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【inv32】『フォールンナイトメア』
『フォールンナイトメア』
(2014/04/05)
「あわわわわわわわ」
 犬娘が倒れていた。
その姿はハッキリ言ってヤバイ。麻薬を大量に投与してもこうはなるまいという、人には見せられない顔をしていた。
 無理も無い。この霧に触れた者は全てを狂わされる。彼女は今、自分がどうなっているのかすらも理解できていないのだ。そしてこのまま放置すればやがて心臓も肺も、その機能を狂わせて死に到るのだろう。
『何やってんだ』
 くぐもった声はガスマスク越しだから。彼女は犬娘を拾い上げると近くの家に転がり込む。
「はっ!?」
 それでようやく感覚を取り戻したチコリは周囲をきょろきょろと見渡して、そして完全武装の怪しい存在にぎょっとする。
「あ、あわわわわ!?」
「落ち付いてください。遭った事ありませんでした?」
 チコリの様子を見て室内なら安全だと彼女はガスマスクを取った。そうして晒し出された顔を見て
「あ、ああ……」
 チコリは目をパチクリとさせ、それから言葉を止めて数秒。やおら小首を傾げ
「誰?」
「面倒くせえなお前らっ!?」
 変身を解いて腰に手を当てやぶにらみする女性を見て「ああっ!? クセニアさん!?」と声を挙げる。
「ったく。自殺行為だぜ、あの霧の中を何の準備も無しに歩くなんざ」
「はぁ、すみません……気付いたらもう何が何だか」
「まぁ、仕方ねえっちゃ仕方ねえんだが。こっちもガスマスクだけじゃヤバいっぽかったしな」
 吸い込まないならある程度の外出は可能だが、本格的に活動するなら防護服くらい用意しなければならなそうだ。
「この霧、何なのですか?」
「わからねえ。ただ、下手に触れたら命に関わり兼ねないシロモンってのは手前で体験した通りさ」
「そんな……」
 そんな物が町中に広がっている。町の連携は完全に断たれ、何も知らない者は不用意に霧に触れて倒れている。
「このままじゃ……!」
「数時間もすりゃ死者がわんさかだろうな」
 椅子にどかりと座ってクセニアが窓の外を睨む。
「管理組合からも音沙汰がありゃしない。普段はそこらへんに転がってるセンタまで居ない始末だ」
「どうしたら……?」
「わからん。とりあえず俺達だけじゃどうしようもねえから人集めをしたいところなんだが、外もまともに歩けやしねえ。
 地下を通る事も考えたんだけどな。PBに止められちまった」
 確かに「霧」が問題ならば触れないように地下道を通るというのは良案だろう。だが止められたとはどういう事か。
「地下にインフラがわんさか埋まっているから、らしいんだがな」
「ああ、上下水道とかですか」
「そんな事言ってる場合じゃねえはずなんだが」
 多少壊した所で霧さえ解決すれば数時間で修復してしまう力が管理組合にはある。だが、その緊急措置すらPBはNGとした。
「ほ、ほら、何か対策を打っているから無茶するなとか、そんな感じでは?」
「んなわけあるか。多分町中寸断されてっぞ」
 ここがいくら冒険者の町とはいえ、気密性のある装備を持ってる者などどれだけ居るか。
「防護服だってどれだけ効果が続くか分かったもんじゃない。短期決戦をすべきなのに連携がとれねえ。最悪の状況だ」
「は、はうぅぅ」
 耳をペタンとしてしまったチコリを見てクセニアは舌うち一つ。彼女にではなく憤りを押しとどめなかった自分に対して。
「……って、別に地上にトンネル作っても良いのか」
「あ、それもそうですけど……地面掘っちゃだめなのに、どこから土を持ってくるんですか?」
「うぉ……」
 超高位の精霊術師は何も無い空間から生み出す事もできると聞くが、あいにくこの二人にそんな技能は無い。
「土魔法使えるやつ探すしかねえか」
「そうですけど……私、外、歩けないですよ?」
 コロン
 不意におきた小さな物音。この家の住人でも居たのかと振り返るが誰も居ない。
 代わりにあったのは小さな機械。
「……何でしょうこれ?」
「それ、桜前線の時にトーマが作ってばら撒いてた装置じゃねえか?」
「え? そうなんですか?」
「……そうか。状況はアレと同じ、か」
 桜前線。クロスロードに年に一度訪れる『桜』に良く似た歩く樹木の大襲撃である。『桜』その物には大した攻撃能力が無いため、クロスロードへの物理的な被害は少ない物の、桜の花びらに触れると機械でもなんでも酔ってしまうという珍妙な特性がある事で知られている。
 その上前の年は『スギ』とのちに呼称された移動植物が大量の『花粉』を飛ばした事でかゆみやくしゃみが止まらなくなるという大惨事が発生した。
 これに対抗するために作られた簡易バリア装置がそれであった。
「どこのどいつだ?」
 問うても反応は無い。気配もどこにもない。
「あ、クセニアさん、これ」
 同じくきょろきょろと周囲を見渡して居たチコリが見つけた物。
 それは「5/4」と読める引っかき傷。
「……チ。ともあれ、こいつを使えばある程度は歩きまわれるだろ。何とかする手段探すぞ」
「えっ? あ、えっと。は、はい!」
 慌てていくつかある装置を抱えたチコリは外に出るクセニアを追い掛けるのだった。

