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【inv27】『白銀の強襲者』
『白銀の強襲者』
(2013/03/10)
「…危険だが、そのデータとやらを持っていければ
 街にいる他の奴らが(外に出られるとかで)助かるんだ
 誰かいないか!...早い者勝ちだぜ!?」

 吹き付ける風は随分と冷たい。動きを止めた武装鉄道が纏う熱がどんどん奪われているからだろう。
 その屋根の上でクセニアは護衛として同行する者へと告げた。
「良いぜ。俺も知り合いの様子が心配だしな」
「戻っても家に入れるかわかんないけどねぇ」
 案外応じる声はすぐに帰って来た。仮、とはいえクロスロードはここにいる者達の拠点である事は間違いなく、戻りたい理由がある者も少なくないのだろう。
「拍子抜けだな」
 小さく呟いたクセニアだが、むしろ最初の条件をクリアしたに過ぎない。
 雪中行軍。駆動機や様々な支援を受けての行為とはいえ、目的地がどうなっているかもわからない旅が始まる。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「地中っス!」
 一方その頃。
 一人の少女が知り合いからすればわりかし見慣れたドヤ顔をして、周りの面々をきょとんとさせていた。
「ち…地中だと…?」
 ここは管理組合が雪をサンロードリバーに捨てるポイントとして用意した野外拠点だ。今もセンタ君や重機がひっきりなしに雪を川に落としているが、その行為がむなしく感じるほど、周囲の雪は積もりあがっている。
「行けるかどうかって問題はあるが、行けるなら僕は賛成だね。
 吹雪も寒さも関係ない」
「そうですね。距離的な問題とその後どう地上に出るかが問題ではありますが、それ、賛成です」
「土の中を行けるならまぁ、雪の中掘るくらいはできそうなもんだがな。
 さてサンダーバードか術者、どっちの確保が速いかね」
「流石に掘削機で掘り進むのは時間が掛かり過ぎるのではないでしょうか?」
 チコリがはいと手を上げて言うと、ヨンはPBに近くの魔法具店を問い合わせる。
「土の中を移動する術はそれほど高価な物でも無かったと記憶しています。
 付与術師が居れば術式を構成するくらいはしてくれると思いますよ」
 と、PBが吐きだした結果に苦笑する。そう言えばサンロードリバーの沿岸で付与魔術師と言えば大御所をどうして思い出さなかったのか。
「《とらいあんぐる・かーぺんたーず》の皆さんは今、どこにいるのでしょうかね」
「管理組合のヤツに聞けばわかるんじゃないのか? 流石にこの大災害で出て来てないってことはねえだろ?」
「それもそうですね。あ、ちょっとすみません」
 静樹の呼び掛けに応じた管理組合員が取り次ぎを了解してくれたのを見てヨンは視線を輪に戻す。
「雪から出るのはトーマさんの鎧なり、火炎系の術で吹き飛ばすなりでなんとでもできるでしょう。どちらかと言えば問題はどこに出るか、ですね」
「それは水位から判断できねえか?」
 エディは背後の大河を見る。
「サンロードリバーの水を利用して雪にしているらしいし、当然水位は減っている。
 元々の水位と今の水位、それから水の傾斜で原因となる場所を特定できねえかと思っているんだが」
「できない事は無いと思うっスけど、恐らく数キロの範囲までしか絞れないと思うっスよ」
 自称ながらも実際計算の速いトーマがそう答える。
「元々サンロードリバーは水が流れて無ければどっちが上流だかわからないほどに傾斜が無いっスからね。わずかにあるとしても原因となる地域を絞り切るのはまず困難っス。ついてに言えば原因となるポイントが数キロに渡っている可能性もあるっスよ?」
「そうなのですか?」
 チコリが困ったように問い返す。
「元々気象なんてものはそういうモンっスからね。もちろん「誰かの仕業」である以上ワンポイントでの状態変化である可能性は高いっスけど、気象に影響を及ぼす系の何かであれば広範囲で条件が変わっている事も考慮すべきっス」
