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【inv27】『白銀の強襲者』
『白銀の強襲者』
(2013/02/19)
「拍子抜けだな」
 クセニアは呟いて外を見る。
 雪は段々と強くなっていた。というのは半日前まで居た衛星都市から比較した事である。
 大迷宮都市を抜けてある程度抜けた時点で雲も切れ始め、衛星都市に着くころには日の光まで見えていた。おかげでと言うべきか代わりと言うべきか。そこからは怪物との遭遇うがあり、ようやく護衛らしい仕事をする事になったのだが。
「まさかほとんど雪らしい雪も降っていないなんてな」
「風の流れからすれば当然かもしれませんがね」
 そんなこんなの復路である。
 学者風の男がパソコンに何やら打ち込みながら言葉を返す。彼は護衛でなく、管理組合からの依頼として気象調査に同行した者らしい。
「クロスロード上空は恐らくサンロードリバーの影響で常に西風が吹きやすくなっています。一方で大迷宮都市や衛星都市は真南に位置しますから、クロスロードの気象が影響しづらいと言えるでしょう。南西方向にあればもう少し違ったでしょうが」
「なるほどね。しっかしそうなるとクロスロードをまるで狙い撃ちしたような形だな」
「可能性は無いとは言い難い。
 なにしろ気象を操る魔物は各世界の伝承に少なくない。詰まる所こちらに怪物として現れる可能性があると言う事です」
「……いや。それって大抵ラスボス級じゃねえのか?」
「大体は神族か、その眷属、或いは竜か神霊間近の大精霊ですね」
 どれが相手でもおおよそ大惨事である。
「ともあれ山などがあるならともかく、たった100km程度でここまで状況が異なるとなればごく一般的な気象ではないと考えるべきでしょうね」
「となれば、早く何とかしないとクロスロードの雪はなお一層まずい事になるって事か」
「ええ、恐らくは。
 元々その可能性は指摘されていましたので対策に動き出しているとはおもいますが」
「……どうだろうなぁ」
 出る前であの有様だった。未だに雪が降り続いているとすれば一体どれほどになっているかだろうか。活動すらままならぬ可能性すらある。
 間もなく武装列車は大迷宮都市近郊となる。衛星都市を抜けた頃よりもがくんと速度を落とした列車の上でクセニアは厳しい顔で進行方向を見つめる。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「今っ!!求められているのはっっっ!!!人々に降りかかる厄災とこの街の危機を打ち払う英知。
 そしてそれを実行する、不退転の正義の心!!!」

 雪は音を吸収すると言う。が、目の前で放たれる妄言の全てがすぐさま吸収されつくすわけでもなく、傍に控える3人は三者三様に呆れた顔をした。
「あれ、そろそろ一回叱った方がいいんじゃないか?」
「いやまぁ、ああいう人ですから。
 流石に爆発には懲りたみたいですし」
「あはは、どっちかと言うと再起動ですよねあれ」
 トーマの暴走に付き合った事のあるヨンとチコリは鞘を持ちあげる静樹にまぁまぁと苦笑いを向ける。
「とはいえ、トーマさんの言う事も尤もです。もう夕方近いのに止む気配どころかじっとしていれば埋まってしまいそうだ。
 これがただの異常気象ならば数日も続かないでしょうが……」
「何かしらの仕掛けとすれば町が雪に潰される、か。
 シャレにならないね」
「はぅ……どうすればいいのでしょうか」
 先ほどの遭難未遂がよほど堪えたのか、ヨンのマントをしっかり握ったチコリが不安そうな声を上げる。
「集団行動を取るっスよ。もう一人や二人がどうこうしたってどうにもならないっス!
