<< BACK
【inv32】『フォールンナイトメア』
『フォールンナイトメア』
(2014/06/07)
 立ちまわりは上々と言えるだろう。
 周囲には数多の竜。しかし目に見えてその数は減っている。一時は絶望すら見えた戦況。それがどうだとザザは笑みを口の端に乗せた。
 きっと霧の下では多くの者が状況打開のために動き出しているのだろう、同じ種でも殺し合う知的生命。しかし同じ敵を見据えたこの世界ではその個々の特性は相乗し合い、途方も無い絶望すら超える力になる。
 個の最強がそこに必要なわけではない。
 全としての最善があれば何とでもなる。
「試してみるか」
 多少の隙、ミスは他が補ってくれる。ならばあとを気にせず全力を尽くそう。

 それはイメージだ。
 ただ己をひとつの動作に集約させる。
 心臓の動きも、呼吸も、血の流れも細胞の一つ一つも、ただ愚直なるひとつの装置として、その動作を行うための存在と任じる。
 拳が引かれる。
 足は当然のように空を踏みしめ、全ての筋肉が、その拳を前へ送り出すためだけに動作する。
 当たるのか? 通用するのか? そんな思考は無い。
 「絶の一技」とは全てを絶ち、ただその技ひとつに己を昇華する、余りにも単純で、しかし如何な高名な僧であっても至るに遠い頂きの境地。
 これを教えるのは不可能だろう。いかなる言葉を尽くしても伝わる事はあるまい。
 ただ一つ。その全てを見て、共振できた者がそこに至る権利を持つ。
 彼が見たのは一本の槍だった。
 ありとあらゆる言葉を排し、そこにあるのは槍。人の形をしていたとしても、それは槍で穿つための一つの形でしかなかった。
 彼に人としての思考は失せる。
 『敵を穿つ拳』としての当然。方程式、そこに感想など不要。放つと決めたならば約束された結果があるのみ。
 故に、全てを為し終えて、人ごとのように背後を省みる。
───巨竜がその腹に冗談のような大穴を開け、地に落ちて行くという結果を。
「……ふむ」
 驚くというのは妙な話か。しかし彼は自分が想像したより遥かに大きな威力にまず驚いた。そして頷く。全身をむしばむ倦怠感は技の反動だろう。だがそれもこの世界であればいくらでも誤魔化し様がある。
「ほれ」
 滑るように近づいてきたティアがポーションの瓶を投げ渡す。彼女もまた、魔術でこの技を使う者だ。自分の状態を分かっての行動だろう。
「それを多用するなら、回復は充分に用意しておく事じゃな」
「心しておこう」
 敵はまだ多い。霧は晴れない。そして霧が晴れぬ限り、先駆けは生まれる。
「暫く付きあって貰うぞ」
 ザザは新たな標的を睨み、ポーションを飲み干した。