◆◇◆◇◆◇

「エスディオーネとリンクさせて外部演算、負荷軽減
 ……流石に生体と繋げるのは変換の点で効率悪過ぎるっスかね」
 大迷宮都市傍の研究棟で作業を続けるトーマはガシガシと頭をかいて書き並べた案を眺め見る。よくよく考えれば更にそこからユグドシラルへと繋ぐのだから、逆に負荷を増大させる可能性すらあると思い到り盛大にため息を吐く。
 色々なアイディアを思い浮かべては破棄。それからふと天井を仰ぎ、そして眠そうな顔で、しかし猛烈な勢いでキーボードに打ちこみ続けるユイを見た。
 それからふと気になり視線をちょい上へ。そこにはサルーキ等に見られるぺたんと垂れ下がった系の犬耳が付いている。
「……あのルゥとか言うのにはついて無かったっスが……胸ちょうちんは人間なんスかね……?」
 このクロスロードでは人型の種族であれば効く薬などが大体均一化されるとは言え、今考えているのは個人用のしかも超微細な調整を必要とするシステムだ。
「でも、今胸ちょうちんを身体検査するわけにもいかんっスよね」
 そんな悠長なことが出来るなら、そもそも無茶をさせる必要すらない。
「ねえ、エスディオーネ」
「はい?」
「ユイは人間種っスか? それとも獣人種スか? あのルゥとか言うのにはその耳無かったと思うんスが」
「ああ……」
 エスディオーネは珍しく考えるようなそぶりを見せると
「ウェアウルフを知っていますか?」
「変身能力を持った人狼だったっスかね?」
「はい。その特性に感染があることは?」
「世界によってはそんな特性があったっスかね。吸血種……吸血鬼の変身形態の一つに狼があって、吸血鬼の配下作成能力と混合している間違った認識の世界も多かったと思うっスけど……って、感染したんスか?」
「故意に、ですが」
 その意味を計りかねたトーマだが、ふとある事を思い出す。
「……感染源はアルカっスか?」
「ええ。彼女、随分と破天荒な存在ですので」
「破天荒っスねぇ」
 エスディオーネの言わんとする所ではないだろうが、間違いなく破天荒だと言う確信はある。
「で、何がっスか?」
「彼女の種族、分かりますか?」
「今の話からするとウェアウ……ウェアキャットっスかね?」
「30点です」
 むと眉根を寄せる。点数が低いのは天才として看過できない。
「元の種族まで言えって事っスか?」
「それもありますが……彼女は妖怪種兼獣人種の元ホムンクルスです」
 あっさりと提示された回答に文句を付けようにも意味がわからない。
「妖怪種? そう言えばしっぽが二本あったっスが」
「猫又という妖怪種ですね。彼女もまた元々あんな耳や尻尾は無かったそうですが、大層力を持った妖怪狐から感染させられたそうで」
「じゃあ、ユイもある意味妖怪になってるっスか?」
「詳しくは分かりませんが、獣人の持つ生命力、妖怪種が持つ不滅性が崩壊するはずだったユイの脳を持たせているのは事実です」
 彼女の話を脳内で整理。それから眉間を強くもんで、やおら天井を見上げ、

