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【inv30】『ダークエッジ』
『ダークエッジ』
(2013/11/10)

「なるほどな」
「ちょっと……大変そう……」
「いや、ちょっとどころではないと思いますが」
 ヨンはあのプレッシャーを思い返しつつアインに突っ込みを入れた。
「でもまぁ、あれを相手にする必要が無いとするなら、まだ救いもありますか」
 神官らしき少女の言葉を真に受けるのであれば、この世界での最大の脅威であろう神族は直接的な敵では無い。だが、どう転んで敵になるかは分からない不確定要素だ。
「ちょっと体動かしてみたけど、問題は無さげ。多分その神族以外ならなんとでもなる」
「問題は、俺達を集めた理由があの神族狩りのためかどうか、だな」
「いや、何と言いますか……
 暫くクロスロードに居たのでなんかマヒしていますけど、基本神様って不可侵な物では?」
 神族の中には物理現象や星辰の動きを司っている者も少なくない。日本神話のように、岩戸に隠れるだけで太陽を失い、まき散らした血を浴びた者に「燃える」という属性を強制するなどの超常の例は数多の神話に見られる。
 返せば万象の一部を司る神族というのは安易に倒してはならない存在である。故に世界を支える柱として1柱、2柱と数えられるのだ。
「……でも、あれを相手にしないとなると、この三人だけでも充分」
 合流の前に、この世界で自分の戦力がどの程度の物かを確認してきたアインは、迷うことなくそう断じる。
「確かに。獣化したザザさんにあの銃じゃロクなダメージ与えられそうにありませんからね」
「それに、シーフギルドお連絡役は多分あの神族を知っている。
 その上で『戦力を集結させて』と言った」
 即ち、相手にするのは───── 
「……しかし、そうするとシーフギルドは何故神族なんてのを相手にするのでしょうか?
 神官なんていう代行役を使わねばならないほど、この世界の神も不自由しているようですし」
 その答えは誰の口からも出てこない。それを確認するかのようにして、アインは二人を見た。
「……結局、どうする?」
 その言葉に二人は黙り込む。それからしばしの時間が過ぎた頃
「俺は一度外に出て見る。何か見える物があるかもしれん」
「ならば私はここに潜伏しますかね。兎にも角にもあの神官と神の動向次第でしょうし」
「なら、私は一旦戻る。シーフギルドの行動も分かって無いと」
 三者三様の答えを出し、頷きあって行動を開始する。
 一体、何が起きているのだろうか。その問いの答えはまだ彼らに無い。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「……普通の町、だな」
 科学技術相応の街並み。人々は普通に日々を暮らしている。
 圧政や弾圧という雰囲気は無いが、例の邪教の支配力はそこそこに強いらしく、聖印を下げている者は稀に見る事が出来る。
そして誰もかもが不安そうに本部となる建物を見て訝しげな顔で語り合っている。
 話を統合すると、この街はある大きな国に所属はしているが、実質的には「組織」の支配下にあるようだ。ここだけでなく他にも数カ所、同じように支配している町があるらしい。
 彼らは宗教を基軸としているがいわゆるマフィアのような集団で、国としては目の上のたんこぶ。しかし国は政情不安で彼らをどうにかする力は無い。という感じか。
「どこかで間違えば国をかすめ取る可能性すらある組織、か」
 しかし、そんな彼らが何故異世界に興味を向けるのか。欲があるのならばまず相対すべきは国だろう。
「その為の戦力を求めている、にしてはお粗末すぎる」
 どう考えてもこの国を相手にするよりもクロスロードを相手にする方が厄介だというのは、偵察隊を送り込んでいるのだから分かっていることだろう。更にはヨンの言っていた「神」を抱えているのだから、この世界に措いてはかなりの無茶もできると思われる。
「となれば。やはりシーフギルドから喧嘩を売ったのか?」
 だとすればこちら側に何かしらの利権があるはずだ。
 しかし町を見る限り、酒やたばこの類はあるが、麻薬のような物は見受けられない。またこの街の特産品というのも曖昧で良く分からない
「交易都市という感じか? しかし……ならばなおさらこの街を手に入れる意味がわからん」
 交易だけならば無限の商売相手を持つクロスロードに勝る物はそうない。
「こちらに拠点を移したい? それも理解不能だな」
 来訪者の中には故郷を失い、新天地を求める者も居る。が、そんな殊勝な心を持った集団とも考えづらいし、それならこっそりどこかに定住すれば良いだけだ。
「やはり目立つ異様は「神」だけか。……それに挑むのも一興ではあるが」
 一旦思考を止めてPBに時間を問う。
 アインが伝えてくれた集合時間まであと6時間。それまでにシーフギルドへ一旦戻る必要がある。
 そこから総攻撃が始まる……ここまでくれば狙いはやはり「神」なのだろう。
「ヤツらは標的を隠したまま突撃させる気なのか?」
 契約違反とは言い難いが、さりとて許容できるやり方でも無い。
「他の連中はどういう結論を出したのだろうな」
 ひとつ呟き、ザザも己の進むべき道へと足を踏み出した。
 