 事務所は既に冷凍庫状態。となれば新たな拠点が我々には必要っス!」
「……静樹さん、やっぱり一発やっておいてください」
 冷凍庫状態になった理由をすっぱり忘れたような物言いに流石のヨンも笑顔でそんな判決を下した。
「それはともかく、サンロードリバーに一度向かいましょうか。
 あそこは雪を廃棄するために人が集まっているはずです。流石に管理組合も腰をあげているでしょうし」
「そうだね。それにしても……この吹雪じゃ空も使えやしない。
 いっそ下水道とかあれば使いたいところだよ」
「う……そういうところは勘弁です」
 嗅覚の鋭いチコリがふるふると頭を振る。
「周囲の除雪部隊を吸収しつつ少しずつ進むしかないですね。
 トーマさんの熱鎧で溶かしながら……は危険ですが流石に熱源無しだと凍死しかねませんし、ここは慎重に運用して進むしかありませんね」
「ふふ、任せるっス! この天才、同じ失敗はしないっスよ!」
 全員が全員「大丈夫かなぁ」と言う顔をしたが、彼女の装備gは効果的なのは紛れもない事実である。
 厚い雲に覆われた町を四人はゆっくりと進み始めるのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「さてと」
 管理組合前。扉の園のひとつ外縁にあるクロスロードの中心的建物には多くの人がひしめきあっていた。
 そんな中、ある会議室でエディは集めた情報を整理していた。
「しかし厄介だな」
 まず彼が狙ったのは天候そのものへのアプローチ。つい数カ月前にあった百鬼夜行祭りで瀬光一味が狙った大規模術式を応用し、気象へ干渉できないかというものだ。
 しかしこれに対する回答はNO。
 風水術は場を整える術ではあるが、冬に雪が降るという自然現象を覆す物ではない。一時的に火の属性を高める事で気温を上げる事は出来るかもしれないが、100mの壁がどれだけ影響するか分からない上に、準備を行う事が難しい。更には局地的に効果を発しても流れてくる風雪は留める事はできないため、有効的な成果を得られないだろうとのことだった。それにもしこの大雪に干渉出来るほど気温をあげてしまえば恐ろしい暴風が巻き起こる事も予想される。
ならばと風向きを変える事も検討したが、クロスロードを往く風はサンロードリバーが作り上げたであろう気流のため、ちょっとやそっとの干渉でどうにかなるものでもないらしい。
 となれば次に考えるべきは根本的原因の根絶である。
「が、魔法陣の敷設にも難色示している中で、根源であろう場所までの移動か……」
 問題の起点がサンロードリバー上流である事は疑いようもない。が、そこまで移動する方法をどうするかが問題である。ここまで乗り込んだスノーモービルは充分な機動力を持っているが、こんなありさまの中を一人特攻するなど冗談にもならない。
「かと言って人数が居ればどうにかなるか、だが」
 幸いと言うべきか。魔法も科学も備わったクロスロードで本気を出して装備をかき集めれば、このバカバカしい暴風雪の中でも進軍できるだけの用意は可能である。特に魔力炉エンジンの存在は大きい。魔素さえあれば半永久的に駆動するためこの雪の中でも燃料の心配をせずに駆動機を使える。
「まぁ、そろそろお節介焼きのダンナが来てもおかしくないし、連中を誘って行くしかないかねぇ」
 できれば雪に強い者を誘いたいところだが、彼らは優先的に町中での救助活動をしている。そこから引き抜くわけにも行くまい。
「間もなく一日、か」
 時間だけは刻々と流れているはずだが、日の光が届かぬこの状況ではそれすらも怪しく思ってしまう。
「積雪はおおよそ1.5mか……。
 最早徒歩で行き来するのは無茶なレベルだな」
 踏み出せばあっさり埋まって動けなくなるだろう。こんなありさまで果たして元凶なる地まで辿りつけるのか。
「……だが、行かねばならない、か。
 やれやれ、そういうのは俺の仕事じゃない気もするんだが」
 余りにも静かすぎる会議室に響く自嘲の声。
 それを打ち消すように外がわずかにざわめきを発したのを感じ、エディは席を立つ。
「お出ましのようだな」

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「いそのー、上流行こうぜー」
「は?」
