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【inv32】『フォールンナイトメア』
『フォールンナイトメア』
(2014/04/26)
『『共通認識による能力の拡大』については、あくまで推論です。
また、それに基づくならば、『救世主』と認識されている該当個体は最大級の恩恵を受けていることになります』
そう言えば『救世主』なんていうおとぎ話にも近い情報があったなぁと思い出しながら、考えをまとめるために桜は問いを重ねる。
「確か怪物は扉に集まる習性があるんだよな?
じゃあ扉のダミーを作っておびき寄せたりできねえのか?」
『扉の材質についてはいまだ未だ解明されていません。また、怪物の接触以外の手段で損傷させた記録もありません。
 更に「扉の園」に怪物を故意に侵入させる行為は管理組合を含む全ての組織から禁忌行為に指定されています』
つまりわからないものはコピーすら作りようがないし、他の世界との接点である『扉』に余計なアプローチをするなと言う事か。研究ならば仕方ない、という考えもあるだろうが、何か間違って複数の扉が破損した日には責任の取りようも無い。
「大迷宮都市の戦況はどうなんだ?」
 その問いにPBからの回答は無い。当然だ。この世界には100mの壁があり、通信手段は限られている。僅か数百メートル先と言えど、遠い場所の情報を自動更新する術など無い。
「ここが平穏なのでまだ余裕があるでしょう」
代わりにエスディオーネの返答が涼やかに響く。そうしてここが地下ではなく地上にあることを思い出した。なるほど、大迷宮都市が切羽詰まるようなら、真っ先にここが襲われているはずだろう。
「どれだけここの探索者は引っこ抜いても良いもんスかね」
不意にトーマがそんなつぶやきを漏らす。他の二都市が危険な状態とはいえ、大襲撃はやがてこの都市の上も通過していくものだ。仮に来訪者全てを衛星都市に集めたとしても、一匹たりとも撃ち漏らさないというのは不可能だろう。
しかし、大迷宮都市に限っては大襲撃のターゲットではないため、衛星都市での撃破状況がダイレクトに響くと言う事も考慮すべき内容だ。
「このロボット、どうするんだ?」
「大迷宮都市の露払いをしたら衛星都市の応援っスかね」
「衛星都市? クロスロードの方が先じゃねえのか?」
 本丸を落とされたら話にならない。そう桜が反論すると、トーマは相変わらずの「やれやれ」顔で言葉を返す。
「クロスロードに残っている戦力は他の都市の比じゃないっスよ。今がどうであれ、多少の応援を出してもダメなら焼け石に水ってもんス」
 単純な戦力比で言うならばその通りだろう。しかし今は外からのアプローチだけが打開策である可能性も考えるべきではないのか?
 そんな考えをよそにトーマはユイへと視線を移す。
「ちなみにフェンリルハウルって装弾数どんなもんなんスか?」
「エネルギー供給さえ間に合えば、何発でも。
弾丸の核となる物は各都市の迎撃砲に用いられている物ですので」
作業に没頭するユイに代わり、やはりエスディオーネが淡々と応じる。
「なるほどっス。そう言えばあのあたしが持ってきたのってどれくらい使えるっスか?」
「あれは魔道エンジンの強化版と思って貰えば良いかと」
 魔道エンジン、あるいはマナリアクターと呼ばれるそれはクロスロードで販売される駆動機に搭載されている動力源だ。周囲の魔力を吸収し、ほぼ永続的に駆動し続けるというシロモノである。これがあるから、莫大な燃料を抱えずに広域探索が可能となっていた。
 しかし周囲の魔力を集める装置である以上、そのサイズが出力にダイレクトに影響する。駆動機に搭載するレベルのリアクターでは、精々時速100km程度の速度が出せれば恩の字だろう。だがフェンリルハウルは当然そんなレベルのシロモノではない。凶悪無比出力を考慮すれば、あの石がどれほどののものか、冷や汗が出てくる。
「……っていうか、かなり凄いもんじゃないっスか!?」
「恐らく各世界を見渡しても高位のエネルギー供給物質と思われます」
 そんな物を5個も6個も使わないとまともに動かないとは何事かとトーマは巨躯の機械人形を見上げる。
「なら、やっぱり衛星都市を先に楽にすべきじゃないっスかね。のちのちの大迷宮都市も楽になるっス」
「だったら、最悪一発でもクロスロードに威嚇射撃とかしねえか? そうすればこっちにいくらか流れてくるかもしれねえし」
「……それはない」
 ぽつり、ユイが言葉を零す。
「やって見ねえと分からねえじゃねえか」
「あれは、そういうもの……」
「そういう……? そういえば管理組合は元々あれを知ってたんだよな?
 あれって一体何なんだ?」
「空帝」
 いや、それは知っているって。と言い返そうとした桜だったが、その言葉を止めて一瞬考え。
「空帝の先駆け、じゃなくて?」
「クロスロードを覆っているのは空帝の大部分」
「大部分ってどういう意味っスか? いや、待つっス。この天才、何でも聞いてるばかりじゃないっス! つまりあの」
「あの霧が空帝ってヤツか?」
「こら、人のセリフ取るんじゃないっスよ!?」
 遮られたトーマが目を剥くが、桜はやれやれとジト目を返す
「ここまでくれば誰でもわかるだろうが! 勿体ぶんな!」
 ぐぬぬと呻く少女横目に答えを求めれば、ユイは小さく首肯する。
