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【inv30】『ダークエッジ』
『ダークエッジ』
(2013/09/13)
「簡潔に述べれば敵はある世界の犯罪組織。ただ面倒なのは一国家に相当するって事か」
 シーフギルドの男の言葉に依頼を受けるべく集まった者達は顔を見合わせる。
「シンジケートとか、そう言う類の相手ってことか?」
 クセニアの問いにシーフギルドの男は頷く。
「敵対する組織の名はヴェールゴニュリスオ。あちらの邪神か何かの名前らしい。
 所属人数はおおよそ5万人程度。戦闘に運用できるのは三千人程度か」
「おいおい、マジで戦争かよ? この人数で?」
 『抗争』の事を『戦争』と称しているだけだと思っていたのは声を挙げた男だけではあるまい。何しろこの部屋に居るのは30人程度。三千人と戦うなど冗談が過ぎる。
 だが、その言葉を無視して男は説明を続ける。
「あちらが所属する世界は科学系技術体系かつ、蒸気機関技術レベルだ。
 主な武器は刀剣およびフリントロック式の銃火器だ」
 そこまで聞いて先ほど批難めいた声を挙げた男はがしりを頭を掻いて嘆息する。唇は音を伴わずに「そう言う事かよ」と形を作る。
「襲撃するのか? 迎撃するのか?」
「襲撃する。その前に此方に入り込んできた手下を全て始末するが」
「あちらは魔法は使えるのか?」
「魔術の行使は可能だ」
 なるほどと言葉に出さずにザザは頷く。
 このターミナルの重要な性質である「あらゆる世界で個の力を段階評価した結果を多重交錯世界の段階評価に投射している」は神も小人も、初めてこのターミナルに到った時点では同じ物差しの範囲、つまり力の上限値、下限値範囲内で性能を設定してしまう。
仮に元の世界では世界最低の能力を1、世界最強の能力を100とし、Aの能力を10、Bの能力を100と仮定する。
 この場合AとBの能力の開きは90である。しかしターミナルに二人が到った場合、最初の能力はターミナルの1〜10の基準に再設定され、Aが1、Bが10となってしまい、差は9になってしまう。無論その後のターミナルの活動でこの数字は如何様にも伸びて行くのだが、ターミナルに到った直後に限定すれば億に一つも勝ち目のない相手にも届く可能性があるのだ。
 では逆にターミナルから別世界に渡った場合はどうなるか。
 この場合、渡った世界の『設定』に左右されるものの、概ね『元の世界の性能をほぼすべて発揮できる』事になる。例えば神族、魔族など、元々強大な力を有している種はターミナルではその性能のほとんどを一旦封じられてしまうが、別世界、或いは自分の元の世界に戻ればその実力を如何なく発揮できるのである。(※ただし大抵の世界において神が動けばその世界の神が干渉をしてくるだろうが)
 更に、魔法の存在しない世界であってもおおよそ魔法や超能力などの行使は可能である。仮に標準的地球世界を相手にするならば管理組合のアルカなど戦略兵器相当の化け物に相違ない。そしてそれには及ばないとしても、ターミナルで中位以上の実力者達は、大抵の世界で『化け物』と称して良い性能を発揮する。対象世界の者がザザを相手にするとすれば、迫撃砲を使うか、四方八方から雨あられのように銃弾を叩き込むかしない限り、ロクにダメージも与えられないだろう。
「戦争じゃなくて虐殺だな。あっちの世界に特殊な環境とか無いのか?」
「基本的には無い。邪神の名を冠しているが、実際に神が世界に干渉しておらず、魔術は幻想として語られている。無論幻想の元となる何かが存在する可能性は考慮すべきだが、おおよそ今回の件でそれに出くわす事はないと思われる」
 クセニアの言葉に男は淡々と応じる。
「あちらの目的はターミナルの制圧。こちらの目的はヴェールゴニュリスオの壊滅。あちらの扉はかの組織の本部にあり、その組織を壊滅させ、扉を隠す事も目的の一つだ」
「こっちに三千人雪崩れ込まれれば、それなりにおおごとだな」
「だからその準備ができる前に叩く」
 ザザの言葉に説明員は感情を伴わずに応じる。故に応酬の続きとしてザザは問う。
「その組織と敵対した理由は、あちらの侵略が原因なのか?
