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【inv33】『不毛の地に』
『不毛の大地に』
(2014/09/03)
「ヨンさん、よくここ一人で突破できるね……」
「まったくだ。……まぁおおよそ『森』に気にいられ過ぎてるせいだとは思うが」
 ザザとアインは流れる汗をぬぐいつつ先を見据える。うっそうと生い茂った草花のどれが敵意を持ち、襲い掛かって来るかわからない『森』。管理組合から重点攻略地点に指定されながらも、ほとんど放置され続けてきた理由を二人に示し続けている。
「ザザさんが居て、助かったかも」
「お互い様だ」
 二人は元々バラバラに侵入したのだが、幸運にも合流し行動を共にしていた。
 砲閃花の大砲のごとき種を打ち弾く影からアインが飛び出し、その茎を愛用の処刑鎌で切り落とす。本来草を刈る形状故に本領発揮とも言えるが、余り嬉しくない。
「……それにしても、暑い」
「ああ。夏場だから、ってだけじゃねえな」
 確か、と記憶を掘り起こせばこの地面は常にある一定量の熱を発しているそうで、それが夏の暑さと無駄に高い湿度と相乗し、二人の体力を石臼でひきつぶすかのように削っている。
「ゴールはどこだよ……ったく」
「中心には向かってるハズ」
 PBの位置確認能力を使って確認しつつアインが空を見上げる。朝早い時間から乗り込んだのにもう日が傾きかけている。いい加減諦める事も考えたが、出るのも一苦労と思えばコアに遭遇した方が安全だろうと言うのが二人の判断だった。
「こんなことならヨンの首根っこ掴んでくりゃ良かったぜ」
「……同感」
 何よりもこの森の厳しいところは安全地帯が存在しない事だ。気を抜こうものなら危険な植物のツタが手足にまとわりつき、有毒な花粉を吸い込み、あっという間に行動不能になってしまう。おちおち休憩もできない。
 なるべく体力を温存しつつ進む事十数分後、植物の汁などで更にどろどろになった二人はようやく開けた場所に転がり出る事が出来た。
「やっとゴールか……」
「ダレ?」
 ひょこりと顔を出すコア。ザザは遭った事があるが、下手すると一年以上ぶりとなるため、「ヨンの知り合いだ」と答えると、彼女はきょろりと周囲を見渡す。
「ヨンはいないの?」
「悪いが今日は居ない。ちょっとあんたに聞きたい事があって来たんだが」
「……なに?」
「……その前に、ちょっと休憩させてくれ」
「同意〜……」
 ぐったりとへたり込む二人をコアは不思議そうに眺めるのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「森の拡大?」
「そういう事になるのか?」
 問い返されてザザは眉根を寄せる。
 彼が問うたのは足元に広がる緑、つまり森の土台をもっと広範囲に広げる事が出来なかったのかという問いである。確かに端的に見ればそれは森の拡大だろうか。
「いや、しかし上にある植物は危険だし、この土台だけを拡大するってのが要点か」
「広げる事はできる。けど、制御はできなくなる」
 実際制御が届かなくなったため、コアの一部が暴走、というか敵対して今の森の状況が生み出されているのだ。
「この地面も制御しているのか?」
「移動しないとだから」
 移動して地面の毒を吸い上げ、貯め込むというのが森の目的。その上に生える植物はその補助と、一部の実験の結果である。
「この地面に普通の植物は育てられるの?」
「……わからない」
「いっそ種でも持ってくればよかったか」
「他の子、多分育たない」
 コアの言葉を二人は吟味し、先にアインが答えに辿りつく。
「……確かにあの植物よりも栄養が奪える気がしない」
「ああ、そういうことか」
 人を襲うほど元気な植物を押しのけて、ただの植物が繁茂できるとは確かに思えない。
「それに、『草』だけじゃすぐ枯れる」
「ん? 地面から栄養を……あ、いや、そうか。地面に栄養は無いのか」
 この森は上の凶悪な植物を含めてひとつの生命サイクルを形成しているのだ。『水風船』などと呼ばれる周囲の水を集める植物。『ホウセンカ』により討伐した怪物を『食人植物』が喰らい、エネルギーに還元して周囲に分け与えている。そして得たエネルギーを熱に変えて森の温度を『草』が保っている。
