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【inv30】『ダークエッジ』
『ダークエッジ』
(2013/08/29)
「話は集まってから。まぁ、その前に振るいに掛けるそうだが、あんたなら問題無いだろ」
 オークがパイプを吹かしつつ口の端をあげる。
「……内容は、知らないの?」
「知らねえし、知ろうとも思わねえ。
 なにしろこの件はシーフギルドの仕切りだ。寄せた耳が切り取られちまう」
 茶化し気味だが、嘘の無い言葉にアインはほんの小さく唸ってため息を吐く。
 彼女が聞いた話。それは「シーフギルドが人を集めている」と言う事。
詳しく聞けば「戦力を求めている」という言葉までは引き出せた。しかし更にいくつかの情報筋を追っても得られた情報はそこまでだった。
「みんな、おんなじスタンス?」
「真っ当なヤツはな。クロスロードのシーフギルドをナメてる連中も少なくないが。鼠やってりゃそんな真似はしないさ」
 無法都市とも揶揄されるクロスロードで何を指してシーフと言うのか。
例え殺人をしても賞金を掛けられなければその事実すら広く知られることは無い。そんな都市で闇に隠れシーフギルドを名乗るなどガキの遊びにも劣る……というのは大きな間違いだ。多少なりにケイオスタウンの内情に通じれば、その結論は早々に得られるだろう。
「町一番の情報源は間違いなく管理組合だ。それは最早誰も疑っていねえ。だが、町一番の情報屋はシーフギルドだ」
「……売るか、売らないか?」
「そういうこった」
 男はコツと灰を捨てて目を細める。
「『クロスロードでは派手に動かねえ』を信条としたシーフギルドが大きく動くんだ。
 関わるなら、それなりに覚悟するこったな」
 忠告の言葉にとりあえず頷き、アインはふらり歩き始める。
 「盗賊」。彼らが盗みを行う対象はこのクロスロードにはほぼ皆無。
 彼らが狙うのは異世界。それ故に『クロスロードでは大人しい』シーフども。
「何をしようとしてるのかしら……」
 興味を向けなければ「あるとは知っていた」程度の組織。
 それが今さら、今になって、何のために?

◆◇◆◇◆◇

「ねぇ、マスター。なんか最近慌ただしくない?」
 深夜───それはケイオスタウンにとって最も賑わう時間である。
 が、街の片隅にある小さなBARは夜の静けさを保ちながら、様々な酔客に酒を提供していた。
「慌ただしい、と言いますと?」
 魔族の老紳士は出来あがったカクテルをテーブルに置きつつ応じる。
「ケイオスタウン側が物騒、と言う感じがするんだよ」
「ああ、シーフギルドの件ですか」
 いきなり当たりかと内心で思いつつ、ヨンは素知らぬふりで視線を挙げた。
「シーフギルド?」
「御存じ無いですか? あそこが人手を求めていると言う話を」
「どうして? なにかあったのかい?」
「そこまでは情報開示していないようですね。
 あくまでシーフギルドが戦力を求めている。その情報だけが広まっているようです」
 もっと数カ所巡って調べねばと思っていたのだが、拍子抜けである。
 が、同時に詳細が分からぬままという事態にほんの少し眉根を寄せた。
「みんな知ってる話?」
「ケイオスタウンの連中なら大体知っているのでは?」
「へぇ……戦争でもやるのかな」
「ありえない話ではありませんね」
 誤魔化し気分での言葉を肯定され、ヨンは目を細める。
「どこと?」
「さぁ? ただ、管理組合や律法の翼に喧嘩を売るほど無謀ではないと思いますがね」
「どこか対立してる組織でもあったっけ?」
「山ほどあるんじゃないですかね。外の世界に」
「外?」
 言われてしばし考え、それがこのターミナルと繋がる別世界を指していると思い到る。
「……外との、戦争?」
 どうしてそんな事が起きるのか?
 そこに思い至らぬのは、まだ自分がこのクロスロードを理解しきれぬからなのだろうか。
 どうやらこれ以上の情報はどうやら統制されているようだ。
 どうしたものか。

◆◇◆◇◆◇

「おや? ザザの旦那。あんたもかい?」
「クセニア、か」
 ケイオスタウンの暗い裏路地。店など見当たらない、建売住宅が並ぶ整然とした都市のはずなのにどこか薄汚れた通り。
 そこでばたりと遭った二人は、互いの目的が同じと察する。
「この辺りか?」
「そう聞いているんだがな」
 誰も居ないはずの路地。しかし二人の視線が向けられた場所に一人のうす汚い男が座り込んでいた。
「テメェがそうか?」
「……荒々しい客なこった。そう目立つな」
 存在感を極力殺した影のような男がヘラリと笑みを見せる。
「クセニアにザザ、共に文句の無い腕だ。あんたらにはぜひ手を貸してもらいたい」
「内容を聞きたい」
 当然の申し出だが、果たして男は沈黙する。
「どうした?」
 ザザの問いかけにもしばし無反応を示し、ややあって「余計な頭は要らん。ただ兵隊になって欲しいんだがね」と嘯いて、透かし見るような視線を向ける。
「おいおい、理由も無しかよ」
 クセニアの茶化すような言葉には無言。
「……ま、シーフギルドを名乗ってるような連中の依頼だ。真っ当なもんとは思わねえが。
 人身売買の手助けをしろとか、そう言う依頼じゃないのか?」
「戦力だ」
 今度は答えがあった。クセニアはふむと鼻を鳴らし、気を抜けば見失いそうな男に視線を合わせる。
「戦えるのか?」
 ぼそりと、単調なザザの問い。
男は口の端を挙げ「ああ、そう言う話だ」とようやく興味を持ったかのように声を弾ませた。
「どうする?」
 それがここから一歩先へ進むための手形が発行されるか否かの問い。
 二人は余りにも限られた情報を前に、己の答えを口にするのだった。

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 というわけで、典型的な「受けるなら話す」というお話です。
 果たしてシーフギルドの目的とは?
 そして探索者達は何を以て闇の中に片足を突っ込むか。
 リアクションをよろしゅう。
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