◆◇◆◇◆◇◆◇

 定期的に放たれる圧倒的な火砲。
 その轟音に引かれ、大迷宮都市に駐屯していた探索者が相当数地上まで上がってきていた。
 悠長に、と思うかもしれないが、今現在大迷宮都市に備え付けられた迎撃砲はほぼ稼働を中断している。その主な原因が頭上で砲撃を繰り返す「救世主」ともなれば、目にしておきたいと思うのが人情というものだろうか。
「当面はこれで大丈夫と思いますわ」
 そんな中、計算を得意とする一部の来訪者が集まり、分からない物には一文すら読み解けぬ式をどこからか持って来たホワイトボードにびっしりと書き、議論をしていた。
「ユイ、これを使えますか?」
「入力する」
 頷いてユイが手元のパソコンを操作するのを見守りながら、ドワーフの学者があごひげをしごく。
「いやはや、とんでもない人ですな」
 その評価は今さらだが、その事実が判明した今、誰もが驚愕とそれ以上の興味を持って彼女の後姿を見る。
「まさか微細な大気の揺らぎを基準とするあらゆるデータをもとに、衛星都市の現状を想定していたとは」
 ラプラスの悪魔という理論がある。この世のすべての原子の位置とベクトルを知る事が可能ならば完全な未来予測が可能である。と言う物だ。これは不確定性理論や現実にそのような事ができるシステムが存在しえないということからまさに空論として扱われているが、限定的に多少の誤差を容認しての予測はできうる。
「確かに延々と荒野の続き、原産の生物が皆無のターミナルでは雑音は少ないでしょう。が、そんな事が出来る人は誰も居ない。知の神ですら困難ではないかと思うほどです」
「むしろそっちの方が興味あるね」
 機械生命体の学者がガンレンズを光らせる。
 二人の会話を聞きながらトーマは胸中で否定をする。彼女が観測を元に50km先の状態を予測しているのは事実だろう。しかしそれは大気の揺らぎからではない。彼女の特性を考えれば、それはきっと電気、電磁波、地磁気といった類の物からだろう。彼女は計算で成立するレーダーのようなものだ。
「あ、トーマ」
 そんな会話を横に聞いていたトーマに抑揚のない声がかけられる。
「……アインさんっスか?」
「うん」
 黒を装う少女は緩く頷き、彼女へと歩を寄せる。
「衛星都市の方がひと段落したから来てみた。砲撃気になったし」
「届いていたっスか?」
「綺麗に薙ぎ払ってた」
 ほんの僅かではあるが、味方に当たっていないか心配だったトーマは表に出さずに安堵する。いくらなんでも寝覚めが悪い。
「……あの砲台、どれだけ撃てるの?」
「聞いた限りだと半永久的に、っスかねぇ……チャージ時間は必要らしいっスけど」
 その言葉にアインはぽかんとし、それから丁度撃ち放たれた一撃を見送る。遥か彼方、見えぬ先に光が走り、きっと衛星都市にまとわりつく怪物を薙ぎ掃うのだろう。
「それ、インチキ」
「確かに、何か弊害があっても不思議じゃないっスね」
 二人が知る限り、あの一撃を防ぎきれる手段は無い。この世界の上位陣ならば何かしら手段を用意できるかもしれないが、間違ってクロスロードにその砲門が向けば、万単位の来訪者が為すすべなくあっさりと消滅するだろう。
「胸ちょうちん、あれ、本当に無限に撃てるっスか?」
「……ん?」
 学者連中の組み上げた公式でだいぶ楽ができるようになったからか、気の抜けた感じでうつらうつらしているユイが顔をあげる。
「わから、ない」
「分からないって……」
「複数電池が必要なものを1つの電池で無理やり動かしてるようなものだから……
 いつ電池に異常を来してもおかしくない」
「……爆発オチとか無いっスよね?」
「ない。電池が壊れるだけ」
 それはそれで非常に回避したいのだが、衛星都市での戦いは「大襲撃」という災害からすればまだまだ序盤である。止めるなんて発言はできない。いや、もう充分に優勢を保てそうだからやめて良くないだろうか? 元々無かった火力なんだし。
「トーマ、大丈夫?」
「はっ!? な、何も考えてないっスよ!?」
 ああ、何か考えてたんだなぁという顔をしつつ、アインはユイへと視線を移す。
「でも、今は充分に対処できているから、連射の必要は無いかも。また大事が起きたら、必要になる……」
 その時になって「撃てません」は流石に笑えない。
「あっちとの連絡が密に取れれば良いんスけどね」
「エンジェルウィングスが居ればもう少し連絡が密に取れるのだけど」
 話を横で聞いていた学者の一人が呟く。だが彼らの大部分は霧の中に閉じ込められている。
「ともあれ、武装列車の運行を開始するそうですから、暫く待機して、状況のやり取りをするのも手かと。
 この調子だと大迷宮都市の防備は備え付けの兵器で充分に可能でしょうから」
「クロスロード側はどうなっているかさっぱりっスからね。ユイも少し休んだらどうっスか?」
「くぅ……」
「……もう、寝てる」
 計ったようにやってきたエスディオーネがユイの体を支えるのを呆れながら見つつ、アインへ視線を送る。
「そうなると、衛星都市を開放する方が優先っスかね?」
「……駐屯兵力での迎撃は可能だと思う。でも、敵は次から次に来る。
 応援は送るべきと思うけど、それですぐに解決とはならないと思う」
「……そうっスねぇ」
 トーマは周囲を見渡し、それから排熱の煙を上げるユグドシラルを見上げる。
「ともあれ、これの運用は最後までやるっスよ。これさえあれば、今のところ衛星都市は落ちる事は無いっス。クロスロードはクロスロードの連中に任せるっスよ」
「……うん」
 アインもまた周囲へと視線を走らせている。
 だがそれはトーマのとは意味が違った。
 興味、好奇、様々な「欲」を孕む視線が野次馬の中に混じっている。
 それは当然かもしれない。
 でも、妙に気になる。
「……私もここに残る。防衛、必要」
「そうっスか。じゃ、こっちもちょっと休むっスよ、流石に疲れたっス」
 ふらふらっと歩き去る少女を見送りながら、アインはその場にたたずむのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「どうも」
 不意に現れた青年にロビーに居た者は皆、動きを止める。
 それから囁きが一気に巻き起こった。
「え、ええとですね。アルカさんに頼まれてルティアさんにお届け物なんですが」
 それをかき消すためにも、やや大きめの声で言い放つと、やや上役っぽい男が顔を向けて来た。
「副管理組合長に?」
 気難しそうな有翼人種にヨンは頷きを返す。
「ええ。それから回りたいんでバリアを貸していただければと思います」
「……いや、霧を避ける方法があったからここに来れたんじゃないのか?」
「その方法がルティアさんへのお届け物なんですよ」
 言って手のひらに乗せたのはアルカに預かった小さな宝石。
「それをここに寄越せるということは、衛星都市の状況は随分と良いようですね」
 奥から現れた女性は微笑みと戸惑いを混在させながら、ヨンの手のひらを見つめる。
「とりあえずの山は越したと思います。それよりもこの霧があり続ければ、結果的に衛星都市に悪影響が出るのでは?」
 この霧が何なのかはまだ理解していないが、少なくとも触れて大丈夫な物とは思えなかった。それ故の発言にルティアは首肯を返す。
「今後の趨勢を踏まえ、ここは多少無茶でも解決に向かうべきでしょう。
 それをこちらに」
 ヨンは頷きアルカから預かった石を渡す。
「……今日を境に、この世界はひとつの災厄を迎えるでしょう」
 涼やかな声音がロビーの誰もの音を制止し、響いた。
「でも、私は信じます。この世界に到り、この世界を少なからず愛してくれる者が、かつて封じるしかなかった災厄にも立ち向かえる事を」
 その言葉が何を意味するのか、この場の誰にもわからなかった。

