<< BACK
【inv32】『フォールンナイトメア』
『フォールンナイトメア』
(2014/02/04)
「またまたまたまたまたまたまた…!

この時!ああ、この時がやってきてしまったっス!
去年のあたしの武功は、このウルトラ美少女的造形ぷるるん唇から語らずともクロスロード四方五十六億七千万kmまで轟いてコダマしてるッス!

さあさあさあ!今回もぶっ放すっスよ!あーぶっ放すッスッスッススッス!
何をかって?よくぞ聞いてくれました!
この美少女天才あたしが先の襲撃の際、大迷宮都市でまさに…」


 うるさかった。ただひたすらに煩かった。
 ただ、残念なことにこの場に措いては彼女の奇行を知らぬ者は居ないらしく、咎める者もない。
 さて、そんなこの場所はどこかと言えばは大迷宮都市の傍に建てられた特別工房である。
御存じの通り大迷宮都市とはクロスロードから南に約50kmの所で発見された大迷宮だ。「大」の言葉が示す通りの広大な迷宮で広さは四方一キロ程度。地下は現在第四層まで確認されているが、そこが果てでは無いと考えられている。
大迷宮都市とはその一階層を制圧し、作り上げた町だ。故に大迷宮都市のすべての建物は地下一階層にある。
「いやぁ、腕が鳴るっスねぇ」
「……触っても良いと言う許可を出してはいないのですが」
 腕まくりをするトーマの後ろから、感情の乏しい、しかしどこか呆れたように聞こえる声が掛けられる。
「おや、エスディオーネ。出迎え御苦労っス」
「本当に人の話を聞き流す人なのですね。それで、何のご用でしょうか?」
「ふふ。このロボットをいくらでも使えるようにしに来たっスよ!」
 彼女は見上げる。
 雲ひとつない空の下、体長10mはあろうかという巨大なロボットがその威容を誇っている。
 その名も『ユグドシラル』。神話の大樹の名を冠したそれは、救世主の一人、ユイ・レータムの主兵装である。
「あの大砲が何発でも撃てるようになれば安泰っスよ」
「……なるほど。確かにそうなれば防衛戦力は格段に跳ね上がるでしょう」
 見目麗しくも感情を一切表に出さない女性───エスディオーネは静かにその巨躯を見上げる。
 さて、先ほど大迷宮都市の建物はすべて地下一階層にあると言った。が、大迷宮都市の近くにあって地下にないシロモノが3つある。
 1つは巨大ロボットユグドシラル。そしてそれを管理するために作られた特別工房。最後に武装列車の駅だ。
 この三つを「すべて」から除外したのは大迷宮都市の管轄外だからである。
 クロスロードや衛星都市と違い、大迷宮都市は管理組合の管轄ではない。ラビリンス商工組合という組織が先導して作り上げた都市である。従って大迷宮都市には大迷宮都市独自のルールが存在し、運営されているのだが……それは今説明する必要はあるまい。
 除外された3つのシロモノだけが管理組合の管轄である。
 その場所を任された女性は、自由な少女にひとつの答えを示す。
「ですが、不可能かと」
「この天才に不可能は無いっス!」
 びしりと言ってのける不退転のトーマ。だが、女性は戸惑いの欠片も見せずに言葉を続けた。
「いえ、技術的な話ではありません。あれはそのありようからしてイレギュラーなのです」
「……というと?」
「それぞれの世界での強さを10に段階付けするとするならば、あの機体と、そして装備している砲は11や12という段階の存在なのです」
「それ、前提がおかしいっスよ?」
「その通りです。神が前提にしなかったイレギュラーがあれなのです。
 そのイレギュラーはこの世界に至っても影響を残しました」
「……不可能、不可能。つまりはイレギュラーな存在だから、この世界で考えうる手段では対応ができない、と?」
 理解は早いと女性は目を細め「その通りです」と告げた。
「ふふ。そんな言葉には騙されないっスよ?」
「……?」
 この世界のルール。それを告げられてなお自信を無くさぬトーマにエスディオーネは珍しく小さく首をかしげる。
「イレギュラーがある。その事実がある以上、新たなイレギュラーな手段を作り出せば良いだけの話っス!」
 どどんと言い張るトーマに女性は暫く無表情を貫き、それから小さく頷いた。
「正解だと判断します。
 しかし、残念ながら『唯一のイレギュラーな手段』はすでに創生され、それは失われています」
「……どういう事っスか?」
「そのままの意味です。ユグドシラルの動力源となる存在は『唯一無二』。故にいかなる手段を用いても今後創生することは不可能だと決められているのです」
「……この世界に、っスか?」
「はい」
「でも、なんでそんな事を知っているっスか?」
 トーマのもっともな問いに彼女は沈黙する。それは誤魔化しの言葉を考えているようでもなく、ただ彼女は口を閉ざした。
「教える気は無い、って事っスか?
 いや、教えられない、っスかね。ならば自分で解き明かすまでっスよ。それに」
 トーマは衰える事の無い意志で宣言する。
「神様だか何だか知らないっスけど、誰かが作れたんならあたしだって作れるっス。そしてこの天才はそれ以上の物を作って見せるっスよ。
 あーはっはっは!」
 能天気な笑いを工房に響かせる。
 その姿を人の形をしたその女性は静かに、しかしどこか懐かしげに見るのだった。

