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【inv31】『無貌の怪物』
『無貌の怪物』
(2013/12/18)

「おっけおっけ。タダで良いにゃよ」
「え?」
「いや、流石にあれは放っておけないけど、流石に情報公開すると要らない関心買いそうでね。これは管理組合としての提供って事で捉えて欲しいにゃ」
 そういう事なら話は分かる。
 突如現れた三体のファフニール。ただでさえ神話級竜種が同時に同じ場所で暴れたのだから町は一時パニックに陥った。早とちりした一部の者が竜種に抗議を行う事態までに発展して、管理組合は色々と手を焼いているらしい。
「今関わってる君たちで終わらせてくれた方がありがたいってことにゃ。
 とりあえず馬鹿。もといセイしか今空いて無いけど、あれを投入するのは怖すぎるしね」
 掛け値なしの槍術馬鹿はすでにこの災害を助長する一因になっている。場に投入すれば混乱の元になりかねない。
「ならついでにユイにも手伝って欲しいっス。
 この天才ならば自分で開発する事も可能っスけど、今は時間が足りないので」
「おっけ。多分そろそろ起きてくるから話を付けるけど、何を作るの?」
「いわゆる誘導弾っスね」
「んー、解呪弾でなければ式神で代用もできるんだけどねぇ」
「術と解呪が干渉するっスか?」
「他の世界なら解呪能力を持つ追尾する式神なんてものも作れるけど。ターミナルの場合『解呪』と言ったらなんでも『解呪』しちゃうからね」
 この世界特有の法則の一つ。似ている物は大体同じ扱いになると言う効果だ。
「時間を掛けて組めば可能だけど、今はそんな余裕無いっしょ?」
「そうっスね。じゃあお願いするっス」
「おっけ。できたら届けさせるにゃ」
「頼むっスよ」
 そう言葉を残して去って行ったトーマの背を見送りつつアルカは呟く。
「さて、どうしたものかなぁ」

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

「ちょっと前まで防衛行動でしか変身してなかったヤツが急に揃って暴れるだ?」
 しかも示し合わせたかのように消えて、また消息不明。あまりにも行動パターンが違い過ぎる。
 だがやる事は変わらない。こちらとプロだ。プロらしく動くのみ。
 トーマに預けられた弾丸をざらりと指で弄んで町中を移動する。
 町はにわかに騒がしくなっていた。無理もない。突如三体のドラゴンが暴れて、幻のように消えたのだ。
「足跡の一つでも残って居れば良いんだが」
 タチが悪いのは、対象の本来の姿が小さ過ぎること。しかも探知魔法全般に制限を受けるこのターミナルではその捜索に大きく運の要素が関わってくる。
「今までは運だった。これからはどうだ?」
 様々な要素も足して二匹は捕獲した。同じ事を試すべきか?
 そうこう思考している間にクセニアは竜が暴れた地点へと到達する。
「こりゃひでえな」
 クロスロードの建築物はほぼ管理組合製の特殊な建材で作られている。窓ガラスひとつとってもミサイルくらいならひび割れて済むようなシロモノである。
 だがそんな街並みの一角がごそりと崩れているのを見て彼女は眉根を寄せる。
 部材一つ一つは堅牢でも組み合わせている以上想定以上の力が掛かればその接合部から崩れて行く。巨大質量を保持できなかった建物は無残な姿を晒していた。
 すでにかなりの数のセンタ君が集合して片付けを開始しているのを来訪者達は遠巻きに眺めている。
「流石にこの辺りには留まっていそうにねえな」
 痕跡もこうなっては掴みようがあるまい。
 クセニアはさっさと割り切ってその場を離れようとする。
「ん?」
 と、妙なところに人影を見た。
 いや、このクロスロードなら平気な顔して壁に立っていたりする者も少なくは無いのだが、それでも妙と思ったのはそれが見知った顔だったからだろう。
「何やってんだあいつ?」
 近くの屋根の上に座り、足をぶらぶらさせながら、その視線は事件現場でなく、それを不審げに眺める野次馬の方にのみ向けられている。
 その視線が不意に、クセニアを見た。
「っ!?」
 気圧された。彼女は特に目立った行動はしていない。なのにその視線はクセニアの全身に怖気を走らせる。
「あれは────」
「あ、クセニアさん、どうっスか、状況は?」
 そのタイミングでやってきたトーマに反瞬意識を奪われたかと思った時にはその姿は何処にもない。
 クセニアは数秒息をとめ、そして大きく吐き出してから応じる。
「おおよそ最悪の状況だと思うぜ」
 彼女の見た物。
 それは先ほどトーマが出会い、依頼してきた少女にそっくりだった。

 ◇◆◇◆◇◆

 これ以降、どこを探してもフェイスレスラットの姿を見つける事は出来なかった。
 それもそのはず────

 次に来訪者達がその姿を見る時。
 それはおおよそ最悪の姿を纏って現れるのだった。

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 少々思う事があり、この話はここで完了とします。
 最後の文章の通り、このお話は別の話へと移る形で続きます。

 報酬としては関係者全員で40万C+管理組合から+20万Cが渡されます。
 これの分配については適宜会話をしていただければと思います。

 さて一カ月くらい開いてしまい誠申し訳ない。
 いろいろと詰まってしまい、上手く更新できませんでした。
 最近1シナリオが冗長になり過ぎている傾向も問題と思っており、更新の方法なども改めたいと思いますので今後ともよろしくお願いします。
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ADMIN