 しかし、その言葉と同時に彼女の前に現れた一本の杖。

 それが『異常』であることは、誰もが知識でなく、感覚で理解した。

「『不理解』を『理解』に。触れ得ぬ『そうでないもの』を『そうである』ものに」

 そして、クロスロードに居る全ての者は、霧を薙ぎ祓う、輝く風を見た。

「創世神の杖を以て、我は我が意志を謳いましょう。
 契約陣がひと欠片、風の全権支配を介し、そを彼方までに伝えましょう」


 クロスロードで救助活動をしていた者達は、等しく空を見上げる。
 濃霧と言うのもおこがましく、霧にあらざる混沌と害意のそれが一陣の風に薙ぎ払われる様を。
「……これは……」
 その中の一人、チコリはまぶしさに目を細める。
 約一日の間、クロスロードから視界を、何よりも陽光を奪っていた霧が薄れ、晴れて行く。
 その風に纏う光が余りにも幻想的で、彼女だけなく、全ての者が動きを止め、そして追いかけるように差し込んだ陽光を見上げた。
「なんとか。なったのでしょうか?」
 それと同時に、ここではないどこかからまるで染み込んで来たかのような不安が胸中を擽るのを感じ、小さく身を奮わせる。
 それでも、この困難な状況は打開されたという事実だけをまずは捉え、彼女らは活動を再開する。