「空帝が何か、と問われれば堪えられる人はいない。あえて言うならイレギュラー。本来のあり方から間違いすぎて存在の定義すらできなくなったバグ……」
「どういう意味だ? いや、それよりもどうやったら倒せるんだ?」
「知らない」
 何の迷いも無い、そして救いも無い答えに桜はガクリとずっこける。
「知らないって!?」
「言った通り。あれはバグ。
 強いんじゃない。硬いんじゃない。どこまでも狂って世界からはみ出した存在」
「でもクロスロードにちょっかいを掛けてるっスよね。アプローチができないわけじゃないんじゃないっスか?」
「うん。だから『分からない』。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。今日ダメかもしれないし、明日なら倒せるかもしれない。それは私達にも、あれにも分からない」
「ちょ、そんなのどうすりゃいいんだよ!?」
「だから、分からない。……クロスロードに居れば解析できるかもだけど」
 むむむと唸った桜はやがて小さくため息を吐くと
「下手に時間食うよりかは衛星都市に力を注いだ方がマシって事か」
 ふふんと偉そうに無い胸張るトーマをジト目で睨み、呟くのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「ええっと。どうですか?」
「う、お、おお。お嬢ちゃん助かったよ」
「いえ。近くの家に避難しますから付いてきてください」
 魔族の男にびくつきながらもチコリが提言するが
「いや、そんな悠長なことしてられん。そいつを貸してくれないか」
 と、チコリの持つ結界を指さす。
「あの、他にも救助しないといけない人が居ますので」
「だったら君よりも力のある俺の方がゲブア!?」
 いきなりつんのめった魔族はバリア装置の外に飛び出し、再び霧の呪縛で動けなくなった。
「ごちゃごちゃうるせえんだよ」
「あ、あの、クセニアさん、落ち着いて」
 げしりと気絶した魔族を踏みにじるクセニアの手を慌てて引く。
「落ち着いているさ。でもよ、むしろ落ち着いてなんて悠長なことをしてたら死人が増えちまう」
 乱暴だが判断は正しい。チコリはおずおずと頷き、男を近くの家まで運ぶと、扉を閉めて一息。
「だいぶ管理組合に近づいてきましたね。あそこに行けば何とかなるでしょうか」
「わからねえ」
 身も蓋も無いが正しい。こんな事態、誰が想定していたと言うのか。
 それにしても、とチコリは後ろを振り返る。
 十数人を保護してきたが、先にも後にもあの「5/4」というサインはあの一度きりだった。
「あのサイン、何だったんでしょうか?」
「ああ? あの『5/4』ってやつか?
 ……昔にどっかで聞いたことある気もするんだがな」
「昔? 管理組合で聞けば分かるのでしょうか?」
「かもな」
 と、話している間に二人は管理組合に辿りつく。戸を開ければぎょっとした職員の顔が並んでいる。
「君たち、どうやってここまで?」
 すぐに数人の職員が近づいてきてそんな事を聞いて来たので事情を説明すると、職員は得心が言ったように頷き、各所に指示を飛ばす。この辺りは流石である。そうしてその男は改めてチコリ達の方へ向き直った。
「有益な情報感謝する。バリア発生装置については在庫の確保と追加生産できないかの確認を取ろう。
 ……制作者が居れば良いのだけどね」
「確かトーマさんは大迷宮都市に行ったと思いますけど」
「なん・・・・・だと・・・・・・!」
 驚愕に身を震わす職員だが、すぐに気を取り直してマジックアイテムの専門家のリストを出すように追加の指示を飛ばす。
「これで一安心でしょうか?」
「何一つ解決してねえけどな」
 言われて見ればその通りである。あくまでまだ反撃のための足掛かりを得たにすぎない。
「あ、そう言えば誰か『5/4』って知っています?」
 不意のチコリの問いに慌ただしかった管理組合員がシンと静まりかえる。
「え? ええ?」
 一体何を言ってしまったのかと焦る彼女だが、周りの職員は視線を彷徨わせ、そそくさと仕事に向かってしまった。
「5/4は昔噂になった5人目の副理組合長を指すと言われる記号じゃよ」
 言葉は背後から。振り返れば新たな人物がそこにあった。
「五人目?」
「都市伝説のようなものじゃ。あやつらには答えにくかろう」
 言って甘ロリを着た少女は周囲に視線を走らせる。
「副管理組合長は誰ぞ残っておるか? それから以前にトーマという者が作ったバリア発生装置を探してもらいたい」
「それなら私がお願いしたところです」
「ふむ。それは僥倖」
「ルティア様が居らっしゃいます」
 上役らしいエルフの女性が特徴的な言葉遣いの少女へ声を掛ける。
「空を見て来た。状況を伝えたい。どこに行けばよい?」
「……では案内します」
 立ち去る二人を眺めつつチコリはいろんな意味で首をかしげ
「副管理組合長ってそんなに簡単に会えるのですか?」
「どうだろうな。もっとも普段はあいつらがやってる店に行けば会えると思うんだが」
 言われて見れば一人は食堂兼酒場の女将で、残る三人もマジックアイテム屋の店員である。普通に面会可能だ。
「そして五人目ですか」
 誰かのいたずらか、それとも別の意味か。或いは……
 その答えはさておき、管理組合が動き出せば救助の手は一気に広がるだろう。だが、何一つ解決していないのもまた事実だ。
「どうしましょうか」

