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【inv31】『無貌の怪物』
『無貌の怪物』
(2013/09/28)
「……」
 クロスロードの片隅で、一人の男がカフェテラスの一席にどかりと座り、空を見上げていた。
「あー……」
 何をすべきか、朝出かける時には明確にあったそれだが、現実と突き合わせるにつれ、重大な問題が浮き彫りになって行くのを感じていた。
「この街、異常だ」
 今日半日の事を振り返ったまとめを呟いて雷次はレモネードを飲み干す。
 彼がまずやろうとしたのは「コピーされると怖い人のリストアップ」だったのだが。
 これがまたキリが無い。
 思いつくだけでも数十人。実力が判断付きかねる者も多数。更にはその実力を囁かれながらも確証のない者なら星の数だ。
 そもそも町の大半が戦闘能力を有しているのだから、甘く見て良いものではない。
 ならばと挙動が怪しいものを探しに出たのだが。
 まず、広い。
 なにしろクロスロードは直径30km、サンロードリバーに掛かる橋で全長4kmもある巨大都市だ。更には数え切れぬほどの種が犇めいている。
 では、彼らの、それぞれどんな行動を指して「奇行」と称すれば良いか。
 例えば人間種が毛づくろいと称して自分の肌を舐めていれば確かにおかしい。が、獣人族ならばありえぬ事でなく、その名残を文化として持っている者も居るかもしれない。
 知り合いならば奇行も分別できるが、それだって限度がある。なのに会った事も無い者がどう判断すればいいやら。
「挙動が怪しいやつなんて俺基準ならいくらでも居るんだけどなぁ」
 鼻を振って歩くとだけ言えば奇行だが、象ならばそれも仕方あるまい。どんな優秀な生物学者でもこの種族の坩堝で雷次の狙いを果たす事は不可能と言えるだろう。
「しかし、こうなると……大人しくされたらどうしようもないんじゃないか?」
 そもそも変身していない可能性すらあるのだから、個人でどうこうするには手に余る。
「当初の目的通り、強い奴らをダメ元でめぐって見るかねぇ」
 一応は作った自分が知っている限りの強いヤツリストに視線を落とす。知能はそのままと言うのだから魔法使い系は除外できるのかもしれないし、生物なのだからアンドロイドや幽霊系はやはり範疇の外にある気がする。
「ヨンの旦那は……ありゃ一応不死種だが、どうなのかね?」
 食事もすれば疲れもするヴァンパイアを思い出し、やはり面倒だとため息一つ。
「他の連中はどうやって探してるのかねぇ」

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「奇行、ですか?」
「そうっス!」
 きょとんとした神楽坂・文はややあってコンパクトを取り出すと、そっとトーマに向ける。
「なんスか? 相変わらずの美少女っぷりっスけど」
「手ごわいですね」
「天才っスから」
 何か諦めた顔をした文は「ン」と思考を巡らし
「まぁ、そんな人、山ほどいますからねぇ」
 と、雷次が同時期に到った結論を口にする。
「じゃ、じゃあドッペルゲンガー事件は発生してないっスか?」
「ドッペルゲンガーならケイオスタウンに数名いますけど?」
「なん……だと……!?」
 言われて見れば居てもおかしくない。では彼らが妖怪種特有の「本能に基づいた行動」を日々おこなっていたら、ドッペルゲンガーを追い掛けると言う手段もついえてしまう。
「こ、この天才が躓くなどあってはならないっス!
 いやしかし失敗は成功の母! なればこそ、これも成功の一端と言えるのでは!?」
「そう言うところは見事ですよねぇ」
「褒めてもサインくらいしか出ないっスよ?」
「それはまた今度にして。
 で、何があったのですか?」
「……ふ。ドッペルゲンガーの生態について調べたくなったっスよ」
「だったらドッペルゲンガー『事件』とは、聞きませんよねぇ?」
「いや、ドッペルゲンガーに合う事自体事件っスよ! 一年後に死ぬっス!」
「それはデュラハンの方ですよ?」
「世にも珍しいデュラペンゲンガーっス!」
「顔が無いと、自分の二重存在と気付けないような……」
 ・・・・・・
 互いにこれ以上は無駄と踏んだらしい。沈黙が場を一旦リセットする。
「まぁ、情報は等価交換、でしょうかね」
「なら、また寄らせてもらうっス」
「ええ、お待ちしています」
 思った以上に手ごわい案件のようだ。だがこの天才が行き詰るなんて展開は無い。確証のない自信を胸にトーマは行動を再開する。