 ようやく管理組合本部前までたどり着いたヨンはいきなり投げかけられた言葉に呆けた声を挙げた。
「どこからの風習でこういう風に声を掛けるんだとさ」
「どことなく間違っている気がしますね。しかし……やはり上流ですか」
「ああ、そこしかないだろ。まぁ、かなり覚悟は必要だろうがな」
「というわけですが、どうしますか?」
 管理組合前はセンタ君達がせっせと作業していることもあり、何とか一息つけるくらいの広さはあった。暖はトーマの過熱鎧でとれたにしてももう足腰が悲鳴をあげそうである。
「安易に行きますとは言えない状況とおもうけどね」
 静樹の応答にチコリがぴくんと頭を上げると
「わ、私は付いていきます!」
「とはいえ、かなり厳しそうではありますね。トーマさんに悪ければ数十キロ、それ着て進めというのも酷な話だ」
「足にローラー付ける手もあるんスけどね」
「キャタピラでも駄目だと思いますよ?」
 雪を溶かせば当然水になる。そして足元にできるのはぐちゃどろの地面だ。クロスロード内は石畳があるためそれでも良いかもしれないが、外に出ればあっさり泥にはまりかねない。
「管理組合かドゥゲストさんに依頼すれば何かしら用意はしてくれるかもしれませんが、悠長に待ってる時間もなさそうですね」
「何か使える物ないか?
 一応スノーモービルは借りてはいるが、せいぜい乗れて2人だからな」
「東に行くとなれば水魔から逃げる必要も考慮しないといけませんし……
 トーマさんが居ますから何かしら組み合わせてでも行けそうな気はしますが」
 ふむとエディはひとつ頷き、会話に耳を傾けていた静樹とチコリに視線を向ける。
「というわけで何か良い案があればよろしく」
「丸投げか!?」
「こっちだって考えるさ。案を出すだけなら頭が多くて困る事は無い」
「うー……ソリとかじゃ駄目ですよね?」
 チコリはムムムと眉根を寄せて呟くも
「何に引かせるつもりだ?」
 と突っ込まれて口を噤む。色々案はあろうが、この規格外な雪に順応できる生物がどれほどいるか。
「ふはははは。このクロスロード最高の知能たるトーマ様に任せておけば、ちょちょいのちょいっスよ!」
「ほぅ。案があるのか?」
「今から考えるっス。ちょっと待つっス」
 キリッとダメな事をのたまうトーマを優しい目で見てから、さてどうした物かとエディは厚い雲を見上げた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「はぁ? 行けないだと?」
「ああ、ここから先はもう無理だ。かきわけきれねえ」
 困り顔の車掌が先頭車両の先を見る。への字型の除雪バンパーの高さはとうに越え、鼻先と言うべき場所まで雪が達していた。
「強引に進む事もできるだろうが、最悪前にも後ろにも進め無くなりかねん。
 一旦大迷宮都市まで引き返そうと思う」
「……それで良いのかよ?」
「良くは無いが遭難など笑い話にもならん。
 ……幸い数台の雪上機は搭載しているから、数人ならクロスロードまで帰る事も不可能ではない。無論危険は付きまとうがね」
 そのやり取りを聞いていた護衛集団がなんやかんやと話を開始する。が、大勢は引き返す事に賛成のようである。
「あの、すみません。私はデータを一刻も早く管理組合本部に届けたい。
 誰か同行してはくれないだろうか」
 少し前にクセニアと話していた学者が手を挙げて周囲を見渡す。
「無論別途護衛としての報酬は管理組合に請求してもらって構わない」
「ふむ」
 その言葉を聞いてクセニアは考え込む。
 大迷宮都市に戻った方が安全なのはまず間違いないだろう。
 だが、それで本当に問題は無いのか。
 いや、自分一人がどうこう出来る話ではないと言うのは理解しているのだが……
 そんな思考を回しつつ、
 彼女は曇天の空を見上げるのだった。

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さて、次回はいよいよ上流区画かなぁとか。
もちろんどういう方法で動くか次第では遭難もありますのでよろしゅう。
さて次次回位にクライマックスになれば良いなぁと思いつつ
リアクションよろしゅうおねがいします。
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