 だったら管理組合に任せれば良いだろうに」
今回の一件の中核となる問いに説明員はほんの僅か、言葉を選ぶ。
「いや、元々はこちらの問題だ。
その結果、あちらがクロスロードに野心を向ける結果になった」
「詳細は?」
「必要あるまい?」
 確かに理由などどうでも良い。元より相手はそれらの裏を隠して依頼してきているのだ。直接聞いて教えてもらえるとも思っていない。
「今から24時間、まずはこちらに入り込んできた手下の掃討を行う。
 対象の情報は渡すので確認してくれ。
 その後、カウンターアタックを決行する。以上だ」
 質問を受け付けようともせずさっと消えてしまう説明員への質問をせき止めるかのように、侵入したと言う手下の情報がPB経由で送りこまれる。
「楽な仕事っぽいな」
「楽、か」
 戦闘を望んで参加したのに、一方的な虐殺になるのは好むところでは無いとザザは嘆息。
 クロスロードにとって放って良い話ではないのは間違いない。シーフギルドが何をしでかしたかが気になるところだが、あちらの征服欲への対処であり、あちらの世界の侵略するという話でないならば大きく道理にはずれた話でもなさそうだ。
「つまらなそうな顔だな」
「……」
 クセニアの、どこかからかうような言に返す言葉も無くザザは歩を踏み出す。
 すでに掃討のための24時間は始まっていると言う事だろう。
 依頼を受けた身として、戦いを望む身として、どう動こうか。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「うちとしては本格的な破壊活動とか始めない限りは放置かなー」
 昼下がりの『とらいあんぐる☆かーぺんたーず』でアルカはのんびり細工をあしらいながらヨンの問いに応じる。
「事情はご存知で?」
「てきとーな範囲では。でもまぁ、クロスロード侵略を狙って諜報員送りこませてる世界なんてそれこそ数百じゃ利かないくらいあるしね」
「そうなんですか?」
「うん。短絡的にテロとか起こそうとするのは潰してるけどね」
 内緒にゃよ?と可愛らしく微笑むが、その実力を知っている上に、実行部隊におおよそ見当が付いているから笑えない。
「かつてヴェールゴンドやガイアスがこの世界を統治しようとしたのは、この世界があらゆる面において「おいしい」からにゃ」
「つまり……管理組合が儲けていると?」
「その分は還元してるにゃよ?」
 否定せずに、その行いを正当化する猫娘。
「今となっては大襲撃にも備えられるようになったし、欲望に歯止めが効かない指導者も多いだろうねぇ」
「しかし、問題の芽ならば早目に対処すべきでは?」
「シーフギルドが動いてるんだから良いじゃん」
「そう言うもんですか」
「そう言う物にゃよ」
「しかし……どうしてシーフギルドは余所の世界ともめ事になったのでしょうかね」
「そりゃ、あそこが大体の世界における『禁制品』を輸出入しているからにゃよ。
 別に初めての事じゃないにゃ。余所に手を借りる事態って意味では初めてだろうけど」
 事もなげに放たれた、HOC代表としては少々聞き捨てならない事に視線をやる。
「技術、薬、兵器。世界を渡ってそう言う物を扱う闇ブローカーがシーフギルドにゃよ。『扉』を知らない異世界人からすれば『悪魔』扱いしてるのも居るんじゃないかなぁ」
 突然現れて契約を結び、その世界にない物を提供する。確かに異様な存在だ。
「異世界への干渉なんて許されるのでしょうか?」
「誰が赦さないって言えるのかって事にゃね。そもそんなの今に始まった事じゃない、クロスロード開放前からあらゆる世界であった出来事にゃよ?」
「そうなんですか?」
「いくつかの世界における『神』は彼らみたく異世界の技術を持ち込んだ何者かだったりするしね。行ける世界は限られてるけど『扉』を必要とせずに世界を行き来する『界渡り』ってのも存在するし」
 確かにヨンが居た世界もここで言う「地球世界」からの来訪者が居た事を思い出す。そして彼らの齎した文化や技術は大なり小なり取り込まれていた。
「仮に赦さない者がいるとすれば、あっちの世界の『管理者』か、世界法則そのものにゃよ」
「管理組合のスタンスは分かりました。ありがとうございます」
「にゃ。まあ、あくまであちしの見解ってコトにしといて。管理組合としては町に被害が出ない限り不干渉だから」
「はい」
 応じて天井を見上げる。さて、シーフギルドに赴いたザザさん達はどう動くのだろうか。

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というわけで第二話をお送りします。
次回は掃討戦です。正直PCの実力ならば苦戦すらしないはずなのですが……
というわけでリアクションよろしく♪
なお、今回登場していなくても集まった面子の中に居たよー。は問題なしです。
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