「山が動いたと言っても、移動している様を見たわけじゃないんだ。
というか、よほど高速移動しない限り、そのサイズの物が動いても分からないからなぁ」
「……じゃあどうして分かったの?」
「どうしてもこうしても、そもそもこの世界で「山」という存在が珍しい上に、自動更新される地図を持って居るんだからな。
一度や二度であれば100mの壁もある事だし、測量ミスなんかも疑いもするが、複数人の証言があるならばまず「そうである」と考えるべきだろ?」
「その周辺の地図……あるの?」
「もうとっくに管理組合に売ったからPBの地図が更新されてるんじゃないかな。
ただ、山が動く以上、それの記載がどうなっているかは確認していないが」
アインは首をかしげて、PBにデータ問いあわせをするが、確かに「山」で検索できる場所は無いようだ。
「実のところ山そのものは随分前から見つかってたし、北方未探索地域巡ってる連中なら当たり前のように知ってる事なんだが、報告例がばらばらで、蜃気楼とかそういう説もあったから地図にはずっと載って居なかったんだよ。動くとあっては書くのも難しいだろうからな」
「それがどうして今頃?」
「目撃例が見間違いにしては安定して増える事と、南側が一旦落ち着いたからじゃねえかな」
クロスロードの視点は大襲撃、大迷宮、そしてオアシスの発見と常に南側へと向けられていた。西と東はサンロードリバー周辺の恐怖もあり、水があるにもかかわらず調査はあまり進展していない。
「北で見つかった物と言えばナニカくらいなものだしなぁ」
北の門、ヘルズゲートの前にどんと鎮座する巨大な白まんじゅうを思い出す。
「現時点でこれ以上南に版図を伸ばすと大襲撃のときにクロスロードからの救援が非常に難しいってのもあるしな。現に第三次の大襲撃では一度衛星都市を見捨てたわけだし」
「なるほど……」
確かに言う通りだ。武装鉄道まで用意したが、怪物の群れが津波のように押し寄せてくる状況ではまず道が塞がれる。大迷宮都市のように地下に立て篭もる事ができるならば話も違うが、竜種や巨人種、飛行する幻獣種を前にしては厚い壁も為す術が無い。
「……でも、山が動くってどうして?」
「わからん。なにしろ山なら俺も見た事はあるが、その麓にまでたどり着いたって話は1度たりとも聞いた事が無い。
それこそ蜃気楼じゃねえかって言われたのも頷けるってもんだ」
「……山のような巨人とか、そんな物と思ってた」
「まぁ、今までの事を考えればフィールドモンスターってやつの可能性が高いよなぁ。巨人かどうかは知らねえけど」
「うん。教えてくれてありがとう」
「良いって事よ」
アインは男に礼を行って去る。
さて、帰り道に魔法探知のアイテムでも買って帰るとしよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふむ」
バイクの調整を一通り終えたクセニアは周囲を見渡す。慣れぬ未探索地域への遠出に一人というのもどうかと考え、同行者を募集してみたのだが、
「閑古鳥だねぇ」
こうも反応が無いのは予想外だった。が、よくよく考えてみれば今回の件は目標のある特定の場所の調査でなく、どこにあるかもしれぬ場所の探索。慣れぬ者は当然の事、最低限移動や物資搬送手段が無い者は渋るというものだ。
今回の依頼については管理組合が数カ所、補給点を用意する手はずになっているそうだが、それにしたってあてどない捜索に徒歩は無いだろう。
「こりゃ困ったな……知り合いにでも声を掛けようか」
自信のありなしでなく、休憩時間に交替で見張りをするなどを考えれば最低3人組位にはしておきたい。そして腕も不確かな者を同行させるのも色々と面倒になりかねない。聞いた話をまとめれば、最初の発見からかなりの時間が経過しているが、誰ひとりその麓にたどり着けていないというのだから、そこそこの長丁場は覚悟せざるを得ない。
「元々組んでるような連中は来るわけもねぇし。どっかに混ぜてもらうべきか」
腕には自信がある。どこかに混ぜてもらう事は不可能ではないだろう。
「さて、来ない物を待っても仕方ねえしな。行動するとしますか」
仕上げとばかりに新兵器をバイクに搭載し終えたクセニアは何処を巡るべきかと考えながら町へと繰り出すのだった。
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と言うわけで大人しい出だしとなりました。
次回は一応北に作られた調査用キャンプ地からスタートの予定です。
ではリアクションよろしゅう。