<< BACK
【inv29】『彷徨える山』
『彷徨える山』
(2013/06/23)
「俺の予想では」
 何故かさかさまの状態で空を飛びながら、クセニアは呟く。
「山でなく山の様な怪物だとは思うんだよな
 勘まで含めると古っぽい物語の"山場"にでも出てきそうなデケぇドラゴンと見た」
「……もしそうだったらもっと目撃情報があって良いと思う」
 アインの返答に「それもそうか」と肩を竦める。ちなみにアインは地上。二人を繋ぐのは無線機だ。厄介極り無い「100mの壁」だが、100m圏内なら無線機器も支障なく使えるのである。
「いつもよりも多い人数が巡っているのは確か。……それならきっともう誰か見つけてる」
「だなぁ。ステルス能力でも持ってるのかねぇ」
「……でもそんな巨大な物が動いたら分かると思う」
 巨大質量が動けば地響きが起きる。飛行しているにしても大気の流れが発生する。それが起きない程度にゆっくり動いているのならば、その姿を見た者が駆けつけた際、見えないそれに激突してもおかしくないが、そんな報告は無い。
「それもそうか」
 おおよそ気合いの見られない会話。だが、それを咎めようとする者は居ない。
 対象の正体が不明の今、闇雲に探しまわっても疲労するだけだ。第一に発見したいのは当然だが、結局集中力を切らしてしまっては意味が無い。
「ん? 随分と大集団な連中がいるな」
 視界の端に写った土煙。に視線を合わせる。
 数は30程度か、駆動機もかなりの数を有しており、その全てに大掛かりな装備が見える。
「何だあの武装集団」
「……武装集団?
 ……ヒャッハーズ?」
 言われて思い出す。確かそんな名前のイロモノ集団が居たはずだ。全員マッチョで重火器信望者とか言ったか。
「あそこまで装備固めねえと未探索地域探索にゃ行けないってことなのかねぇ」
「必ずしもそうとは限らない……とは思う」
 それは彼らのスタイルに過ぎない。隠れる、逃げ回るを主軸にする者も少なからず居るだろう。
「っと、客だ」
 ヒャッハーズから視線を斜めにそらせば、白い絨毯がこちらに迫ってくる様子が見えた。
「客?」
「ナニカだよ。迎撃するぞ!」
 用意しておいた「とっておき」を装填してニタりと笑う。
「取りこぼしは任せるぜ。まぁ、全部食っちまうけどよ!」
 標準定め、撃ち放つ。
 ぽんと遅い弾速で放たれたやや大きめの弾丸は射出後にその身を崩す。不発でも失敗でもない。そうして散った弾丸が面の攻撃として迫りくるナニカを真っ向から迎え撃った。

(×ω×)!

 刃の嵐が白の絨毯に見える大量のナニカを蹂躙する。その瞬間

 どどどどどどどおおおおおおおおおん!

 ナニカの持つ自爆能力が発動し、その数に比例した大爆発を生みだす。まだかなりの距離を確保していたクセニアだが、その累積された爆発に逆さまのままの姿勢を維持できず、咄嗟に飛行制御に集中する。

「一丁上がり!」
「まだ……っ!」
 アインの警戒の言葉にクセニアは「は?」と首をかしげる。流石にあの爆発の嵐の中で生きているとは思えないのだ────

 ぽすりと何かが、いや、ナニカがクセニアの胸に激突した。

「な……?」
 それは確かに煤汚れているが明らかに生きている。爆風で飛んで来たらしいそれは一瞬クセニアに視線を合わせ、

(☆ω☆)カッ!

「危ない」
 体が不意に光を放ちだした瞬間、黒の疾風がそれをなぎ払い、遠くへと飛ばした。

 そして響く爆発。

「おい、たしかにやったはずだぞ。なんで残ってやがる!」
「ナニカは復活能力を持ってる。1回自爆した後、もう一回起きて爆発してくる」
 それこそがナニカの一番嫌らしい能力である。しかも一度目の爆発で吹き飛ばされたそれは、壁やら距離やらを飛び越えて懐に入り込む可能性があるのだ。
 防衛任務で良く見るナニカであるが、南側に現れるナニカはそのほとんどが1度自爆を経験している、つまり復活を消費済みである傾向にある。川の北側で発生したナニカが無事に南側に渡る事は困難ということなのだろう。しかし北側のナニカは違う。万全の、二度自爆できるナニカである事が多いのだ。
 そして、
「防御姿勢」
「ぬっ!?」
 もう一つの恐ろしい特性がこの「二次連鎖爆発」である。一度目はたった1発の攻撃で大集団を全滅させられる。それに酔っていると爆風で舞い上がり、そして絨毯爆撃よろしく降り注いだ復活ナニカに取り囲まれることになる。そして1つが爆発した瞬間、

 どどどどどどどどど!!!