「……やっぱり地面から栄養は取れない?」
「わからない。回収したのはそこにあるけど」
 彼女の後ろに繁茂する禍々しい色のキノコには地面から回収した成分が蓄えられている。この中にはうっかり破壊するとザザ達が即死するものすらあり、定期的に探索者が回収し、研究室や施療院で解析をされているのだそうだ。
「ここで植物が育つのは……クロスロードとは意味が違う?」
「そんな気がするな。いや、完全に違うかどうかはわからんが……」
 二人が考え込むのとどこかぽやっとした顔で眺めるコア。黙っていても仕方ないとザザは思い浮かんだ事をとりあえず口にしてみる。
「なぁ、クロスロードの中にあんたの仲間がいたりするのか?」
「お父さんの所にコピーが居る」
「いや、そういう意味じゃなくて、土地そのものにだ」
 もし既に彼女と同じ、或いは改良された存在が根付いているのであれば、クロスロード内で植物が繁茂する理由がつく。
「……」
 ほんの少し、コアの表情に困惑に近い物が浮かんだのを二人は見た。言葉が見つからないのだろうか。ぐるぐると視線を彷徨わせ、やがて言葉を見つけてザザを見返した。
「くろすろーどには近づいたら怖い。おこられる」
「博士……お父さんに?」
「ちがう。もっとこわい」
 クロスロードに怖い人。そんな候補はいすぎて困るが、
「この子。森から出た事無いんじゃなかった?」
「……確か、そんな事を聞いた事があるな。ってことは、管理組合の連中が釘を刺しに来たとかか?」
 数多の危険植物を抱える森がクロスロードと接触すれば間違いなく大騒ぎだ。壁の損傷も懸念される。釘を挿すぐらいやるだろう。しかし、
『こわい』
 その一言が気に掛かる。
 管理組合の有力者は大体見知った気がするが『こわい』と言う言葉が似合う人物が居ただろうか。
「フィルさん?」
「あの人は確かに怒ると怖そうだが……こいつに対して威圧するとは思えんな。
 ……イルフィナか?」
 言ってみたが、彼も基本紳士的な態度で接する。よほどの事が無い限り恫喝などしないだろう。
「どんな人なんだ?」
「……」
 彼女は答えない。『恐れて』と言うわけでは無く、どうも表現できなくて言葉に詰まったようだ。
「男か女か、も分からないか?」
「……おんな。とおもう。私の前に出たのはわたしとおんなじ」
 ぽむぽむと比較的豊満な胸を叩く。胸があったと言う意味だろうから、外見上女性型だろう。しかし
「来た、じゃなくて出た、ってのは?」
「……」
 困った顔が強くなる。彼女の表現力ではこれ以上の説明ができないらしい。
 それは同時に
「……普通の人じゃない?」
 アインの率直な思い付きは恐らくニアピンくらいしているだろう。
「女性型、怒る、怖い、出る……突然現れる? いや、この世界ではテレポートはできないはずだが」
「100mの範囲なら可能だけど……それじゃこの子の認識圏内」
「だな。……レヴィがわざわざクロスロードのためにここまで出て来るとも思えんし」
「あの人ならこの子利用して、ヨンさんへの嫉妬を煽る」
 全く持ってその通りである。
「名前とかもわからないのか?」
「知らない」
 これ以上有効な情報は得られなさそうだ。
「怖い人……やっぱり管理組合の関係者……?」
「それが一番可能性が高そうなんだが」
 それが分かれば何か進展するのだろうか。
 思案に暮れ、上を見上げれば夏空もすっかり薄暗くなっていた。
「可能な限り色々聞くか……」
 今からまたあの森を抜ける気力は無い。ここで休ませてもらう事を前提にして、ザザはそう提案したのだった。

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遅くなりました。風邪っぴきの神衣舞です。
さて、そろそろクライマックスに行くかなーと思っています。
分からなかったエンドもありますが。さて、『彼女』を示す情報からゴールに辿りつけるのか。
リアクションをよろしゅう。
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