「そんな超特異体の調整を一日でできるかぁあああああああああ!!!!」

 心の底から叫んだ。
 いくら天才を自称する超自信過剰存在でもできない事はある。わりかし一杯。
「随分と騒がしいな」
 と、不意に割り込んできた声に視線を向けると、興味深そうにユグドシラルを見上げたままの青年が居た。
「なんスか?」
「いや、ここにすげえ兵器があるって聞いたからよ。どっちも大騒ぎで早く動かせるんなら動かしてくれって言いに来た」
「できるならやってるっスよ」
「なんだ。ここもダメかよ」
 僅かな落胆を込めた言葉にトーマが眉をピクリと跳ねさせる。
「どういう意味っスか?」
「商業組合のダチョウが案を持ってくれば採用するとか言ってた癖に、全部却下しやがってよ」
 問うた意味とは若干ずれた回答。
「どんな提案をしたんスか?」
「クロスロードが霧に覆われたって聞いたからよ。駆動機に高性能爆弾つけて乗り捨て爆撃したらどうかって言ったんだが」
「……クロスロードのサイズ、知ってるっスか?」
「……サイズ? でけえ町とは思ってたが」
「直径30kmっス。その町を覆う霧を吹き飛ばすって戦術核でも搭載するつもりっスか?」
 無論そんな事をすれば町の住民がどうなるかは御察しである。
「う、で、でもよ。入口周辺だけでも吹き飛ばせれば橋頭保も作れるだろ?」
「多分そうはならないっス。霧と言ってたっスけど、本当にただの霧なら数時間で晴れるはずっスから」
「どうしてだ?」
「クロスロード上空は常に東から西への気流があるっス。なのにクロスロードを包んだままと言うならそれは霧に似た別の何かっスよ」
 桜は体験していないが、以前その気流を使ってクロスロード全体を未曾有の豪雪に見舞ったという事件があったのだ。
「つまり爆風で吹き飛ばしても、すぐに元通りになる可能性が高いってことか」
「勿論霧その物を吹き飛ばす意味はあると思うっスけどね。住人の事を考えるとその手段は採用されなくて当然と思うっスよ」
 特にその作戦が管理組合のものならまだしも、独立したラビリンス商業組合が独断で行うのは色々と後で問題となりかねない。
「なるほどな。で、あんたらはどっちに向けてそれを使うつもりなんだ?」
「考えて無いっス!」
 堂々と言い張るトーマにきょとんとした顔を向ける桜。
「まだまともに動いていない物をどっちに使えば効果的とか、判断のしようが無いっスよ。
 先に衛星都市の安全を確保すべきとは思うっスけど、クロスロードの陥落は来訪者全員の敗北という考え方もあるっス」
「でも、そんな悠長に品定めしてる場合でも無いと思うんだけどな」
「かもしれないっスけどね。胸ちょうちん、進捗どうっスか?」
 ゆっくり振り返ったユイが「自分の事?」と首をかしげるので頷いて見せると「演算砲撃は難しい」と小さく呟く。恐らく以前見せたこの場所から50km先の目標への砲撃を指しているのだろう。
「どっちかに接近させるっスか?」
「……それも難しい」
「随伴歩兵が居ませんからね」
 エスディオーネの補足。そう言えばあんな巨体を誇りながら電子戦専門という意味不明な機械だったと思いだす。確かにあの砲以外に固定兵装が見当たらない。
「それで何発撃てるっスか?」
「連射できるのは5発。その後1時間程度のインターバルが必要……
 一定以上の命中精度を求めるなら、射程は2km以内」
「ここから撃つなら?」
「……命中率は4割程度。1発撃ったら次はちょっと時間掛かる、と思う」
 届かせる事も考えれば出力は余計に必要と言う事か。
「で、その機械はどれくらいの速度で動けるんだ?」
「巡航速度で時速約20km程度」
 どっちに行くにしても二時間半というところだが、問題はそれよりも
「撤退無理じゃねえか?」
 時速50kmの武装列車でさえ絶え間ない戦闘を強いられたのだ。その速度では接近を許してしまえば撤退は困難、と言うよりほぼ不可能だろう。
「それで随伴歩兵、か。武装列車で引きずるにしてもデケエしなぁ……」
 単純重量で行くとユグドシラルの方が武装列車数両よりも重いかもしれない。
「とりあえず運用できる所までなら……あと2時間でなんとかする」
「その間に運用方法を考えろ、っスか?」
「人手が必要なら大迷宮都市で集めてくるけど?」
「ただ方針も示さずに集まるかどうか、ですね」
 エスディオーネの言葉に桜はむと小さく呻く。
 この力は来訪者側の切り札の一枚だろう。
これをどう使うか。それは重大な問題だった。