 まるで機雷の海にでも叩き込まれたかのような爆発が四方八方から襲いかかってくるのだ。
 アインはクセニアの腰に手を回しつつ、一番近かった爆発に背を向ける。
すぐさま爆発。
それを加速力に変えて一気に離脱を狙うが、周囲にいくつもの白い物が舞っていた。
「こなくそっ!」
 目に映るナニカへひたすら連射。
 めり込んだ弾丸がそれを死に到らしめる前に多少なりと距離を作る。そして増える連鎖爆発。
 一瞬で天地も分からなくなる中で、ただ幸運を祈ってとにかく前へ。
「ぐぇっ!?」
 不意の地面。叩きつけられてクセニアは悲鳴を上げた。その間にも絶え間なく爆発は続き、背を爆風と熱気が叩く。
「おい、大丈夫かよ!?」
 腰に抱きついたままのアインは最初の数発の爆発をまともに浴びたはずだ。
 熱気のせいで感覚が狂う中、クセニアはなんとか上を見ようとして
 ───なっ!?
 その白煙の奥に一瞬巨大な山が見えた気がして、
『無茶をする』
 その直後に巨大な影が天を覆った。
 巨獣。まさにそう言うべき存在がいびつな声でそう呟く。継いで放たれる爆音はガトリングガンのものだろうか。未だ空中を舞うナニカがその鉛の豪雨に横から貫かれ爆発を繰り返す。
「Hey、お嬢ちゃんたち、生きてるか?」
 無駄に白い歯を見せて、マッチョがクセニアを引き起こす。ぱっつんぱっつんの白衣は何の冗談かと訝しむが、セットで持っている白の救急箱を見て、大真面目であると悟る。
 指先であっさりとキャップを飛ばし、クセニアに渡す。それからアインの背を見て焼けたマントを取ると、無造作にシャツをめくり上げる。
そこに迷いがあればクセニアも止めたかもしれないが、迷いの無い医療行為に何も言えない。
そんな混乱も知った事ではないと、的確な動きでスプレーを取りだし、背に一気に吹きかけると黒の少女は小さく呻きを上げた。
「おい、ザザの旦那。もう大丈夫だぜ」
『ああ』
 爆風に対する傘の役目を担っていたザザが応じ、その身を人の物へと戻す。
「無事のようだな」
「ああ、まぁ、礼を言うぜ。アインはどうだ?」
「……なんとか平気。思ったよりは痛かった」
 起きあがったアインは背中を気にするように擦るが、どうやらもう行動に支障はないらしい。
「レベル2の火傷だったんだから女の子ならもう少し気にするべきだZE
 折角綺麗な肌してるんだからNA! 魔法技術に感謝NE」
 セクハラと言われてもおかしくないセリフだが、このマッチョが笑顔で言うと、健康的というか、それ以上の何かに埋め尽くされる気がしてなんとも答えづらい。
「それにしても派手にやったものだな」
「いや、見慣れてるナニカと思ったら、とんだ隠し玉だったぜ」
 バツの悪そうなクセニアにザザはひとつ肩をすくめて見せる。
「あれはたまに地面から生えたりする。油断しない方が良い」
 余り知られていない事例だが、ナニカは地面に潜る事もある。まるで地雷のように埋まり、踏まれて爆発するのだ。これは行動限界に達したナニカの行動らしく、クロスロードより遠い場所で稀に発見される。南側は大襲撃の影響からかそれを見る事も少ないが、北側ではたまに『ナニカ地雷原』が発見されることもあった。
「……そういやぁ、ザザはもう山を見たのか?」
 人心地ついたところで先ほどの光景がフラッシュバックする。
「……妙な聞き方をするな?」
 その反応を見てクセニアは目を細める。
「見間違いかもしれないと、そう思うような見方をしたってことか?」
 ザザは瞑目し、わずかに背後を見る。
 まだ後ろの連中には何も伝えていない。それほどに一瞬の、光景だった。
 が、クセニアの言葉はその一瞬を補強する言葉と捉えるべきだろうか。
 情報をどう取り扱うか、二人は視線を交わすのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

『いっぱいあったよ』
 ナニカ文字が巨大ナニカの表面に描かれる。
『昔々はいっぱいあった』
『山もまちも』
「……一杯、ですか」
 ナニカを生みだす巨大ナニカはこの地にかつて存在していたらしい文明の痕跡の一つだった。北方方面から来る敵の迎撃用兵器製造移動要塞(?)がその正体である。どうしてそれにこんなふざけた知能を与えたのかは不明極り無いのだが。
『そう。いっぱいあった』
『おぼえきれなくて』
『忘れてしまうほど』
「忘れたんかい?!」
 思わず素でつっこんで、ヨンはため息一つ。
「何も覚えていないのですか?」
『そもそも内ぶメモリに地ずのこしてない』
『いつでも自どうこうしんだったから』
『不ようだった』
 PBの地図データのようなものかとヨンは理解する。
「めぼしい物も覚えていないのですか?」
『うみがあったよ』
「海?」
 少なくともこの先百キロ以上何も無い荒野が広がっているはずだ。その更に先に海があると言うのだろうか。
『たしかないかい』
「確かな異界……?」
 海で異界とはなんぞやと眉根を寄せ、それからしばらく考え
「句読点打ってください」
『えー』
「お菓子あげませんよ?」
『たしか、ないかい』
 内海、と理解してヨンは再び眉根を寄せ、PBに確認する。
「湖とは違うのですね。というか、海に繋がっているから内海では?」
『昔はつながってた』
『でもちかくへんどうでみずうみ化した』
『えんこだよ』
「えんこ、海の水のような湖ですか」
 それがオアシスや大迷宮都市のようにフィールドモンスター化したのが今回の騒ぎの主体なのだろうか。とすれば何故山なのか?
「山ではないのですね?」
『山もあったけど』
『そんなにおっきくないよ』
「ふむ……」
 別にこれが嘘を吐く理由はないだろう。とすれば北に塩湖があった事はまず間違いない。
「何故山が見えているのか、ですか」
 光学的な仕掛けがある事を考慮すれば、それは本当に見せかけなのかもしれない。
「どんなフィールドモンスターになっているのでしょうね」
 持ってきたお菓子をどさりと置いて、ヨンはその一つを口に放り込みつつ北の地を眺め見るのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
まぁ、簡単には想像突かないかもしれませんが。
実のところ、「それ」の名前は今までの文章中に出て来ていたりします。
うひひ。
ではリアクションよろしゅう。
niconico.php
ADMIN