◆◇◆◇◆◇

「さる猿っと」
 裏路地をうろつきつつ、クセニアは適当な言葉を口ずさむ。
 変身する怪物も元の姿が無いわけではない。例え変身したとしても永遠に戻らないわけでもない。ならば元の姿と言う猿を探すのも手ではなかろうか。
 そこまで考えたかはさておき、クセニアの目的は猿そのものだった。
「しっかし、広い町だなぁ」
 人口密度の割に広く、しかし管理は行きとどいている。昼と夜の境界である川を境に調和を誰もが受け入れている。ノイズが多すぎて調和した音楽に錯覚してしまうような。そんな偶然の上に立つ町。
 異形が目立たず、異常が目立たず、或いは、すぐ真横にある死を誰もが素通りしてしまう町。
「さて、と」
 そんな中で掴んだ子猿の目撃情報。
「変身するまえにとっ捕まえれば最高ってね」
 餌を数カ所に仕掛けてある。センサー系は100mの範囲なら充分に活用可能だ。反応があったところに急行するため、その中央に陣取る。
「さて、と」
 座して待つ事3分。最初の反応に膝を立て、近くまで移動する。クロスロードには原生種が居ない。鼠などの生物が罹った可能性は低い。無論来訪者やその荷物に紛れて入りこんだ種は少なからず存在するが、それも「自然環境」と言うにはやや離れたこの都市で幅を利かせる程ではない。
「ビンゴ」
 きょろきょろと周囲を警戒しながら餌に近づく猿の姿。見た目はメガネザルに近いだろうか。顔の比率的に巨大な目がぎょろぎょろと周囲を見渡している。
「さて、捕獲しますかね」
 触れると面倒だ。ならば投網などがベター。武器に戦闘力を頼む自身であればマネされたところで武器までコピーできないのだからそれほどの脅威とはなりえないだろうが、念には念を入れるべきである。
 そこまで思考を走らせて、後は捕獲へと集中する。

その瞬間だった。

「ンなt!?」
 突如の暗闇────否。突然巨大な影が落ちてきたため資格が混乱した。すぐに周囲を把握するが、その前に彼女に襲いかかったのは猛烈な突風だった。
「なんだってんだ!?」
 姿勢を低くして見上げればそこには鱗。
「竜種……! こいつは……!」
 見覚えがある。ただでさえ目立つ竜種だが、大抵は町の隅に作られた竜種の町から出る事は無い。その理由は単純明快で、人化もせずに人間サイズを基準に作られた町に訪れられても破壊するだけだからだ。
 そんな当たり前のことを理解せずに町に訪れる『能天気竜王』はダイアクトーとは真逆の意味で迷惑な象徴。
「ファフニール!」
 神話級の能力を持ちながら、細かい制御ができない故に災いと迷惑をまき散らす『呪い竜』。他の竜種が自分達の立場保持のために順番に見張っているはずのこの竜がどうして……
「どうして、じゃねえな。って言うか、何してんだよあの竜は!?」
 タイミングが良すぎる。なればこそ、それは
 視線を下へ滑らせば、猿の姿がもうない。餌もそのままと言う事は逃げたのだろう。この竜の姿をとった同族の警告により。
「冗談じゃねえぞ……!」
 頭は足りないが腐っても竜。手持ちの武器でどうこうできる相手でもなければ、間違って勝利しても町に甚大な被害が発生する。

「避難警告。避難警告」

 PBの音声案内が脳裏に響く。周囲が騒がしくなり、戦闘能力の乏しい住民は泡を食って逃げ出している。
 遠くからは慌てて駆けつけたであろう竜種の姿まである。
「くっそ、こいつが撃墜されたらどうなるんだ……!?」
 最悪死体は持ってこいと言うことだったが、ならば下で待機すべきか?
 その葛藤を浮かべている間にファフニール(もどき?)は身を翻してその場から大きく離れ始める。
「畜生!」
 咄嗟にそれを追い掛け始めるが竜種の飛行速度に敵うはずもない。それははるか遠くへと飛翔し、不意に高度を下げて消失する。恐らく変身を解いたのだろう。
「……や、やってらんねぇ」
 報酬額20万。その意味を改めて感じ、クセニアは大きくため息を吐くのだった。

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 大変お待たせして申し訳ありません。
 ちょっと地獄の進行を風邪っぴきでこなしてきたので体力を回復させつつの現状です。なんとかペース戻します。
 というわけで今回はクロスロードで探すの大変だね☆って感じの流れになりました。
 何かしら良い方法を用いらないと非常に大変ですよーって事で。
 リアクションよろしくお願いしますね☆
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