◆◇◆◇◆◇

 特異な存在が周囲に多いせいか。
 ヨンには自覚が薄いが、彼は来訪者の中でも最上位の実力を持った存在だ。
 ついでに言えば彼は「特異」となる条件をもいくつか満たしている。
「ハァアアアっ!」
 魔王の種明かしを足場に加速。風の加護を全力で受けた吸血鬼は空帝の先駆けの遥か上に掛け登ると、その巨大な頭蓋に向け、一撃を叩き込む。
 これでこちらを注視してくれれば地上への被害は……
「あ、ちょ!?」
 ぐらりと巨竜の体が不自然に揺らめき、浮力を失って墜落。
 幸いにして防壁には当たらなかったが数件の建物を引き潰してそれは停止する。
「え? ええ? こいつ、こんなに弱いのですか……?」
『「通し」で脳みそ全力で叩いたら、生物である以上ああなるに決まってるにゃよ……』
 アルカの珍しく呆れたような声が届く。眼下をもう一度見下ろせば確かに竜は死んではいない。バズーカを直接喰らったような一撃で脳が破損すらしていない竜に驚愕すべきところだが、光景が派手だったためにヨンは理解が追い付いていなかった。
「ヨンさん……やり過ぎ」
 中空を蹴って近付いてきたアインがぽつり。ヨンは「う」と呻くが、先駆けは1体では無いのだ。気を取り直す。
「……私が誘導する。ヨンさんは落として」
「いえ、誘導なら私の方が……!」
「攻撃力はヨンさんの方が上。それに落とせば」
 アインが下を指差せばガトリングガンを担いだ幽霊が落ちた先駆けに突撃し、その眼球へ向けて容赦なく銃弾を叩き込んでいた。彼女だけでは無い。多くの来訪者が我に返り、落ちた先駆けの始末に掛かる。
「1体ずつならいっそ町の中に落とした方が良いかも。外に追い打ちに行けない」
『あの数だったらなんとかなるかもね。組合の子に落下ポイント算出させるから、時間稼ぎヨロ』
 アルカからの言葉に頷きヨンとアインは行動を開始する。
 下の方でも同じ要請を受けた来訪者達が誘導を目的とした砲撃を開始。十数分後に最初のポイントが指定され、若干のずれはあったが先駆けを落とす事に成功するとルベニア等が嬉々として弾丸を叩き込み、倒しきる。
「こっちはなんとかなりそう、かしらね」
 とはいえ空ばかりに掛かりきりにはなれない。地上からも呆れるほどの数の敵が押し寄せているのだ。すでに外壁の1/3程度まで死体が積もり、巨人族ならばもしかすると外壁に手が届くかもしれない。
「幽霊になって疲労とは無縁と思っていましたが、精神的疲労というのも馬鹿にできませんわね」
 むしろ消滅に直結するそちらの方がまずいのだが、ぐだぐだ言ってる暇があるなら銃弾をばら撒くとばかりにルベニアは天へ銃口を向けたのだった。