 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 ……
 ……
 三時間ほど経過した。
 彼が居るのは地下へと降りる通路の直前。
 誰かが通れば有益な話も聞けるかと思ったのだが
「誰も来ませんね……」
 それどころか近くまで来る者すらいない。彼らが祭っている神ではないのか?
「こうなれば、シーフギルドの連中が乗り込んでくるのを待ちますかね……」
 アインの情報からすればあと数時間もすれば集合し、こちらへ乗り込んでくるはずだ。
 ……
 ……
「ひ、暇ですね。っていうか、本気でここの人達、神様として祭るとかそういう事しないんですかね……
 或いは彼らもここに何があるのか知らない、とか?」
 邪教を名乗る以上神の存在を信じていない、というわけではないと思うのだが、魔法や奇跡が一般的でない世界では存在すら不確かで何の利益もない神への信仰もあると言うから、それに近い扱いをされているのだろうか。
「分かりませんね。本当に」
 こうなれば仕方ないと腹をくくり、地下へと伸びる階段の方を眺め見た。
 
 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 アインがそこに戻った時、すでに数人の参加者が集まっていた。
 時間はあと30分程。適当にそこらへんに座り込み、装備の確認や雑談をしている。
 先の掃討戦が余りにも楽だったからか、気負っている者は見当たらない。
 しかし、ヨンの話からすればこれから戦う相手は恐らくあの世界で格別に強い存在である。安易な気持ちで挑んで良い相手では無い。
 伝えるべきなのだろうか?
 アインは部屋の隅に居るシーフギルドの連絡役を見た。彼は視線に気付きこちらを見返すが、何も言わずにまた瞑目する。
 彼は自分があちらの世界に先行した事を知っている。
 しかし咎めることもなく、口止めする様子もない。
「……状況は不明過ぎる」
 聞けども答えは無く、調べども手掛かりは掴めない。それは一体どうしてだろうか?
「上手に隠匿しているから……?」
 一番ありそうな答えを唇に乗せるが、どことなくしっくりこない。
 それ以外に情報が出ない理由は?
「……実は裏が無い。或いは。情報源が限りなく少ない?」
 あちら側の侵攻ならば、ヨンがその答えを既に掴んでいる事だろう。
 ならば情報源が少ない……個人的な目標の結果?
 そもそも────
 シーフギルドとは何なのだろうか。
 人が集まり始めた部屋でアインはコンクリの冷たい天井を見上げる。
 二人は、どういう行動を取っているのだろうか。

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 情報ダダ漏れのシーフギルドってのも面白くありませんし(何
 というわけで分からない事の多いまま決戦に踏み込もうとしております。
 どうするかはもちろん皆さんの自由です。撤退も勇気です。
 次回決戦に入ります。リアクションよろしゅう。
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