 そうして、ロビーに集う者達もまた窓を塗りつぶした「白」が薄れ消えて行く事に気付く。
「霧は解決した、ということでしょうか?」
「一時凌ぎに過ぎません。そして不完全で混沌化したあれを排除するために、より大きな災厄を解放したのかもしれません」
 予言者の放つ言葉が持つ、未来に対する底冷えするような戸惑い。それが彼女の言にある。
「しかしかつて四人しか居なかった我々では為し得なかった事も、皆が共にあるのであれば、超える手段も必ず得るでしょう。
 この世界が、安寧の場であると定めるためにも」
 問いただしたい言葉は数多ある。しかしその全てより先んじて彼女は告げる。
「これより上空に残る『空帝の先駆け』の排除を優先。同時に衛星都市への支援活動を再開します。また『センタ君』さんには大至急町の状況確認並びに要救助者の捜索活動を開始させてください」
 数秒の戸惑い。しかし、誰かがその指示に足を動かし始め、次第に周囲は同調する。
 そうして再び慌ただしく動き始めた世界の中で、ルティアはヨンを見遣った。
「ありがとうございます」
「い、いえ。お遣いしただけですし」
「いえ、貴方はこれを預けるに足る人物だと、アルカさんが認めていると言う事です。
 これは、おいそれ他人の手にゆだねるわけにはいかない物ですから。」
 彼女の手にする石。それが尋常でない力を有している事は、使用した自分自身が分かっている。かつて、大いなる吸血鬼としての力を持っていた自分は空を舞う事もまた容易かった。しかし格闘家として地に足を着け、立ちまわる程の自由を得る事は難しい。しかしその石を手にしての先駆けとの戦いに、その不便さは微塵も無かった。
「それは……」
「今は公開できません。ただこの世界にとって重要で、そしていずれ不要で無くてはならない物と、言っておきます」
 彼女は確か『創世神の杖』と称した。額面通りであるならば、確かにこの世界にとって重要な物であるだろう。
「アルカさんの言葉を借りるならば、我々はブラックジャックにおけるエース札だそうです。でもエース札だけでブラックジャックは作れない」
「手役を作るために必要な要素が来訪者、と言う事ですか」
「はい。しかしブラックジャック故にバーストもありえます。
 例えば、貴方とゆかりのある存在など」
 この後会いに行こうとした存在だからすぐに頭に浮かんだ。あのはた迷惑な自称神様の事だろう。確かに札としての数字は大きいだろう。或いは、ルールを無視して12や13という数字を主張しかねない。そして言葉を借りるならば、彼女の干渉は「バースト」の条件足りうる。
「貴方と、貴方にまつわる者は多くの鬼札に関わっているように見受けられます。
 ……私は貴方達に期待します。どうか良い未来を」
 その言葉と共に彼女はややおぼつかない足取りでロビーを去る。
「……」
 クロスロードの大事は目途が付いた。衛星都市にとんぼ返りするのも手だが、まだ霧の残した先駆けが空を舞っている。良く見れば見慣れた知り合いの姿もそこにあった。
「ヒーローの皆さんの事もありますし、少しこちらで活動していきますか」
 ヨンはそう嘯いてロビーを後にするのだった。