◇◆◇◆◇◆

「……ふぅ」
 日の光がまぶしい。
 彼女の背後にあるのは大図書館。ありとあらゆる世界の文献を収集し続ける無限図書館である。
 先ほどまでそこで本を読み漁っていた彼女はその場所から離れながら、得た知識を整理していく。
 兵法。何冊かの本を流し読みしたアインは自分が至った一つの結論をため息と共に解き放つ。
「基本的な条件が合わない……」
 決して悪書を掴まされたわけではない。むしろ良書で、彼女の知識を高めたが故に『兵法』はこの局面で半分の意味しか為さないと悟らせていた。
十分ほど歩きながら更に思考を進める。
「これは……『戦争』なんかじゃない」
 敵は意志無き無謀なる破壊者。ただまっすぐクロスロードへと向かい、破壊の限りを尽くして通り過ぎて行く存在。
 最後に読んだ本の途中に書かれていた一文を思い浮かべる。
『万軍を相手にするよりも、イナゴの群れの方が恐ろしい』
 クロスロードの状況を表現するならば、この言葉こそが本質ではなかろうかとぼんやり思う。
 乱暴に兵法を語れば「戦争する前に勝利する」「戦争をするときに有利な条件を作り出す」の二つを為すための学問だ。そこに付属して「不利な状況を特殊な方法でひっくり返す」と言うのがあるが、これは先の二つを成し遂げられなかった者の、まさに『苦肉の策』である。
 だがイナゴの群れにはその論法は通じない。
 一方向に進みながらも隣でどれだけ仲間が焼かれ、潰されようともその進軍を止める事は無い。ただ己が喰らうために集団となり進むだけの存在にどんな精強な兵士も一般市民となんら変わらず慌てふためいて棒を振り回すくらいしかできやしないのだ。
 更に問題はクロスロード側にもある。
 ────そも来訪者は軍隊ではない。
 管理組合は『要請』はしても、『命令』はしない組織だ。その場の問題に対する協力関係以上を求めない。大襲撃に対し、避難訓練的な意味合いでも行うべきだと言う提案はいくらでもあったが、管理組合は基本原則に則り、その一切を受け付けなかった。
 故に大襲撃でも来訪者達は好き勝手に戦う。
 大方針に対して従う従わないは個々の自由。それは各町に用意された防御設備に誰ひとり人が入らなかった場合、一発の弾も吐き出さないままにゴミになる可能性すら許容していると言えよう。
「……どちらも軍じゃない」
 だから『兵法』は働かない。
 全てが無駄とは言わないが、参考程度にしかならない。どんな天才軍略家がこの地に居ようとも、命令権が無いのであれば雑音となんら変わりは無い。
「でも、怪物が組織的行動を行ったら?」
 その結果は前回の大襲撃にも出ていた。その時は怪物の特性をすべて殺した水攻めという特異な動きではあったが、あやうくクロスロードの都市機能を破壊されつくされるところだった。
「……難しい」
 ため息一つ零してアインは思考を打ち切る。この思いを多くの者が共有し始めたなら、クロスロードは新たな制度へと動きだすのだろうか。
「っ?」
 不意に。目の前に巨大な気配を感じて顔を上げれば、見知った男が意外そうにこちらを見ていた。
