己満足のみだ。
「さて、どうしますかね、ホント」
 不意に、遠来のようなしかし妙に胸騒ぎのする音がクロスロード側から聞こえたような気がして吸血鬼は町の方へと視線を投げる。
 いつもなら無駄に壮大に鎮座する町も吹雪に遮られて見る事ができなかった。
「何が起こっているのやら……」
 ただまぁ、きっと。
 ロクでもない事が起きているのだろう。
 様々な経験が告げるのか、それを嫌と言うほど感じるのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 というわけで大雪です。積雪は何もしていないところでは間もなく2mに差し掛かろうとしております。と言う事でジョバンニが一夜にしてこんな状態にしてくれましたので2日目に入るともっとひどくなります。
 わっほい。
 リアクション宜しゅうお願いします。
 なお、リアクションは複雑に書く必要はありませんが「どこに行って何をする」は抑えていただきますようにお願いします。
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