◆◇◆◇◆◇◆◇

「くっ!」
 焦りが口を吐く。
 竜のあぎとがガチリと噛み合わさり、一瞬前まで自分が居た空間をすり潰す。
 砲火の音が絶える事の無い衛星都市の上空でアインは竜を背に虚空を走り回っていた。
「厳しい……かもっ」
 スピードに自信が無いわけではない。が、相手はそもそも巨体でそして空に特化した形を得ていた。地上からの支援があるにせよ、これを誘導するのは精神をどんどんとすり減らして行く。
 そんな焦りを余所にぼひゅんとやや抜けた音と共に白の煙が上がる。それを見てアインは縋る思いで方向転換。
「はぁあああっ!」
 背に先駆けの圧を感じながら富んだ先、薄く消えゆく白煙の向こうに黒の吸血鬼の姿があった。彼は中空を蹴り、速度を最大限に乗せて渾身の一撃を先駆けの眉間に叩きつける、
 果たしてたった一撃であの巨竜をよろめかせるなど、どれほどの威力があるのだろうか。
「……今は集中」
 考えたって答えは出ない。落ちた竜は地上で待機していた近接戦部隊が的確に処理している姿を確認し、傍らで上がった三つ目の煙幕を確認。 振り返って、彼女は移動を開始する。
「うわ……」
 そこで南の光景が一気に視界へと飛び込んできた。
 最早ここの識別などできやしない。目を凝らせば可能だろうが、満員電車もかくやという怪物の群れがひしめき合う様がそこにあった。眩暈すら覚える光景。一体何千、何万の銃弾をばら撒き、魔術を放ち、何日戦えばこのおぞましい地獄から脱出できるのだろうか。
 そんな問いが脳裏を駆け抜け、それが隙となった。
 巨竜の爪が右腕を薙ぐ。それだけでは無い。間近を不意に掠めた風圧があっさりとアインの体勢を崩し、痛みと相まって前後不覚に陥らせる。
 必死に立て直そうとするが、空は地上と違う。そして空を飛び回る力がるとしても、人の形を得た者の性、あるいは宿命か。その制御は一度混乱に陥った身には如何ともしがたい。
 そして、まるで逆上がりをしたかのような浮遊感の後に自分が建物の上に立っている事を知る。
「え?」
「大丈夫?」
 声に振り返ればアルカが立っていた。
「……魔法?」
「んにゃ? 単に力の向きを変えただけだけど?」
 体術で力の向きを変えた。叩きつけられる勢いで空から落ちてきた者に易々とできる事とは到底考えられないが、この少女がこの世界でも最高位の存在であろう事を思い返す。
「……助かった。感謝」
「ういうい。ま、この調子ならなんとかなりそうかなって感じはするけど……ちょっち地上掃討が追いつかなくなりそうだねぇ」
 アルカの視線の先、衛星都市の北側には多くの怪物が都市の横を抜け、北進する姿が見てとれる。その数は百や二百では到底きくまい。
「しかも、先駆けしか居ないし、クロスロード、酷い事になってなきゃ良いけど」
「……不吉」
「ごめんごめん。さて、もうひと踏ん張りしよっか。空片づければもう少し処理能力も上がるっしょ」
 と、二人は大気の奮えに振り返る。