「……ザザさん?」
「なんだ、衛星都市に行っていると聞いていたが」
「一回戻ってきた。もう戻るつもり」
「……そうか。だが、そのつもりなら急いだ方が良い」
「もう、来たの?」
「そういう話が出ているな。まだ武装列車が動いているから本隊が取りついた、と言う事ではないと思うが」
「時間の問題……か」
 そう呟いて、アインは不意に空を見上げた。
「ザザさんは何をしているの?」
「ある程度組織的に動ける連中を集め居ている。対空主体でな」
 管理組合は軍を作らない。だが各組織がそうしているように、またクセニアがかつてそうしたように、同じ目的を持った集団を作り上げることは可能であり、有効な手段には違いない。手段とは力なのだ。
「本丸を落とされたら終わりだからな」
「……そっか。そういえばクセニアさん見ないね。いつもだったら集まり作って動いて居そうなのに」
「ちょっと前まではそんな動きをしていると聞いたんだがな。
 不意に聞かなくなった」
「あの人の人集めの才能は凄いと思う。こう言う時に必要」
「まぁ、異論は無いが、ヨンの一件の時に最後放りだしちまったのが悪い噂になっているようでな。特にあの時は目先の欲にとらわれた有象無象を抱え込んでたから尾ひれ背びれが付いているらしい」
「なるほど、そういう事か」
 不意に割り込んできた第三者の言葉に二人が視線を向ければ、赤髪の一見大人しそうな少女が、目つきを凶悪に細めて舌うちをしている。
「……誰?」
「ああ? あー、通りすがりの善良な一般市民です。ええ」
「いや、その誤魔化しには無理があると思うが」
 ザザの冷静な突っ込みに暫く視線を逸らしていた少女は、わざとらしいため息をひとつ洩らして「俺だよ。クセニアだ」と白状する。
「その格好、なに?」
「ダンナが今言った通りの状態でな。人が集まらねえから、ちょっと変装してな」
「ばれたら大変だぞ」
「俺に同意してくれる連中にはばらして周りは固めているから平気、とは言わんが、まぁ、なんとかなるだろ。これでも反省してるんだぜ?」
「……これでも、の時点でお察し」
「アインはたまに厳しいよな」
 冷淡な指摘にクセニアは肩を竦める。
「ダンナ、飛行系の傭兵候補なら面白い連中を知ってるけど、紹介しようか?」
「……ああ。しかしお前は最後までそれで通すつもりか?」
「実質的な指揮官はそれなりのヤツにお願いしてるよ。俺は裏方仕事。誤魔化す必要も無くなったら『裏でせっせと頑張ってました』的にアピールして戦線に加わるさ」
 茶化して話しているが、なんだかんだ気にしているんだねとアインが小さく呟くと、聞き付けたクセニアがジト目を向けて来たので視線を逸らす。
「なんにせよ。そろそろ衛星都市が戦闘に入るだろうから、悠長に話できる時間も僅かだろうな。クロスロードならもうちっとは時間もあるだろうが」
「だろうな。出来ることをするまでだ」
「うん」
 三者三様に決意を以て頷く。
 傍目には変わらない、しかし僅かな緊張感をはらみつつ、クロスロードの一日は過ぎて行く。

