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【inv29】『彷徨える山』
『彷徨える山』
(2013/07/12)
「進路変更!」
 号令が響く。そうして撮られた方向は
「戻るのか?」
「ああ、今回はベースキャンプ頼みに結構な無理をしているしな」
 ザザの問いにヒャッハーズのリーダーは頷き、応じる。
「だが、お陰で随分と範囲を稼げた」
「……山を探していたわけではないのか?」
「探すあても無いのに拘ってられん」
 確かに正論だ。参加するだけで報償が出るとは言え、それだけで満足していては稼げるものも稼げない。
「それに全く成果が無いわけでもない」
「……真っ当な方法で辿りつく事はまず不可能、と言う事か」
「それもある。いつもの数倍の探索者が彷徨ってなお、『目撃情報』のみが上がっているのだからな」
「『見る』方法はある。逆に言えば見る事しか出来ていない。
 それも恐らく条件付きだ」
 それが一体何を意味するのかまでは至っていない。ザザは視線を遠くに投げる。
「キャンプに戻れば他の連中と話す事もできるだろう」
「そろそろ他の、特に今回限りの連中は焦れている頃だからな。口も軽かろうからな」
 リーダーの言葉に頷き、進路を変え終わった車体の上、ザザはしばしの休息をするのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ナニカ山?」
 不意の言葉にザザは面食らっていた。
「……ざーっと集まって山になる」
「ああ、そう言う意味か、だが、その案には大きな問題がある」
「……同時タイミングに山を見ている人が居ない」
 キャンプに戻って情報収集をしたザザは同じく情報を求めてふらついていたアインと合流し、情報を交換していた。
「クセニアも見たと言っていたが、俺と同じタイミングではない」
「……実在する『山』だったら同時に複数の目撃が無いとおかしい?」
 仮にそのナニカ、或いは何らかの小型生物により作られる山があるとすれば、複数人が同時に目撃して良いはずだ。特に今回ザザが同行しているヒャッハーズのような集団ならなおさらだが、あのタイミングで山を見たのはザザ一人であったし、クセニアの時も他の同行者の誰も見ては居なかった。
「そういえば一つ曖昧な情報あった」
「何だ?」
「今回山を見たという人、ヒャッハーズを見た前後なの」
「……はぁ?」
 しかしクセニアも自分達の姿を見たタイミングでの事だ。自分とて彼らの傍で見たという条件からは離れていない。
「いや、しかし、どういう事だ?」
ヒャッハーズが何かを仕掛けている? という当然の疑問が浮かぶが、少し考えて捨てた。それはあくまで「今回は」そうであるだけで、今までもそうだったわけでない。むしろそうならば開始前にもっとヒャッハーズに注目されるべきだ。
「しかし『今回は』そう、というのもまた事実、か?」
 無論休息している彼らにもこの『噂』は耳に入っているだろう。
「あのー、すみません」
 眉根を寄せるザザの元に一人の青年が近づいて来る。
 見る限りに貧弱でとても探索者には見えない彼が身にまとう制服は「エンジェルウィングス」の物だ。
「何か用か?」
「ザザさんですよね? これ、手紙です」
「こんなところに手紙?」
「はい」
 受け取って差出人を見ればヨンの名前。
「宜しければサインを」
「ああ」
 今回あの吸血鬼は参加していないはずだが、一体何用だと訝しがりながらも、差し出された受取証にPBを近づける。受取証に文字が浮かんだのを確認して青年は「ありがとうございます」と頭を下げ、近くに止めてあったバイクへと掛け戻って行った。
「……随分と立派なバイク」
「ん? クセニアのヤツが随分と高い買い物だとか言っていたが、会社の備品じゃねえのか?」
 使いこまれてはいるそれを見てザザも良い物であるというのはなんとなくわかった。
「そうかも。で、ヨンさんから?」
「ああ」
 持っていて分かる物でも無い。封を開き中の手紙へ視線を落とす。
「……何やってんだか」
「なに?」
「あっちで調べ物をしていたらしい。興味があるなら来ればいい物を」
「……たまにヨンさん、妙なこだわりを見せる」
 違いないと応じて文面へ視線を走らせる。
「クロスロードから50km範囲内に山が実在するならば、登頂者同盟がその存在を認識しているはずだが、目撃情報は無い、ねぇ」
 計算は苦手だが、わざわざしたためてきたならば誰かの入れ知恵なのだろう。
「それから、『塩湖』ねぇ」
「えんこ? 塩の湖?」
「確かにそれが存在したと言うならば、南のオアシスと同じくそれがフィールドモンスター化することは充分に考えられるが」
 今までのフィールドモンスターはどれもこれも巨体を誇ってきた。つい最近対峙した『水魔』など思い出すだけで眉根が寄ってしまう。
「でも、山なのに、湖?」
「しかも海モドキのときたもんだ。わけがわからんな」
「今までのフィールドモンスターは変化した元と関係していたのに。
 今回は例外?」
 本当に例外なのか? 手紙を読む限り『内海』とも称すべき巨大な湖があったという。それが山の属性を持つ何かに変貌している?
 いや、そもそもその山すらも蜃気楼のように実態のない、あくまで目撃情報に留まっているのだ。
「……見落としているというより、気付けてない気がする」
「同感だ。どういう事なんだ……?」
 二人は共に眉根を寄せて、この謎に思考を巡らせるのだった。

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というわけで、それの正体に到れれば次回最終回でしょうか。
至れなくても一旦捜索中断ってタイミングではあると思いますが。
さて、ヒントどころかそれそのものの名が挙がってるわけですが……w
では、リアクションよろしゅう。
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