ごっ!!!

 光が外壁の向こうを走り抜け、彼方へと消えて行く。その経路にあった怪物を全て呑み込んで。

「……?」
「……あー、ユグドシラル、かな」
 当然アインもその名前は知っている。ここに来る際にもその巨体は車窓から眺めた。
「あれ、使えたの?」
「使えるようにしたんじゃないかな。って言うか」

ごっ!!

 彼方が輝いたと思うや二発目が反対側の壁の向こうを走り抜け、同じく怪物を削り取っていく。
「まさかあれを解放したわけじゃあるまいし……なんか別の方法でも見つけたのかねぇ。
 なんにせよ、これでかなり楽が出来そうにゃ」
「楽……」
 空の敵の対処法は見えた。陸も削りとれると言うのであれば確かに負荷はぐっと減る。
 しかし彼方からは呆れるほどの怪物が迫り続けているのも事実だ。
「あと何時間戦えば良いのかな」
「まー、三日くらいでなんとかなると思うけどねぇ。流石に七日は勘弁にゃ」
 死を待つような七日間。それを思い返すような言葉にアインは思う。
 かつてはこんな壁も防衛施設も無いままに、あんな途方の無い数の怪物と戦い続けた悪夢があったのだと。
「戻る」
「うい。疲れたら無理しないでね。こっちのは多分あれ以上増えないから」
「分かった」

 ユグドシラルの支援を受けた今、衛星都市の趨勢は大凡決まったように思える。
 ならば、次は何をすべきか。
 或いは─────

◆◇◆◇◆◇◆◇

 『全ての世界と繋がる地』ターミナル
 この不思議な世界にはいくつかの特殊な法則が発見されている。
 それは新しき来訪者を混乱に招く事もしばしば。その筆頭が『100mの壁』であろう。魔法はおろか、通信やテレパシー、未来予知なども使用不能となるこれを忘れた事故は日に数件発生しているとさえ言われる。
 ターミナルの特殊な法則。その言葉からは『100mの壁』か『共通言語の加護』が真っ先に連想されるだろうが、もう一つ忘れてはならない重要な法則がある。
 それは────

 巨体が風を撃ち抜く速度で巨竜へと迫り、渾身の一撃がその背を強かに打つ。それを堪えて反撃を狙う巨獣の姿がそこにあった。
彼は失念していた。なぜならいつも通りであればそこは常に「安全地帯」のはずだからだ。十万……外に出ている来訪者を考慮しても5万人以上がこのクロスロードを闊歩している。更には管理組合とエンジェルウィングスによる上空観測網のお陰で「その法則」は適用されない場所である。
 だが、今は違う。厚い霧が全ての条件を無に帰している。
「ぐっ!?」
 追撃の一打を放とうとしたザザが不意に空中でつんのめる。ありえない状況と足首に感じる圧。振り返った視線の先、後ろ足と化した己の足を掴むのは空から生えた竜の手だった。
「これ……は!?」

