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【inv27】『白銀の強襲者』
『白銀の強襲者』
(2013/04/17)

「時間的猶予はどれくらいあると思う?」
「いや、まぁ1日くらいはなんとでもなるんじゃないっスかね。
 野ざらしになっているならともかく、無駄に頑丈な家があるっスし」
 エディの問いにトーマが気楽な答えを返す。が、おおよそその解答は正しいだろう。想像をはるかに超えた大積雪であろうとも、建物の中に居れば凌ぐ事は難しくない。建物の対荷重を越える積雪か、或いはライフライン断絶による飢餓か。
 そのどちらかを迎えるにはまだ余裕がある。
「だったら素直に応援を呼ぶべきだ。あいにくこの中に魔術の専門家は居ないようだしな」
「ん? そこの英雄さんは魔術師じゃないのか?」
 クセニアの言葉にアースは小さく首を振って否定を示す。
「精霊術専門ですし、魔術研究は専門外ですので」
「知識以外にも遠距離系の武具があるならそれに越した事はありませんね」
 静樹の言葉に皆、視線を通わせるとチコリが「はい」と手を上げて。
「私、この場に居てもお役に立てませんから町まで走って来ますけど?」
「いや、駆動機2台あるんですから、使いましょうよ?」
 ヨンの苦笑を見て赤面。「そうですね」と小さく頷いた。
 流石にノープランでこの大河の真上、しかも敵地であろう場所の攻略をするのは荷が勝ち過ぎる。その意見は皆同じようだ。時間がないと言うならば無理も必要だろうが、今はまだそんな時分とも思えない。
「ふ。この天才が居れば、援軍など不要と言うものっスよ!」
 一人勝気なトーマの言葉に皆が失笑。
「ならば俺とチコリ、それから……静樹。その三人は一旦クロスロードに戻ろう。
 トーマとそこの学者は引き続き調査を継続。ヨンとクセニアそれからアースさんは有事に備えて突貫の検討をしておいてくれ」
 エディの配分に特に異論は出なかった。
「それじゃ、行動開始だ」

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「あーあ、堅実なことで」
 サンロードリバーの上。むせかえるような水蒸気の中で一人、涼しげな顔で空中に座る少女の姿があった。
「突っ込んできたら遊んであげたのに」
 その「遊び」の果てにあるのは彼らの死だけだったのだけど。
「まぁ、地の子も連れて来てたし、簡単にはいかないかな。まだアレ預けっぱなしみたいだからねぇ」
 100mどころかキロ単位離れた場所を眺め見るように目を細め、彼女は頭上をゆっくりと回る立体魔法陣を見上げた。
「まー、地下なんてものを使われた時点でこっちの負けかなぁ。
 折角色々用意してたのに。
 ま、いっか。色々と成果はあったし」
 すくりと立ち上がり、周囲を見渡す。もう半日もすれば川岸は賑やかになることだろう。流石に問答無用の飽和攻撃をのうのうと待つ気は無い。
「越えるよ? この世界の絶対のルール。越えざる時間の壁。
 どんな事をしたって、届かせて見せるから」
 そんな言葉を残して、彼女はその場を放棄した。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「……」
 おおよそ半日後。
 招集可能な戦力を集めて戻ってきた一行は、あっという間の解決に、やや拍子抜けした表情を浮かべていた。
「何の妨害も無しかよ。俺たちだけでなんとかなったんじゃねえのか?」
「結果論。って一応言っておきますよ」
 クセニアの言葉にヨンはやれやれという顔を見せつつその場に座り込んだ。
「何にせよ、これで少なくとも雪は無くなるだろうよ」
「その通りです。そしてこの場を貴方方が見つけたからこそ、今回の仕手は諦めたのだと思います」
 一行の元に翼を持つ少女、ルティアが近づいてきてそんな言葉を向ける。
「管理組合を代表して、今回の活躍にお礼を申し上げます」
「ふふふ。この天才にかかればこんなもんっスよ」
 調子に乗らせたら右に出る者は居ないというスピードでトーマが薄い胸を張る。
「まだこれからクロスロードの除雪作業もありますし、これで解決と言うわけにもいきませんがまずはひと段落です。こちらの方でお礼は用意させていただきます」
「おー。
でもま、どうせだったらヨンを連れて特攻溶かしてみたかったんだがなぁ」
「勘弁してくださいよ。流水の上を渡るだけで命が吹き飛びそうなんですから」
 吸血鬼の弱点の一つを目の前にしてクセニアの言葉に情けない返答を返す。
「危険が無いに越した事は無いのです」
 チコリがうんうんと頷きつつ言えば「だなぁ」と静樹も河の方を見やりつつ頷く。
「さて、後始末の時間ですかね。戻りましょう。
 誰かさんが壊した事務所の片付けもありますし」
「事務所の? 誰がそんなひどい事を!?」
 心の底から本気で憤慨するトーマに集まる冷たい視線。
 それを不思議そうに見返す様にそれぞれ呆れのため息を洩らしつつ。
 それぞれは後始末へと戻っていくのだった。


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というわけで、随分と短いですがこれにて完了となります。
一応突貫の話も用意しようかなと思ったのですが、ぶっちゃけ応援を呼ぶのが正解ですし、失敗すると漏れなく生きて帰れる道が見当たらなかったのでそっとDELっておきました。
 ずーっと早い潮流のある海の上みたいなものですしね。どうしようもないw
 ともあれこれにて【inv27】白銀の強襲者は完了となります。
 お疲れさまでした。
 次のシナリオもよろしくお願いします。
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