◇◆◇◆◇◆

「ふーむ」
 衛星都市に来て数時間。桜はいろんなところをうろついていた。
 衛星都市はそれほど大きな町ではない。四方はせいぜい一キロ程度であり、その気になれば十分かそこらで端から端まで踏破可能である。
 そんな中で物資が慌ただしく移動し、防壁の上では砲の遣い方のレクチャを受けている人々の姿が見える。
 魔法使い等の遠距離射程攻撃方法を持っている者はそれを奮えば良いが、近接専門だからと外で迎撃するわけにはいかない。そういう人たちが砲の担当になり、打てば当たる怪物の海に弾丸を叩き込み続けることになる。そして仮にも壁が突破された時、彼らは最後の防壁として侵入してくる怪物と剣を交わらせることになるだろう。
 もっとも、そこまで押し込まれる事態はご免こうむりたいというのが共通見解だろうが。
「今のところ大した収穫は無し、か。電車が止まる前に引き返す事も考えねえとな」
 PBから配信される最新情報としては衛星都市への怪物本隊の到達予想時間は23時間後。目視可能距離まで接近するのは数時間後という予想だ。
 それに伴い、武装列車の最終出発は4時間後だと言う。その後も状況を見て随時行き来するらしいのだが、経験者の話を聞く限り、武装列車を出すために門を開けるなんて無謀な事ができるとは思えなかった。
「あと数時間で引き上げるかどうか決めねえとな」
「あ、居ました! お届け物ですー!」
 明るく、どこかあか抜けない声に振り返ると、小柄な少女が自分の脇を抜けて行く。そのまま背を追えば鮮やかな若草色の髪の少女に駆け寄っていく姿が見えた。
 共に獣人らしく声を掛けた方は犬耳、掛けられた方は真っ赤な猫耳がついていた。
「にゅ? 事務所に置いておいてよかったのに」
「こう言う時ですし、急ぎだと困りますから」
「真面目だねぇ」
「私にはこう言う事しかできませんからね」
「こう言う事の方が案外大事と思うにゃよ」
 犬耳娘の言葉に手紙を読みつつ応じ、さっと目を通したそれを再び畳んでポケットにねじ込んだ。
「返事はありますか?」
「んー。特にないかな。まだ始まって無いし」
「わかりました。……ここも戦場になってしまうのですね」
「まー、今度はむざむざと渡したりしない、って言えると良いんだけどねぇ」
 気弱なのか、楽観視していないだけなのか。しかしニヘラと緩く笑っての発言なのだから、後者であろうと推測される。
「大丈夫ですよ。なんたってアルカさんですもの」
「それ、フラグに聞こえるからやめて?」
 アルカ、と言う言葉になし崩しに立ち聞きをしていた桜は「ん?」と記憶をまさぐる。
 そろそろ慣れてきたPBに思考で問い合わせると即座にひとつの情報が戻ってくる。
 ケルドウム・D・アルカ。管理組合副組合長の一人。つまり『救世主』と称される人だ。
「てっきりクロスロードでふんぞり返っていると思ったぜ」
この世界の支配者の一人、と言う認識はあながち間違っては居ない。そこから来る感想を舌の上で転がしていると、猫娘が桜の方を見た。
「あちしに何か御用?」
「あ、いや。悪い。有名人が居たんでつい、な?」
「にふ。有名人、ねぇ」
 苦笑じみた言葉を桜は少しだけ訝しく思う。少し前までは副管理組合長の名は伏せられていたらしいのだが、公開された今となってはクロスロードに住む以上、知らない方がおかしい名前である。
「クロスロードに有名人は色々居ますけど、アルカさん以上の有名人なんて居ませんよ。強いて言えばアースさんくらいじゃないですか?」
 アースというのはクロスロードの四方にある砦の一つ、東砦の管理官の名だ。それと同時に地面を操る強力な力を有しているため、いくつもの大きな作戦に従事しており、今では『英雄』の二つ名の方が広まっている人である。
「いっそアースちんに副組合長変わって貰おうかなー」
「絶対に断ると思います」
「デスヨネー」
 国で例えるならば大臣か宰相か、という人物に配達の少女が気安く話しているのはなんとも不思議な光景である。
「あー、難しく考えなくて良いにゃよ。副組合長とか兼業で、本業は魔法鍛冶と酒場のバイトだから」
「……はぁ?」
 どこまで真に受けて良いのか。しかもバイトの方が本職と言い張るのは如何なものか。
「にふふ。ま、そんなもんにゃよ。
 チコはもう戻るにゃ?」
「はい。流石に戦闘になれば足手まといですし」
「そっか。気を付けて帰るにゃよ」
「アルカさんも御武運を」 
 桜の方にも律儀にお辞儀をして、去っていく犬耳少女。それを見送って猫耳は「さて」と呟いた。
「君、新しい子?」
「え? ああ。そうだが」
「そっか。んじゃ、無理しない程度にね。多分クロスロードの方が安全だから。いざとなったら扉から逃げれるしね」
「……ああ」
 んじゃね、と言葉を残して立ち去る少女。どう見ても15を超えているようには見えないが、神すらも闊歩するこの世界で見た目など当てにできない事を思い出す。
「……どうしたもんかね」
 そんなとき、南側の壁から鐘を連打する音が響き渡る。