 ターミナルでの重要な法則。
 その中でも最も多くの行方不明者……恐らくは死者を出したであろう事象。
 それは「空を一人、或いは少数人数で飛んではならない」だ
 黎明期。この地へと多くの軍事力を送り込んできた『ガイアス』は、この世界を調べるために数多くの探査機を飛ばした。しかしその大半は『100mの壁』に阻まれ用を為さなかったのである。それならばと有人飛行機による調査を開始し、それは起きた。
 出発した有人探査機の全てがロスト。その痕跡すら見つける事はできなかった。その後数度同じ事が起き、また飛行能力を持つ数名がやはり人の目の届かないところで消失したことから、「単独、或いは少人数での飛行をした者は消失する」という怪談めいた法則が知れ渡る事となった。
 そして今、霧に阻まれ視界を得られないこの地でザザは一人空にあった。

「これが、空で消えた理由……っ!?」
 その手は鱗に包まれた───そう、今打倒しようとした「空帝の先駆け」の腕だ。

 がしり、がしり

 振りほどく間もなく第二、第三の手がザザを掴み、恐ろしい力で引っ張り始める。
「くっそ!?」
 次いで腹に衝撃。
 頭も掴まれろくに動かない中でなんとか眼球を動かせば竜の牙が空に舞い、ガチガチとその歯を合わせているのが見えた。
「噛まれた、いや、食おうとしているのか!?」
 気付けばいくつもの竜の口が彷徨い、そしてザザに狙いを定めている。最初の一撃はティアロットの残した防御壁に阻まれたのだろうが、あの牙に一斉に食いつかれればあっという間にそれも消失する。
 中空で、しかも全身の至る所を掴まれては力の入れ様が無い。今までに消失した全ての者と同じように、ザザもまた全て食いつくされ、消えて行く未来がおぞましくも明確に彼の脳裏に描かれた。
 なにしろ今まで誰も、高速で飛ぶ戦闘機でも竜族ですらこれを振りはらえず、この事実を伝える事を許されなかった。恐らくは条件下────目撃者無く飛翔する者に対する特別な強化があるのだろう。
 目まぐるしく彷徨う思考は牙に届かない。ただ、品定めが済んだとばかりにそれらはザザへと向けられた。
「くっ……!」
 せめて一矢。その意識も空しく、その牙はザザに突きたてられ

 一瞬で消失した。

「なっ!?」
 急に放りだされたザザは間一髪霧に触れる前に体勢を立て直して滑空する。
「どういうことだ!?」
 腕や体の各所には物凄い力で抑えつけられた時の痛みがまだ残るし、周囲の「先駆け」は消えては居ない。何故か不意に現れ、ザザを拘束した中途半端な「部分」のみが消え去っていた。

 チッ

 その頬を目に見えぬ速度で何かが擦過する。
 混乱のまま傷の痛みから察した方向に視線を向ければ、霧を突きぬける荘厳な塔の姿。そしてその窓から身をのりだす何者かが微かに見えた。
「あれは……?」
 確か、先にあったヨンを追いかけまわす騒ぎの時に、物凄い遠距離から狙撃をしていた者が居たと聞いた事を思い出す。律法の翼の過激派、その隊長格の一人であったか。
「……目撃者が増えたから、助かった、ということか」
 休息に全身が冷え、どっと脂汗が浮かぶ。それは遅ればせながらの恐怖と安堵。
 否───まだそんな悠長な時間ではないと気を改める。
 そう、今まで悠々と空を舞うだけだった先駆け。その全てが自分を見ている。秘密を知ってしまった者を許さぬとばかりに。

「ハッ、上等!」
 町を守るために、そして、この事実を持ちかえるために。
 ザザは闘志を新たに巨竜へと向かうのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
お待たせしました。
さて大襲撃も終盤戦に入ります。今だクロスロードはかなり危険な状況です。とりあえずの対処方法は見えたようですが、霧に対するアプローチは見えていません。
管理組合の手でバリア発生装置や風の魔術師による救援活動が展開されます。戦力になる人には優先的にバリア発生装置が頒布されるでしょう。
 一方で大迷宮都市と衛星都市は今のところかなり余裕が見えたようです。今であれば大迷宮都市、衛星都市間の行き来も可能でしょう。
 
 というわけでリアクション宜しくお願いします。
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