 余談ではあるのだが、ヒーローに合流したヨンは彼らからやたらと熱心にチコリの事を聞かされるのだが。
 とりあえずそれは聞き流しておく事にしたと言う。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「う、うぉ?!」
 交代を告げられた桜だが、その手が機関砲から自分の意思に反して離れない事に驚愕の声を上げる。まさか気付かぬうちにマヒか何かを喰らったの────
「よっと」
「ぐふ」
 襟首を容赦なく掴まれて無理やり機関砲から外されると、自分の両腕がじんとしびれてまともに動かない事を強く認識する。
「機関砲の振動って案外シャレにならない……でしたねぇ」
 懐かしむようにルベニアは頬に手を当て呟く。余りにも激しく、そして長く継続した振動が手の感覚を狂わせてしまっていたということだろう。起き上がろうとするのだが、腕が上手く動かない。
「それでもかなり振動が少なくなるように設計されたものなんですよ?」
「マジかよ」
「まぁ、慣れですわね。剣だこみたいなものです」
 何か違う上に、念力で砲を扱っている幽霊にたこも何も無いだろうと胸中で呟く。
「十分もすれば治りますよ」
「それまでここに居るさ。状況はどうなんだ?」
「相変わらず気持ち悪い位に敵だらけですわね。空が三、敵が七、でしたっけ?
 こちらだと敵が十で地面なんて見えやしませんけど」
 今の今まで彼が砲の先に見ていた光景はこの周囲どこでも変わらないらしい。見えた地面は敵の死骸で、ただ耳朶を打ち続ける機銃の音と共に現実感がどんどん薄れて行った。
「もう、こんなの自動で撃たせればいいんじゃないのか? それくらいできるんだろ?」
「できるそうですが、やらないそうですね。
 狂わされたら目も当てられないとかで」
 魔術や超常的な手段で混乱を仕掛けてくる怪物はいろんな世界に存在する。電子の世界であってもバグやウィルスが機械類を狂わせる。確かにそういう物への対策は必要かもしれない。
 だが、この戦いが終わってクロスロードであった話を聞けば別の意味で強く理解するだろう。自動なんてとんでもない、と。
「大迷宮都市行きの列車は出せたんだろ?」
「ええ、もう数時間前に。そして帰って来たそうですよ」
「って事は、向こう側は安泰ってことか。そりゃそうだよな、あんな常識外れの砲があるんだし」
「聞いた話ですけど、クロスロードは謎の霧に覆われているそうです。ある意味補給線を断たれている状態、というわけですが」
「……はぁ? ちょ、それ、のんびり話す事じゃなくね?」
「ええ、でもここで慌てて帰ったところで何も始まりませんし、怪物を多く通せば混乱に拍車をかけるだけです。
 ここはクロスロードに居る人達を信じるに越した事は無いかと」
 極めて正論だが、どこか落ち着かない桜はしびれて動かない両腕を忌々しく見ながら、やがて深く息を吐く。
「ま、そりゃそうだな」
「大丈夫ですよ。姉さんに聞いた限りだと、クロスロードにはちょっと理解不能な化け物が相当数居るとの事ですし」
「50km先から光線撃ってる時点で理解不能だよ」
 PBから流し聞きした歴史の一端を思い起こす。
 死を待つような七日間。その最後に現れ、目の前に広がる悪夢をたった四人で蹴散らしたという「救世主」の存在。それもまたクロスロードにあると言うのなら、確かに自分が心配するだけ余計なお世話かもしれない。
「そういや、空帝の先駆けだっけ? あれの調査とか誰かしてるのかな?」
「来訪者の中には研究者も多く居るとの事ですけどね。ただ、死体は消えたそうです」
「消えた?」
「ええ、死亡して暫く立つと溶けて消えるそうです。他の怪物はそんな事無いのですけど、精霊種やアンデッドではよくある話ですね」
「アンデッドがそれ語るなよ」
 分類幽霊のルベニアは小さく笑みを零す。
「じゃあ、組織行動した怪物のサンプルとかは?」
「取りに行ってみます?」
 今は腰をついているため見えないが、砲の先にある数多の死体とそれを踏みしめ、馴らしている後続の怪物軍団が大地を覆い隠している。もはやどれがどれとも知れぬ状態だろう。
「……もう組織行動をしているのはいないのか?」
「居るかもしれませんけど他のに紛れて、って感じでしょうかね。
 あの砲撃のせいでざっくり削られて行っていますし」
 ままならないなぁと肩を竦め、ようやく利いてきた感覚を掴み直すように手を握り締める。
「その調査をしたいのであれば、大襲撃の最後までここに居るべきですね。
 引ければそこは宝の山、というには醜悪ですが、価値的にはそんな場所ですよ?」
 総じて言えば「怪物」だが、見方を変えれば一生出会う事のない種がごろごろ転がっているということだし、中にはその体内でしか生成されない希少な物質も山積している。
「相手の妙な動きには興味なし、ってか?」
「興味がある人も居る、と言う事です。その結果が全体に伝わればそれで十分では?
 頼まれもしないのに隅から隅まで調べたがる変人は随分と多いですし」
 その筆頭が図書館地下の連中だろうか。
「それよりも、休める時に休んだ方が良いですよ。今さらでしょうけどね」
「おう」
 この後、大襲撃は五日間に渡り続く事になり、衛星都市周辺には怪物の死体が山積する事になる。
 が、クロスロードの封鎖を解除し、大迷宮都市にもかなりの余裕を生んだこの戦いは二日目にして決着を見たと言えよう。現に怪物は衛星都市の二重防壁。その一つ目すら超える事は叶わなかった。
 文句の無い大勝利。その結果に誰もが笑みを零す。
 しかし……史学や政治などに詳しい者は一抹の不安を胸に、妄想を脳裏に描く。

 平和とは混乱のプロローグ。
 数多世界に措いて繰り返された呪いのような不文律。

 かつて最悪の災害であった大襲撃。
 それを御せるまでになった今、果たして出身世界も、主義主張も、存在そのものも違う生命が同調し続ける事が出来るだろうか、と。

 その答えは来訪者達が、己の身で示す他無い。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

というわけで(主に更新ペースのせいで)長い事続きました大襲撃、これにて完了となります。
今回については1話参加(リアクション)を返した数×20000Gの追加ボーナス。
また、最終回参加キャラに10点の経験値
更に衛星都市に最後まで居た人には魅力×5万Gのボーナスをお渡しします。
(TRPGデータの無い方は魅力5として計算してください)

また、今回の結果、
ヨンさん、ザザさんには『名声』
トーマさんには『クリエイター』の特別スキルをお渡しします。
詳細は常時能力参照です。

お疲れさまでした。次回のシナリオもよろしくおねがいします。
 
niconico.php
ADMIN