「おお、トーマさんが天才っぽい……!」
「おーけぃ、表に出ろっス!」
 褒めただけなのにと呟く静樹をジト目で睨みつつ
「ただ、水が減っている以上、熱関連の変化がある事は明白っスよ。
 だったらサーモセンサーの一つでもあればある程度察する事ができると思うっス」
「なるほどな。どうせ河川付近というのは間違いない。東に向かって温度変化を確認する方が早そうだな」
「となると、あとは手段ですね」
「お待たせしました」
 丁度良く、1人の女性が皆の元へと現れた。背に翼を負う少女───ルティアだ。
「調査に向かわれるのに、地中行軍系の付与が欲しいということですよね?」
「はい。用意できますか?」
「……それがですね……」
 困ったように視線を彷徨わせるルティア。何だろうと訝しげ無表情をする一行だが、彼女一人だけが現れた事の意味をヨンは「彼女でない彼女」の事で1つ思い出す。
「もしかしてアルカさん、家に引きこもったりしています?」
 それは、彼女に良く似たある人物が極端に寒さに弱く、コタツを引きずり歩くような事をやっていたという過去の光景。
「おはずかしながら、完全に篭城の構えです」
「い、今そんな事を言ってる場合でないのでは!?」
 チコリの言いたい事は分かっている。だが、とルティアはかぶりをふる。
「雪の時のアルカさんの駄目っぷりは如何ともしがたいのです。
 ……というわけで、こちらから1人適任者を派遣します。向かう方向からしても必要でしょうから」
 その言葉に次いで現れたのは皆が知る、というかクロスロードの住人ならばまず知らない者など居ないであろう女性だった。
「足止めを受けていてよかった、と言うべきでしょうか。
 土使いなのにその方法に思い到らなかったのは不覚でしたが」
 メルキド・ラ・アース。クロスロード随一の『英雄』が浮かべた苦笑。これ以上ない援軍の登場に、皆は「よし」と握りこぶしを作ったのだった

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「しかし、妙な感じですね。この上が吹雪とは」
 チコリがやや不安げに天井を見上げる。
 原因究明に出発した一行は地下道を進んでいた。万が一の撤退を考え、アースが地下道を作り、そこを駆動機で進むと言うやり方だ。しかしある程度の強度を持ったトンネルを考慮するとそれなりの時間が必要となり、進行速度は10km/hというところだろうか。それでも徒歩に比べれば随分早いし、楽なのだから文句は無い。
「さて、最初の問題は『水魔』がちょっかい掛けてくるか。だな」
「それは余り気にしないで良いと思います。無論警戒べきですが」
 ここまで十数キロ。ひたすらトンネルを形成しているのに疲れの一切見えないアースが応じる。ここまで来るとこと土の術に限れば彼女に勝る者など存在しえないのではないかと思えてくる。
(……そう言えばあの人は四方砦の人は『例外』に挙げていませんでしたね)
 大図書館の地下に籠るとある研究者を思い浮かべヨンはひとりごちる。無論彼女が何でも知っているというわけではない。またアースという少女が得た力が真っ当な訓練に寄る物だから除外していると言う可能性の方がよっぽど大きい。
「まぁ、今はどうでも良い事ですか」
「何か言いましたか?」
 不思議そうに見返すチコリ。その横で周囲の気配を探っていた静樹が「また女性の事でしょう」とやや冗談めかして言い放った。
 静樹の言わんとする事とは外れるものの、残念ながら間違いでもなく、少し言葉に詰まったヨンに静樹目を開けて驚いたように吸血鬼の横顔を見る。
「こんなときまで……余裕というか、実はインキュバスだという噂が本当では?」
「違います。私はれっきとした吸血鬼ですよ」
「れっきとしたと言うにはかなりズレているようにも思えるけどな。吸血鬼にしては偉そうでないし」
 エディの言葉にヨンはやれやれとかぶりをふる。