◆◇◆◇◆◇

 冬も明けていない空は酷く冷える。
 獣化し、体毛で全身を覆ったザザが感じる底冷えは果たして気温か、それとも眼下の光景からか。
 直系30kmという巨大都市クロスロード。その全域が白く閉ざされ、唯一扉の塔だけがその存在を示すかのように頭を出している。
 その上に舞うのは二十を超える巨竜だった。
 ティアロットの助力で何とか霧の上に出たザザは、ぐと拳を握りしめ、それから豪奢なドレスを纏う少女を横目に見る。
「霧の無効化、何か手段はありそうか?」
「……ひとつ見当違いは分かったのぅ」
 なんだとザザが眉根を寄せると、ティアはある地点に白い指先を向けた。
 そこにあったのは空帝の先駆けがまるで大気から溶け出たかのように発生する光景。
「転移、なのか?」
「否。空間の揺らぎが無い。恐らくは……ほんに嫌な予想じゃが、あれは霧から生まれ出ておる」
 ザザは素早く周囲へ視線を走らせる。あった、新たにもう一匹先駆けが発生しようとしている。その地点では確かに霧がやたらと濃くなっており、まるで綿菓子をより集めるようにして空帝の先駆けが形作られ、固形化していく。
「じゃあ、霧を払わない限り、無限に湧くって事か?!」
「それ以上に、霧が『怪物』であるなら、全ての扉が危険にさらされておると言う方がまずいがの」
 いかなる手段を以てしても破壊不可能と言われるこの世界の象徴でもある異世界とを繋ぐ『扉』
 その唯一の破損例は怪物によるものだった。
「ち……霧を払う手段を早く見つけねえと」
「……霧、霧のう……」
 ゆっくりと巡らせられる視界。見た目は10歳程度の少女の瞳は、ある一点で止まる。
「これは霧かや?」
「……お前の頭の良さは認めるが、毎度回りくどい」
「魔術使いの性分じゃ。
……あの竜が『空帝の先駆け』であるならば、あの霧こそが『空帝』ではないのかえ?」
「……」
 ただの霧では無い事は先刻承知だ。だが『何らかの存在により発生した霧のようなもの』と『霧その物が怪物』とでは話が大きく違う。
「町は怪物の腹の中、か」
「風で吹き飛ばすくらいでは意味が無かろうよ。
 そもこの町の上空は常に風が流れておる。町から霧が流れておらん時点であの霧が目的を以て動く事は明白じゃな」
「なら霧を叩く方法を見つけろって事か?」
「それで解決するかは分からん。じゃが、確実に霧を削る方法はひとつわかったの」
「何だ?」
「先駆けとなった個体を潰す」
 確かに先ほど目の前で起きた現象。それは『霧が空帝の先駆けに変化した』というものだ。その分霧は消えている。
「想像で動くのは危険じゃろうが、恐らく霧その物に物理的な被害を与える能力は無いのじゃろう。あれば『空帝の先駆け』を作る必要性が無い。
 なれば、あの竜はその手段であり、同時に弱点と言う事になるのかの」
 だが、それは霧の中で動けてからの話だ。如何に凶悪な力を持った来訪者が多く残るクロスロードであっても、触れた瞬間全てを狂わされる霧の中で何が出来ると言うのか。
「いや、前にトーマが珍妙な物を配っていたな」
「ふむ?」
「桜前線に花粉とか言うのを飛ばすのが交じってた時の話だ。
 小型のバリア発生装置を相当数管理組合に納めていたはずだ。霧に攻撃能力が無いのなら、あのバリアでも充分に霧を押しのけられるはずだ」
「なるほど。なれば目的地は管理組合かの」
「ティアはそっちに行ってくれ」
 む? と小首をかしげる少女にザザは眼下の竜を睨みながら宣言する。
「どうせ霧の中や町中じゃ大した機動力を出せないからな。俺はあれを出来るだけ止める」
 たった一体でも身動きの封じられた町に空帝の先駆けが落ちて暴れれば対処ができない。
「なに、足止めくらいならなんとかなる」
「蛮勇かえ?」
「死ぬつもりは無い」
 揶揄のような言葉に淀みない答えを返すと少女は肩を竦め、口早にいくつかの呪文を唱える。
 ザザにまとわりついたいくつかの術は高度な防御、付与魔術だろう。
「一度くらいなら即死ダメージでも防いでやるがの。過信はするな」
「充分だ。他の連中が動くまでは粘って見せるさ」
 そうかと頷いた少女が霧の中へと落ちて行くのを見送り、ザザは数多の竜を睨み据える。
 動きだした一体。それに向かい巨獣は孤独な戦いを開始するのだった。

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 衛星都市側は壊滅は免れた模様ですが、未だに数多の怪物に包囲されています。
 時間的にそろそろ大襲撃の本隊が衛星都市に当たる頃合い。上空の事もあり、超カオスな泥仕合が予想されます。
 一番余裕のあるのは大迷宮都市ですが、こちらにも千単位の怪物が到来しつつあります。
 クロスロードは機能不全状態。
 場合によっては扉の全損もありえますのでみんな、ふぁいと☆

 そろそろクライマックスに突入します。
 皆さんの奮闘に期待しております
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