『怪物の集団を補足。数、おおよそ200。先行隊と推測されます!』

 ついに、始まりが来たようだ。

◇◆◇◆◇◆

「ふう」
 おおよそ五十匹からなる集団を蹴散らしたヨンは周囲を見渡す。
「流石は、ってところだな」
 岩石人の戦士が感心したように声を掛ける。
「いえ、この程度であれば」
「謙遜を。君とザザのコンビの事は聞いている。最近大迷宮都市に来ていただろ? 酒場で色々と話題に上がっていた。君たちが新たな更新者になるのではないか、と」
「はは。それなら最低でももう一人加えたいところですね」
「ちょっとー。そろそろマジでやばくない? かえろーよー」
 ふわりと二人の間に現れた妖精が周囲をきょろきょろと見回しながら焦った声を掛けてくる。
「もう他の部隊は残って無いって」
「そうですね。そろそろ限界ですか」
 ヨンが頷くと待ってましたとばかりに妖精は駆動機の魔道エンジンをふかした。
「それで、どうだい? 感触は?」
 既に駆動機に乗り込んでいた弓使いが声を掛けてくる。
「……そうですね。違和感と言う程のものは感じませんでした……」
 怪物は数こそ増えたが極めて短腸にヨン達へと襲いかかってきた。しかも一度戦闘中に新たな怪物の姿を目撃した事もあったのだが、こちらに見向きもせず北上をしていった。
 いつも通りの光景、そう論じるに無理のない事象を前にしてヨンは考える。
 狂人と、猫娘が何もしないとは到底思えない。
 だが、ここで仕掛けてくるかどうかは別である。
「うわ。次のが近づいてきてるよ! 飛ばすよ!!」
 妖精の慌てた声。唸るエンジン。急加速に体を躍らせながらヨンは外の光景を眺める。
 明日にはここは怪物の姿で埋め尽くされるのだろう。また、あの戦いが始まるのだ。
「……しかし、どう思うよ? このまま衛星都市に居るべきと思うかい?」
「どうだろうな。倒した数で報酬が出るわけではない。が、来訪者の一人として戦いに従事したいとは思う」
「郷土愛でも出てきたかい?」
「そうかもしれぬな。元の世界に帰れぬ身でもあるのだし」
 もう『開かれた日』から5年以上が経過していた。この世界を第二の故郷と任じる者も少なくあるまい。また、この世界で生まれた者も少なからず居る。
「だが、戦士職が一番活躍できるのは大迷宮都市であろうな。あそこは随時敵を取り込んで殲滅戦を行う。そこならば存分にインファイトが可能だ」
「弓使いとしちゃ、乱戦に矢を放るのは勘弁してもらいたいところだね」
 軽薄な物言いにヨンも頬を緩ませ

 きぃいいいい!?

 突然の急ブレーキと横滑りに三人は咄嗟に手すりを掴んだ。
「おい、何やってんだ!?」
「前! 前!」
 妖精の慌てた声に三人が視線をやれば、百は越える数の怪物が、明らかにこちらを見ていた。
「おい、どういうこった!?」
「わからん……。こっちはあいつらから見て南側だぞ……!」
 怪物は北へ進む。無論敵対行動中はその限りではないが、それを除けばその大原則に従わぬ事例はクロスロードへ向けて進路変更をするとき位だろうか。
 そんな怪物が明らかに彼らを見ている。
「……まるで、待ち伏せじゃないですか」
 ヨンの言葉に二人の戦士は目をむく。
「どうする!? 突っ切るにしても数が多いよ。こっちは装甲車でもなんでもないんだから!」
 妖精の焦った声。
「迂回はできねえのか?」
「出来るとは思うけど、四足獣系が見えるから、かなりやばいよ」
「なら、ぐちゃぐちゃ言わずに走らせろ! 止まってたら今度は後ろから襲われるぞ!」
 弓使いの言葉に妖精は慌ててエンジンを再始動させる。迂回コースをとる車に対し、前方で待ち構えていた怪物たちが明らかに反応した。
「やっぱりこっち狙ってる!」
「行ける所まで行きましょう。相手も伸びきれば突破できる道があります!」
 ヨンの言葉に妖精は縋るように頷いて駆動機の出力を上げた。
「嫌な形で的中したな」
 岩石人の言葉にヨンは硬い面持ちで頷く。
「今回の大襲撃、簡単に終わりそうにはありませんね」
 いざとなれば討って出るために、彼は腰をあげ、動き出すタイミングを見計らうのだった。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
というわけで、以降衛星都市に移動する場合、強行突入になります。
列車砲の護衛任務なんてのも出ておりますので気が向いたらどうぞ。
クロスロード、大迷宮都市には衛星都市「開戦」の一報が流れます。
さてはて、どうなることでしょうかね。
うひひ
niconico.php
ADMIN