「一部の選民思想が全ての吸血種の共通認識としないでください」
 実際支配の魔眼というスキルと圧倒的な滅し難さ。そして人間を食料とすることから人間の上位種と称する個体が多いのも事実だが。
「結論として、ヨンさんの女性好きは個人特性だと?」
「それ否定すると男の方が好きだなんて噂に発展しそうで嫌なのですけど?」
「人の性癖はそれぞれっスよ。ヒーローの皆には背後に気を付けるようには言っておくっス」
「言わないでよろしい」
 放っておいたらどんどん違う方向にキャラ立てされそうだと頭を抱え、気を取り直すようにPBに位置確認をさせる。
「そろそろ水魔の発生領域の先ですね」
「あちらさんは今日は休業中らしいな。まぁ、土の中だから手を出してこないだけかも知れんが」
「そうですね。私が最初に遭遇した時も土の中に逃げ込んで難を逃れましたし、性質的にも土への干渉は苦手なのかもしれません」
 アースが応じる声が涼やかに洞窟内に響く。
「とはいえ、穴でもあければ水を流し込まれるわけだし、気が気でないのは代わりありません」
「み、水……逃げ場無いじゃないですか!?」
 静樹の言葉に慌てるチコリ。
「その時は塞いで上に逃げます。真横から鉄砲水を受けない限りは大丈夫です」
「フラグっスか?」
 確かにフラグ的発言だとアースが苦笑い。
「っと、サーモセンサーに異常ありっス。急に上の気温が上昇してるっスよ?」
「ああ、確かに土の気配が変わったな」
 静樹も頷き、天井を見上げる。
「では上への道を作って見ましょう。みなさん、警戒を」
 アースが宣言し、トンネルが上方へと緩い勾配となる。
 やがて差し込む光。その余りのまぶしさに皆目を閉じた。
「っ、そう言えば昼のころ合いだったな」
「晴れているということでしょうか? って、雪は?」
「それどころか空気が生ぬるいというか、かなりあるぞ」
 皆を包む空気が湿気を帯び、じっとりとした熱を帯びている。そしてようやく飛び出した地上。その瞬間
「暑いです……」
 完全防寒装備だった一行はたまらずに上着を脱ぐ。
「うへぇ。気温、36度もあるっスよ。湿度95%」
「真夏じゃあるまいし……いや、まぁ、あんだけの雪を生む程水を蒸散させているんだから当然と言うべきか?」
 ようやく慣れてきた目を見開いて周囲を確認するが、雪が無い、晴れているというだけで光景としては別段異常な物は見当たらない。
「この原因がどこかにあるはずですね。探しましょう」
 この湿気の全てが気流に流されクロスロードに流れ込んでいるとするならばぞっとするレベルの話ではない。この熱を何とかしない限り豪雪は止まらず、遠くないうちに死者を量産するだろう。
「くれぐれも川には近づきすぎないように」
 アースの警告を受け、皆捜索へと散った。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「一足違いとはな」
 暗いトンネルを猛スピードで駆ける駆動機。そこにはクセニアと彼女が連れて来た研究者の姿が合った。
「着いた時に終わってれば幸いなんだがな」
「確かに。私としても安心して状況分析できますし」
 研究者が微苦笑を浮かべて同意する。
 穴を掘らない分速度は維持でき、このぶんだと1時間も掛からずおいつくだろう。
「さて、どうなっているかな」
 銃をひと撫でして、クセニアは暗い洞窟の先を睨むのだった。


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さて、次回クライマックスの予定です。
いやぁ地下とか考えて無かったわ。確かに安置だわ……w
というわけで無事到着した皆さん。そして後から追いかけるクセニア。
クセニアが到着した時点で原因に到るという予定ですので気合いを入れてよろしくお願いします。

ではよろしゅう。
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